若がえる“老夫” と 老いてゆく“少女”は

すみれ

文字の大きさ
9 / 18
第1章

8 . 哀しみ

しおりを挟む



 出発の朝。

 オーウェンはエイデンと共に離島へと船で向かった。エイデンがいたので、ソフィアの頬をすりすり したかったが我慢した。 


 離島は漁業で栄え、貿易が盛んだった。 


 オーウェンは港に着くや否や、暴力亭主がいる宿に向かおうとする。

 エイデンはこんなオーウェンを見たことがなかった。いったいソフィアという赤ん坊は、どんな手練手管を使ってこんなオーウェンにしたのだろうと、不思議に思った。

 宿へと猪突猛進するオーウェンをエイデンは止める。 


 「ご主人様。宿の表から突っ込んでも、獲物は出てきませんよ!仕込んでおいた宿の従業員がいますから落ち着いてください!」


 オーウェンは地団駄を踏んだが、エイデンの忠告を大人しく聞いた。 



 エイデンが言うにはその宿の従業員と、とある店で会うことになっているという。その店で待つこと、数十分。
 手荷物を持ち、黒髪をお団子にした女性が来た。 


 「お待たせして申し訳ありません。奥様からこの手紙を預かってきました。」


 手紙には、オーウェンの予想通りのことが書いてあった。

 亭主に暴力を振るわれていたこと。
 自分の子にまで被害が及びそうで恐ろしかったこと。
 いとまを出した従業員に頼んで、人目につかなさそうな家に預けて欲しいと頼んだこと。
 そして、迷惑をおかけするが頼みますと手紙の最後をくくっていた。


 オーウェンは怒りとともに、哀しみを覚えた。暴力亭主のせいで、ソフィアを捨てざるを得なかった妻の心境を思うとやりきれない。



 すると、手紙を持ってきた従業員が語りはじめた。

 「私はずっと奥様にお仕えしてきたのです。毎晩のように傷をつけられる奥様を見ていると、本当に悔しくて...  あいつさえいなければ奥様は....だからあいつを殺そうとしたのです。奥様にその事を言うと、止められました。けど、その代わりに...」

 「その代わりに、どうしたのです?」とエイデンが聞く。

 「奥様は...奥様はっ...今夜自らの命を絶つとおっしゃいました。」従業員は泣きながら言った。

 「私はお止めしたのですが、辛そうな奥様を見ているともう何もできなくて...」



 二人は絶句した。自殺など許されない。だか、それを分かった上で死を選ぶ道しか残されていないのだ。 




 オーウェンは妻を助ける事を決意した。 

 さっそく、オーウェンは旧友に電報を送る。その旧友の隠密は優秀だ。きっと数分で助けられるだろう。 



 日が暮れる前に3人の隠密が到着した。さすが、隠密。数時間前に連絡したのにもう着いてしまった。 

 エイデンは隠密たちに宿の地図を見せて、隠密たちは従業員の手引きで中に入ることになった。 


 「頼む。絶対に助けてくれ。」オーウェンは頼む。


 隠密たちは頷いて、宿へと向かった。 



 妻を助けたのち、すばやくこの島を出れるようにと、旧友が小船を用意してくれていた。 オーウェンとエイデンは、隠密が事を成す間に出航の準備をする。 




 数十分後、隠密たちが帰ってきた。 


 「助けられたか?」オーウェンは聞く。きっと助かっていると願って。 

 しかし、オーウェンの期待とは裏腹に隠密たちの側には誰もいなかった。 

 「ハミルトン様。非常事態です。すぐさま船を出してください。事の詳細は後で話します。」 

 「しかしっ...わかった。エイデン行くぞ。」

 


 オーウェンたちは離島を去った。 

 深い哀しみを残して。




 



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

犬上義彦
恋愛
『御更木蒼也(みさらぎそうや)』 三十歳:身長百八十五センチ 御更木グループの御曹司 創薬ベンチャー「ミサラギメディカル」CEO(最高経営責任者) 祖母がスイス人のクオーター 祖父:御更木幸之助:御更木グループの統括者九十歳 『赤倉悠輝(あかくらゆうき)』 三十歳:身長百七十五センチ。 料理動画「即興バズレシピ」の配信者 御更木蒼也の幼なじみで何かと頼りになる良き相棒だが…… 『咲山翠(さきやまみどり)』 二十七歳:身長百六十センチ。 蒼也の許嫁 父:咲山優一郎:国立理化学大学薬学部教授 『須垣陸(すがきりく)』 三十四歳:百億円の資金を動かすネット投資家 ************************** 幼稚園教諭の咲山翠は 御更木グループの御曹司と 幼い頃に知り合い、 彼の祖父に気に入られて許嫁となる だが、大人になった彼は ベンチャー企業の経営で忙しく すれ違いが続いていた ある日、蒼也が迎えに来て、 余命宣告された祖父のために すぐに偽装結婚をしてくれと頼まれる お世話になったおじいさまのためにと了承して 形式的に夫婦になっただけなのに なぜか蒼也の愛は深く甘くなる一方で ところが、蒼也の会社が株取引のトラブルに巻き込まれ、 絶体絶命のピンチに みたいなお話しです

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁

瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。 彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。

サリシャの光 〜憧れの先へ〜

ねるねわかば
恋愛
大商会の娘サーシャ。 子どもの頃から家業に関わる彼女は、従妹のメリンダと共に商会の看板娘として注目を集めていた。 華々しい活躍の裏で着実に努力を重ねて夢へと向かうサーシャ。しかし愛らしいメリンダと比べられ、時には心ない言葉をかけられることもあった。 そんな彼女が初めて抱いた淡い恋。 けれどその想いは、メリンダの涙と少年の軽率な一言であっさり踏みにじられてしまう。 サーシャはメリンダたちとは距離をおき、商会の仕事からも離れる。 新たな場所で任される仕事、そして新たな出会い。どこにあっても、サーシャが夢を諦めることはない。 一方、初恋を忘れられない少年は後悔と執着を募らせていき── 夢を諦めない少女が、もがきながら憧れへの道を選び取るまでのお話。 ※前作「ルースの祈り」と同じ世界観で登場人物も一部かぶりますが、単体でお読みいただけます。更新の合間にでもよろしければそちらも是非。 ※作中の仕事や制作物、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。

処理中です...