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1年目の春~夏の件
新しいメンツが街に加わるかもな件
しおりを挟む無事に田植えも終わり、来栖家の面々は今は母屋のリビングで寛いでいる所。今年は田植え機の運転を姫香がしてくれた事もあって、予定より随分と順調に終える事が出来た。
見事に大役を果たした姫香はご機嫌そのもの、既に夜なのにいつも以上に元気である。それと同様に、最年少の香多奈も超元気。
今回の田植えは、恒例の植松夫婦とは別に、その知人も手伝いに来てくれた。これも随分と捗った要因の1つで、農家にも良い風が吹いている証拠でもある。
何しろ“大変動”以降の世界では、食糧難は慢性的で一般家庭は困窮している。太陽光パネル等の普及で、電気の供給は田舎でも滞りはしなかったけど。
その他のインフラは、一時期大変な有り様だった。
とにかく農家のお手伝いで、食料供給の伝手を確実に持とうと思う人が増えたお陰で。こんな山のド田舎の来栖家も、ヘルパーに困る事は無いと言う。
そこは植松夫婦の存在も、実は大きく関係していた。この老夫婦を介して、ヘルプの人材の人柄や適材かどうかの確認をして貰っているのだ。
そんなヘルパーさんの手伝いもあって、無事に忙しい時期は過ぎてくれた。後は、毎日の田んぼへの水当てとか雑草の処理とかこなせば良い。田んぼの面倒事は、ほぼ終わったので気は随分と楽になった護人である。
まぁ、作物の出来は天候次第な所もあるので、完全に気は抜けないのも確かではある。加えて害虫やら病気やら、収穫に大きく起因する原因は意外と多い。
ただそれは、今から気を揉んでも仕方の無いのも事実。そんな訳で、護人はソファにゆったりと腰掛けて、コーヒーを美味しそうに啜っている所。有り難い事に、姫香が毎回この時間には気を利かせて淹れてくれるのだ。
本人も温かい飲み物を手にしているし、真似っ子の香多奈もココアを美味しそうに口にしている。紗良も同じく、家族揃ってのリラックスタイムだ。
そんな中、姫香がお風呂で決まった明日の予定を披露する。
「植松のお婆ちゃんが、柏餅を一緒に作ろうって誘ってくれてるの。朝のうちに皆で葉っぱを摘んで回って、お昼からこっちの家でたくさん作ろうって。
ヨモギ餅も、ついでに作っても良いかもねって。去年のもち米が結構残ってるから、たくさん作って販売用に回すから手伝って欲しいって。
だからヨモギの葉とサルトリイバラの葉っぱ、午前中に摘みに行きたいんだけど」
「ああっ、それは良いね……そう言えば、もう5月なんだなぁ。物置から餅つき機を出しておくよ、後はもろぶたも幾つか用意しなきゃな。
山に入る時は気を付けて、ちゃんと犬達も連れて行くんだぞ?」
はーいと元気な返事、これで明日のスケジュールは確定した。植松夫婦に来て貰って、皆でお餅2種を大量に作るのだ作りたてのお餅も食べられるし、これは結構なウキウキ行事だ。
柏餅とヨモギ餅は、厳密に言えば使う素材も手順も全然違う。柏餅は上新粉と白玉粉、中の餡は漉し餡である。対するヨモギ餅は、もち米を使用して、餡は潰さない。
田舎のついでは、ちょっと特殊でもあるのかも……人が集まる機会があれば、それを逃さずについでの作業が増えて行く的な感じ。
日を改めて何度も集まるのが、割と大変なのをお互いに分かっているせいなのかも。ちなみに柏餅の葉っぱは、広島ではサルトリイバラが主流である。
普通に山に自生していて、ヨモギ共々この季節に収穫出来る。ただし、棘のある植物なので取り扱いは少し大変。まぁ、葉っぱを取る程度なら何の苦労もいらない。
ヨモギも同じく、それよりは野良モンスター対策の方が大事。山に入るなら、他にも危険な生物はそれなりにいる。
例えば、ヒル蜂などの蟲系や、毒蛇や猪やクマは言うに及ばず。もっとも、山育ちの姉妹には改めて言う程のモノでは無い。
それでも念の為、保護者ってば心配の種は尽きないのだ。
そんな餅つき行事を楽しくこなした、翌日の朝の割と早い時間。農作業の準備をしていた、護人のスマホに突然の着信が。出てみると自治会長の峰岸会長からで、ちょっと時間を作れないかとのお伺い。
