最強すぎて誰も近寄れない魔王のボクですが、初めて女の子と手を繋ぎました。手汗ヤバイです

矢立まほろ

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○4章 手汗魔王と繋いだ手

 -22『対極を走り続けるボクたちです』

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「キミはボクよりもずっと凄い。その熱意も、執念も。そして努力も。けれど、それは他者を傷つける間違ったものだ」

 地に還り朽ち果てるかのように四肢をぼろぼろにして横たわったワドルドを見て、ボクは胸を痛める思いでそう答えた。

 ボクの刃は黒い靄ごと突き破り、彼の体を穿っていた。

 血液すら流さず倒れるワドルド。死人兵である彼が苦痛にも喚かず地に伏し、立ち上がることもできずに天を見やっている。

 それは決着を意味していた。

 どうしてワドルドはこんな悪事を企てたのか。
 その才能を、国ため、人のために使っていれば、もっと彼は称賛を受けていたはずだ。少なくとも、ボクよりかは。

 けれども間違った執心に取り付かれ、道を誤った。

「俺を哀れむか」
「……どうしてこんな無理やりなやり方をしたんだ」
「無理やりじゃあない。豪商の息子とはいえ、金があれど王にはなれん。頂点の照明には、効率的で、現実的だった。お前という存在さえいなければ」

「ボクが、憎い?」
「それを今更俺に尋ねるのか」
「……ごめん」
「同情はごめんだ」

 途端、ワドルドは自らの顔の前で指を鳴らす。
 風船が現れて弾ける。激しい巨大な爆発が起こり、ボクの視界を奪った。

 煙が晴れる。

 ワドルドがいたはずのそこは、塵一つ残らないほどに爆ぜ消えていた。彼を示す痕跡は身につけていた服の端切れくらいしか残っていなかった。

「まさか、自分で――」

 潔い退場。
 最後の最後まで自分を貫き通した、彼らしい選択。

「こういう結末しかなかったのかな……」

 その後味の悪いやるせなさに、ボクは苦さを噛み締めながら立ち尽くしていた。

   ◇

「貴方はできるだけのことをしてくれたわ」

 静けさに満たされた玉座の間に、エイミの優しい声が響いた。

 振り返ると、彼女の柔和な笑みがボクを迎えてくれた。

 リリオたちも無事のようだ。泣きながら心配してすがりつくミレーナを、まるで母親のようにリリオが頭を撫でて抱きかかえている。傷こそあるものの、大事ではないらしい。

 それを知ったミレーナは、

「よかったのじゃー!」と殊更大声で泣き喚いていた。

 一方、奮戦してくれたパーシェルも服の上から切り傷こそ見えるが、のそりと立ち上がり、ぐう、とおなかを呑気に鳴らしていた。

 エイミがボクの元へと歩み寄る。

「ありがとう。貴方は、私が期待していた以上のことをしてくれたわ」

 自分でも驚くほどの成果だと思う。

 エイミを助けるために決死の覚悟で、それこそこの身を投げ出す覚悟でここにやってきた。

 終わってみればボクもエイミも無事で、リリオたちだって生きている。ボクにできる仕事としては十分すぎる結果だろう。

 けれど、玉座にて息を引き取ったニール王や、姿形すら消え去ったワドルドのことを思うと、やるせなさに押しつぶされそうになる。

 たくさんの人が死んだ。
 こうなる前にどうにかできなかったのだろうか。そう思ってしまって止まない。

 拳を握り、奥歯を噛み締める。
 そんなボクの目の前を、白い翼を持った少女が遮った。

「それは神が気にやむこと。人間である貴方が悩むのはおこがましいことですよ」
「……パーシェル」

 心を読まれたみたいでつい驚いてしまう。

「なんて。それっぽいことを言ってみましたー」

 えへ、と舌を出してパーシェルはおどけた。
 そしてまた、大きな腹の虫が鳴き散らかす。

 まったく。見直そうとしたと思った途端にこれだ。

 けれど、おかげですっと心が軽くなった気がした。
 強張ったボクの顔から緊張が抜け、ゆっくりと柔いでいった。

 やはり、ボクには彼女たちがいてくれないと駄目みたいだ。
 元々後ろ向きなボクの心を引っ張ってくれる、彼女たちが。

「アンセル様、お嬢様、帰ってご飯にしましょうです」

 駆け寄ってきたリリオがエイミに抱きつく。

「賛成なのじゃ。最強魔術師であるわらわの最高の料理を振舞ってやるのじゃ」

 ミレーナも続いてエイミに抱きつく。三姉妹のように微笑ましい姿。

「わーい。私もほしいですー!」とパーシェルも抱きつこうと走るが、瓦礫に蹴躓き、顔面から盛大に転んだ。

 くだらない笑いがみんなから零れる。
 ボクも、面白おかしくなってふっと口角を持ち上げた。

 ――エイミは取り戻せた。

 きっと生まれて初めてのボクのわがままだった。

「もう、貴方たち。くすぐったいわよ」

 擦り寄る少女たちにまんざらでもなく笑顔を浮かべるエイミを、ボクはこの目に焼き付けるように眺め続けていた。
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