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第2章

6 . たんじょうび

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 その日の家の中は、朝から晩までサマンサが走りっぱなしだった。

 オーウェンは朝から町へ出て、一旦昼には帰ってきた。しかし、昼食をすませるとまた町へと出かけた。


 その間にソフィアとジェナミは二人で遊んでいた。どうやら積み木でなにかを作っているようだ。 
 
 ジェナミが赤く四角い積み木を小さな手で握る。


 (この赤いのをこっちに!)
 (そんなことしたらくずれるよ。)
 (だいじょーーぶ やってみなきゃわからない!)


 グラグラ バタン! 

 ソフィアの思ったとおり、ジェナミが赤い積み木を乗せた瞬間倒れてしまった。ソフィアは 呆れた様子で 倒れた積み木を眺める。ジェナミは悔しかったようで、もう一度積もうとする。


 (つぎこそっ!)
 

 グラッ バタンッ!

 やはり倒れてしまう。ジェナミは青く丸い積み木の上に乗せようとするのだから当たり前である。
 

 (まる のうえに しかく はのせられないよ)
 (くっ...でもっ...いつかできるようになるの!)
 

 ソフィアはジェナミを相手にしないので、ジェナミの一人相撲が始まってしまう。

 そうこうしているうちに太陽は一番高いところへと昇り、眠気が二人をおそった。

 
 いつもなら寝付くまでおなかを ぽんぽん してくれるサマンサがそれをしてくれなかった。
 
 今日は一段とキッチンが忙しいらしい。夕方あたりになると、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐった。 

 その匂いつられて、二人は昼寝から目を覚ました。それと同時にオーウェンも玄関の扉を開ける。 


 (あっ! パパだっ!)



 ソフィアは四つん這いで、ペタペタと玄関へ急ぐ。

 それを見つけたオーウェンは ソフィアを両腕で抱き上げると腕を上に伸ばして、たかいたかい をする。

 最近のソフィアのお気に入りはこの たかいたかい だ。いつもの風景とは違った家の中を見ることができる。それに、なによりもオーウェンと同じ目線になれることが嬉しかった。 

 ソフィアの後をついてきたジェナミも羨ましそうにそれを見て、オーウェンにおねだりする。サマンサは止めようとしたが、優しいオーウェンはジェナミにも たかいたかい をした。


 オーウェンは二人をリビングに連れて行くと、二人の目の前に綺麗な子供用のワンピースを二つひろげた。 このワンピースはソフィアの人見知り記念日のお祝いで注文したものだった。

 一つは、淡い水色で 胸のあたりに木のボタンが三つならび 白いレースが襟元を飾る。
 もう一つは、ひまわり色で 袖がふわりと広がり 白いベルトがあり 襟にはクローバーの刺繍が施されている。

 それを見せ終わると、次に子供用の小さな靴を二人に見せる。

 一つは、淡いブラウン。もう一つは、白い靴。


 オーウェンはまだ言葉が分からない二人に、ワンピースと靴の説明を事細かにする。

 しかし、二人はそんなオーウェンを気にもとめずに可愛らしいワンピースを見つめて手にとった。いや、正確に言えば、ぐしゃりと持ち上げた。



 (ソフィア! かわいいね! この 黄色はわたしの!それと、白いくつほーしーいー!)
 (わたしはみずいろがいい!)



 オーウェンに言われるまでもなく、二人はどのワンピースと靴が自分のものなのか分かった。 

 オーウェンはその姿を見て微笑む。


 ひと段落したサマンサが、二人にワンピースを着せるとダイニングの子供用の椅子に座らせた。 

 卓上にはいつもより少し豪華な料理が並ぶ。

 なにが起こるのだろうかと二人は不思議に思う。こんなに可愛い服を着せてもらったり、美味しそうなごはんを作ってもらったり... なにをしているのか見当もつかない。なにかお祝いごとでもあるのだろうか。 

 そんなことを思っていると、急に部屋の明かりが消えた。 


 (えっ! くらいのこわいっ!)


 ジェナミが泣き出しそうになった瞬間、奥の方からろうそくに火を灯したケーキをサマンサが歌いながら持ってきた。


 「ハッピバーズデー!ソフィア!ジェナミ!」


 苺がたくさんのったスポンジケーキを二人の目の前におくと、サマンサはそう言った。

 オーウェンも喜ばしそうにハッピーバースデーと告げる。 

 ソフィアとジェナミは何をしているのか未だに分からなかったが、二人が嬉しそうならなんでもいいや!とわらいあった。

 なんだか幸せな気分な二人。まだ離乳食しか食べられない二人のために、サマンサはバースデー用のそれを作っていた。やはり出来たベビーシッターだとオーウェンは感心する。

 二人はその美味しい離乳食を食べ終えると、睡魔がおそってきた。

 子供の時間は短い。いつだって。 


 ソフィアはオーウェンに抱かれてベッドへと向かう。

 (パパ、だいすき) 

 寝るときはいつも一緒にいてくれる。一緒にいると安心する。パパの腕の中が一番落ち着く。 一番好きな場所。


 「ま...まっ...」


 ソフィアはパパを思いながら眠りに落ちた。




 「まま?ママだと⁈ ソフィア!なぜパパじゃないんだーーーーー!でも感激じゃ!おいサマンサー!」


 オーウェン。ソフィアはね、パパって言ったつもりなんですよ。

 

 






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