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チャプター1 銀髪碧眼幼女、LTAS(エルターズ)に立つ
011 “小さな太陽”キャメル・レイノルズ
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「きゃ、キャメル?」
そして、彼女はMIH学園──メイド・イン・ヘブン学園の主席である。それはクールの1言によって確定された。
「……ルーシ、おれァ会いたくねェぞ?」
「なに言っているのさ。もうだいぶ会っていないみたいだし、これをきっかけに仲直りしたら?」
「いや……そうじゃねェんだ」
距離にして200メートルほど。相手の顔がよく見えるということは、こちら側の顔も見えているということでもある。
キャメルは何気なくあたりを見渡し、身長が高く顔立ちの整った、明るい茶髪の男を眼中に捉える。そして彼女はぱっちり目を開き、飼い主を見つけた子犬のように表情を変え、彼のもとへ駆け寄ってくる。
「──お兄様!?」
普段はとぼけた態度であるクールは、深いため息をついた。なにか観念したかのように。
「お兄様ですよね!? なんでこのようなところに!?」
「……仕事が一段落ついてさ。ショッピングでもしようと思って」
キャメルはなんの臆面もなく、クールへ抱きついた。随分と熱烈な愛があるようだ。
「ずっと会いたかったです……! もう二度と会えないかと思っていて、毎日お兄様のことばかり考えて……」
キャメルの目には涙が溜まっていた。なかなか罪な兄である。
「……ああ、おれも会いたかったよ。6年くらい経ったか。身長はあんま伸びなかったみたいだな」
「……ええ、きっとあのころと変わらない身体でいれば、いつかお兄様と出会えると思っていたから」
(かなり重てェ妹だな。長年顔も見られなかったのと、そもそも大前提としてクールを敬愛しているんだろう。うらやましいような、大変なような……)
「そっかそっか。レイノルズ家は相変わらず超富裕層を維持してるようだな。キャメル、ひとつ謝っとく。勝手にいなくなってごめんな」
「……いえ、その言葉だけでも十二分です。早速お父様とお母様へ連絡して、家族でパーティーでも──」
「いや、それはやめてくれ。パーティーをするんだったら、おれとオマエだけにしとこう。セブン・スターズを2回蹴って、なんとなく蒸発して、んなアホ息子、親父もおふくろも顔なんか見たくねェだろうしな」
「そうですか……。でも、お兄様がそうおっしゃるのなら、私は従います」
残念そうな顔をするキャメル。そして物語は動き出す。
「──ところで、そこにいる方はどなたですか?」
クールは心底説明しづらそうだった。打ち合わせは終わっている以上、イレギュラーな事態──絶縁状態になっている家族と出会ってしまったという事態に対応し切れていないのだろう。このままフリーズするクールを眺めるのも楽しそうだが、ルーシはさっさと話を先に進めたい。なので、ルーシはいう。
「ルーシ・レイノルズと申します。父がお世話になっていたようですね。若輩者ですが、以後よろしくお願いいたします」
キャメルは驚愕に染まったかのような、ある意味当然な顔色になった。そしてそうなることは計算内である。あとはクールがフォローするだけだ。
ルーシはキャメルが気づかない程度の速度で、硬直するクールの足を踏んだ。
「あ、ああ。コイツはおれの娘でな。まだ家で社長ごっこしてるときにできたらしいんだ。……で、いつだかコイツだけ送られてきてな。女が蒸発したとかなんとかで」
ようやく彼も台本通りに語りはじめた。随分な大根役者だが、キャメルの性格を鑑みるに、クールがそういった比較的分かりやすい嘘をついても見抜こうと思う精神がなさそうだから、この言葉を言い切った時点でルーシの存在は認められたようなものだ。
その証拠に、
「そ、そうなんですか? でしたら、私の姪っ子ということになるんですよね?」
彼女はやや疑念をいだきながらも、ルーシとクールの関係を受け入れた。
「そ、そうなんだよ。歳は10歳でな。でも頭も良いし、魔術もえらく強ェから、飛び級かなんかでMIHに入学させてェと思ってるんだ」
「……お兄様がそうおっしゃるのなら、私も推薦しますよ。えーと、ルーシさん? それともルーシちゃん?」
「私のほうが年下なので、ルーシちゃんで良いですよ」
白々しい演技だと我ながら思う。ルーシの実年齢は18歳。見た目は10歳ではあるが、こんな小娘相手に敬語を使う理由もなければ、「ちゃん」呼びなどされる筋合いはない。しかしルーシは柔らかい表情を崩さない。だから相手も油断してしまう。
クールという人間をすこしでも知っていれば、彼が子どもを認知するような人間ではなく、ましてや養育するような人間でもないことを、無理やり捻じ曲げて受け入れてしまうのだ。
「じゃ、じゃあ、ルーシちゃん。きょうはお兄様……お父様となにしにきたのかしら?」
(ようやく素に近い性格──主に他人へ向ける性格が出てきたみてーだな)
「服を買いに来たんです。あと、髪も切りたいし、よければMIH学園の制服の現物も見ておきたいですね」
「じゃ、じゃあいっしょに行こうか。かわいい服ならたくさん知ってるし、お父様もさすがに女児向けの服は知らないでしょ?」
「そうですね~。せっかくロスト・エンジェルスへ来たから、この国ならではの服を買いたいですね」
