田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件

マルルン

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1年目の春~夏の件

お盆明けの日馬桜町に事件が起きる件

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 お盆が開けて、夏も盛りがようやく過ぎて行ってる気配も漂って来た。特に朝夕の暑さは緩和されて、残暑と呼べる程度にまで気温は下がって来ている感じ。
 熱帯夜の類いも、こんな山の上の来栖邸には元々無関係。逆に夜は涼しい位で、避暑地とまでは行かないけれど広島の海側よりは遥かに過ごしやすい。

 ハスキー軍団も、今年も何とか夏を乗り切れそうで何より。今年に限っては、探索の重労働が夏休みの間に2度もあったりしたのだ。
 それでも犬達は全然元気で、これもひょっとしたら“変質”でHPをまとったお陰なのかも知れない。良く分からないが、来栖家の他の人々も夏バテとは無縁で夏を過ごせていた。

 そんなお盆明けの、日馬桜ひまさくら町に突然異変が巻き起こる事に。どうも山中で野良モンスターを見掛けたと言う、目撃情報が幾つか上がって来たのだ。
 広島のお墓参りの習慣に、独特な臭いを放つしきみと言う葉を墓前にお供えするのだが。それを山で栽培している農家さんが、その収穫作業中に何度か目撃したそうな。

 それを受け、自治会を経由して町の治安維持との名目で来栖家チームに出動が掛かった。日給も出るそうで、子供たちも乗り気と言う。
 こんな暑い中に、本当に働き者だと護人は素直に思う。ところが香多奈などは、夏休みに遊ぶお金が欲しいらしい。

 休みの初めに多めに渡した筈なのに、既に使い切ってしまったらしい。そんな事実に全く悪ぶれない末妹、コロ助頑張ってねと早くも他力本願なのは如何いかがなモノか。
 キャンピングカーを使っての、まずは山裾やますそにベース基地造りは一応完成。その後ろに、続々と『白桜』のジープや消防車が停車する。

「お疲れさん、護人に来栖家の子供達……午後から天気が崩れるそうじゃから、野良モンスターの探索は3時で切り上げる予定じゃよ。
 暑いと感じる前に、無理せず水分補給はしっかりとな。それから、実は新しい探索パートナーのお披露目もしたいんじゃが……」
「えっ、新しい探索者って神崎姉妹&夫婦の事ですか? それならもう、こちら全員は顔合わせを済ましてますけど」

 そうでは無いらしい、どうも来栖家のハスキー軍団の有用性を実感した自警団『白桜』チーム。自分たちも護衛犬をと、2匹ほど町の予算で招き入れていたらしく。
 しかも護人の伝手で、ドックトレーナーの綾瀬あやせに依頼していた模様。れっと本人が、その場に試運転の見届け人の顔でいると言う。
 これには親友の護人もビックリ、何しろ前もって何も言われてないのだ。

「おまっ……何でこんな現場にいるんだ、幸治こうじ!? こっち来るなら、前もって連絡くれればいいのに」
「まぁ、こっちも仕事だし驚かそうと思って? この仕事あがりに、お前の家にちょっとだけ寄っていいか、護人?」

 本当に、人を食った性格の友人である。しかしそんな綾瀬も、キャンピングカーから出て来た飛行ルルンバちゃんの存在には驚き顔。
 そのドローンは華麗に護人の頭上に停止して、しかもその上には猫が乗っかっている。誰も操作している風には見えないのに、何とも不思議な情景に。

 綾瀬は思わず詰め寄りそうになるのを、理性でグッと我慢してその場に留まる。何しろ今は、大事な商談中なのだ。
 そして相変わらず、連れて来たシェパード2匹は来栖家のハスキー犬達を酷く恐れる始末。それはもう仕方が無いと、綾瀬は2匹の精神ケアをこなす。

 そんな事をしていると、林田兄妹と神崎姉妹&夫婦が合流して来た。挨拶合戦で騒がしくなる中、チーム分けと捜索範囲の説明が『白桜』の団長から言い渡される。
 もっとも、来栖家チームは家族メンバーで固定みたい。

