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身勝手と欲望の乱世
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秦の昭襄王は自分でスカウトしておきながら、
「孟嘗君って優秀だけど危ないやつだね。秦に滞在してるうちに殺しちゃおうか」
油断も隙もあったものではないが、これが乱世のリアルでもある。
かくして、孟嘗君が滞在している屋敷は秦兵に包囲された。
「どうしよう」
孟嘗君は 馮驩を見上げた。
自身の安全には殊のほか勘のいい食客たちは、とっくに逃げ散ってしまっている。
影武者の中年男など、
「実は、孟嘗君の正体はですね」
とタレ込む始末。そう、女なのです。しかもまだ子供。信じがたいでしょう、そうでしょう。しかし影武者の私が言うのですから。なんでそれが英明と評判かって? 実は下品なギャグで取り入ったフーテンがが入れ知恵をしてましてね。あいつ妙に小賢しいのですよ。ロリコンのくせに。
一方、孟嘗君は、
「馮驩。ごめんね、こんなことになって」
逃げ遅れた使用人と、昼寝から起きてきた馮驩だけが、孟嘗君の戦力なのだった。
「いや、そう謝られてもですナ」
「──ごめん」
「なぜ謝られるか、わかりませんので」
「え?」
「まあ、そのへんは帰ってからお聞きしましょう。というわけで、そろそろ斉に帰りましょうか」
ただ、その前に少々寄り道のお許しをば。ちと、会わねばならん人がおりますのでナ。
そう言い残すと馮驩は屋敷を抜け、どうにか包囲もくぐり抜けて、とある豪邸に忍び込んだ。そこに昭襄王の寵姫が囲われている。
一国のあるじも愛する女には弱いもので、
「心の狭い王様、キライ!」
などと泣かれると困ってしまう。
英雄、色の好むというが、中国もまた長いその歴史上、この手の傾城・傾国タレントに事欠かない。
そこを突くのが馮驩の賭けだった。
しかしこの寵姫、確かに美しいが、欲の皮も相当なもので、
「そうね、王様にお願いしてみてもいいんだけどぉ」
「お願い申し上げる。この通り」
「いいんだけどぉ──孟嘗君さまって、アレ、お持ちなんでしょ?」
「金子ならここにこれ、このように」
「今さら、お金なんか欲しくないのよぉ。欲しいものはみんな王様が買ってくれるんですもの。けど、王様でも手に入らないものがあるの」
「と、言われますと」
「もう、とぼけちゃってぇ。王様の持ってる財宝より、もっとずっとレアなアレよ。レ・アな、ア・レ!」
彼女は孟嘗君が所有する宝物『 狐白裘』を賄賂に要求したのだった。
狐白裘とは狐の腋の白い毛だけを集めた衣で、一着に狐が一万匹ばかり必要という、きわめて希少なレアアイテムであった。
「よりにもよって、あれか──」
さすがの馮驩も天を仰いだ。
「孟嘗君って優秀だけど危ないやつだね。秦に滞在してるうちに殺しちゃおうか」
油断も隙もあったものではないが、これが乱世のリアルでもある。
かくして、孟嘗君が滞在している屋敷は秦兵に包囲された。
「どうしよう」
孟嘗君は 馮驩を見上げた。
自身の安全には殊のほか勘のいい食客たちは、とっくに逃げ散ってしまっている。
影武者の中年男など、
「実は、孟嘗君の正体はですね」
とタレ込む始末。そう、女なのです。しかもまだ子供。信じがたいでしょう、そうでしょう。しかし影武者の私が言うのですから。なんでそれが英明と評判かって? 実は下品なギャグで取り入ったフーテンがが入れ知恵をしてましてね。あいつ妙に小賢しいのですよ。ロリコンのくせに。
一方、孟嘗君は、
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「いや、そう謝られてもですナ」
「──ごめん」
「なぜ謝られるか、わかりませんので」
「え?」
「まあ、そのへんは帰ってからお聞きしましょう。というわけで、そろそろ斉に帰りましょうか」
ただ、その前に少々寄り道のお許しをば。ちと、会わねばならん人がおりますのでナ。
そう言い残すと馮驩は屋敷を抜け、どうにか包囲もくぐり抜けて、とある豪邸に忍び込んだ。そこに昭襄王の寵姫が囲われている。
一国のあるじも愛する女には弱いもので、
「心の狭い王様、キライ!」
などと泣かれると困ってしまう。
英雄、色の好むというが、中国もまた長いその歴史上、この手の傾城・傾国タレントに事欠かない。
そこを突くのが馮驩の賭けだった。
しかしこの寵姫、確かに美しいが、欲の皮も相当なもので、
「そうね、王様にお願いしてみてもいいんだけどぉ」
「お願い申し上げる。この通り」
「いいんだけどぉ──孟嘗君さまって、アレ、お持ちなんでしょ?」
「金子ならここにこれ、このように」
「今さら、お金なんか欲しくないのよぉ。欲しいものはみんな王様が買ってくれるんですもの。けど、王様でも手に入らないものがあるの」
「と、言われますと」
「もう、とぼけちゃってぇ。王様の持ってる財宝より、もっとずっとレアなアレよ。レ・アな、ア・レ!」
彼女は孟嘗君が所有する宝物『 狐白裘』を賄賂に要求したのだった。
狐白裘とは狐の腋の白い毛だけを集めた衣で、一着に狐が一万匹ばかり必要という、きわめて希少なレアアイテムであった。
「よりにもよって、あれか──」
さすがの馮驩も天を仰いだ。
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