(……まあ、キャメルの私服を見る限り、センスの良い服は期待できそうにもないが)
そうしてルーシとキャメル、クールの服選びがはじまる。
そして、彼女はMIH学園──メイド・イン・ヘブン学園の主席である。それはクールの1言によって確定された。
「……ルーシ、おれァ会いたくねェぞ?」
「なに言っているのさ。もうだいぶ会っていないみたいだし、これをきっかけに仲直りしたら?」
「いや……そうじゃねェんだ」
距離にして200メートルほど。相手の顔がよく見えるということは、こちら側の顔も見えているということでもある。
キャメルは何気なくあたりを見渡し、身長が高く顔立ちの整った、明るい茶髪の男を眼中に捉える。そして彼女はぱっちり目を開き、飼い主を見つけた子犬のように表情を変え、彼のもとへ駆け寄ってくる。
「──お兄様!?」
普段はとぼけた態度であるクールは、深いため息をついた。なにか観念したかのように。
「お兄様ですよね!? なんでこのようなところに!?」
「……仕事が一段落ついてさ。ショッピングでもしようと思って」
キャメルはなんの臆面もなく、クールへ抱きついた。随分と熱烈な愛があるようだ。
「ずっと会いたかったです……! もう二度と会えないかと思っていて、毎日お兄様のことばかり考えて……」
キャメルの目には涙が溜まっていた。なかなか罪な兄である。
「……ああ、おれも会いたかったよ。6年くらい経ったか。身長はあんま伸びなかったみたいだな」
「……ええ、きっとあのころと変わらない身体でいれば、いつかお兄様と出会えると思っていたから」
(かなり重てェ妹だな。長年顔も見られなかったのと、そもそも大前提としてクールを敬愛しているんだろう。うらやましいような、大変なような……)
「そっかそっか。レイノルズ家は相変わらず超富裕層を維持してるようだな。キャメル、ひとつ謝っとく。勝手にいなくなってごめんな」
「……いえ、その言葉だけでも十二分です。早速お父様とお母様へ連絡して、家族でパーティーでも──」
「いや、それはやめてくれ。パーティーをするんだったら、おれとオマエだけにしとこう。セブン・スターズを2回蹴って、なんとなく蒸発して、んなアホ息子、親父もおふくろも顔なんか見たくねェだろうしな」
「そうですか……。でも、お兄様がそうおっしゃるのなら、私は従います」
残念そうな顔をするキャメル。そして物語は動き出す。
「──ところで、そこにいる方はどなたですか?」
クールは心底説明しづらそうだった。打ち合わせは終わっている以上、イレギュラーな事態──絶縁状態になっている家族と出会ってしまったという事態に対応し切れていないのだろう。このままフリーズするクールを眺めるのも楽しそうだが、ルーシはさっさと話を先に進めたい。なので、ルーシはいう。
「ルーシ・レイノルズと申します。父がお世話になっていたようですね。若輩者ですが、以後よろしくお願いいたします」
キャメルは驚愕に染まったかのような、ある意味当然な顔色になった。そしてそうなることは計算内である。あとはクールがフォローするだけだ。
ルーシはキャメルが気づかない程度の速度で、硬直するクールの足を踏んだ。
「あ、ああ。コイツはおれの娘でな。まだ家で社長ごっこしてるときにできたらしいんだ。……で、いつだかコイツだけ送られてきてな。女が蒸発したとかなんとかで」
ようやく彼も台本通りに語りはじめた。随分な大根役者だが、キャメルの性格を鑑みるに、クールがそういった比較的分かりやすい嘘をついても見抜こうと思う精神がなさそうだから、この言葉を言い切った時点でルーシの存在は認められたようなものだ。
その証拠に、
「そ、そうなんですか? でしたら、私の姪っ子ということになるんですよね?」
彼女はやや疑念をいだきながらも、ルーシとクールの関係を受け入れた。
「そ、そうなんだよ。歳は10歳でな。でも頭も良いし、魔術もえらく強ェから、飛び級かなんかでMIHに入学させてェと思ってるんだ」
「……お兄様がそうおっしゃるのなら、私も推薦しますよ。えーと、ルーシさん? それともルーシちゃん?」
「私のほうが年下なので、ルーシちゃんで良いですよ」
白々しい演技だと我ながら思う。ルーシの実年齢は18歳。見た目は10歳ではあるが、こんな小娘相手に敬語を使う理由もなければ、「ちゃん」呼びなどされる筋合いはない。しかしルーシは柔らかい表情を崩さない。だから相手も油断してしまう。
クールという人間をすこしでも知っていれば、彼が子どもを認知するような人間ではなく、ましてや養育するような人間でもないことを、無理やり捻じ曲げて受け入れてしまうのだ。
「じゃ、じゃあ、ルーシちゃん。きょうはお兄様……お父様となにしにきたのかしら?」
(ようやく素に近い性格──主に他人へ向ける性格が出てきたみてーだな)
「服を買いに来たんです。あと、髪も切りたいし、よければMIH学園の制服の現物も見ておきたいですね」
「じゃ、じゃあいっしょに行こうか。かわいい服ならたくさん知ってるし、お父様もさすがに女児向けの服は知らないでしょ?」
「そうですね~。せっかくロスト・エンジェルスへ来たから、この国ならではの服を買いたいですね」
(……まあ、キャメルの私服を見る限り、センスの良い服は期待できそうにもないが)
そうしてルーシとキャメル、クールの服選びがはじまる。
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