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シーズン1 いざMIH(メイド・イン・ヘブン)学園へ
008 お願いだよ、おじいちゃん
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「良いかガキンチョども!! メビウスさんはヒーローだ!!」
開口一番恥ずかしいことを言いやがった。思わず殴りかかりに行きたくなるが、次にジョンが放った言葉で溜飲が下がった。
「と、いうのは建前だ。あの方はな、ただ愚直に軍人としてロスト・エンジェルスの独立維持のために闘ってただけなんだよ」ジョンはこちらを一瞥し、「だからメビウスさんはヒーローって呼ばれるのをとても嫌ってた。ロスト・エンジェルスからすればヒーローだが、敵国からすれば巨悪の権化だからと」
メビウスがこくこくと頷いたのを確認したのか、ジョンはつらつらと語り始める。
「メビウスさんはつい最近引退なさり、母国英雄の称号と勲章をもらった。前々から引退を考えておられたそうだ。衰えたって言って。だけど、衰えた状態でもおれやクール大統領と良い勝負できたとは思う。とんでもなく強い愚直な軍人。それがメビウスさんだ」
「ジョンさんやクール大統領とも張り合えるほどの実力を持っていたんですか!?」
ある生徒が質問時間はまだ先だというのにフライングして質問をしてきた。
「持ってたさ。全盛期だったらおれらふたりがかりでも勝てなかったはずだ。ただ目立つことを嫌うヒトでね。そうだな、60歳過ぎたあたりから戦闘してるところを見たことがない。なんでだと思う?」
ジョンは適当な女子生徒を指差す。これで良いのか、と思いながらメビウスは顛末を見守る。
「あまりにも強すぎて目立ってしまうから?」
「正解! 兵を率いるようになっても最前線で真っ先に戦闘してた方だったんだが、還暦を迎えたあたりから上級大将になって国防軍の幕僚総長になった。いわば陸軍の最高司令官だな。当然前線には出られない。なにか引っかかることがあったんだろうな。そしておれは、その意味を知ってる」
まさか、この若造。
「おれの特殊部隊『ジョン・プレイヤー・スペシャル』に配属されたメビウスさんの娘とその婚約相手が戦死した。この学校にはメビウスさんの孫娘がいると訊く。ひとつ言っておこう。君のおじいちゃんは君を残して死ねないから陸軍の総司令官になったんだよ」
この話、ひとつの事実と憶測を並べただけである。
『ジョン・プレイヤー・スペシャル』に属していた娘と義理息子が戦死したのは事実である。
対照的なのは後者のメビウスに対する考察だ。
確かに還暦を迎えたあたりでメビウスは幕僚総長になった。しかしその理由は誰にも話していない。
もっとも、あかさなかったほうがいけないのは事実である。いま、ジョンが語っている事実と推察の境界線を知っているのはメビウスしかいない。
だからメビウスはどこか遠くを見据えながら物思いに耽る。
孫娘モアのことはいつでも心掛かりだった。5歳にして家には使用人しかいない。極力早く帰ることにしていたメビウスと、退屈そうなモアは遊んで彼女は満足そうな顔をしていたな。その柔和な笑顔が素直に嬉しかったことを覚えている。
だが、仮に残り少ない人生をモアとともに歩みたいのなら、軍人などやめてしまえば良いのだ。
すでに還暦を迎えているのならば、予備役に入って墓に入るまでモアと触れ合っていればよかった。
ただそれは、メビウスという人間の運気が一般人のように現実的であればだが。
60歳を過ぎた頃から退役は考えていた。モアのことも心配だし、比較的平穏な時期だったロスト・エンジェルスは軍費削減に勤しんでいた。
だからメビウスは引退しようとした。が、直後にブリタニカが港に船とほうきを集めている──戦争準備を行っているという噂が流れ、やがて誰も望んでいないのに戦争が始まってしまった。
それでも戦争はロスト・エンジェルスの勝利で終わる。この戦争を境にロスト・エンジェルスはブリタニカとの外交による平和条約締結を諦め、大陸最大の農業国であるガリアとの協力姿勢を強めていくことになった。
