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第1章
9 . 心に誓う
しおりを挟むオーウェンたちは帰ってきた。
隠密たちは、オーウェンに宿であった事を話すと次の仕事があるため去っていった。
オーウェンは隠密の話を聞いて、泣き崩れる。
助けてあげられなかったのだ。
エイデンがこんなオーウェンを見たのは初めてだった。エイデンはオーウェンを家へ送る。
サマンサはオーウェンの姿をみると、状況を察して暖かい紅茶を二人のためにいれた。
「今は何があったかはお聞きしませんが、落ち着いた時に教えてくださると嬉しいです。」と言って、奥に下がろうとする。
オーウェンはサマンサを引き止めた。
「いや、今話そう。サマンサには知っておいてほしい。」
ーーー
隠密が、亭主の妻が いる 隔離された部屋に入ると、妻は驚いて部屋の隅に逃げた。
手引きをしてくれた従業員が妻に説明する。すると、妻は小さな木箱から白い液体が入った小瓶を取り出した。
妻は一筋の涙を流して隠密に告げる。
「助けに来てくださり、ありがとうございます。あの子は無事に生きているのですね。よかった。」
妻は心から安堵したようだ。
「お願いがあります。そのハミルトン様にお伝えください。“どうか娘を幸せにしてください。私が与えてやれなかった、この世の美しさを、生きることの喜びを、どうか教えてやってください。”と。」
そう告げると、妻は傷だらけの細い腕で小瓶を開けてそれを飲み干して亡くなってしまった。
一瞬の出来事で、誰も止めることができなかった。
誰もがあっけにとられて動くことができなかったが、隠密たちは熟練した者ばかりだ。
この状況で見つかってしまうと、殺人の罪を犯したことになってしまう。
隠密たちは泣き崩れる従業員とともに、ひっそりと抜け出した。従業員に落ち着いてから宿に戻るように言うと、隠密たちはオーウェンの元へと向かった。
ーーー
「そんなっ、自ら命を絶つなんて...しかも逃げだせたのに。」
サマンサは信じられなかった。
オーウェンの心の中は後悔の念で埋まっていた。しかし、妻の心境を思うと助けなかった方が良かったのかもしれないと考える。
一度は愛した男から傷つけられる日々。先の見えない、苦しい日々。解放されたいと願い、死を望むのは当たり前のことだった。
しかし、どちらにせよソフィアは実の親を亡くしたことになる。あの亭主も、妻を監禁・暴力した罪で捕らえられるだろう。
あまりにもソフィアが可哀想だった。いつかこの話を知った時のソフィアを思うと胸が痛む。
だから、オーウェンは心に堅く誓った。
「どうか娘を幸せにしてください。私が与えてやれなかった、この世の美しさを、生きることの喜びを、どうか教えてやってください。」
オーウェンはソフィアの額に口づけをする。
「ソフィア、絶対に幸せにするからな。」
オーウェンは妻の想いを心に刻んだ。
雨はもう少しで、止みそうだ。
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