田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件

マルルン

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1年目の春~夏の件

初の広域ダンジョン探索に苦戦する件

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 その光景に、初めて球場に入った女子の面々はとにかく感激していた。スタジアムが丸々ダンジョン化するなんて、そんな常識外れなとの意見は横に置いといて。
 サポート役の翔馬しょうまの話だと、この全7階建てのスタジアムまるっと含めて1階層らしい。そしてワープ魔法陣を使用して移動した次の層も、全く同じ造りだとの事。
 つまり延々と、探索者はスタジアムを徘徊はいかいする運命みたい。

「まぁ、出て来る敵は少しずつ種類が増えて来るから、深い層の方が危険度は増すんだけどね。特に巨人と蛮人は、5メートル超級のモンスターだから、戦う時には気を付けないとね。
 あと、虎やライオンも出るからこっちも要注意だね!」
「えっと、タイガースとライオンズ……それからジャイアンツに、蛮族は何だろ? ダンジョンって凄いね、って事はカープもいるのかな?」
「えっとね、1層から普通にいるよ……ほら、ここからも見えるグランドがあるでしょ? 芝生に見えるけど、あれが水面なのよ。
 下手に降りると、土の下から襲撃を受けるから気を付けてね?」

 翔馬の注意に加えて、ここに何回か入った事のある怜央奈れおなも注意を伝えて来る。講座での情報提供では画像が無かったので、グランドの土が水の役割と言われてもピンと来ない面々。
 探索者たちには厄介な場所と認定されているようで、先に入ったチームの連中も誰1人グランドには入っていない。コンコースを左右に移動して、中には客席に降りてるチームもいる。

 彼らの目的は、もちろん敵の殲滅&ワープ魔法陣探しである。宝箱の設置については、さすがに広域ダンジョンとは言え浅層での報告はほとんどない。
 だとしたら深く潜りたいのが探索者の思考だが、そうするには厄介な巨人族を倒す腕が必要となって来る。実際、怜央奈の所属する若いチームも、1回の探索で1体始末するのがやっとらしい。

 それほど神経を削られる敵らしく、即席チームに関してもそれは同様な気配。与えられたお題をクリアするには、雑魚を始末するのが得策には違いない。
 そう言われた紗良は、前情報を思い出しに掛かる。

「えっと、パペット兵がメガホンとかバット持ってうろついてるんだっけ? 多分そいつ等が、敵の中じゃ一番狩りやすいのかなぁ?
 後は空中からの敵に注意って言ってたね、鷹とか燕とかワシ? だとしたら、手分けして色んな所に目を配らなきゃだね」
「確かにそうだね、紗良姉さん……それじゃあ私と陽菜ひなの前衛組はとにかく前方注意で、みっちゃんが上空注意役をお願いね。
 そんで後ろからの奇襲は、紗良姉さんと怜央奈で警戒お願い!」

 了解っスと、元気な中衛のみっちゃんの返事。他のメンバーも各々がオッケーサインを出して、さて探索のスタートである。
 姫香は進む方向の指示出しを、何度か潜った事のある怜央奈に一任する。そうすれば、ワープ魔法陣を見付けやすいとの考えである。

 気合いを入れて歩き出す女子チームと、それを温かい目で見守る同伴役の翔馬。その結果だが、何と10分以上歩き回ってまさかのボウズ。
 つまりは、戦闘回数が何とゼロ回でこれはさすがにひどい。これには案内役の怜央奈もしょんぼり、しかし先行チームが4つも5つもいれば仕方無いとも。

 これはワープ魔法陣を、早々に見付けるべきかなと話し合ってると。ようやく下へ降りる階段付近で、パペット兵の群れを発見!
 とは言っても、たった3体で武器もメガホンの雑魚である。肩慣らしだねとの姫香の言葉に、頷いた陽菜は武器を構える。

 それは背中の日本刀では無く、手甲装備のナックルのような武器だった。姫香は毎度の強化くわで、たった一撃でパペットの首を吹っ飛ばす。
 後ろからは盛り上がってる感じの声援が飛んで来て、姫香は続けて隣のメガホン持ちの頭を粉砕。陽菜も接近戦で、危なげなく相手をボコって始末し終えていた。

 サポートの必要も無い程に、最初の戦闘は危なげなかった。それを喜ぶ後衛組、転がっていた小粒の魔石を拾ってこれにて後始末も終了。
 怜央奈の話だと、スタジアムより建物内の方がワープ魔法陣は湧きやすい傾向にあるそう。とか言っている内に、一行は1階の正面ゲートに到着する。
 そしてそこに、待望のワープ魔法陣を発見!

