最強すぎて誰も近寄れない魔王のボクですが、初めて女の子と手を繋ぎました。手汗ヤバイです

矢立まほろ

文字の大きさ
59 / 69
○4章 手汗魔王と繋いだ手

 -13『どんどん広がる死人の山です』

しおりを挟む
「うおおおおおお!」

 野太い声が地を鳴らし、激しい砂埃と共に何人もの屈強な男たちが詰め寄せてきた。男たちは自前の剣や斧を掲げると、死人兵たちを勢いよく蹴散らしていく。

「なによあれ?!」と驚くガイセリスに、ユーなんとかは胸を張って答えた。

「こんなこともあろうかと、近隣の傭兵ギルドから俺様が誘っておいたんだぜ」

 不揃いの甲冑や武器を身に着けた男たち。
 彼らは勢いづくままに死人兵たちへと切りかかる。

 その数は二十を超えているほどだろうか。
 これだけの数を集めていたとは、ユーなんとかもなかなか用意がいい。ここは素直に褒めるべきだろう。

 これならば町中の安全も多少は確保できる。
 騎士団が抜けた穴を埋めるくらいは可能だろう。

「助かったわ」と珍しくエイミが素直に褒めた。

 それに余程感激したのか、ユーなんとかは僅かに瞳を潤ませながら悦にいたる顔を浮かべていた。

「ご褒美に、なにか言ってくれたら応えてあげるわ」
「ほ、本当なんだぜ?!」

 ユーなんとかの息が途端に荒くあり、肩が激しく上下する。そして鼻を赤くして大きく深呼吸をすると、

「じゃ、じゃあキスで」と真顔で言った。

「わかったわ」
「――ええっ?!」

 ユー何とかではなく、ボクが驚きの声を出してしまう。
 まさか本当に――と思った矢先、エイミは不敵に笑む。

「ガイセリス、お願い」
「任せてぇ」

 ガイセリスがユーなんとかにがっちりと抱きつき、唇を突きたて、ぎゅううううと体を引き寄せた。

 分厚い唇が重なり、呻きの声が漏れる。
 十秒ほどの濃厚な時間が過ぎ、ようやくユーなんとかは解放された。

「ふうっ。イケメン、ご馳走様」
「……あ……ああ」

  熱烈な接吻を受けたユーなんとかは放心した様子で、

「…………これが、男の味ッ!」

 稲妻に打たれたかのようにその場に倒れこんでいた。

  ◇

 町の方を傭兵たちと騎士団の残りの部隊に任せ、ボクたちはガイセリスと共に王城のある膝元へと向かった。

 二つの峰の間に広がる中州のような扇状の立地に建てられたその城は、入り口の門を通らなければ敷地にすら入れないほどの険しさを持っている。

 堅牢に作られた巨大な城門の前にたどり着いたボクたちは、そこに佇む人影に気付いた。

「ワドルド!」

 エイミの声に、人影――ワドルドが振り返る。
 彼の足元には門兵の死体がいくつも転がっている。

 ボクたちに気づいた彼は、目を丸くして驚いた風に答えた。

「へえ、意外と来るのが早かったじゃんか」
「アタシたちを見くびらないでほしいわねぇ」
「国家騎士団の連中か。まったく、町の外に遠ざけてたはずなんだけどな」

 やはりワドルドの計画的な犯行か。

「ヴリューセンやドールゼの件も、貴方が関係しているのかしらぁ」
「さあ、どうだろうな」

 適当にワドルドははぐらかすが、浮かべた余裕の笑みが如実に物語っている。

「ワドルド、どこに行くつもりなの」
「なんだ、エミーネ。俺と一緒に来るつもりになったのか?」
「冗談を言わないで」
「ったく。お前はいつもお堅い真面目ちゃんだもんな」

