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シーズン2 偉大な詐欺師はパクス・マギアの夢を見る
025 祖父を無理やり女にすることは道徳的だと?
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キャメル・レイノルズに指をさされた白髮少女メビウスは、手を広げて疑問符を頭に浮かべるような表情になった。
「一体なんの用事があるというのだね? やはり学内でカイザ・マギアなど使わんほうが良かったか?」
「逆よ。使ってくれたから話す気になったのよ。契約金1億2,000万メニーは眉唾じゃないって分かったから」
刹那、ギラギラ光る目つきをメビウスは感じ取る。こんな小娘に最新鋭対魔術師ステルス戦闘機並みの値札がついている事実は、いまキャメルが口走るまでほとんどの者が知らなかったのだろう。
しかし同時に、レーザービームで敵を焼き払う 超音速型兵器とほぼ同じ評価をされている事実も重くのしかかる。強盗しても返り討ちに遭う可能性のほうが高い……と。
そしてかつての首席キャメルから直接指名を受けたことが、襲撃を諦める決定打になった。
「まあ、良いだろう。どうも君は首を横に振ることがなさそうだ」
キャメルは苦く薄い笑みを浮かべ、「そうね……」とだけ返事した。
*
「お姉ちゃん、遅いなぁ」
メビウスの孫娘モアは、授業が終わり次第集合することになっていた区内の喫茶店にて待ちくたびれていた。
「携帯の充電切れたのかな? 一番古いヤツなんてあげるんじゃなかった」
あまりにも古臭い携帯電話を使っていたので渡した型落ちのスマートフォン。200年先の技術を突っ走るロスト・エンジェルスにおける必須品である。ただ、あれはすこし古すぎたのかもしれない。
そうやって色々嘆きながら、ノートパソコンに向かって『おじいちゃんを女にしてやろう!!』という計画書を制作しているときであった。
「やあ。調子は?」
「……?」
「私は悪くない。悪くないが、良くもない。なぜか分かるか?」
異様な雰囲気を醸し出す、いつの間にかこの場に現れたかのような銀髪碧眼の幼女が、テーブルの隣に立っていた。なにかしらの違法薬物に引っかかるのは確実といえるほど、目つきも表情もヘラヘラしている。一見すると敵意がないように見えるが、実際のところ悪意しか感じ取れない。
「……。さあ、ルーシ先輩」
「さあ? 私は答えを訊いているんだ。質問に答えろよ」
「…………あたしもう帰るんで」
「帰る? せっかく楽しいことしに来たのに?」
「先輩と話してても良いことありませんから」
「ヒトを疫病神かなにかだと勘違いしているのかい? ま、ひとつ面白い話がある。とりあえずコーヒー飲めよ」
会話に整合性がない。いますぐにでも通報して警察、いや軍隊に任せたほうが良い気がする。
とは思いつつも、モアが場から離れるにはルーシを物理的に避けて通れない。それに他の客もこの幼女の異常さになにも感じないらしく、誰も彼も介入してこなかった。
そのため、モアはコーヒーを一回飲んで気を落ち着かせようとする。そしてルーシがこの動作を見計らっていたかのように、テーブルを挟んで座った。
銀髪は目が痛くなりそうなほど美しく、顔立ちは妖精みたいに整っている。だが、目つきは虚ろそのものだ。
「タバコ、吸うかい?」
「吸いません」
「友だちで吸っている連中は?」
「友だちいないんで」
「寂しいヤツだなぁ……」
いきなり同情された。意味が分からないまま、モアは10歳か11歳程度の幼女がタバコを咥えるという驚愕の絵面を見てしまう。
慣れた表情で煙をこちらに吐き出してくる。副流煙の害を知らないのであろうか。
「あの、その歳でタバコ吸わないほうが良いですよ」
「これは酸素だ」
「返事になってません」
「冗談だよ。タバコくらい自由に吸わせてくれ。別にこの店は禁煙席というわけではないだろ?」
「いやいや、倫理的な問題がですね」
「倫理? 祖父を無理やり女にすることは道徳的だと?」
──コイツ、ヒトのパソコン勝手に見やがったの!?
