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1年目の春~夏の件
2組目の民泊希望者が唐突に出現する件
しおりを挟むその依頼もやっぱり急で、時間は昼を少し過ぎた頃。紗良と姫香が午前中に研修で出てから、香多奈と手分けして護人は家畜と田畑の世話を一通りこなし終えた。
それからようやく落ち着いて、2人で昼食を食べ終わった所。お姉ちゃん達がいないと寂しいねぇと、ちっとも寂しそうでない末妹の通常通りのお喋り中に。
電話の主は、毎度の自治会長の峰岸だった。嫌な予感はビンビンに感じるモノの、それを理由に一方的に電話を切る訳にも行かない。
嫌々ながらも用件を尋ねたら、何と2組目の民泊希望者が募集に集まってくれたらしい。今回は3名の男女で、例によって試験官役を頼みたいとのお願いだそう。
つまりは軽くダンジョンに潜って、腕前を調べて欲しいそうな。それは前回もやったので、今度の依頼も吝かでは無いのだけれど。
年少の香多奈を1人、家に残して仕事に出るのは多少の抵抗が。
かと言って、探索現場に連れて行くのも論外である。その場にいれば、少女は十中八九一緒にダンジョンに潜ると言って聞かないだろう。
それを阻止するには、やはり家に置いて行くしかない。可哀想ではあるけど、こっちも急な仕事だし致し方が無い。
一応今から向かうと自治会長に告げ、電話を切った護人は事情を末妹に告げてみる。案の定、香多奈は一緒に行くとのお強請りモード。
困った護人は、夕食に良い所に連れて行くからと妥協案を提示する。そんな感じで、何とか10分掛けて宥めすかして説得に成功した。
そして白バンにレイジーを乗せ、急いで麓に降りて行く。
「おうっ、護人……急に済まなかったのぅ、この前と同じで一応日給は出るようにしとくから。取り敢えず顔合わせが先かな、部屋の中で待っとるから。
探索歴は2年で、割とベテランだそうだ」
「そうですか……性格が良さそうなら、後は探索の腕前だけですね。合格したら、どこに入居して貰う予定なんですか、自治会長?」
この町の募集は民泊と銘打ってはいるが、実際は空き家への入居の斡旋である。それでも食材を定期的に無料提供したりと、サービスは民泊に寄せる努力はしているみたい。
林田兄妹の時には、その辺の規定で揉めなかったのは有り難い。何しろ町側としても必死なのだ、多少の脚色で広く探索者に知って欲しいと言う願望が。
とにかく自治会長の峯岸としては、この2組目も何とか獲得したい様子。そして護人の問い掛けには、今の所は修繕済みの空き家は2つしか無いそうな。
1つ目は来栖邸の近くの、紗良が大半の修繕を請け負った実家の空き家。それから、麓の林田兄妹の借りてる家屋の近くに1軒ほど。
ただしこちらは状態が悪く、壁や屋根がかなり老朽化している。もっとも紗良の生家の4軒屋も、ライフラインが不安定と言うマイナスが存在している。
自治会長の反応から、今回の募集者の経歴や性格に問題はない様子。後は護人が腕前をチェックして、向こうが空き家を気に入ってくれるかどうかの問題だ。
そんな訳で、まずは面談からの聞き取り調査。護人としても、家に残した香多奈が心配なのであまり時間を掛けたくはない。
集会所に借りた部屋に入って、早速その希望者チームとご対面してみる。3人組との事だが、何と女性が2人に男性1人と言う組合わせだった。
「どうも、この町で探索者をやってる来栖護人と申します。本業は農家で、敷地内に3つもダンジョンがある対策で免許を取った感じですね。
ええっと、神崎さんがお2人に、男性の方が森下さんですか」
「ええ、初めまして……私達は姉妹ですけど、私とこの森下が婚姻関係にあります。以前は広島の北の方で、チームを組んで活動してたんですが……そのチームが消滅して、新しい活動場所を探す事になって。
それでこの町の住居無料の募集を見付けて、応募した感じですね」
などと流暢にお喋りを開始したのが神崎姉の美亜だった。年齢は32歳と履歴書に書かれていて、護人より年下らしい。
そんな彼女は、隣に座っている森下卓海と言う男性と、既に結婚しているとの事。ちなみに旦那の方が30歳と、2歳年下になるみたい。
そして妹は恋歌と言うそうで、28歳とチームで一番若い。
「住居無料の代わりに、ダンジョンの間引きや野良門イスターの相手が求められるって話を聞きましたけど。
