蒼龍ノ爪痕-少女になっちゃった老将軍、高校生活楽しんだり新たな弟子育てたりする第二の人生始めるらしい-

東山統星

文字の大きさ
5 / 49
シーズン1 いざMIH(メイド・イン・ヘブン)学園へ

005 TS化の醍醐味とやらを見せてあげたはずなのだがなぁ……

しおりを挟む
 ジョンは昔に思いを馳せる。あれは確か、ジョンが若干23歳で特殊部隊の隊長になったときのことだ。年月にして10年。耽りたくなるのも無理はない。
 そんな贅沢な時間を味わったあと、ジョンが口を開くのだ。

「それにしたって、お孫さんはすこしにぶすぎやしませんか? おれの正体にまるで気がつく気配がない。有名人のはずなんだけどなぁ」

「自惚れるなということだよ。知名度は度し難い力だしな」

「ンじゃ、おれはいつもどおりモアちゃんと遊んできますわ」

「……は?」

「大人がゲームセンターいたって罪には問われませんよ」

 そう言い残し、ジョンはスキップしながらモアのもとへ向かっていった。
 耳もよく聴こえるようになったメビウスは、モアとジョンの会話に聞き耳を立てる。

「あ、ジョンさん!! ガンゲームしようよ!!」

「おっしゃあ!! 無敗の女王に黒星つけてやるぜェ!!」

 これでは子どもと変わりがない。大丈夫なのか? という声が喉元まで出ていた。

 だがまあ、ジョンなりに気を使っているのかもしれない。彼の指揮下でモアの両親は死んだ。その罪滅ぼしというわけではないが、せめて残されたモアに暗い顔をしてほしくないのだろう。

「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格はない」メビウスは独り言を重ね、「なるほど。やはり君は素晴らしい教え子だ、ジョン」

 参加に戸惑っていたメビウスも自ずとモアとジョンのもとへ向かうのだった。

 *

「いや~。お姉ちゃんガンゲームだけは強いねぇ!! 軍人やってたみたいだ!」

「お姉ちゃんがこういうゲームできるのに驚きだよ! 最近までふるーい携帯電話使ってたのに!」

「まあな……」

 そりゃ12歳で入隊して以来72歳まで現役を続けた軍人だ。子供だましのゲーム機でハイスコアを叩き出すのは容易い。

「さて、ジョンおじさんはもう帰るぜ。これから打ち合わせがあるんだ」

「そんなこと言って~。どうせジョンさんニートでしょ?」

「ぎくぅ!! それを言われちゃおしまいだぜ!!」

 周りに集まっていた子どもたちも笑う。男児や女児がすこし変装したジョンの正体に気が付かないのは仕方ない。しかしモアに関しては、ジョンという男がこの国でトップクラスの高給取りであることを察知してもおかしくなさそうなものではある。

「ま、良いや。また今度ね~」

「おう! ちゃんと学校行けよ~」

 ちゃんと学校行けよ?

──……ジョン、もはやオマエはこの子の親代わりだな。わしですら知らなかった情報を持っているのだから)

「学校か~……」

「今度おれの息子も学校通うんだ。それに合わせてメイド・イン・ヘブン学園に顔出せよっ!」

「うーん~……考えとく~」

「それじゃ、またなぁ!」

 ジョンは去っていった。モアもそろそろ満足した頃合いだろう。

「帰るぞ、モア」

「あ、うん……」

 どうせ外に出たらお仕置きされると思っているのか、モアの表情は暗い。
 だが、お仕置きして学校へ行ってくれるのならば現代社会の疲弊は語られもしない。

「学校へ行っていないと?」

「……。うん」

「MIH学園から転校するか?」

 もっともシンプルな解決方法。それはメイド・イン・ヘブン学園、略して『MIH学園』から転校してしまうことだ。どのみち高校なんて腐るほどあるのだから。

「いや、それは」

「まずは家へ帰ってじっくり話そう。寒いしな」

 スカートに生足はやはり寒すぎる。きょうの気温はいつもより高い3度だが、それでも風が痛覚を刺激する。

「……。うん」

「TS化の醍醐味とやらを見せてあげたはずなのだがなぁ……」

 よほど落ち込んでいるようだ。自宅にてしっかり話を訊いてやるべきだろう。

 *

「前期の成績は優秀じゃないか。それなのに後期から一日も登校していないと」

 MIH学園において成績優秀というのは、一般的な場合『魔術』の腕も高いことを指す。つまりいじめられているとは思えない。魔術の腕が高ければいくらでも反撃できるのだから。

