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1年目の春~夏の件
夏休みに向けて子供達が計画を立て始める件
しおりを挟む香多奈は今日は学校だが、もうすぐ夏休みだと楽しそうに話していた。毎日が自宅学習or野良仕事のお手伝いの姫香も、夏休みと言う響きには共感するモノがあるみたい。
昨日の夜は、姉妹で夏休みの遊びの計画を色々と話し合っていた。そのせいで、月曜の今日にうっかり寝過ごしそうになって、朝はバタバタしてしまった。
7月の初めには2回目の青空市があって、それで結構な儲けを叩き出す事が出来た。そして畑は今年も順調、更に昨日は自治会依頼の“配送センターダンジョン”の間引きも無事にこなせた。
良い感じに物事は進んでいる、そして今日は各所に報告に回ってその件の後始末だ。特に協会からは、紗良と姫香を連れて遊びに来てくれと通知があった。
何か言伝があるらしく、それがどうも姉妹宛てみたい。自治会からは特に連絡は無かったので、そっち方面とは違うみたい。
7月の青空市では、随分と来栖家チームの活動が町内に知れ渡っていた気も。自治会長の思惑に、まんまと嵌まっている気がしないでも無い護人である。
でもまぁ、嫌々探索に赴くよりは、地域貢献と割り切って善行を施す方が気分的に良いのは確か。子供たちの問題さえ無ければ、それでも良かったがやはり探索には危険が付きまとう。
自治会に対しての報告は、動画をアップするのでチェックをお願いで良い筈。自警団に対しても同じく、大抵の情報が動画を見れば分かるのは楽で助かる。
そういう意味では、探索者の報告義務はお役所仕事とはかけ離れていて気が楽だ。ただし、情報の提示だけは他のチームの生存率にも関わるので、協会でも煩く言われている。
他は割とルーズで、実は魔石やポーションの販売も自由である。まぁ、探索者ランクを上げるのに必要なので、なるべく売るようには言われてる。
要するに、探索をしっかり頑張って生還する事が、主に求められる業務内容な訳だ。その点、チーム『日馬割』は結構優秀だと思う次第。
そんな事を考えながら、護人は末妹の送り届けを終えた後に行動に移す。その前に植松夫婦の自宅へと寄って、今週の野良仕事の予定を軽く話し合う。
畑ではトマトやキュウリ、それからトウモロコシも立派に成長を遂げている。7月の終わり頃から順次収穫も可能で、出荷してしまえば収入源になる。
念入りに仕事時間の打ち合わせをして、それから車を飛ばして家へと戻ってみると。リビングで、ダンジョン産のアイテムを整理していた姉妹が手を止めて何かを見詰めていた。
どうやら宝石箱に詰まった、宝石類が物凄くお気に入りらしい。箱自体もかなり豪華なのだが、箱の中にも加工されていない裸の宝石がゴロゴロ入っていた。
逆に指輪やイヤリングに加工済みの奴は、3つ程度と数は少な目。
「目の毒だよねぇ、姫香ちゃん……これって売ったら幾らするんだろう、原石だとしてもかなりするよねぇ?
指輪とかに加工して貰うにも、今は職人さんとかいるのかなぁ?」
「どうだろ、市内とかにはいるんじゃないかな? 綺麗な色だよね、ピンクとかブルーとか……紗良姉さんは、どの色の宝石が好き?」
やっぱりピンクかなぁと、夢見る乙女モードの2人の会話はなおも続く。それから護人の存在に気付くと、慌てて戦利品の仕分けの続きを始める。
協会に売りに行く魔石の仕分けは、もう終わってるよと誤魔化し模様の姫香の言葉に。日用品や文房具類は、家で使いますねと紗良の追従。
別に責めるつもりのない護人は、ゆっくりやってくれと言葉を掛ける。
「新品の炊飯器とかどうしよう、護人叔父さん? あと、ビールとカップ麺がケースであるよ。それからフライパンと万年筆に、眼鏡と腕時計とかかな……この辺は売るにしても、価値が分からないや。
誰か知ってる人、身近にいないかなぁ?」
「腕時計とか、高級な奴は本当に高いからなぁ……うちで使わないのは、全部売って構わないよ。ビールとカップ麺のケースも、うちで消費しないなら売りで。
炊飯器はどうかな、家のはかなり古かったような……」
確かに随分と型遅れの品だが、今は新商品がポンポン出てくる便利な時代では無い。ちゃんと作動すれば御の字って感じ、それまでは大抵の家庭は使い続ける生活様式になっている。
ビールも唯一の成人である護人は嗜まないし、カップ麺も右に同じ。紗良が居候を始めて、インスタント食品の出番はほぼ無くなってしまっていた。
