最強すぎて誰も近寄れない魔王のボクですが、初めて女の子と手を繋ぎました。手汗ヤバイです

矢立まほろ

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○2章 手汗魔王と天才少女

 -13『ボクはボクを知らないままで』

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「いくのじゃ! グレートファイヤー!」
「まったく。何度やっても無駄だとどうしてわからないのか」

 火球が放たれ、すぐ吸収され消滅する。それが幾度と繰り返されている。

 意地になっても魔法を放ち続けるミレーナと、余裕綽々に微笑む老人。
 その足元では、届きもしないのにブンブンとパーシェルが槍を振っている。

 彼女達の様子は無駄なあがき、まさに滑稽に映っていることだろう。

 ――実際パーシェルの動きは無駄だけど。

 だがミレーナたちが気を逸らしてくれている間に、ボクたちはまた物陰へと姿を隠していた。

 目的のアレへと忍び寄る。
 その正体は、ここに古く保管されていた投石器だった。

 エイミの作戦。
 それは、ボクとエイミを投石器で打ち上げるというものだった。

 届かないのなら、届くところまで自分で行ってしまえ。

「やっぱり無茶だよ。こんなの、後先考えない馬鹿だって言われちゃうよ」
「あら、いいじゃない。馬鹿になりましょうよ」
「ええーっ」

 能天気なのか、自信があるのか。
 エイミの様子はまったく普段と変わらない。むしろどこか楽しそうですらある。

 上に持ち上げられていた棒を引き下ろし、止め具に引っ掛ける。
 方向を調整させると、お椀型になった先端の部分にボクとエイミが座り込んだ。

 こんなことで本当に上手くいくのだろうか。不安ばかりだ。

 けれどエイミの瞳は一切の揺らぎもない様子だった。

 どうしてそこまで自分に自信を持てるのだろう。すごく、羨ましい。

「いいわ。やってちょうだい」

 エイミの指示に、リリオが止め具を外す。
 瞬間、ボクたちは勢いよく上空へと放り出された。

 うまく一直線に、宙へ浮いた老人へと向かっている。
 風の抵抗に目を瞑りたくなるのを我慢して老人を見据えた。

 気付いた彼の表情が初めて驚愕に変わる。

「なんだと?! だが、もう遅いわ! 詠唱は完了した!」

 懐から魔術書を取り出し、跳んでくるボクたちに向かって掲げる。

 しまった。間に合わなかったか。

 このままでは魔法でエイミごとボクたちを撃ち落されてしまう。

「……いきなさい」

 エイミが小さく呟く。そしてボクが声を返すより早く、彼女は空中でボクの身体を放り投げた。

 エイミが落下していく。
 落ちてはただで済まない高さなのに、彼女の表情は晴れやかで、ボクを信じているようだった。

 手が放れ、上空でボクの力が戻る。

「くらえ、超級魔法。ファイナル・ディスティネーション!」

 老人の魔術書が輝かしく光り、手前にかざした彼の指先から波紋のような術式が展開される。そして、まるで濁流のような太く激しい魔法がボクを包み込んだ。

 これほどの質量の魔法。まともに受ければ身体など木っ端微塵だろう。一瞬の暇すら与えず全てを葬り去れるほどの強力さだ。

 ――だが、今のボクにはなんてことない。

 力が戻り、身体中から漏れるオーラがボクを守るようにその魔法を阻む。

 そして飛翔した勢いを少しも殺さないまま、まるで竹を裂くようにその魔法の中を突き進んでいった。

「届けええええ!」
「……なっ?!」

 その事実に老人が気付くころには、もう彼の目の前にたどり着いていた。

 魔術書ごと老人に掴みかかる。
 ボクとぶつかった老人は宙に浮く魔法を維持できず、勢いのまま、後ろの壁に叩きつけられるように墜落した。

 老人に馬乗りになった状態で、ボクは彼の胸倉を掴んだまま睨みつける。

「な、何故あれを受けて無事なのだ。何故無傷なのだ……ぐぁああああ」

 ボクの無差別オーラに包まれた老人が、ついに苦痛に顔を歪めはじめる。

 だが、これまでの多くの人はすぐに命を奪われたのに対し、その老人は、歯を食いしばるようにしてしばらく生きながらえていた。

 高位の魔術師ならば少しの間は耐えられるということだろうか。おそらく対抗魔法を使っているのだろう。

 だがエイミのようにまったく効かないということはなく、ボクの力は着実に彼を蝕んでいる。

「この……化け物が」

 おそらく今のボクを、老人は悪魔か鬼かのように見えていることだろう。

「ボクは、化け物なんかじゃない!」
「この負の力。そうか、貴様が『森の魔王』か。人に疎まれし……破滅の孤児め」
「負の力? ボクの力のことを知っているの?」

「弱さは弱さを喰う。……なるほど。悪魔と契約してもまだ……わたしは凡人の域で、あったか」
「ねえ、どういうこと?! ボクの力の扱い方を知ってるの?」
「…………」

 老人の首を揺さぶる。
 しかしその時にはもう、彼は力を失い人形のように尽き果ててしまっていた。

 もしかすると、彼はボクの力のことを知っていたのかもしれない。

 どうしてボクは自分の力を扱いきれないのか。

 どうしてエイミだけは大丈夫なのか。

 どうしてエイミと手を繋ぐとボクの力は抑えられるのか。

 ただひたすらに強すぎる力。
 孤独を呼ぶ、他者を寄せ付けない力。

 ――ボクは一体、なんなんだ。

 魔法が消え、ボクの黒い靄と久方ぶりの静けさだけが残った坑道で、ボクは呆けたようにその老人の亡骸を見下ろしてた。
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