「わっ、こんな風に床が光って見えるんだ……動画の見え方と、またちょっと違うよね? それよりそこの正面ゲートも光って見えるけど、アレは何で?」
「これはダンジョンの出口だね、どの階層にいてもここを潜ると、あっという間にダンジョンの外に脱出が出来るよ。広域ダンジョンは、割とこんな風な仕掛けが多いかな?
 だから皆も、不味いと思ったらお題クリアより人命を優先するようにね」

 姫香の疑問の言葉に、簡潔に後ろから答えを返す翔馬。さっきまではサポートが必要かと、武器を用意して構えていたのだけれど。
 この女子チーム、意外とポテンシャルは高い模様でちょっと安心。そう思い直しつつも、20匹の討伐依頼より人命優先が大事なのも確かな事実。

 無茶しないで欲しいなと、保護者として一応釘を刺しておくのを忘れない。ところがこのチーム、意外とイケイケでお題クリアは絶対にこなすと闘志が凄い。
 そして全員でワープ移動をこなして、出たのは同じ1階の正面ゲートフロア。一瞬ワープを失敗したのかと、慌てる姫香に大丈夫だよとの怜央奈の返し。

 その証拠に、いきなり新たな敵とのご対面。今度はバット持ちパペット兵が2体、これも前衛の2人で簡単に片付けて行く。
 それから移動しようと2階へ上がると、グッズショップに異変を発見する女子チーム。何と、陳列棚に幾つかの商品が置かれているではないか!

 これに興奮する野球好きの姫香、それに釣られて他の娘も家族へのお土産用にと品物を見定め始める始末。販売グッズの中には、何故か往年のカープ選手のユニフォームも混じっていた。
 護人叔父さんはどれを喜ぶかなぁと、興奮模様の姫香は選別に余念が無い。結果、自分用に背番号15の黒田投手のユニを選択。

 それから妹用に、ヤンチャが過ぎてチームを追われてしまった高橋慶彦よしひこ選手のを、護人叔父さん用にミスター赤ヘルの後の4番を背負った小早川毅彦たけひこ選手のユニフォームを選択。
 どんな選別理由なのとの紗良の質問に、姫香の爆裂トークがつむがれる。

「えっ、紗良姉さんは黒田投手の事は当然知ってるよね? メジャーからカープの恩義の為って、年俸が5分の1になろうと戻って来てくれた男気の選手だよ!
 高橋選手は、まぁヤンチャだったけどファンからは愛されていた選手でね。盗塁王を3度も取る位に俊足で、ビジターでは相手の球団が盗塁出来ないように、ふかふかの土に変えちゃう位だったんだって(本人談)!
 小早川選手は、山本浩二の後の4番打者だったんだけど、左投手が全然打てなくて晩年は自由契約にされた不遇の選手でね。この人の放出以降、カープは四半世紀も4番打者に苦しんで、リーグ優勝からも遠ざかる事になるんだよ!
 あの江川すぐるに引退を決めさせた、サヨナラ本塁打は本当に凄かったんだから!」

 姫ちゃん本当は何歳なのと、怜央奈のツッコミは当然として。あまり時間を掛けていられない面々は、適当にお土産選びを切り上げて移動する事に。
 ちなみに紗良は、姫香のお勧めでそよぎ英心えいしん選手のユニフォームを持ち帰る事に。凄い選手だったのとの問いには、実家がお寺だったとの返答。
 地元出身で、少年時代からカープファンだった経歴があるらしい。


 そんな四方山よもやま話をしながら、探索は順調に続く……いや、次の敵の姿がちっとも見付からないけど。建物からスタジアムに出た際に、ホラっと怜央奈が電光掲示板を指さして来た。
 そこには2Fの表示がされており、これで何階層かが分かる仕組みらしい。今更だけど、本当にダンジョンって不思議である。

 そして1塁側のスタンドでは、先に訪れた組が戦闘中だった。それなら3塁側から廻ろうと、女子チームの移動先は呆気無く決定する。
 そんな矢先に、天空から大燕の襲撃がやって来た。すっかり警戒を忘れていたみっちゃんが、慌ててゴメンと言いながら矢を射かけている。

 それに加えて、怜央奈の『灯明』が敵の目をくらませた。敵がふらついた所を、素早く陽菜の抜刀での一撃が見事に決まった。
 敵は死にこそしなかったモノの、地上に墜ちて既に藻搔もがくだけの存在に。これを改めて退治して、これで6匹目の討伐完了である。
 そして見上げた天空には、更に2匹の鳥の影が。

「よっし、アレもやっちゃおう! みっちゃんが釣って、怜央奈が目晦ましね!」
「「了解っ!!」」

 空を舞っていたのは、今度は大燕と大ワシのペアだった。釣ってからの目晦ましのパターンは秀逸で、2匹とも危なげなく撃破には成功した。
 それから用心しつつ、3塁側の観客席へと降りてみる一行。気になったのはグランドの状態で、情報ではこの下を鯉やヒトデや海人マリーンが潜伏しているそうな。
 見渡しても戦っているチームは皆無で、厄介者認定なのかも。

