田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件

マルルン

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1年目の春~夏の件

ようやく香多奈が夏休みに突入する件

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 鑑定した品について話し合っている内に、時間はお昼になった。昼食を食べてから、来栖家は家の中の事をしたり畑の手入れをしたり。
 そんな時間を過ごしていると、ようやく孝明先生が診察に来てくれた。相変わらずのオンボロ白バンが、来栖邸の正面に駐車されてのご登場。
 ところが肝心の患者たちが、元気に逃げ去って行くと言う事態に。

「こらー、コロ助っ……いい子だから、大人しく診察を受けなさい!」
「あれだけ元気なら、心配ない気もするがのぅ……取り敢えずは牛とヤギを診て来るから、その間に捕まえておいておくれ、お嬢ちゃん」

 戦闘では怖気付く事のない勇敢なハスキー軍団も、獣医の診察はとっても怖い様子。孝明先生が家畜の定期診断を終えた頃に、ようやく末妹が苦労してコロ助の捕縛に成功。
 夏の陽気に汗だくの香多奈……それでも孝明先生が、外傷も内傷も無しとの診察結果を告げると満面の笑みに。良かったねぇと、もこふわの相棒に抱き着く始末。

 ちなみにツグミは、当の昔に診察終了してオッケーを貰い済み。そこに姫香が近付いて来て、先生お茶でも飲んで行ってよと家の中へと誘う構え。
 孝明先生もこの後の予定は立て込んでいない様子、お言葉に甘えるよと気楽に応じてくれた。それから動物の夏の暑さ対策を、子供たちにろんじ始める。

 そんなご老体は、しっかりとした足取りで縁側からリビングへと入って行く。そこに紗良が、お盆に冷えたお茶と漬け物を載せて差し出して来た。
 それからは、世間話を交えての座談会に突入。

「たった今、護人叔父さんが畑に夏野菜を収穫しに行ってるから。いっぱい持って帰ってね、孝明先生!」
「先生、茶々丸がどんな囲いを頑丈にしても、簡単に脱走しちゃうの! レイジー達がすぐ捕まえてくれるけど、あれって病気なんじゃないかなぁ?」

 そんな病気は無いから安心しなさいと、気さくな先生は小学生の突拍子もない話にも付き合ってくれる。それからこの漬け物は出来がいいねと、新入居人の紗良にも優しい対応。
 姫香には、家畜に対しての難しい指示出しを結構念入りに話してくれた。寒さも厄介だが、動物は暑さの対策もきちんと行わないと病気になってしまうのだ。

 特に水やりを怠ると、熱中症の確率がグンと上がってしまう。それを聞いた香多奈が、ハスキー軍団のプールを出してあげようと盛り上がっている。
 最近は雨降りの日も少なく、夕方過ぎまで気温の上昇は収まる気配が無い。ハスキー達も日中は日陰で休んでいる率も高くなっていて、プールは良い案だねと姫香も賛成の素振り。

 ハスキー達も家族の一員なので、快適に過ごして欲しい思いは当然だ。そんな話をしていると、野菜の山を抱えた護人が戻って来た。
 それから採れたて野菜の譲渡から、世間話や近況報告などで盛り上がる。気が付けば結構な時間が経っていて、慌てて帰り支度をする孝明先生。

 先生には毎月、定期的な家畜の検診を頼んでいるので、そこまで名残を惜しむ事も無く。バイバイまたねと、子供たちもお気楽に送り出してその日はお別れ。
 何にしろ、コロ助とツグミが元気と分かって本当に良かった。



 その翌日は、香多奈はコロ助を連れて真面目に小学校へと登校して行った。とは言っても、いつもの様に護人が白バンで送り届けたのだが。
 その日も朝から晴れていて、夏模様の天候で午後から気温も上がりそう。紗良と姫香は、ぼちぼち週末のお泊まり旅行の準備を始めている。

 その次の日は、香多奈の学校の終業式だった。つまりは夏休みの始まりで、末妹は朝からウキウキ模様。護人に送って貰いながら、早くも休みの計画を口にしている。
 送迎から戻った護人は、家の中庭で自慢のキャンプ道具を陰干しする。ついでに防災用品のチェックや、農機具のメンテナンスと割と大忙しの時間を過ごす。

 午後からは自治会の集まりもあるし、末妹と違って本当に暇な時間が無い。一方の香多奈は、順調に終業式を終えて同級生と夏休みの予定について話し合っていた。
 それから叔父が迎えに来るまで、植松の爺婆の家にお邪魔する事に。そこでも存分に構って貰って、夏休みの予定を自慢げに披露ひろうする少女。

 それから姉たちが、広島の市内に遊びに行く事への不満もぶちまける。自分を仲間外れに旅行なんて、とんでもない事だとの理論らしい。
 その埋め合わせは、奴休み中に絶対にして貰わないと!