「……友だちいないんだもん」

 メビウスがメビウスの実績ゆえに忖度され尽くした教師からの評価を読み漁っていると、ついにモアが口を開いた。

「メビウスの孫娘って評価は必ずしも良いほうへは傾かないんだもん」

「周りが萎縮して絡んでこないと?」

「違うっ!! いつまで経っても喧嘩売ってくる連中はいるけど、友好的な子はいつまで経っても現れないの!!」

 こうなるとモアの思いは暴走する。

「あたし喧嘩なんて嫌だもん。だから魔術と科学が同じものだって教わって研究に没頭してたんだもん。いつか喧嘩なんてしなくても、殺し合いなんてしなくても魔法のような科学がすべてを救ってくれるからって!!」

 テーブルで向き合わずふたつのソファーで向き合っていたのには意味があった。
 メビウスは立ち上がり、モアを抱きしめる。

「悪かったな。全部わしが悪いのだ。君のお母さんが軍人になったのも、そのお母さんと結婚したお父さんも軍人だったことも、ふたりとも君が幼児にうちに戦死したのも、全部わしが悪い」

「そ、んなわけないじゃん!! あのふたりはおじいちゃんに憧れた馬鹿なヒトたちなんだよ!! おじいちゃんは悪くない! 悪くないんだよ!!」

 涙を散らしながら、モアはメビウスの背中に手を回す。

「国家の存亡がかかっているとき軍人になったおじいちゃんと、平和なときわざわざ戦地へ赴いた父ちゃんと母ちゃんの哲学が違うことくらい分かる! だから……おじいちゃんに死んでほしくないからあんな薬つくったんだよ!?」

 嗚咽を漏らしながら、とうとうモアは会話ができなくなった。それでもメビウスは彼女をギュッと抱きしめ、溜め込んできたものを分かち合う。

「父ちゃん。母ちゃん。会いたいよ……」

 まだ15歳の少女が背負うには重たすぎる十字架。しかし無慈悲なロスト・エンジェルスは十字架をただの鉄に変えてしまう。この国は無神論国家だからだ。それが故、大陸諸国から睨まれ続けて何度も国家存命の危機に瀕した。

 ただ国家として神を放棄しただけで、この人口750万人の小さな島国は大陸中の忌み子となってしまった。

 そしてモアに祈れる神はいない。もう一度両親に会いたいと祈りを捧げられる神などいない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活

シン
ファンタジー
 世界中に色々な歪みを引き起こした第二次世界大戦。  大日本帝国は敗戦国となり、国際的な制約を受けながらも復興に勤しんだ。  GHQの占領統治が終了した直後、高度経済成長に呼応するかのように全国にダンジョンが誕生した。  ダンジョンにはモンスターと呼ばれる魔物が生息しており危険な場所だが、貴重な鉱物やモンスター由来の素材や食材が入手出来る、夢の様な場所でもあった。  そのダンジョンからモンスターと戦い、資源を持ち帰る者を探索者と呼ばれ、当時は一攫千金を目論む卑しい職業と呼ばれていたが、現代では国と国民のお腹とサイフを支える立派な職業に昇華した。  探索者は極稀にダンジョン内で発見されるスキルオーブから特殊な能力を得る者が居たが、基本的には身一つの状態でダンジョン探索をするのが普通だ。  そんなダンジョンの探索や、たまにご飯、たまに揉め事などの、華の無いダンジョン探索者のお話しです。  たまに有り得ない方向に話が飛びます。    一話短めです。

処理中です...