 その場を仕切るのは『白桜』の団長で、それぞれのチームの探索ルートを最初に取り決める。その後は各自の判断で、ルートに沿って野良モンスター探しをして行く流れみたい。
 それを決められた時間いっぱい行なって、そして解散の流れなのだそう。町とは逆方向に3チーム編成での探索で、暑い中大変だけど頑張ってとの言葉。
 それから、各チームが山の中の探索を開始する。

「ハスキー軍団は当然だけど、今回は飛行ルルンバちゃんが活躍しそうだよね。ミケが乗ってるのは謎だけど、協力してくれる気になってるのは有り難いよね」
「そうだな、飛行ルルンバちゃんは戦闘能力が無いからな。それをミケがおぎなってくれるなら、野良の捜索もはかどるだろうね。
 とは言え、このペアを単独行動させるのも不安だな」

 そうだねぇと心配する面々を尻目に、AIロボとミケのペアは山の茂みを物ともせずに山頂へと飛んで行く。それを確認して、後へと続くハスキー軍団。
 その後に続く来栖家の面々、護人は友人の安否を気にしつつ自分のチームの舵取りに専念。ってか子供達だと藪漕やぶこぎが大変なので、先頭に立って進む役目である。

 木々のお陰で直接日光は当たらないとは言え、たちまち大汗作業でのスタミナ消費に。ついて来る方もそれなりに大変で、途端に年少の香多奈が悲鳴を上げている。
 ハスキー達は、その点は意欲的に先行しての探索作業をしてくれている。成果こそ上がらずお昼になってしまったが、それは致し方が無いと言うモノ。
 一行は山の尾根で、取り敢えずの昼食休憩を取り始める。

「全然見付からないねぇ、こっちには野良モンスターいないのかも? 山と言っても広いからねぇ、ハスキー軍団の反応もかんばしくないし。
 どうしよう護人叔父さん、コース変えてみる?」
「う~ん、変える必要は無いだろう……今回の任務はパトロールで、敵の殲滅せんめつじゃないんだし。なるべく広範囲を探索して、その結果敵を見掛けなくても仕方がないさ。
 午後も尾根伝いにもう少し進んで、それから引き返そう」

 戦闘が無いと盛り上がらないよねぇと、姉妹は物騒な事をささやき合っている。護人に言わせれば、そんな盛り上がりは欲しくなどない。
 もし野良と遭遇しても、ハスキー軍団が活躍してくれれば喜んで譲る所存。しかも野良モンスターの中でも、ネズミやスライムとか弱い敵は隠れる習性を持っているのだ。

 なので探し出して退治するにも、実は結構大変だったりする。ダンジョンで遭遇したら、別に放置でも全然構わないのに。
 本当に野良退治は厄介極まりない、そう護人は思いつつ。他のチームの状況を聞こうにも、山の中なので電波が届かない二重苦である。

 お昼のお弁当は、自治会の差し入れで人数分用意されていた。紗良も一応サンドイッチを用意して来ていて、それも旺盛な食欲の子供達が平らげている。
 ただし大半は、香多奈がこっそり犬達に配ってその胃の中へ。


 その後の探索だけど、結果的には野良を発見したのはたった1度だった。ミケとルルンバちゃんチームも、実はいつの間にか遭遇戦をこなしていた。
 飛行ドローンが、魔石を回収してとお願いに来たのに驚く子供達。。離れた場所だったので、敵の気配など気付かず魔石の存在で後から知った次第。

 こんな事はたまにあって、特にツグミとか『影縛り』でキープして姫香に差し出してくれるのだ。ハスキー軍団の自宅警護は、野良相手でも万全っぽい。
 そして遭遇した敵も、どうやら4足歩行動物タイプだった。ハスキー軍団がさっさと倒してしまったので、詳細は良く分からなかった。

 町の住民の目撃情報の、小柄な獣人タイプとは全く違っていたのは確か。遭遇地点からその周辺をしばらく探索してみたが、それ以上の発見は無しとの結末に。
 どうやら遭遇した野良は、本当のハグレだったらしい。