詳しく聞いてみると、どうやら自治会で募集していた民泊への募集探索者が目の前にいるらしい。随分と募集を掛けての末の、ようやくの名乗り上げである。
これを逃したくないけど、向こうに能力が無くてもそれは困る。そこで彼らの試験官役を、護人に担って欲しいとの依頼らしい。
急な召集を詫びながら、このチャンスを是が非でもモノにしたいとの自治会長の意気込みは本物っぽい。そう言われては、護人としても断り辛い。
募集に応じて来たのは、まだ若い兄妹チームの探索者らしい。探索歴は1年ちょっとで、スキルも1つずつ所有しているとの事。
そんな感じで、提出された書類上はここまで何も問題は無いそう。
本当は『白桜』の団長が、この最終チェック任務に当たる予定だった模様。それがどうしても都合がつかなくなって、こちらにお鉢が回って来たみたい。
実は、これまで町への募集が全く無かった訳でも無いそうで。2組の面接を自治会長は自らこなして、両方に不採用を言い渡したとの事。
護人は知らなかったが、前の2組は碌なチームでは無かった模様。探索者の中には、その得た力故に非道になる連中もいるらしく。
さすがに力を所持していても、そんな連中に町に居座って欲しくはない。そんな理由での不採用、確かにそれは致し方ないと護人も思う。
人柄は大事で、今回の兄妹はそこはクリアに至ったそう。
「2人ですか……まぁ民泊受け入れの最初の人数としては、無難な人数なのかもですね。こちらも農作業があるんで、長い時間は無理ですが。
用件は分かりました、短い時間で良ければ今から窺います」
多少の時間は取らせるが、謝礼は出すからと電話の向こうの自治会長。それを近くで聞いていた姫香が、何か手伝える事あるかなと言って来た。
自治会長の依頼では、一緒に軽くダンジョンに潜って、応募者の腕試しをして欲しいそう。探索歴もランクも上の者相手に、こちらが試験官役など烏滸がましい気も。
聞けば向こうの兄妹は、探索者ランクD認定との事。『探索者協会』に登録した者は、最初にランクと言うモノを与えられる。
こちらは、登録した時点では皆が揃ってF認定である。それがダンジョン攻略や魔石の売買など、貢献度によってランクは徐々に上がって行く仕組み。
ランクの上昇に伴い、探索者としての地位や協会からの恩恵も上昇して行く。聞くところによると、ランク上位者でないと入れないダンジョンもあるそうだ。
護人はもちろんFランク、ペーペーの初心探索者である。だから試験官なんて、偉そうな立場の役目などこなすのも筋違いではある。
まぁ今回のパターンは、日馬桜町の生活安全の向上が目的。一応は自治会の役員でもある、自分が適任なのも間違いは無いだろう。
そもそも探索者と『探索者協会』の成り立ちも、実は複雑な経緯が存在しており。かれこれ“大変動”まで、その生い立ちは遡るそうな。
“大変動”からの1~2年目は、しっかりと行政がダンジョン管理を行っていた。何とか生き残れた自衛隊や警察官、消防団などの公務員を取りまとめ。
危機的状況の回避から、オーバーフローの対処まで様々な業務を執り行なっていた。犠牲者はそれなりに出たけど、そこは装備や訓練の行き届いた、マンパワーを備えた機関である。
復興に足りるほどの、ある程度の秩序は取り戻せていのだが。それも3年目を迎える頃には、徐々に崩壊して行く事に。
理由の1つは、ダンジョンの数がこの数年で倍近くに増殖して行った事実に起因する。それから探索者の行政離れ、これも痛手だった。
いや、この時には探索者と言う名前も実は生まれては無かった。もちろん協会も同じく、行政によるダンジョン管理以外は、この危険エリアに好んで入る物好きはいなかったのだ。
ところが皮肉にも、ダンジョンから入手が可能な品々が彼らの行政離れに火をつけた。これらは高額に売買が可能で、モノによっては数千万の値が付く事も。
危険を冒して入手した品々は、基本が行政管理で自分たちには回って来ない。そんな規則では、リスクに見合わないと思う者も出始めるのは当然かも。
それに合わせて、行政らしい毎日出動の重労働の嵐である。辞めていった者達を批難するのも、そこはお門違いといった所か。