要するに、だ。やめようと思ったときに戦争が起きて外交面で色々あって、この窮地を救えるのはメビウスしかいないと反対票ゼロで陸軍のトップに就任。この頃になると諦観の域に達していたので、きっとモアもなにか起きて死ぬのだろうな、と悲壮溢れる気分から逃げることができなかった。
「お、おお母ちゃんとおぉぉお父ちゃんが戦死したとき、ジョンさんが見送り人になったの?」
涙はその美形にはまったく似合わない。メビウスはハンカチを差し出し彼女に渡す。
「そうだな。あの大馬鹿者、知りもせずに嘘を真実のごとく広げおって」
「えっ? じゃああたしのお母さんとお父さんは……!!」
「モア、すこし外へ出よう」
メビウスは最前考えていたことをそっくりそのままモアへ言った。
「……。そうだったの?」
「そうだったな。申し訳ない。君が孤独に怯えているのは十二分に理解していたはずなのに」メビウスは身長が縮んだおかげでより顔を交差したハグをして、「しかしいまとなればわしは生娘。そしてこの姿は君が望んだものだ。これですこしは罪滅ぼしができた気もするよ」
鼻をすするモア。
「あたしだって!! あたしだっておじいちゃんの生き様を誇りに思ってるよ!! おじいちゃんが陸軍のトップやってたとき軍事予算がどんどん減って、ガリアやゲルマニア諸国と同盟組んで。あたしは15歳だからそれくらいしか分かんないけどさ」
軍が強い国は滅びないが、軍が強すぎる国は滅ぶ。モアが言った通りメビウスは独立戦争以来常にどこかの国と戦争していた時代にケリをつけ、他国では奴隷扱いされるエルフや獣人を積極的に国へ呼び入れ、技術力のある転生者を何人も呼びつけた。
その結果、ロスト・エンジェルスは戦争のない時代をようやく謳歌することができたのだ。
そんな中、十数年に及ぶ泰平を築いた英雄の孫娘はつぶやく。
「おじいちゃんがいてくれればそれで良い……!! 早く魂が肉体に合わせて若返ってほしい。そうすればあたしのこと置いてかないで生き続けてくれるから。お願いだよ、おじいちゃん」
「“パクス・マギア”でわしを不老不死にすれば良いのではないか?」
「永遠の命なんて、勲章求めて死んでいった母ちゃんたちも欲しがらないよ……」
ようやく笑顔を見せてくれた。
開口一番恥ずかしいことを言いやがった。思わず殴りかかりに行きたくなるが、次にジョンが放った言葉で溜飲が下がった。
「と、いうのは建前だ。あの方はな、ただ愚直に軍人としてロスト・エンジェルスの独立維持のために闘ってただけなんだよ」ジョンはこちらを一瞥し、「だからメビウスさんはヒーローって呼ばれるのをとても嫌ってた。ロスト・エンジェルスからすればヒーローだが、敵国からすれば巨悪の権化だからと」
メビウスがこくこくと頷いたのを確認したのか、ジョンはつらつらと語り始める。
「メビウスさんはつい最近引退なさり、母国英雄の称号と勲章をもらった。前々から引退を考えておられたそうだ。衰えたって言って。だけど、衰えた状態でもおれやクール大統領と良い勝負できたとは思う。とんでもなく強い愚直な軍人。それがメビウスさんだ」
「ジョンさんやクール大統領とも張り合えるほどの実力を持っていたんですか!?」
ある生徒が質問時間はまだ先だというのにフライングして質問をしてきた。
「持ってたさ。全盛期だったらおれらふたりがかりでも勝てなかったはずだ。ただ目立つことを嫌うヒトでね。そうだな、60歳過ぎたあたりから戦闘してるところを見たことがない。なんでだと思う?」
ジョンは適当な女子生徒を指差す。これで良いのか、と思いながらメビウスは顛末を見守る。
「あまりにも強すぎて目立ってしまうから?」
「正解! 兵を率いるようになっても最前線で真っ先に戦闘してた方だったんだが、還暦を迎えたあたりから上級大将になって国防軍の幕僚総長になった。いわば陸軍の最高司令官だな。当然前線には出られない。なにか引っかかることがあったんだろうな。そしておれは、その意味を知ってる」
まさか、この若造。
「おれの特殊部隊『ジョン・プレイヤー・スペシャル』に配属されたメビウスさんの娘とその婚約相手が戦死した。この学校にはメビウスさんの孫娘がいると訊く。ひとつ言っておこう。君のおじいちゃんは君を残して死ねないから陸軍の総司令官になったんだよ」