 そして時間切れとなって、来栖家チーム『日馬割』の活動は終了の運びに。キャンピングカーを停めてあった地点まで引き返し、他のメンバーと合流を果たす。
 それぞれのチームの結果報告だと、どうやら今回は『白桜』のメインチームが当たりを引いたらしい。それが護衛犬2匹の導入のお陰かは不明だが、取り敢えず怪我人も無く野良退治は終えられた模様。

 初運行を無事に終えられ、綾瀬もホッとした表情だ。それから短い歓談の後に、今回の山狩りは無事にお開きとなった。
 天候はいつの間にか荒れ模様で、参加していた面々は口々にさっさと家路につこうとこぼしている。広島では台風の直撃なんて事態は滅多に無いが、予報では今回はそのケースみたい。

 農家にとっては、強風が続くだけで冷や汗モノである。収穫前の稲が風で倒れたりする事態は、マジで勘弁願いたい。
 山の上に建つ来栖邸も、台風の対策に時間が欲しい所ではある。それでもお客を迎える時間程度なら、幾らでもひねり出せる。

 仕事を終えて近付いて来る綾瀬に対し、寄って行けるんだろうと確認する護人。姫香と香多奈もハスキー達を紹介して貰った際には、世話になった恩人である。
 それぞれ挨拶を交わしながら、車に乗りこみ来栖家を先頭に車を走らせる。話の流れで、臨時のお茶会に神崎姉妹&旦那のお隣さんも招く事に。

 紗良はその準備に大忙しだが、来栖家に大勢のお客を招くなんて滅多に無い事態。香多奈などはテンション上昇で、最近のコロ助の調子を綾瀬に喋りまくっている。
 綾瀬に振られた話題なのだが、それに姫香が加わって話は大盛り上がり。ハスキー軍団の探索力の凄さを、姉妹でこれでもかと語りまくる。

 それに調子を合わせてくれる綾瀬のお陰で、彼女の冒険たんは凄い盛り上がり。まるで一級冒険者の様に、ハスキー達の活躍が語られて行く。
 それを思い切りうらやむ、神崎姉妹と旦那さん。その後無事に護人の友達の綾瀬は、護衛犬の依頼を取る事に成功した。

 ただし探索に同行は保証しかねると、飽くまでハスキー達の異常性を強調する。それから天候はどんどん悪くなり、お茶会も早めに切り上げる流れに。
 それぞれにお土産を持たせて送り出す頃には、家の外はかなりの強風が。これはひょっとして、本当に久々の台風直撃コースかも?



 8月のお盆過ぎに発生した台風は、広島に直撃こそしなかったけどそれなりの猛威を振るった。そして子供たちのテンションを無駄に上げて、半日余りで過ぎて行った。
 雨もそれなりに降ったので、近場の山の土砂崩れなどを心配しながら。家の近辺は、幸いにもそれ程の被害も出ていないよう。

 ハスキー達との見回りから戻って、取り敢えずホッとする護人である。家族にそう報告しながら、ついでに厩舎の家畜の様子を訊いてみる。
 すると香多奈がプンプンした顔付きで、まだ風が強いのに茶々丸が脱走して外を走り回っていたと憤慨して答えて来た。

 取り押さえるのに相当苦労したそうで、泥だらけになったと怒っている。それは大変だったねと、同じく泥だらけのハスキー軍団を眺めながら護人はいたわりの言葉を掛ける。
 そんな事をして午前中を過ごしていると、護人のスマホに突然の着信が。何と自警団チーム『白桜』から、連日の呼び出しである。

 その内容だが、何と地元の高校生がこの夏休み中に、親に内緒でダンジョンに突入したとの大事件。しかも現在、こっそり突入が目撃されてから、1時間以上が経過しているらしい。
 場所は“駅前ダンジョン”で、近所の人が怪しい動きの高校生3人組を偶然見掛けていたそうだ。武器らしきものを手に、人目を忍んだ動きは逆に目立っており。
 気になった近所の人が、自警団へと通報したそう。

