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シーズン1 チャプター3 怪物と人間の垣根を超えて

070 いざセブン・スターへ

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 結局、オマエも甘くて眠たい考えを持っているんだよな。ミリー。散々やられたくせにその主犯格の行く末を心配しちゃうんだから。

「なに、オマエらはあと1年とすこしで中学卒業だろ? 最悪の場合、パールって子もミリーみたいに姿隠しちまえば良いし、転校だってできるだろ。深く考え込む必要はないさ」

 あとすこしでほとんどの連中と縁が切れる。学生なんてそんなものだ。ごく一部の友人を除いて卒業後も関係が継続するなんてありえない。所詮は年齢が近かった者同士が同じクラスに押し込められているだけの話だから。

「……。本当?」

「本当だよ。おれは馬鹿かもしれないけど算数レベルの計算はできるぜ?」ミリットの肩を叩き、「さ、帰ろうぜ。いまパールと会って慰めようとか思うなよ? 分かってるだろ?」

「うん……」

 *

 おれとミリット、タイーシャは自宅に戻ってきていた。
 紛れもない陛下であるおれはエコーやらエルフのシルクやらが丁寧にまとめた『鉄血同盟』の書類を読み進め、署名するだけの簡単なお仕事をこなす。

「あ」

 思わずとぼけた声を出してしまった。それは、手に持った書類に原因があった。

「セブン・スターの予備役登録への了承書? さっき殺されたヤツの後釜やらせるつもりかよ」

 ただ日付は4日前だ。署名するだけのお仕事とはいえ、最近だらけきっていたので書類が溜まっていたのだ。

 そしてわずか動揺するおれの部屋のモニターが光った。訪問者だ。
 画面を見てみる。金髪碧眼のこういうので良いんだよ、を極めし少女クラリスがそこにいた。

「まあいまは同盟関係だしな……」

 おれは入室許可を出す。オートロックのドアが開き、やがて階段を誰かが登ってくる音がした。

「やあ、クラリス」

「ご機嫌よう。それで? セブン・スターすら潰して、自分がその座につくことで怪物の“人権”を盤石にしようとしてるのかしら?」

「そんなわけあるかよ。元をたどれば子どもの問題に親が出しゃばってきたから応戦しただけだ」

「先にでしゃばったのは親でもない貴方じゃない」

 これだからこの女は苦手なんだ。どこからともなく音もなく情報を拾い上げてきて、自分の発言の優位性を保とうとする。理屈は通っているが、それでもどうにも苦手だ。

「ああそうだ。でもな、あんな光景見たら誰だって手が出る。ミリーがあんな目にあってたんだぞ? あそこでキレなきゃおれはアイツのこと救えないよ」

「あら、救うつもりなの?」半笑いだ。

「当たり前だろ。で? 話ってなんだ?」

「貴方の評定金額が更新されたって話と、セブン・スターの話よ」

「皇帝陛下を雇おうなんてヤツは端からいねえと思うけど、一応訊いておく。いくらだ?」

「6億メニーよ。貴方の組織と私を分かりやすくまとめてあげようかしら?」

「ああ、頼んだ」

 クラリスはホワイトボードに写真を貼り、青いペンでカテゴリーと評定金額を記していく。

「まず、我らが陛下タイラントはカテゴリーⅥの6億メニーね」

「小粋がカテゴリーⅤの4800万メニーか。安くねえか?」

「怪物は評価がまだ曖昧だしね。ただ貴方が動かせるコマとしては最高額よ」

「ちなみにクラリスは?」

「カテゴリーⅤの2億メニーよ」

 それも記されていく。そしてこの同盟は『タイラント・ポールモール鉄血同盟』だ。おれと対等な者がひとりいる。

「スターリング工業は大統領の娘が復帰したことで、実質的な指揮権はあの幼女に譲渡されたわ。ただポールモール自体が強力な魔術師ということもあり……」

 カテゴリーⅥ:12億4,800万メニー。

 なんというクソな話だ!! 12億4,800万メニー!? 

「クールの部下だから忖度された可能性は?」

「ないわね。大統領はそういった行為をもっとも嫌うから」クラリスは淡々と、「カテゴリーⅥと考えれば破格であるのは間違いないけれど。正直、この金額ならセブン・スターに選出されててもおかしくない」

「裏社会の住民が表に出てきたらこの国もおしまいだぜ」

 ポールモールは列記とした裏社会の人間だ。しかも位も高い。そんなヤツが表社会に出てきて良い理由なんてなにひとつとして存在しない。
 ……と思ったとき、現大統領の顔を思い出すのだ。

「でもクールも元は裏社会の住民か……」

「暗黒街の花形:クール・レイノルズ、って二つ名付きでね」

「まあ……おれみたいな異世界人にはこの国の条理は良く分かんねえや」

 所詮よそ者だ。巨大マフィアのNo.2が国家のトップに君臨したり、スライム娘や赤鬼が“人権”獲得のために四苦八苦したりと色々オカシナ点は多い。
 だからおれはペンをくるくる回し、セブン・スターの予備役登録に迷う。オカシナ点が多いから、おれがセブン・スターになっても良いのかもしれない。

「なあ。スライム娘問わず怪物がセブン・スターに関わったことってあるの?」

「ないわね。私が知ってる限り」

「ふーん」

 ペンを持ち直し、おれは『セブン・スター予備役』登録に署名した。

「あら……」

「別に良いだろ。おれの人生だ。おれが決める」

 そういうことにしておこう。それにおれがこの座へつけば、怪物たちと人間の垣根は更に変えられるかもしれないし。

「まあ貴方の決定を覆せる者なんてそうはいないしね。私も含めて」

「なんだよ。間違ったことをしてるみたいじゃないか」

「面倒なほうへ行こうとしてるのは間違いないでしょ」

「なんでだよ?」

「あの人面鳥にでも訊いてみたら? きっと驚愕の表情で一から十まで教えてくれるわよ」

 そう言った頃にはクラリスはどこかへ消えていた。魔術かなにかだろう。
 おれはエコーに電話をかける。

『閣下。どのようなご要件で?』

「なあ、おれがセブン・スターにいたらまずいか?」

『……!! 閣下、あの書類にサインしたと?』

「そうだよん」

『……。ハイライト氏の後釜として閣下が正式にセブン・スターへ選出されるのに時間はいらないでしょう。しかしそうなった場合、国内の極右派が類を見ない大暴動を起こす可能性が極めて高いかと』
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