㈲ノーザン・クエスト カスバ市ハンブル区マージー通り196-2

あしき×わろし

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1 大迷宮の奥底

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 燭台をかざしながら薄暗い通路を一歩、また一歩とすすんでいくと、ようやく目的地が見えてきた。
 おびただしい冒険者を葬ってきた大迷宮ラビリンスの最深部──
 不気味な静寂のなかに、志なかばで倒され、挫かれ、踏みにじられて、ついに英雄になれなかった先達の、怨嗟の叫びが聞こえてくるようだ。

「──くっ!」

 すくみそうな足を強引に振りあげて、俺はまた一歩を踏み出した。
 ここまで来た以上、留まっていることは許されない。逃げ出すか、さもなければ前に進むかだ。

「フィル、ひとりで前に出ないで」

 凛とした声が俺の足をとめた。
 声の主はリア・スティッグウッド── 肩にかかる赤い髪に、長い睫毛に、翠玉色の瞳をした、まあ一般的に言えば整った顔だちといえる同僚だった。
 ただ、きりきり吊り上がった眉と、真一文字に引き結んだ口元に、過度の気負いがあらわれている。

(危ういな──)

 彼女の暴走に気をつけなければ。焦燥に駆られた味方は、ときに敵より脅威なのだ。
 とはいえ戦士ウォリアーである以上、剥き出しの闘争心は必須スキルのようなものだ。そんなときに錨の役割を果たすのが──俺はもうひとりの仲間メンバーに目を転じた。

「ど、ど、どうしても行くんですか?」

 ダメだ。これは頼りにならない。
 職業クラス適性を鑑みても、胆力にやや疑問符のつく聖職者ドルイドのジュール・オーベルは、さっきからしきりと眼鏡をずりあげていた。

「行くんです。俺たちにはもう、それしかありませんから」
「でも、フィルさん。相手はあまたの冒険者を葬ってきたという──」
「で、あってもです」

 俺は断固とした口調で告げた。
 オーベルは二十代後半、つまり俺やリアよりひと回り年長だが、こうして強く言い切らると何も言えなくなってしまう。
 リアの暴走をとめる役割など、期待できるはずもなかった。

「オーベルさんは、後ろに控えていてくだされば結構ですから。そう打ち合わせをしたはずでしょう?」
「ですが、リアさん──」
「大丈夫。もともと前衛フロントはあたしとフィルなんです。本当はシアーズさんも来られたらよかったんだけど」
「そ、そう、そこ、そこですよ」

 オーベルは大袈裟な身振りつきで、

「シアーズさんがいる時に、あらためて来るってのはどうでしょう」
「それはダメです。この機を逃せば次はずっと先になってしまう。あたしたち、それを待ってはいられないんです」
「し、しかしですね」
「シアーズさんはいないけど、時間は残されてません。もう一刻の猶予もないんです」

 キース・シアーズはギルドの最古参で、この地方では【カスバの大槌】という通り名のほうが有名な冒険者であり、俺やリアにとっては大先輩にあたる古強者ベテランだった。
 五名ないし六名でパーティを組む場合、彼を中堅センターに据えて、右翼ライトにリア、左翼レフトに俺を置くのが理想的な最前線フロントラインではある。
 しかし【カスバの大槌】はここにいない。いない者をアテにはできない。
 不在によってその存在をより大きく感じながら、

「行こう」

 俺は気を引き締めなおして、そう言った。
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