「とはいえ、まだ実行には移していないんだろう? 面白い話というのはそれだ。世の中カネを払ってでも女になりてェヤツらは多いはず。ソイツらに千載一遇の大好機を与えてやるのさ」ルーシは2本目のタバコに火をつけ、「そのトランス・セクシャル薬の原本を寄越せ。増産してやる。インセンティブはそちらが多く持って構わない。そうだな……。100万メニー単位で儲けられるはずだ」
なんというか、チラリとディスプレイを見ただけなのにここまで話を膨らませてくるのは、そもそもこの研究をだいぶ前から知っていたからなのでは? とモアは当然の疑問を感じる。
それでも、自分の研究物が世に出回ってロスト・エンジェルスのためになるというのならば、ルーシの話に乗る意味もある。
問題は、ルーシがどのように商売を行うかだ。
「随分雄弁ですけど、具体的にどうやって増産して売るんですか? いまの話だけで首縦に振るほど馬鹿じゃありませんよ、あたしは」
「ほらよ」
ルーシは名刺らしきものを投げてきた。嫌がらせでもしたいのか、と訊きたいほどであるが、モアは顔に引っ付いたそれを確認する。
「……KOOLカンパニー代表取締役社長の名刺?」
ロスト・エンジェルス屈指の勢いを誇る新興企業、KOOLカンパニー。金融業と軍需産業、解禁されたばかりのハッパ事業など取り仕切り、海外領土開発にも一枚噛んでいるという。
「知っての通り、私の父であるクール・レイノルズがつくった企業だ。しかし父は大統領になったため社長を退任。代わりにトップへ成り上がったヤツと私は友だちでね。たいていの頼み事は聞いてくれるのさ」
ただ、黒い噂が耐えない企業でもある。創業者のクール・レイノルズからして、実のところマフィアなのではないかという嫌疑をかけられているのだから。
モアはしばしルーシの目を覗き込むように見据える。ルーシの心境をある程度知りたいからだ。魔術で悟るのは実力差が故困難。こうなると、最後は心理学的な要素に頼るしかない。
そして、「そんなに凝視するなよ。照れるだろうが」とルーシはニヤニヤしながら目をそらした。嘘をついている可能性は低い……とモアは思ったわけだ。
「一体なんの用事があるというのだね? やはり学内でカイザ・マギアなど使わんほうが良かったか?」
「逆よ。使ってくれたから話す気になったのよ。契約金1億2,000万メニーは眉唾じゃないって分かったから」
刹那、ギラギラ光る目つきをメビウスは感じ取る。こんな小娘に最新鋭対魔術師ステルス戦闘機並みの値札がついている事実は、いまキャメルが口走るまでほとんどの者が知らなかったのだろう。
しかし同時に、レーザービームで敵を焼き払う 超音速型兵器とほぼ同じ評価をされている事実も重くのしかかる。強盗しても返り討ちに遭う可能性のほうが高い……と。
そしてかつての首席キャメルから直接指名を受けたことが、襲撃を諦める決定打になった。
「まあ、良いだろう。どうも君は首を横に振ることがなさそうだ」
キャメルは苦く薄い笑みを浮かべ、「そうね……」とだけ返事した。
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「お姉ちゃん、遅いなぁ」
メビウスの孫娘モアは、授業が終わり次第集合することになっていた区内の喫茶店にて待ちくたびれていた。
「携帯の充電切れたのかな? 一番古いヤツなんてあげるんじゃなかった」
あまりにも古臭い携帯電話を使っていたので渡した型落ちのスマートフォン。200年先の技術を突っ走るロスト・エンジェルスにおける必須品である。ただ、あれはすこし古すぎたのかもしれない。
そうやって色々嘆きながら、ノートパソコンに向かって『おじいちゃんを女にしてやろう!!』という計画書を制作しているときであった。
「やあ。調子は?」
「……?」
「私は悪くない。悪くないが、良くもない。なぜか分かるか?」