この話、ひとつの事実と憶測を並べただけである。
『ジョン・プレイヤー・スペシャル』に属していた娘と義理息子が戦死したのは事実である。
対照的なのは後者のメビウスに対する考察だ。
確かに還暦を迎えたあたりでメビウスは幕僚総長になった。しかしその理由は誰にも話していない。
もっとも、あかさなかったほうがいけないのは事実である。いま、ジョンが語っている事実と推察の境界線を知っているのはメビウスしかいない。
だからメビウスはどこか遠くを見据えながら物思いに耽る。
孫娘モアのことはいつでも心掛かりだった。5歳にして家には使用人しかいない。極力早く帰ることにしていたメビウスと、退屈そうなモアは遊んで彼女は満足そうな顔をしていたな。その柔和な笑顔が素直に嬉しかったことを覚えている。
だが、仮に残り少ない人生をモアとともに歩みたいのなら、軍人などやめてしまえば良いのだ。
すでに還暦を迎えているのならば、予備役に入って墓に入るまでモアと触れ合っていればよかった。
ただそれは、メビウスという人間の運気が一般人のように現実的であればだが。
60歳を過ぎた頃から退役は考えていた。モアのことも心配だし、比較的平穏な時期だったロスト・エンジェルスは軍費削減に勤しんでいた。
だからメビウスは引退しようとした。が、直後にブリタニカが港に船とほうきを集めている──戦争準備を行っているという噂が流れ、やがて誰も望んでいないのに戦争が始まってしまった。
それでも戦争はロスト・エンジェルスの勝利で終わる。この戦争を境にロスト・エンジェルスはブリタニカとの外交による平和条約締結を諦め、大陸最大の農業国であるガリアとの協力姿勢を強めていくことになった。
要するに、だ。やめようと思ったときに戦争が起きて外交面で色々あって、この窮地を救えるのはメビウスしかいないと反対票ゼロで陸軍のトップに就任。この頃になると諦観の域に達していたので、きっとモアもなにか起きて死ぬのだろうな、と悲壮溢れる気分から逃げることができなかった。
「お、おお母ちゃんとおぉぉお父ちゃんが戦死したとき、ジョンさんが見送り人になったの?」
涙はその美形にはまったく似合わない。メビウスはハンカチを差し出し彼女に渡す。
「そうだな。あの大馬鹿者、知りもせずに嘘を真実のごとく広げおって」
「えっ? じゃああたしのお母さんとお父さんは……!!」
「モア、すこし外へ出よう」
メビウスは最前考えていたことをそっくりそのままモアへ言った。
「……。そうだったの?」
「そうだったな。申し訳ない。君が孤独に怯えているのは十二分に理解していたはずなのに」メビウスは身長が縮んだおかげでより顔を交差したハグをして、「しかしいまとなればわしは生娘。そしてこの姿は君が望んだものだ。これですこしは罪滅ぼしができた気もするよ」
鼻をすするモア。
「あたしだって!! あたしだっておじいちゃんの生き様を誇りに思ってるよ!! おじいちゃんが陸軍のトップやってたとき軍事予算がどんどん減って、ガリアやゲルマニア諸国と同盟組んで。あたしは15歳だからそれくらいしか分かんないけどさ」
軍が強い国は滅びないが、軍が強すぎる国は滅ぶ。モアが言った通りメビウスは独立戦争以来常にどこかの国と戦争していた時代にケリをつけ、他国では奴隷扱いされるエルフや獣人を積極的に国へ呼び入れ、技術力のある転生者を何人も呼びつけた。
その結果、ロスト・エンジェルスは戦争のない時代をようやく謳歌することができたのだ。
そんな中、十数年に及ぶ泰平を築いた英雄の孫娘はつぶやく。
「おじいちゃんがいてくれればそれで良い……!! 早く魂が肉体に合わせて若返ってほしい。そうすればあたしのこと置いてかないで生き続けてくれるから。お願いだよ、おじいちゃん」
「“パクス・マギア”でわしを不老不死にすれば良いのではないか?」
「永遠の命なんて、勲章求めて死んでいった母ちゃんたちも欲しがらないよ……」
ようやく笑顔を見せてくれた。
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