「そうだね、足元から急襲されるってのは厄介だから、探索に潜っても特に好んで狩るチームは無いかな? しかもたまに、クジラも出るって情報もあるから。
 そしたらあらがえずに呑み込まれて、一巻の終わりだよね!」
「うへえっ、昔のチーム名も影響するんだ……」

 ちなみにヒトデはスターらしい、敵としては特に強くは無いそうだ。ちなみに鯉も、それ程には強敵では無いとの報告が上がっている。
 討伐数を稼ぐなら、これらを狙うのはアリではある。そうチームで話し合うが、敵の姿が見当たらな……いや、フェンス際に張り付いているヒトデを1匹発見。

 アレを倒そうと、張り切って武器を持ち直す姫香。そして『圧縮』を使用してグランドに入り込み、下の方に張り付いていたヒトデを一撃でほふる。
 その攻撃で敵は魔石に変化、それがグランドの土へと落ちて行く。それを拾おうと、姫香が思わずグランドに足をつけた瞬間に事態は急変。

 噂の仕掛けが炸裂して、1メートルを超える大鯉が2匹と、海人マリーンと思われる魚人が2匹出現した。突然の敵の襲撃に、慌てまくる姫香とその一行。
 それをカバーしたのは、即席ながらも相方の陽菜だった。一応は身構えていた彼女は、こうなる事をある程度予測していた模様。

 手にする刀で、土から飛び出だ海人の1匹に斬り付ける。それが女子チームの勢いをつけ、みっちゃんもいつの間にか武器をもりに変えての応戦。
 『海賊』スキルの血が騒いだのか、奇声を上げて自らグランドに降り立つ始末。ここから局地的な、全く予想もしなかった乱打戦が始まる。

 魚は任せてと、銛で突きまくるみっちゃんは頼もしいのかは不明だけど。姫香と陽菜の2人掛かりで、武器持ち魚人は何とか相手取れている感じ。
 これには救出に向かおうかと、身構えていた翔馬も一安心。怪我に備えて、フェンスにくっ付いて戦況を眺めている紗良も同じく。
 追加で寄って来た鯉とヒトデも、みっちゃんが倒して数分後に戦闘は終了。


「もうっ、あんまり驚かせないで……冷や冷やしたよ3人とも、魔石拾ったらすぐにグランドから上がって!」
「ゴメン、紗良姉さん……あんな直で反応があるとは、全然思って無くってさ」
「そうだな、もっと喰い付きは悪いモノと思ってたが。まぁ、この2層ならともかく、深い階層では試すべきでは無いかもな」

 確かに陽菜の言う通りだねと、一応は反省をしている感じの即席リーダー。これで集まった魔石は15個で、意外と目標の20個はもうすぐだ。
 ただし、厄介と言われている巨人族や猛獣タイプとも、折角だから戦闘をしてみたい。姫香がチームにそう告げると、それじゃあもう少し奥まで潜ろうと即決してしまった。

 上へ下へと歩き回って戦闘をこなしたせいで、ここまで約1時間程度だろうか。そして外野のゆったり席のエリアに、ようやく魔法陣を発見。
 これで3層に行けるぞと、気概を見せる女子チーム。無口な陽菜も、探索意欲に関しては割と高めを維持しているっぽい。

 そしてみっちゃんだが、割と接近戦では性格が変わるタイプかも。色々と分かって来た事も多いが、幸い破綻はたんに繋がる衝突は無くて何より。
 姫香も元々人見知りとは無縁だが、実は甘えん坊と言うか叔父さんにすがる面が探索中は意外と多い。そこを心配していた紗良だが、なかなかリーダー業も様になっている。

 そして怜央奈の探索歴の長さと、地元ゆえのアドバイスも的を射て役に立っている。即席にしては、本当に良いチームに仕上がっている気がする紗良である。
 このまま何事もなく、3層の探索も進めば万々歳である。


 そして魔法陣を使用しての第3層、広域ダンジョン探索も徐々に慣れて来た一行。念の為に電光掲示板を確認して、3の文字を目に焼き付けて移動を始める。
 周囲を見回すと、3塁側のコンコースで探索チームが戦闘中らしい。探った気配では1組か、或いはもう1組くらいチームがいる可能性が。

 紗良が遠見の指輪を使ってみた所、1塁側に人影は無さげである。ってか、悠然ゆうぜんと1体の、一つ目巨人が歩いているのが確認出来た。
 思わず伏せて身を隠した一同は、どうやって倒そうかと顔を合わせて作戦を立て始める。敵は文字通り大物だが、幸い動きは素早くは無さそう。

 手にするのは棍棒と言うか巨大なバットで、殴られたら洒落しゃれでは済まなそう。全長は精々が5メートル程で、見上げて首を痛める感じでも無い。
 取り敢えずみっちゃんが釣って、怜央奈の目潰し作戦で行けそうと話はまとまった。周囲に雑魚がいないかだけ、チェックはおこたらず入念に。
 それが終わると、静かに動き出す即席女子チーム。




 ――そして大物を狩る戦闘の幕が、たった今切って落とされた。





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