 そこからバタバタと事態は進行して、救援に突入すべきかとの話に。そうする場合に速度と人手は欲しいと、護人のチームにお呼びが掛かった模様。
 ってか、護人と言うよりはハスキー軍団の能力だろうか。高校生たちが万一ダンジョン内で、遭難していたり自力で戻れない事態におちいっているとして。

 確かに救助の人数は、多い方が良いかも知れない。これは子供たちを同伴させるべきではないと、護人は探索着と道具を抱えてレイジーを呼び寄せる。
 それから乗用草刈り機型のルルンバちゃんを、何とか白バンへと搭載する。それから留守を紗良に任せて、付いて来たがる子供たちを何とか押し留めての単独出動。

 そうして15分後には、護人の運転する白バンは日馬桜ひまさくら町の駅前に到着を果たした。現場はジープや消防車、更には救急車の出動で騒然としていた。
 普段は人も見掛けない駅前なのに、何と言う物々しさ。

「済まんの、護人……すぐにでも潜れるか、恐らくは浅い層じゃと思うんじゃが。先発隊の自警団は、既に4人チームで潜って捜索に当たっちょる最中じゃ」
「取り敢えずルルンバちゃんを、常陽草刈り機モードで連れて来ました。これで重症者がいても運ぶのは楽になる筈です。
 階段を上がり降りするのは無理なので、そこだけは手伝って下さい」

 自治会長はすぐに了承して、護人とレイジーを含んだ第2陣がすぐに潜る事となった。時間を掛けると子供達の生存率は低下するが、焦り過ぎて失敗したら元も子もない。
 そんな訳で護人とレイジーを待っていた峰岸だったが、先行していた自警団が今回は殊勲を上げた様子。って言うか、2層への階段で2チームは合流出来た。

 ただし、回収した3人の高校生は全員無事では無かったけれど。辛うじて命は取り留めていた模様で、護人は持参したポーションを鞄から取り出す。
 男子生徒たちはろくな装備も着ておらず、全員が血塗れの酷い状態。恐らく彼ら、1~2層は何とか突破して、3層辺りの魔法ゴブにやられたのだろう。

 知識や装備が脆弱ぜいじゃくだと、ダンジョンは侵入者に牙をく良い例である。護人の持参したポーション程度では、とても全快には程遠い。
 それでも何とか、傷口はふさがってくれた模様で何より。これなら恐らく、無理をしなければ失血死には至らないだろう。

 傷ついた男子生徒の2人を無理やりルルンバちゃんに乗せ、残りを隊員で抱え込む。それから大急ぎで地上に向かうメンバー達、その顔色は明らかに安堵した表情。
 最悪を想定していた細見団長も、しきりに護人に礼を述べていた。何しろ自警団には、回復ポーションの在庫がほとんど無かったのだ。

 普段は当然あるのだが、それも結構難しい問題で。隊員の中には、ランク上げして減税等の恩恵を受けたいと思っている者が少なからず存在するのだ。
 それなら休日に率先して潜れよと思うかもだが、万が一怪我を負って本業に差し支えても本末転倒。自警団的には推奨していないと言う、まぁ言ってみれば当然のルールが存在している。

 つまり稼いだポーションや魔石は、大抵はランク上げに売ってしまうと言う習慣があるのだ。そんな訳で、今回のようなケースで護人が招集された次第。
 探索要員と言うよりは、薬品の在庫に期待されていたのだろう。護人も積極的には紗良のスキルを公開してないし、まぁ回復ポーションくらいは安いモノ。

 ようやく出口に辿り着いた時には、既に町民が野次馬と化して周辺に集まっていた。もちろん若い衆の安否を心配しての事で、次々に救急車にかつぎ込まれる姿には、悲鳴のような声があちこちで上がっていた。
 こんな大騒ぎになるとは、好奇心で探索に潜った当人達は思ってもいなかった筈。




 ――悲しいかな、これも“大変動”以降の世界では日常だったり。







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