舞台装置の悪役令息はようやく自由を手に入れます

ゥヵィ

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本編

0.卒業パーティーにて

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「ナーシュ・レネヴィー公爵令息!お前との婚約を破棄することを、ブローム王国が第二王子、セルドアの名を持ってここに宣言する!」

名指しされたナーシュ・レネヴィは、わけがわからないと言ったような焦り顔で、元婚約者を見つめたあと、その隣に佇む〈聖女〉を睨む。〈聖女〉はわざとらしく体を強張らせ、セルドアの後ろに隠れる。セルドアは〈聖女〉にやさしい目を向けた後、ナーシュを醜いものを見るような目で一瞥し、群衆に告げた。

「貴殿はこの魔術学院で〈聖女〉、いや、平民であっても努力を惜しまず、必死に伝説の〈聖女〉に追いつこうとするエィミーに、痛烈な虐めを行っていた!王家に、そのような卑劣な輩が交じるわけにはいかぬ!」
「ですが殿下、ナーシュ様はわたしに直接手を出していません!どうして裁くのですか!?」
「ああエミ、なんて優しいんだ。温情を掛けてあげるだなんて!しかし、今まで君に与えられていた虐めの全ては、この男が原因なのだ」

やけに高く甘ったるい少女の声に、セルドアは、正義に酔った顔をして群衆を見つめる。すでにナーシュが〈聖女〉を虐めているということは皆に知れ渡っていたため、その全てがセルドアの思い通りの手足となり、舞台装置となり、彼を持ち上げる──悲劇のヒロインを救済する王子として。

「学院中、君が受けた虐めの数々は、不幸中の幸いにも全てすぐに解決した。これはなぜだと思う?貴族令嬢・令息が集うこの学院で、そんな愚かな真似をする輩が大勢いると?答えはただ一つだ。虐めの主犯として投獄された貴族は皆、この悪魔に誑かされたのだ!」

大げさに会場がざわめく。その反応に、ナーシュは頭を抱え、崩れる。
ようやく、自身の罪を自覚したのか。会場の群衆は、ほとんどみんなそう思った。


(何度も、何度も、何度も、何度も死ぬ記憶。今にかつて、あった出来事。その全てが、この糸を断ち切らんとしている)


瞳孔を開き、冷や汗が顔をつたう。急に自身に入り込んできた知らない記憶など、彼にとってどうでも良い事だった。むしろ、欠けた部分が補われるようだった。ようやっと、この茶番から解放される。〈聖女〉を目に入れただけで勝手に動く身体の主導権を取り返そうと、ナーシュは必死に藻掻いた。

(ッ、動かない...。せめて、口だけは)

「...左様でございますか」

勝手に沸き立つ彼女への殺意を押さえ、血の気の引いた美しい口から、『凡愚』とさえ言われたナーシュの全てをひっくり返すような、冷ややかな声が出た。それを皮切りに、自身の肉体が自由に操作できることに気づく。彼はゆるりと笑んだ儘、立ち上がった。久々に、自身の肉体は地に足をつけていること、不随意の呼吸をしていることを自覚する。糸が断ち切られ、地面に落ちた傀儡に似たような感覚だった。
ナーシュは彼女へ視線を向ける。彼女は体を強張らせるも、どこか強気な視線をしていた。それはそうだ。実際、もナーシュは他者を自身に溺れさせ、彼女を虐めるよう仕向けたのだから。
ただ、この言動は彼女の想定外だろう。だから彼女ははずだ。

ナーシュの頭の上にあるシャンデリアが、風もないのに音を立てる。〈聖女〉が魔法でそれを落とそうとしているからと気付くのは一瞬だった。
(今回は、それを選ぶのか)
いくらナーシュを殺しリセットするためとはいえ、生きた人間である彼らの被害を考えずに圧死させるなんて、不快だ。
だから
ナーシュはゆるりと笑んで、〈聖女の障壁〉を作り上げ、シャンデリアからナーシュの足元までを円柱状にして、他者が入り込めないようにする。〈聖女〉は何事か、と驚愕した顔をしたが、その足りないおつむは自分自身が障壁を作り出したように考えているのだろう。魔法で自分の想像しない状態を作り出せるわけがないのに。

「やっぱぜんぶあたしの味方なんだ!」

彼女は悦びの声を上げ、シャンデリアに加える魔力を大きくした。
───弱いな。
死ぬ度に〈聖女〉の聖魔法は弱まっていったが、ここまでとは。実際は〈聖女〉自らが手に掛けたせいで、〈聖女の魔力〉がナーシュの魂に流れ込んでいるだけなのだけれど。何十回も自分を殺した聖魔法の使い手になんてなりたくなかったのがナーシュの本心だった。
死ぬための手段ですら、手伝わないとだめなのか。内心ため息を吐いた。そこには、死への恐怖など存在しなかった。
障壁が張られ少ししたのち、王子はようやく状況を飲み込んだようだ。この世界で聖魔法を使える者など、しかいない──気付いた王子は、〈聖女〉に声掛けする。

「まて、エミ!殺しはやめろ!!」
「違います!これは浄化!浄化だから赦されるの!!」

彼女が最初にそう言ったのは3回目の学院で、公爵令息に対する不敬罪として牢獄に行きそうになったときだったか。当時は苦し紛れに己の罪悪感を逃すために言っていたけれど、今は自身の狂気の肯定にしか聞こえない。この時に悪役が死ねばリセットできると気付いたのだろう。
可愛らしい顔は真っ赤に歪み、醜く血走らせた目が爛爛と光っている。これが〈聖女〉なんていうのだから、本当に滑稽だ。
今はまだ尊い〈聖女〉さん。リセットさせてあげるから、ちゃんと喜んでね。

「   」

王子が何かを言おうと口を開いた──と同時に、ナーシュの視界は真っ赤に染まった。
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