「姫香ちゃんからは、探索のお勉強会じゃって聞いちょるけどなぁ……香多奈ちゃんは、もう少し大きゅうなるまで我慢せんとじゃねぇ。
 心配せんでも、お姉ちゃんが帰ったらいっぱい遊んでくれるいね」
「そうかなぁ……お姉ちゃん達、都会の女になって戻って来たらどうしよう? こんな田舎じゃ暮らして行けないって、言い出したりしないかな?」
「そりゃあ心配ないで、カナちゃん……今じゃ都会は、食料不足で仕事もろくに無い、えらい住み難い町に成り下がっちょるからな。
 田舎の方が、逆に仕事も食べ物も選び放題じゃわい」

 田舎にも限度があるけどねと、香多奈は心の中でお爺ちゃんの言葉を訂正する。でもまぁ、その言葉は半分以上が正解であるのは確か。
 しぼりたての牛乳や新鮮な卵や野菜、それがどれだけ贅沢な事かは少女だって知っている。それでも姉が自分を残して旅行に出るストレスは、幼い心に予想以上に負荷を掛けていた。
 そんな訳で、ついつい爺婆に憎まれ口を叩いてしまう香多奈なのだった。


 お昼を爺婆の家でお呼ばれして、結構時間が経ってからようやく護人が迎えに来てくれた。午後から自治会の集まりがあって、割とバタバタしていたらしい。
 それから2人と2匹で探索者協会へ、魔石の販売と自宅の敷地内のダンジョン間引き報告をするためだ。依頼は受けてはいない案件だが、情報は収束させるべきなのは当然。
 それから恒例の動画制作の依頼、何やかんやで1時間程度は滞在の予定。

「今回はまた、大変な目に遭ったみたいですね、来栖さん。トラップ型モンスターにレア種との遭遇ですか、失礼な言い方ですがよくご無事で」
「いやぁ、本当に無事で済んで良かったと思ってますよ。ハスキー達の献身のお陰ですね、運も多少はあったんでしょうが。
 レア種って、やはり大層な存在なんですか?」
「動画を流し見での感想で恐縮ですが、初心者パーティだと全滅してても不思議では無いですよ。普段はその層にいない筈の強力なモンスターですからね、よくパニックを起こさず対処出来たものだと感心します。
 来栖さんのリーダーシップのお陰かな、チームワークはA級の域ですね」

 ひたすら持ち上げる仁志にしだが、護人は自身をそんな大層な人物では無いと知っている。香多奈も叔父さんは凄かったと褒めてくれて、そこはちょっと嬉しかったけど。
 ドロップも良かったよと、自慢モードの少女の言葉に。確かにこれはひと財産ですねと、能見さんも感心しながら動画チェックに参加中。

 特にレア種のドロップ品に、魔剣や魔法のランプが凄い価値がありそうとの事。正確に鑑定してみないと分からないけど、売ればどれも数百万の値打ちになる可能性が浮上して来た。
 それを聞いて素直に驚く護人と、その額に興奮し始める香多奈。しかも今回も、スキル書に加えてオーブ珠も入手してるのだ。

 確かに、我が家のドロップ運は平均より高いのかも知れない。とか考えていると、話題はいつしか姉妹の参加する研修会に。
 協会が企画した初の青少年事業、彼ら田舎の協会職員も気になる様子。

「広島県で唯一のA級探索者が、幸いにも講師を受けてくれる事になりまして。建前は初心探索者の事故率軽減のための講習ですが、良い刺激にもなると思いますよ。
 ちなみにA級探索者のお方のスペックですが、レベル38のスキル所有数12と言う、所謂いわゆる化け物です。称号に【皇帝】と出ているので、二つ名でもそう呼ばれていますね。
 一般的には、仲間の探索者は畏敬いけいの念を込めて“化け物”と呼んでる人物です」
「レベル38に、スキル所有が12個……!? 本当に化け物ですね、広島市にはそんな探索者がゴロゴロいるんですか」

 それはお姉ちゃんも大変だと香多奈も驚いてるけど、別に戦いに行くわけではない。仁志の補足では、隣の海田市の自衛隊のお陰で、市内には探索歴の長いチームが多いそう。
 そのA級ランクの探索者も、元自衛官って経歴みたい。この町の探索者不足なんて事情は、広島市には無縁で協会の活動も活発なのだそう。

 その熱量の違いとかも、姉妹には感じて来て欲しいですねと能見さん。私も行きたいなぁと、愚痴る香多奈にも優しい笑顔の彼女である。
 今は無理をしないで、将来は立派な探索者になってねと、当たりさわりのないアドバイスを与えるに留めてくれてるのはさすが。

