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第2章

1 . 成長

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 世界が緑一色に染まる。赤や黄色、水色、桃色にあふれた景色はいつのまにか変わっていたのだ。



 春が過ぎて夏が来ようとしていた。 




 オーウェンは、クレア・マーティンの居酒屋に行くことにした。ソフィアを正式に引き取ったこと。その他もろもろの話を伝えようと思ったからだ。 それに、ひと段落したのでに会いたくなった。


 オーウェンは灰色のズボンにリネンのシャツを着てベストを羽織る。

 家を出る前にソフィアを一目みようと、サマンサに抱かれたソフィアのもとへ行く。 


 「おはよう、ソフィア!いい夢は見れたかい?」

 「旦那様、きっといい夢をみたに違いないですよ。だってこんなに咲っておりますもの!」


 オーウェンはソフィアの咲った顔が大好きだ。悔しくて辛いことがあったが、これからは今日も明日も明々後日も見れるのだ。幸せの一言につきる。

 サマンサはオーウェンにソフィアの顔を向ける。すると、突然ソフィアが泣き出した。

 オーウェンは戸惑う。昨日まであんなに咲ってくれたのに...と悲しくなる。嫌われてしまった。まさか、ソフィアの母を助けてあげられなかったからかと自責の念に駆られた。 


 サマンサはそんな落ち込むオーウェンを見て笑い出してしまった。オーウェンは馬鹿にされたと感じ、怒りを覚える。
 

 「何がおもしろいのだ!」

 
 サマンサはとっさに無礼を詫びる。


 「あっ、申し訳ございません!本当に申し訳ございません!ですが旦那様。そういう時期なのです。きっと人見知りの時期に入ったのです。」

 「人見知り?...人見知りか!あの!」



 オーウェンは自分の子供たちが小さかった頃を思い出す。そんな時もあったなぁと懐かしくなった。 

 ソフィアに嫌われた訳ではなかったのだ。 オーウェンは安心する。



 「怒りをあらわにして申し訳ない、サマンサ。」

 「いえいえ!そんな、謝らないでください!私が失礼なことをしたのですから。私が悪かったのです。」

 「これからは気をつけるよ。それにしても、ソフィアが人見知りとは。これから少し寂しくなるな。」



 今は人見知りの時期なのだと分かったが、やはり寂しい。ソフィアの笑顔をじかには見られなくなるのだから。 

 サマンサは悲しむオーウェンを気の毒に思った。 



 「旦那様。人見知りとは誰もが通る道なのです。つまり、しているということなのです!少しの間ですので心配なさらないでくださいませ。」



 オーウェンは、そうか!と納得する。ソフィアが成長しているのだ。小さな身体で精一杯に生きようとしている。その姿に感動せざるを得なかった。 

 
 「ソフィア。お前は偉い!成長したのだ!今夜はお祝いだ!街で上等な服をこしらえてこよう。」


 ジェナミとお揃いの服にしたら、二人とも可愛いだろうなと想像する。今のオーウェンの頭は牛とソフィアで一杯だ。




 人見知りをしただけでお祝いとは...オーウェンの名前を呼んでくれた時はもっと盛大に祝われることだろう。しかしまぁ、オーウェンが幸せそうで何よりだ。



 オーウェンはこの喜びを、感動をすぐさま誰かと分かち合いたかった。

 サマンサだけでは足りなくなった。 


 オーウェンはサマンサにソフィアを頼むと、クレアのもとへ馬車を走らせた。
 


 







 
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