㈲ノーザン・クエスト カスバ市ハンブル区マージー通り196-2

あしき×わろし

文字の大きさ
3 / 23

3 三位一体の奇襲

しおりを挟む
 大迷宮商事の調達担当・クライン氏が商談ブースに入ってくるないなや、俺たちは一斉に、

 しゅばばっ!

 と名刺を差し出して、いたく同氏を面食らわせた。
 リアが屹と振り向いて、

「こういうのは目上から!」
「じゃ、オーベルさんからだろ? 年上だし」
「す、すみません。リアさんからでいいと思います。ギルドの代表ですから」

 オーベルは身がちぢむほど恐縮して、

「本当にすみません。ぼ、僕、テンパっちゃって──」

 俺としてはリアに【目上】を名乗られるのは不本意だったが、肩書がそうなのだから仕方がない。
 渋々ながら引き下がると、リアは引きつり気味の笑顔で、

「たいへん失礼いたしました。そのー、ビジネスマナーは研修中でございまして」
「の、ようですな。まあ、お仕事がお仕事ですから、元気がいいのは結構なことで」
「お恥ずかしいですわ。ガサツな社員が多くて苦労がたえませんの。現場に出れば優秀なスタッフなんですけど、ホホホ」

 よく言うわ。なにがホホホだ。教官を半殺しにしたこともあるくせに。

 リアとは冒険者養成学校の同期だから、人となりはよく知っている。
 営業スマイルが板についていないのは、社会人として未熟というより、言語より腕力で意思疎通コミュニケーションをはかるタイプだからだ。
 そこへいくと俺なんか、もともとは王立図書館の司書官志望だったクチである。
 学力と学費の都合でやむなく冒険者養成学校に入ったが、本来は書物に囲まれて静かに暮らしたい学究的アカデミックな気質なわけで、伝説の勇者とやらを父親にもち、零細企業インディーズながらも冒険者ギルドの二代目代表取締役ギルドマスターを襲名したリアなんかとは、本来なら住んでる世界が違うのだ。

 だいたいリアが半殺しにした教官。
 ヤツのセクハラを立証して放校処分から救ってやったのは俺なのに、こともあろうにガサツとは何ごとだ。

「では、本日のご用向きを」

 クライン氏は事務的に促した。
 リアは笑顔を引きつらせたまま、

「え、ええ、ではあらためまして、リア・スティッグウッドと申します。若輩ではございますが㈱ノーザン・クエストの代表をしております。こちらが当社社員の──」

 俺はリアに続いて名刺を差し出した。

「渉外部兼盗人シーフのフィル・エメリックです」
「わ、わたしは経理部兼法務部兼聖職者ドルイドのジュール・オーベルと申します。あ、あの、さ、先ほどはとんだ失礼をいたし──」

 しどろもどろで、しかも長くなりそうなオーベルの挨拶をリアが笑顔で遮って、

「本日はご多忙のところ、お時間を頂きありがとうございます。こちらの大迷宮商会さまには、父の代から大変お世話になっておりまして」

 表情をかえずに聞いていたクライン氏は、

「ああ。どこかで聞いた名前だと思ったら、あの英雄スティッグウッドの。これはこれは、あれほどなお父様の跡取りとは、なかなか大変なことですな」

 言葉に含まれた皮肉を感じとって、リアはぐっと拳を握った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...