 ワドルドの嘲笑いに、エイミは鋭く睨み返す。

「ふざけて話を逸らさないでくれるかしら。どうした貴方が今ここにいて、何をしようとしているのかを訊いているのよ」
「それを、今更俺に訊く必要あるか?」

 ワドルドが、ボクたちの傍に控えたガイセリスたちを一瞥する。
 彼らの目はすっかりワドルドを捉えている。明確な敵意を剥き出しにして。

 もはやここにいる誰もが、彼をただの通りすがりの商人とは捉えていない。

 ワドルドの足元に倒れる門兵たちの裂傷。
 おそらく剣か、ナイフか。しかし見たところ丸腰というのは奇妙だ。

 つまり、魔法か。

 門の向こうへ行こうとしたワドルドをガイセリスが引き止める。

「ワドルド・ゲテルディ。アタシは国家騎士団の団長、ガイセリスよ」
「知ってるよ、オカマさん」

「知ってて言っているわ。私の仕事は国家に背く者を裁き、国と民を守ること。貴方の行いは決して看過できるものではないわ」
「へえ。だったら、どうするんだ?」

 体を背け、視線だけをこちらに向けて余裕ぶるワドルド。

 しかし周囲には彼一人しかいない。
 それに反し、ボクたちは数でずっと勝っている。
 相当な手練れでもこの差を埋めるのは難しいだろう。

「大人しく投降なさい。そうしたら悪いようには――」

 そうガイセリスが告げる中、ワドルドは口角を持ち上げてその場にしゃがみ込んだ。

「しまった!」と気づいたのはエイミだった。

 途端、彼を中心に魔法陣が描かれ、足元を紫色の光で照らした。
 ワドルドの足元に転がっていた、死んだはずの門兵たちの体がおもむろに立ち上がり始める。

 ――死霊魔術。

 それもほぼ詠唱もなく、広範囲のものだ。

 彼を取り巻く複数の死体たちは、瞬く間に立ち並び、ワドルドの姿を隠した。

「それじゃ、俺は急ぐから。ごゆっくり」

 そうふざけた調子でワドルドは言うと、門の向こうへと消えていったのだった。

 残された新たな死人兵たちを前に、ガイセリスたちは剣を抜く。ミレーナも杖を構え、パーシェルは槍を取り出した。

「あの子は止めなければいけない。気分のいいものではないけれど、やるしかないわね」

 苦虫を噛むようなガイセリスの声を皮切りに、一斉に死人兵へと襲い掛かった。

 ミレーナが火球魔法を飛ばして奴らを怯ませる。

「オラァ!」と力強いガイセリスの剣が彼らの死肉を切り裂いた。

 パーシェルや他の騎士団兵たちもそれに続き、複数いた死人兵たちはあっという間に薙ぎ倒される。

 しかし一息ついた頃には、また門の向こうから新しい死人兵が顔を出してきた。彼らは兵士の格好だったり、給仕服だったり、庭師などの雑多な服装をしている者もいる。

「まさか、城中の人間を死人兵にするつもり?」

 ガイセリスの強張った声は、まさにその通りなのだろうと誰もが直感した。事実、門の向こうからは、城内の兵士たちだった思われる死人がゾクゾクと姿を現している。

「これは一刻の猶予もないかもしれないわね」

 ガイセリスがまた彼らを薙ぎ倒して、新しい死人兵がまた立ち塞がり、道を塞いでくる。おまけに、城門だけでなく、町の方からも死人兵が集まってきていた。

「こ、これじゃあキリがありませんですよ」
「虫のようにわらわら湧いてくるのじゃ!」
「不死身さんですかー?! って、死んでるんですっけ」

 リリオやミレーナ、パーシェルも、ひっきりなしにやって来る死人兵に足を止められている。一人を倒してもすぐに次。これでは本当に堂々巡りだ。

 ――ボクも一緒に戦えたら。

 そう焦るボクの気持ちを、エイミが繋いだ手を強く握ってくれることで落ち着かせてくれた。

「坊やたち!」

 ガイセリスが叫ぶ。

「ここはアタシたちが引き受けるわ。この門を塞げば、少なくとも町側からは来なくなる。貴方たちはこのまま門を通って、その先へと進みなさい」
「でも……」

 ボクたちよりも騎士団が行ったほうが、と続けようとしたボクに、ガイセリスは余裕を作って笑みを浮かべる。

「大丈夫。貴方たちがただの流れ者だとは思っていないもの。ランドでも、ボードでも、貴方たちの実力は十分にわかっているわ。それに――」

 強がったようなウインク。

「貴方たちは彼と因縁があるのでしょう」

 向けられた彼の優しさに、エイミはきりっと顔を引き締める。

「わかったわ。ガイセリス団長、気をつけて」
「任せな――そぁい!」

 勢いよく振り抜かれたガイセリスの剣に、門の前を塞いでいた死人兵たちがまとめて吹き飛ぶ。まだ動きを止めない彼らが立ち上がる前に、ボクとエイミは、リリオたちを連れて門の中へと突入した。

 目指すは城の奥、ワドルドが向かう先。

 おそらく、玉座。

 ――ボクは、彼を止めるためにあの森からここに来たんだ。

 本能がそう理解する。

 容赦なく死霊魔術を使い、人々の命を奪うワドルドが善人であるはずがない。もし彼が、国王のいる玉座にまでたどり着いてしまったら。この国は、統べる者を失い、本当に壊れてしまう。

 そうならないために。
 全力で、城の最奥へと走りぬけていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...