㈲ノーザン・クエスト カスバ市ハンブル区マージー通り196-2

あしき×わろし

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11 形勢逆転

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 デッカ興産㈱が冒険者ギルドの買収を目論んだのは、すいぶん昔の話だときく。
 実現すればデッカ興産㈱は、クエストにまつわるほぼすべての業種をカバーできるからだ。
 な㈲ノーザン・クエストなら、いい宣伝にもなるのだろう。
 だが、自由を尊ぶふたりの創業者、レスター・スティッグウッドとブライアン・マーティンは、

「いーよ、そんなの」

 と、営業部が受注してくる豊富な受注クエストと、潤沢な資本による財政支援バックアップと、デッカ本社の役員待遇ヘッドハンティング、そしてあろうことか転生あそばされた勇者様の相手役という、この世界の誰もが憧れる大抜擢キャスティングをも蹴ったのだった。

 俺はこのエピソードが好きだった。
 大樹に拠らず、長いものに巻かれない誇りと気概。困難など気軽に笑ってどこ吹く風の心意気。
 ロマンチストだと笑われるだろうが、学費と学力の都合で図書館司書の夢を延期した俺が、冒険者養成学校を進路に選んだ動機のひとつでもある。
 となれば、大手資本が牙を剥くとき、とるべき態度はひとつだった。

「ご心配なく! たった今、大迷宮商事様からクエストの(見積もり)依頼を頂いたところですので!」

 リアの腕をとって引き戻しつつ、俺は精一杯の笑顔をつくった。

「ほー、ルーキー君、頼もしいですなァ。でも、あそこは大迷惑商事って言われてるくらいケチって聞くけど、大丈夫?」
「もちろん。たっぷり粗利のとれそうな、旨味のある依頼が期待できますよ」
「なるほどねー。ところで市長んとこのお嬢が、なんか張り切ってるって聞いたなあ。ほら、あの激安女王クイーン。おたく、被害なかったの?」
「シンシア・カークコールディさん? へー、このへん来てたんですか。いやァ、気づかなかったなァ」
「本当に? 通ったあとは焼け野原、マンドラゴラも枯れつくす単独人造蝗害だよ? なにしろブーアマン社のアイラッシュサロンができたんだから、クエストを現金化してお目々パチクリしにいかいはずないんだけどなー、あの物欲モンスターが」
「ひっでぇなあ。シンシアさん、本当にそんなふうに言われてるんですかぁ?」
「言われてるってェ! 他にも同業殺しとか、クエストクラッシャーとか」
「えー、本当ですかあ? まだ他にも?」
「もちろんですよ。かく言うワタクシなんか、笑う破壊神と呼んで──」
「ほーほっほっほ! お元気そうね、デッカ興産㈱さん?」

 ヒースの顔がぎょっとして、みるみる血の気がひいていった。
 タラタラタラタラ──
 冷や汗の擬音まで聞こえそうだ。

 さっき商談ブースに乱入してくれた、シンシア・カークコールディが読み通りに退出してきてくれた。

 笑う破壊神の再臨であった。
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