 連れ回している身でアレだが、末妹には探索者とは無縁で幸せになって欲しい。今は我がままに付き合うと言うか振り回されているが、いつかはキッパリ止めさせたいと護人は思ってる。
 ――或いは香多奈の方から、探索業に飽きてくれるのが望ましいのだが。



 紗良と姫香も、無事に夕方前には買い物から戻って来てくれて一安心。車の運転も何事も無かったそうで、ただし助手席に乗っていた紗良は、肝が冷えたと青白い顔で呟いていたり。
 とにかく無事で良かった、そして隣町での買い物もとどこおりなく済んだそう。臨時のお小遣いありがとうと、護人に報告がてらの言葉を掛ける姉妹である。

 ただし旅行の準備は万端とは言えず、探索用のアレコレも揃えないといけない。向こうで実習訓練があるそうなのだが、姫香の相棒のツグミはさすがに連れて行けないのだ。
 そんな訳で、自然と心配の度合いも上がってしまう護人である。他の新人とチームを組んで、ダンジョンに潜る事案も含めて心配は尽きない。

 夕食の準備を進めながら話し合った結果、そこはアイテムに頼る事に。ツグミがダメなら、そこはコンパクトな用心棒に頼るほかはない。
 そんな訳で、旅のお供に魔人ちゃんの再登場!

「ミケくらいなら、小っちゃいし一緒に連れて行って大丈夫そうだけどなぁ……まぁ、魔人ちゃんで我慢しておこうか、香多奈がいないから言葉は通じないけど。
 向こうではボディガード頼んだよ、魔人ちゃん!」
「任せとけって言ってるけど、この子は当てにならないから……えっ、ほむらの魔剣を使わせて貰ったら、魔人ちゃんは強さが倍増するんだって。
 そう言ってるけどどうしよう、叔父さん?」
「それじゃあ一緒に持って行きなさい、大き目な透明の魔石と忘れずにセットで。魔法の鞄も使っていいからね、それからポーション類や爆破石も半分は小分けにして。
 後は何があったかな、とにかく安全確保は最優先だからね」

 それを受けて、香多奈は何故か戦いに行くテンション上昇中。お勉強に行くんだからねとの、姫香の釘差しなんかまるで聞いていない。
 向こうには凄く強い人がいるらしいよと、昼間に協会支部で聞いた話を姉たちに披露して。負けちゃダメだよと、戦う事を前提に応援する素振り。

 ツグミがいないと不安だなぁと、何故か姫香までそれに感化されて戦闘脳になる始末。それを無視して、紗良だけ夕食の支度モード全開中。
 どっちみち、ポーションの瓶への小分け作業は紗良がになう予定。後はこの前の探索で得た『力の尾羽根』と『護りの玉石』だが、やっとこさ協会で質問して使い方が判明した。

 これを装備してる防具などに縫い込めば、防御や攻撃力が上昇してくれるらしい。ハスキー軍団の装備服作りを画策している紗良には、まさに朗報である。
 そんな訳で、こちらの2点も彼女の預かり案件に。

 それから『強化の巻物』が、防具と武器用で合計3枚あるけど、これに使用する青と紫の魔石が残念ながら無い。妖精ちゃんの話では、大き目の奴を使う方が強化の幅も大きいらしい。
 って事でこれも保留に、旅行前の強化にはなり得ず。自己強化って点で言えば、魔人ちゃんが強くしている“理力”を学ぶ修行なのだが。

 こちらも時間が無いので、追々にって結論で落ち着いてしまった。妖精ちゃんサイズの魔人ちゃんは、その言葉にとても無念そう。
 小っちゃな魔石しか与えられてない時点で、既に不満を表明してるこの居候いそうろうなのだが。やたら明るくてお調子乗りな性格らしく、女王様気質の妖精ちゃんと合わせると相乗効果でとてもウザい。

 通訳の香多奈は後半グッタリしていて、ちょっと気の毒ですらある。とにかく魔人ちゃんに関しては、今後の活躍の期待は大……なのだろうか。
 後は魔法の装備品だが、持ち主不定の『兎のブローチ』を姫香が所有する事に決定。これは聴力&跳躍力が少し上がる効果で、戦闘力アップとはならないけど。

 動き回って戦うタイプの姫香には、丁度良いとも言える。それだけでは心配な護人は、自分の『熊革のマント』を旅行中貸そうかと申し出る。
 姫香は『牙の首飾り』を持っているし、平気だよとこれを固辞する。

 どちらの装備品も、腕力アップやら脚力アップの効果を持つ優秀なアイテムである。2個も持つのは贅沢過ぎると、姫香の考えも良く分かる。
 そもそも姫香のスキル『身体強化』も、モロにそっち系である。暇な時間には『圧縮』スキルと共々、結構練習している真面目な少女。
 今では『圧縮』も、随分とスムーズに使えるようになって来た。




 ――それがまだ目に見ぬ敵に通用するか、気になる年頃の姫香だった。







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