ただし、売りに出せば今は逆に高値で売れる筈。
姫香の独断で、それじゃあ炊飯器は残して他は全部売るねで分配は呆気なく決定した。ティッシュ系の補充は助かるよねぇと、紗良は主婦染みたコメントをこぼす。
それから天井近くの住処にいた妖精ちゃんに頼んで、魔法の品らしきアイテムの見繕い作業。一方的な意思の疎通でも、怪しい品を指さして貰うだけで随分と助かるのだ。
そしてビックリ、何故か包丁と照明器具を1つずつ指差すチビ妖精。
「えっ、包丁は何となく分かるけど……この照明器具、古臭い型だし本当に魔法のアイテムなのかなぁ? まぁ、鑑定してみれば分かるしいっか。
紗良姉さん、鑑定の書は足りるかな?」
「今回は回収した品数も多いしねぇ……取り敢えずは、前回の余りも合わせて怪しい奴に全部使っちゃおうか。
妖精ちゃんの見立てだもん、そこまで間違ってはいない筈」
「了解……それでいいかな、護人叔父さん?」
護人は勿論構わなかったので、軽く了承のサインを出す。ただし、香多奈抜きで話を進めると、末妹が拗ねるかも知れない。
何だかんだと言って、家族内では結構甘やかされている香多奈である。結果、学校帰りの末妹を車で拾って、協会支部へと皆で向かう計画で決定。
そんな訳で、お昼過ぎまで後は通常モードで運行する事に。
学校での香多奈は、前日の探索の大成功を受けて絶好調だった。それはひょっとして、魔素での変質が関係しているのかも知れないけど。
実際、他の子供達に較べると運動神経は頭一つ以上抜け出してしまっていた。それを上手く誤魔化すのも、なかなかに大変だったけど。
頭の回転はそんなに変わらないのは、ちょっと残念かも。
青空市の出来事で、キヨとリンカには家族の探索に参加していた事がバレてしまっていたのだが。何とか秘密にして貰う事を約束して貰って、それ以降も仲良く一緒には遊んでいる。
付き合いに変化が無い事は喜ばしいけど、その後彼女たちも探索動画に嵌まってしまい。内緒仲間で、色々と冒険活劇のようなお喋りを披露する事を迫られたりして。
それはそれで、なかなか大変な香多奈である。
その日も昼休みに、昨日の最新の冒険話を2人の観衆相手に披露して。放課後も遊ぼうよとのリンカの誘いを、ゴメンねと泣く泣く断って。
コロ助を連れてご近所の植松夫婦の家へ、そこで電話を借りて自宅へ迎えに来てのコール。朝に決めた通りに、その後は協会へと報告へ向かう予定。
老夫婦と雑談を交わしながら、家族の到来を待つ。
「カナちゃんも忙しいねぇ、もうすぐ夏休みなのにやる事がいっぱいあって。青空市も忙しかったそうだし、遊ぶ暇もないんじゃないかい?
護人ちゃんに、どっか遊びに連れてってもらいなよ?」
「うん、今から計画立てるから大丈夫……キャンプとかなら、叔父さんも喜んで連れてってくれると思うし」
青空市で遊び倒していたことは、間違っても自分から暴露しない香多奈である。この夫婦からはカナと呼ばれている末妹は、ここでは可愛くて働き者の孫の立場なのである。
たまに仕事をサボるのは、ご愛敬と言うか友達優先した結果と言うか。差し出された麦茶とお茶請けを楽しみながら、縁側から見渡せる田舎の景色を堪能して。
入道雲が、すっかり夏の到来を告げていた。
日馬桜町の協会支部は、既にクーラーを効かして万全の夏対策である。山の上は麓よりは涼しいとは言え、直射日光が当たる建物の内側の気温はどこも同じ。
古い設備ながら、その辺の空調設備はしっかりとしているのだろう。ひんやりした空気が、来栖家一同を出迎えてくれる。そして夏仕様のシャツを着た、仁志支部長が笑顔で挨拶して来た。
いつものテーブルに案内され、冷たいお茶を能見さんが運んで来てくれる。
「いやいや、難易度もC級クラスと高い高いダンジョンなので、少し心配していたんですが……8層までの間引きをして頂いたそうで、本当に有り難うございます。
今回は動画の編集依頼と、魔石も売って頂けるんでしょうか? その後、こちらからもお話ししたい事が少々ございまして。
少しお時間頂ければ、幸いなんですが」
「電話では、紗良と姫香に話があるとの事でしたけど。まぁ、取り敢えずは先に用件を済ませてしまいましょうか。紗良、手続き頼む」
「あのね、今度の探索は凄かったんだから! 宝の地図を見付けて、それから秘密の宝部屋を発見してお宝とかザックザクだったの!