どの程度の頻度なんでしょう、さすがに3人チームだと手強い敵は不安なので」
「他の町から“魔境”って呼ばれてるにしては、割と長閑な印象ですね、この町って。実はこの前の青空市に寄ったのがきっかけで、この町の雰囲気を気に入っちゃって。
それで応募に至った訳なんですが……」
労働条件を気にする発言をしたのは、最年少の神崎恋歌だった。姉と同じく気の強そうな印象で、野外活動が得意そうな活発な雰囲気がある。
履歴書を眺めながら、それに応じる護人。その頃には自治会長も戻って来て、隣に腰掛けて質疑応答にてきぱきと応えてくれている。
青空市に参加したと口にしたのは、唯一の男性の森下卓海だった。何と彼がこの町を気に入って、条件次第なら移住しようと姉妹を誘ったらしい。
町の住民としては素直に嬉しいが、他の町からは“魔境”と呼ばれる事実を知って、護人は少々愕然としてしまった。『白桜』を始めとする自警団が実害を抑え込んでいる努力は、その呼び名には反映していない模様。
まぁ、確かにダンジョン数が断トツに多い事実は衝撃は強いかも。
「確かに山に入れば野良モンスターとの遭遇率は上がりますが、町中は至って平和ですよ。オーバフローも滅多に起きませんし、探索者の過重労働も致しません。
私のチームも、現在は月に2度のペースでしか潜ってませんから」
「護人の所は特殊でな……自前の農地を持っとるし、探索も家族で潜ってるから無理はさせられんのじゃよ。町で唯一の地元探索者じゃし、こういった探索関係の町事業には参加して貰っちょる訳ですわ。
皆さんもこの町への移住が決まったら、護人に頼って下さって結構ですので」
などと勝手に決められても困るが、探索業がブラックで無い事は確か。林田兄妹からも今の所は仕事内容に対するクレームは無いし、彼らも上手く町に溶け込めている。
彼らは家の近い峰岸自治会長に、良く畑作業に関するノウハウを聞き出している。探索者としての腕前はイマイチながらも、町の一員としては評価出来る。
彼らも探索歴は2年らしいが、以前のチームが壊滅した理由はやはり人間関係だったらしい。報酬や性格の不一致で揉める事が多くなり、挙句の果てに探索中の事故に発展して。
そのせいで森下は、現在は軽く療養中らしい。激しい運動は禁止との事なので、この後のダンジョン探索試験はどうしようかと護人は悩む。
ただし向こうは、付いて行く位なら出来ると同行を願い出る素振り。
「元々僕は、ヒーラーの立ち位置ですからね……それから『感覚強化』で、敵や罠の位置をチームに報せる役目も担ってます。
後衛なら充分、役に立てますのでお気遣いなく」
「私達3人チームだと、私だけが前衛になっちゃうね……妹の恋歌も武器はそこそこ扱えるけど、どっちかと言えば 後衛寄りの魔法使いだし。
どんな試験内容かは知らないけど、敵の強いダンジョンは現状無理かな?」
「そこまで強い敵に当てるつものは無いので、そこは安心して下さい。履歴書では全員がCランクとの事なので、それが本当か確かめる程度です。
とは言えこちらはDランクなので、足手纏いかも知れませんけど。自分も前衛に立ちますので、即席チームで軽く3層程度潜ってみましょう。
探索時間は、恐らく1時間も掛からないと思いますよ」
それを聞いて、やっと安心した表情を見せる神崎&森下チームであった。向こうも3人体制になって、初の探索みたいでその不安も分かる。
そして護人が話した感じでは、性格も全く問題は無さそうで第1試験はクリア。ただまぁ、夫婦で探索者をしてるのにはちょっと驚いてしまった。
まぁ、こちらも家族でやってる身なので強くは言えない。お互い着替えて10分後に探索開始と告げると、皆が途端に引き締まった顔つきに。
プロの探索者らしくて良いなと、護人はその辺りも高評価。
白バンの中で探索着に着替えた護人は、自治会長にお試し探索のダンジョンを確認する。今回は“駅前ダンジョン”で良いだろうとの言葉に、護人も頷きを返す。
あそこは確か、遺跡タイプでメインの敵はゴブリンだった筈。家族チームで潜った時の事を思い出しつつ、神崎&森下チームが準備を済ませて出て来るのを待つ護人。
レイジーも待ち侘びるように、いつもよりハイテンション。そして出て来た神崎姉の装備は、前衛らしくがっしりとしたモノだった。
金属の部分鎧にガントレット、手には両手で扱うタイプの大斧を持っている。勇ましい前衛には間違いなさそうで、見た目は本当に頼もしい。
