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全ての陰謀を終わらせる陰謀

侵入成功

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「まずは解放からだな。さっさとやろうぜ。」
「……ふざけんn!」
反抗的な素振りを見せる超能力者を鉄パイプで殴るよりも快感なものはあるのだろうか。顔が赤黒く染まると、大智は優しく語りかける。
「早くやろうぜ?俺らは滅茶苦茶!腹が立ってんだよ。友だちを拉致した挙句に殺そうとしてる外道に対する対応にしては優しすぎるぐらいだ…まぁ嫌なら殺して脳を解剖してそこから割り出すから、ま、気楽にやれや。」
彼は本気である。もはや対抗手段は尽きた。閉鎖空間への侵入を許すしかない。
「なァるほどな。ほんの数秒の時空間を切り取って収容するわけだ。舞台装置にしちゃ豪華じゃあないか。」
ありとあらゆる法則を無視した空間の中においては、イリイチのシックス・センスも通用しない。即死迷路を生成出来る彼がPKDI:RANK4であることも納得だ。それ以外は並以下ではあるが。
現実時間にて4日間。飲まず食わずで衰弱しきったロシア人は、最初は幻覚だと勘違いしたのか、反応はなかった。
「ちゃちゃっと病院に入れちまおうか…。流石のイリイチもこの状態じゃ厳しいな。」
大智はイリイチを担ぎ、閉鎖空間から脱出する。首尾よく呼んでおいた救急車に彼を入れると、汚れ仕事をするためにリーコンに電話をかける。
「もしもし、俺だ。侵入成功して病院に搬送した。なに?桑原の所に山崎康太が現れただと?誰が対応した?…イリーナ?…後で聞こう。とりまこいつを何とかすんべ。」
悪の枢軸は順調に亡びつつある。学園横浜は上位3名による介入なしに、凡その解決の道を繋ぎつつあった。それに満足したような大智が煙草を咥えつつ、阪浩の首輪を持っていると、これまた満足げなリーコンが走ってきた。
「よォ!根暗ァ!」
じゃれ合いを通り越した渾身に近い握り拳は、彼の鼻から血を流すには十分なものだった。それでも睨み続ける阪浩を嘲笑うようなリーコンのは、ケジメをつけるには十二分に足りたものだった。
「お前が下らねェお遊びで、この学園横浜は損害を受けた。賠償金を支払って示談にしろ。ほら!」
偶然なのか、あえて調べたのか、乙坂阪浩に付けられた賠償金は、奇しくも彼の契約金と同額だった。
「25億円だ。安いぐらいだろ?」
「勘弁してくれ…。契約金は親に殆ど渡して、こんな額は払えなぁ…!」
泣き落としが通用する相手ではない。それを見せつけるように、顔面はまた腫れた。痛みで涙すら出てくる始末だ。
「知らねェよ。払えったら払え。払わねェなら、学園横浜をクビにした上で、法廷で会うことになるぞ?お前も男なら泣いて解決するなんて思っちゃいないだろ?ん?」
「まぁまぁ…。落ち着けってリーコン。なら。20億円でどうだ?なんなら仕事も紹介してやるよ。」
「貴方がそう仰るなら…。20億で勘弁しましょう。」
猿芝居を見せつけて阪浩の出方を待つ。なんの法的根拠もない即興で決めた金額ではあるが、もし彼に恭順の意があるのなら、そこで止める予定ではある。
「…なんなんだよお前ら。あんなロシア人の1人や100人死んだ所で損害なんて発生しねェだろうが!びた一文も払わねェからな!家族にも手を出させねェ!」
辛うじて生き延びられる可能性を捨て去り、男らしく死んでやるという覚悟を見せつける。だがそれは、その薄っぺらい表面を削り取るための手筈を持っている相手を想定していないものだった。
「あっそ…。じゃあ…。。」
往年を思わせるリーコンの表情が、僅かにニヤけたことを大智は見逃さなかったのだった。
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