ここに持って来たのもあるよね、紗良お姉ちゃん!?」
大人同士の話に割り込んで、能見さんに自慢話を始める香多奈。姫香が頭をはたいて窘めるが、能見さんどころか仁志もそれには興味深そうな視線を送っている。
今日売る分の魔石&ポーションと共に、動画のデータを差し出しながら。紗良は一応持って来たよと、魔法の鞄を漁り始める。
そして出て来た、真珠の首飾りやルビーの指輪。
いかにも高価そうな装飾品だが、妖精ちゃんの話だと魔法の品らしい。それから金属製のプレートは、念入りに隠されていただけあって、お宝感が満載である。
仁志支部長も、これらの品々には興奮を隠し切れない模様。能見さんも同様だが、未練たらたらの顔付きで魔石の換金に奥へと引っ込んで行った。
香多奈の自慢話はなおも続き、結局は姉の姫香に黙らされるパターンに。
仁志支部長が一番気を惹かれたのは、やはり金属製のプレートだった。恐らく鑑定の書の上位版では無いかとの推測、だとしたら数百万の価値になるそうな。
盛り上がる子供達に、今回の査定額を告げに戻る能見さん。全部合わせて25万以上と、今回も魔石(中)4個が効いたみたい。
ちなみに魔石(大)は、念の為売らずに取っておく事に。
アレも買取価格表では50万円とか値段が付いていたので、一つで相当な財産ではある。ただし妖精ちゃんの指導で、今後魔石の他の使い方を勉強する事になった来栖家チームである。
その為にも、色の付いた高価な魔石は取り置く事に決定した次第。
査定額を受け取って、2日後に動画の編集作業の終了との確約を行って。ゴーレムの落とした鉱石は、企業が買い取り希望の依頼がありますとの助言を貰って。
家族間の簡単な話し合いで、それもついでに売ってしまう事に。この手の依頼は、定期的に協会にクエ依頼の形式で張り出されるらしい。
それで稼ぐつもりなら、チェックもお願いしますと能見さん。
「いえ、来栖家チーム『日馬割』の活動スタンスは私共も存じておりますけど。それとは別に、登録して頂いております探索者の勉強会や、能力向上も協会の業務の内でして。
それで2週間後の7月末の日程で、青少年を対象とした研修を広島市で行う事が決まりまして。2泊3日なんですが、紗良さんと姫香さんにもぜひ参加頂きたく。
強制では無いのですが、宿泊代や教習代金は無料となっております」
「ああっ、たしか青空市でそんな話があるっての、聞いた気がするかなぁ?」
「えっ、お金出して貰って、泊まり掛けで広島まで遊びに行くの……いいなぁ、お姉ちゃん達だけズルいっ!」
途端に騒ぎ出す末妹、その反対に姫香は渋い表情に。どうも泊まり掛けの旅行に気乗りしない様子、1人で行けと言われたら速攻で断っていただろうけど。
紗良も一緒なら、一考の余地はあると考えたのが運の尽きで。何と保護者の護人が超前向きで、夏休みらしいイベントじゃないかと2人に勧める始末。
田舎で燻っているより、都会を見学してらっしゃいと。
そして可能なら、同年代の友達を作って来て欲しいと勝手に願う護人。保護者としては当然だが、見聞を広めて欲しいと思っていた時にこのチャンスである。
紗良は別段、都会への研修会には抵抗はない様子。元々勉強は好きな娘なのだ、ただし今の都会って危なくは無いんですかと訊ねてはいるけど。
“大変動”以降の都会は、確かに無法地帯の印象も強いのだ。
「その辺は大丈夫ですよ、まぁ市内のテナントの半分以上が空き家で、世紀末の印象は間違って無いですけど。協会も大きい建物ありますし、野良はほぼいません。
何しろ探索者チームも、有名勢を揃えてますからね!」
「う~ん、強いチームは見てみたい気もするけど、特に街を見て回りたいとかは無いなぁ。でも紗良姉さんだけを、旅行に送り出すのも怖いかなぁ?」
「私もそれは怖いよ……姫香ちゃん、お願いだから一緒に行こう?」
――こうして、姉妹の夏の研修会への参加が決まったのだった。
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