それと較べると、神崎妹は革のスーツ鎧で護人と似たような装備だった。手にはボウガンを持っていて、それは森下もほぼ一緒みたい。
少なくとも火力に不足は無さそうだが、それだけで探索が上手にこなせるかはまた別の話。2年の経歴があるそうだが、それは倍の人員があっての経験値の筈。
その辺も見極めないとなと、護人は脳内で確認作業。
「お待たせ、それじゃあ行きましょ……えっ、あなたの武器ってシャベルなのっ!? 盾はまともそうだけど、それでいつも探索してるって事?」
「そうですね、特に今まで不便を感じた事は無いですけど。それからこちらのレイジーも、探索に同行させて貰います。
優秀なハンターですし、こちらの指示も理解出来てますので。後方で待ち構えて、敵を釣っての殲滅戦も試してみましょうか」
本来は、彼らの実力を見るには普段の探索パターンを見学させて貰うのが一番だ。ただし今回は、3人での探索は不慣れっぽいし、護人は彼らのボウガン所持が気になった。
あれが実用的なら、来栖家でも購入してみても良いかも知れない。その威力を知るには、やはり待ち伏せての射撃シーンを見るのが一番良いだろう。
そんな訳で、レイジーに手伝って貰ってその威力を確かめてみる事に。所有装備に驚かれても、まるで頓着しない護人に向こうも戸惑っているみたい。
慣れっこになっている護人は、チームを“駅前ダンジョン”まで先導する。しかもハスキー犬の同伴とか、向こうは完全に想定外の様子。
今から潜るダンジョンの敵情報を報告しながら、駅まで5分の道のりを皆で歩き終え。軽い準備運動は終了、これから本番のダンジョン探索である。
最初こそ戸惑いを見せていた神崎姉妹&森下チームだったが、いざ探索が始まると引き締まった表情に。そして護人とレイジーの実力が想定以上と理解してからは、明らかに肩の荷が降りたようで動きも滑らかに。
そんな前衛の神崎姉の破壊力たるや、ちょっと引く位の威力を備えていた。雑魚のゴブリンなら、何匹束になって掛かって来ても平気だろう。
履歴書にも『斧術』スキル所有と書かれていたし、信頼感は半端ない。護人の方は真面目に楯役をこなし、なるべく殲滅には加わらない構え。
飽くまでこちらは試験官役で、こちらが出しゃばる必要は全くない。そしてレイジーも、自分の立ち位置は良く分かっている様子。
ダンジョン内を駆け回りながらも、必要以上に自分で止めは差さない優秀振り。そして待ち伏せ作戦も、見事に護人の指示通りに囮役をこなしてくれた。
お陰でじっくり、彼らの使うボウガンの威力や有効性を確認する事が出来た。結果を言ってしまうと、この武器は様々なタイプが存在するらしい。
連続射撃が出来たり、威力が凄かったりとカスタムに幅があるそうな。後衛2人が使っているのは、威力は弱いが連射が可能なタイプとの話。
チーム的には、後衛が敵を弱らせて姉の美亜に始末を頼む戦闘スタイルか。堅実ではあると思うが、前衛に掛かる比重はやや重い気も。
神崎姉あってのチームには違いないが、もう少し後衛の活躍と言うか実力を見たい。そうお願いすると、神崎妹は『風砕』と言うスキル技を披露してくれた。
風系の魔法なのだろうが、これも単体の威力はなかなかのモノ。滅多に使わないのは、燃費があまり宜しくないからなのだとか。
チームの切り札として、普段は使わない戦術だとの事。
「お姉ちゃんがウチのエースだから、私達はそのサポートって立ち位置が定着してるよね。魔法は疲れるし、いざって時用に取っておく感じかな?
卓海君の『水癒』もそうだね、緊急用の奥の手って感じ」
「そうですね、本当はもう少し貢献したいんですけど……美亜との実力差が大き過ぎて、下手に横槍入れると足を引っ張る事態になっちゃうんですよ。
レベルに差は無いのに、これも適性の差なんですかね?」
護人にも分からないが、レベルとか数字に現れない実力差は確かに存在するとは思う。例えばレイジーだが、こちらとレベル差は無いのに敵う気がしない。
神崎姉の探索者への適正も、そんな感じでずば抜けているのかも。或いは所有したスキルとの相性なのかも、その辺は良く分からないけど。
とにかく実力は折紙付き、頼もしい人物が町に加わってくれそう。
――後は向こうが、新しい住まいを気に入ってくれるかどうか。
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