異様な雰囲気を醸し出す、いつの間にかこの場に現れたかのような銀髪碧眼の幼女が、テーブルの隣に立っていた。なにかしらの違法薬物に引っかかるのは確実といえるほど、目つきも表情もヘラヘラしている。一見すると敵意がないように見えるが、実際のところ悪意しか感じ取れない。
「……。さあ、ルーシ先輩」
「さあ? 私は答えを訊いているんだ。質問に答えろよ」
「…………あたしもう帰るんで」
「帰る? せっかく楽しいことしに来たのに?」
「先輩と話してても良いことありませんから」
「ヒトを疫病神かなにかだと勘違いしているのかい? ま、ひとつ面白い話がある。とりあえずコーヒー飲めよ」
会話に整合性がない。いますぐにでも通報して警察、いや軍隊に任せたほうが良い気がする。
とは思いつつも、モアが場から離れるにはルーシを物理的に避けて通れない。それに他の客もこの幼女の異常さになにも感じないらしく、誰も彼も介入してこなかった。
そのため、モアはコーヒーを一回飲んで気を落ち着かせようとする。そしてルーシがこの動作を見計らっていたかのように、テーブルを挟んで座った。
銀髪は目が痛くなりそうなほど美しく、顔立ちは妖精みたいに整っている。だが、目つきは虚ろそのものだ。
「タバコ、吸うかい?」
「吸いません」
「友だちで吸っている連中は?」
「友だちいないんで」
「寂しいヤツだなぁ……」
いきなり同情された。意味が分からないまま、モアは10歳か11歳程度の幼女がタバコを咥えるという驚愕の絵面を見てしまう。
慣れた表情で煙をこちらに吐き出してくる。副流煙の害を知らないのであろうか。
「あの、その歳でタバコ吸わないほうが良いですよ」
「これは酸素だ」
「返事になってません」
「冗談だよ。タバコくらい自由に吸わせてくれ。別にこの店は禁煙席というわけではないだろ?」
「いやいや、倫理的な問題がですね」
「倫理? 祖父を無理やり女にすることは道徳的だと?」
──コイツ、ヒトのパソコン勝手に見やがったの!?
「とはいえ、まだ実行には移していないんだろう? 面白い話というのはそれだ。世の中カネを払ってでも女になりてェヤツらは多いはず。ソイツらに千載一遇の大好機を与えてやるのさ」ルーシは2本目のタバコに火をつけ、「そのトランス・セクシャル薬の原本を寄越せ。増産してやる。インセンティブはそちらが多く持って構わない。そうだな……。100万メニー単位で儲けられるはずだ」
なんというか、チラリとディスプレイを見ただけなのにここまで話を膨らませてくるのは、そもそもこの研究をだいぶ前から知っていたからなのでは? とモアは当然の疑問を感じる。
それでも、自分の研究物が世に出回ってロスト・エンジェルスのためになるというのならば、ルーシの話に乗る意味もある。
問題は、ルーシがどのように商売を行うかだ。
「随分雄弁ですけど、具体的にどうやって増産して売るんですか? いまの話だけで首縦に振るほど馬鹿じゃありませんよ、あたしは」
「ほらよ」
ルーシは名刺らしきものを投げてきた。嫌がらせでもしたいのか、と訊きたいほどであるが、モアは顔に引っ付いたそれを確認する。
「……KOOLカンパニー代表取締役社長の名刺?」
ロスト・エンジェルス屈指の勢いを誇る新興企業、KOOLカンパニー。金融業と軍需産業、解禁されたばかりのハッパ事業など取り仕切り、海外領土開発にも一枚噛んでいるという。
「知っての通り、私の父であるクール・レイノルズがつくった企業だ。しかし父は大統領になったため社長を退任。代わりにトップへ成り上がったヤツと私は友だちでね。たいていの頼み事は聞いてくれるのさ」
ただ、黒い噂が耐えない企業でもある。創業者のクール・レイノルズからして、実のところマフィアなのではないかという嫌疑をかけられているのだから。
モアはしばしルーシの目を覗き込むように見据える。ルーシの心境をある程度知りたいからだ。魔術で悟るのは実力差が故困難。こうなると、最後は心理学的な要素に頼るしかない。
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