ただし、それ程に3年目はオーバーフローが頻発したのだった。そんな波乱の時期に、已む無く発足したのが各地域の自警団である。
苦肉の策だったけれど、これが各市町が生き延びるのに一役買ったのも事実。そして4年目に、ようやく『探索者支援協会』の発足、そして探索者と言う言葉が生まれた。
地域予算での支援により、積極的にダンジョン攻略をしてくれるチームの募集。もちろん入手したアイテム類は、獲得したチームの物である。
この方法が主流になり、何とか水際でダンジョン危機を回避するに至った次第。
もちろん現在も、万全の体制とは言い難いのは事実である。行政管理のダンジョン探索チームも、少なくなりはしたけど未だに存在している。
“大変動”から5年が経過しているが、探索者のキャリアに1~2年組が多いのはそのせい。ちなみに『白桜』は3年のキャリアだけど、団員のレベルは余り高くない。
地元の間引き専門で、積極的に探索に赴かないのが理由である。お陰で団員の平均レベルは10で、一番高い細見団長でレベル13なのだそう。
スキル所持者も、残念ながら団員の半分以下に留まっている感じ。探索者の練度で言うと、1年本気でダンジョンに潜っていた探索者チームに軽く負ける。
まぁ当然ではある、彼らは全員他に本職を持っているのだから。自衛団とはそういうモノで、ちなみに他の地区も概ねそんな感じらしい。
だからこそ自治会での、考え抜いての専属の探索者補強には違いなく。知恵を絞った結果の、探索者チームの民泊受け入れとなった次第。
そんな応募者、林田兄妹の実力は如何に?
「これが俺と妹の、最新の鑑定の書の結果だ……ちょっと古いけど、まぁ実力は分かるだろ。アンタがこの町で、唯一活躍してる探索者かい?
あんまり強そうに見えないけど、実績とレベルは幾つ位だい?」
「私たちは探索が本業じゃないから、その質問は無意味だと思うわ。ランクもFだし、探索したダンジョンもたったの2つだし。
でも護人叔父さんを甘く見ない事ね、実際に強いし!」
何故か代わりに質問に答える姫香、自信満々で挑発的ですらある。実際に強いのはハスキー軍団だけどなとは、護人の偽らざる本心。
姫香はそうは思っていない様子、いつも自治会を行う日馬桜町の集会所の一室は早くもカオス状態。もはや面会と言うより、どっちのチームが力が上かの意地の張り合いみたいな雰囲気だったり。
一緒に席についている、峰岸自治会長はため息ひとつ。そこは護人も同じなのだが、相手の林田兄は思ったより大人だった。
履歴書では19歳との事だが、よほど苦労をしてきたのかも。反対に、妹の美玖は少し怯えた表情で姫香を眺めている。
17歳との事だが、15歳の姫香より幼く感じる。兄の方が『槍術』のスキルを、妹が『探知』のスキルを所持しているそう。
他に身寄りは無いらしい、今の時代では珍しくも無いけど。
だからこその民泊の応募なのかも、そこら辺の詳しい事情は不明だが。ただし、前のパーティとの経緯を聞いた時点で、護人と自治会長は察するモノが。
どうも以前所属していたチームは、探索中の不仲で仲間割れを起こしたそう。探索者チームも、人員の欠損や仲間同士での諍い、利益分配で揉めたりなど解散のネタには事欠かない。
ウチは絶対に解散なんてしないけどねと、なおも張り合う姫香は置いといて。林田兄妹の最深到達階層は7層で、それなりの腕はありそうだ。
特に林田兄の方は、細身に見えるが筋肉の付きも良さそう。精悍で良く見ればハンサムなのだが、姫香はそこら辺の興味は全く無さげ。
そもそも姫香を連れて行く気は、当初護人には全く無かった。それがどうしてもついて来るとの勢いに押され、まぁダンジョンに潜るならと同伴を許可した次第。
そして駐車場の木陰には、レイジーとツグミも待機している。この後危険な場所に向かうのだ、護衛は万全であるに越した事は無い。
そんな感じで、後は探索での実力査定を残すのみ。
――慣れない業務を押し付けられ、ヤレヤレな気分の護人だった。
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