㈲ノーザン・クエスト カスバ市ハンブル区マージー通り196-2

あしき×わろし

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24 定石と異文化

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 昼なお暗き樹海で出くわすか、怨念渦巻く古城ではち合わせるか、はたまた魍魎が跋扈する迷宮でお目にかかるのか──
 いずれにしても冒険クエストの途上で、見知った顔に出会うのは有益なものだ。
 味方にならなくても情報交換できるし、たとえ同じ依頼を受注した商売敵ライバルであっても進捗を探りあうことならできる。
 よしんば直ちに商売敵ライバルを蹴落とす──つまり場合によっては殺し合う──ことになっても相手が誰だかわからないよりはずっといい。
 とても勝てないと知っていれば撤退できるからだ。それは卑怯ではなく冷静な状況判断にすぎない。
 とにかく、なにが起こるかわからない冒険クエストにおいて、

「出会った奴の正体がワカラン」

 これほど嫌なことはない。
 相手が人間でも、そうでなくてもだ。

「はじめまして。ノーザン・クエストで渉外部兼盗人シーフをやっておりますフィル・エメリックと申します」

 と、うやうやしく名刺を差し出した意味がお分かりだろうか。
 同業者の匂いがすれば、自分と仲間パーティの生存率を高めるために情報収集を開始する。
 定石セオリー通りに行動しているだけで、卑屈になって下手に出ているわけではない。
 そのへん、くれぐれも誤解とかしないように。

「やや、これはご丁寧に」

 はたしてハオリ男は拍子抜けするほど恐縮して、バタバタと懐やたもとを叩いたが、何も出てこないと諦めて頭を下げた。

「それがしはアクスと申す無宿者、恥ずかしながら無位無官にて、差し上げるような身上書きの用意がござらん」
「アクスさん、ですね。大丈夫ですよ。こいつも持ってませんから」

 俺は見知らぬ男性の登場に少々警戒している(意外にもそんなところがある)ロレッタを指差して、

「こっちの小娘は魔術士のロレッタ・リー・ルイスです。まだ子供なんで口のきき方とかアレですけど、まあ勘弁してやってください」
「──なによ、えッらそーに」
「いいから、ほら自己紹介」
「そーゆうとこがムカつくのよ」

 ぶつくさ言うロレッタにも、アクスは深々と頭を下げた。

「アクスと申す。魔女どののご厚意に預かり使い走りなどをして糊口をしのぐ一介の浪人にござる。どうかお見知りおき願いたい」

 さて、これほど低姿勢に出てくる相手をどう推し量っていいものか。

「ロレッタです──その、よろしく──」

 何だかモゴモゴしている彼女ロレッタをよそに、俺は相手の値踏みにかかっていた。
 この界隈では、やたらと自分を強く大きく吹聴してマウントを奪いにいくのが初対面の作法マナーなので、こんな挨拶はあまり見ない。
 外国人らしいので、単なる文化の違いなのか──
 少なくとも【千年魔女】の使い走りをこなすなど、タダモノであるはずないのだが。
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