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ダンジョン都市

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「モンスターが寄り付けない?
へぇ~女神の泉にはそんな効果があったんだ」

「ええ…遥か昔、女神は100人居たのです。今は10人ですが……消えてしまった女神達が各地で石像と共に沈んでいるのが女神の泉と言われています。」
「ただの言い伝えだ。あンなもんただの毒の泉。だからモンスターも近づかねェ」

「っえ、毒?」
「何処にでもあるからなァ、水辺には勝手に近づくんじゃねぇぞ……っと。見えたな」


スタットの町を出て5日目
アルドが指差す先には、とてもとても大きな門
その前には沢山の人が見えた。

ドキドキと胸が高鳴り、歩調が上がる
此処までの道のりは割と順調で、モンスターと出会す事は何度かあったが、レベルは上がれど怪我をする様な事は無かった。最強の護衛が付いているからかもしれないが…

茂みを掻き分けるアルドに続いて森を抜ければ、舗装された広い道へと出た
森から出てきた俺たち3人を、道を行き交う人たちが訝しげに見ている
そう。人だ。人が居る
それも、人間だけではない、黒い角や黒い翼、見るからに魔族!とわかる人
金の髪を靡かせ、尖った耳を持つ白皙の美女。あれは絶対エルフだ!

そして、漫画や映画などで何度か見た事のある馬車
実物を見たのは初めてだ

沢山の人や馬車が道を行き交い、会話し、笑い合っている。


「…異世界、来たって感じ」
「今更何言ってんだ?」


俺の呟きに、アルドが呆れたように振り返った
いや、うん。ここが異世界って事はスライム見た時点で受け入れてはいたけれど、やっぱりこういう定番の光景見てなかったから…ね

何だろう、ワクワクしてるかも?

ここに来れて良かった


「ロワン、ありがとう」
「???」


俺を冒険者に誘ってくれてありがとう!



◇◇◇


「3人だな。では身分登録を」



「トウヤ、私の真似をして下さいね」


街道を少し歩いた先の大きな門、その門の前に出来ていた列に並ぶ事数十分
鎧を見に纏った衛兵さんが、俺たちを門の先へと誘導した
先頭を行くアルドに続き歩き出した俺に、後方のロワンが耳打ちしたかと思うと、俺の前へと出た

門の少し先、まるでテーマパークの入場ゲートのように、等間隔で衛兵さんが並び、その衛兵さんの前には、腰ほどの高さで、クリスタルの様に透明で美しい台が置かれている

初めにアルドが台の上へとカードを置き、続いてロワンが同じその台へと、黒い石を置いた
ロワンに言われた通り、ポケットから黒く薄い石、身分証を取り出して、同じ様に台の上へと置く

俺が石を置いて数秒、台が仄かに青く発光した
それを合図にか、アルドとロワンがそれぞれカードと石をしまったので、俺も同じように身分証をポケットへと戻した


「冒険者と……あとの2人は何しに此処へ?」


台の前に立っていた衛兵さんが、アルドを一瞥した後、ロワンと俺に視線を向け問いかける


「冒険者登録するために来ました」
「…そうか。では、本日中に手続きを行うように。
———ようこそ、ダンジョン都市ビジューへ」



衛兵さんのその言葉と共に送り出された俺たちは、もう一枚、大きな門を潜った。
門の先に広がるのは扇状の広場、その中心付近には大きな広場に似つかわしい、大きな噴水

広場の奥には一本の広く長い道が続いている

何処からともなく、いい匂いがし鼻を掠めた
門の前で並んだ時間といい、入り口の雰囲気といい、まるでテーマパークに来た様な雰囲気に、胸が高まっていく


「さっさと登録しに行こーぜ」
「トウヤ、はぐれないでくださいね」


辺りを見渡す俺の背をアルドが押し、ロワンが右手を引っ張った。
はぐれない様に…たしかに、人が圧倒的に多い!スタットとは大違いだ
アルド曰く、冒険者ギルドはこの広場内にあるそうで、そこで登録をしてから、広場の奥の道、街中へと入り、今日の宿を探すらしい

ダンジョンも気になるけど!早く、街中を見たい!とってもいい香りがするし、きっと美味しいものも売ってるはず!

ええ、どうしよう!楽しみすぎて、何から手をつけようか凄く迷う!



あ、でも、まずは魔石売らないと!
スタットから此処までの道中で、さらに3つ魔石を手に入れた。
魔石をドロップするモンスターは限られているらしく、更に必ずドロップするとも限らないらしい。結構貴重…
そんな物を、殆ど戦っていない俺が貰うのはどうかと思ったが、アルドもロワンも要らないと言うので、勿体無いし……俺の軍資金の為にも有り難く頂いた


「ここのギルドはガラ悪くねェけど、気をつけろよ?」
「えっ、うん!」

「私が居れば大丈夫ですよ」


ロワンに手を引かれ、先を歩くアルドに続く事数分、目の前に建つのはオレンジ色のレンガで造られた大きな建物。屋根は青く、窓枠は白い
派手な建物だな…と思いながら、木製の扉を開いたアルドに続き、俺とロワンも建物の中へと入った。

内装は、スタットで見た冒険者ギルドとそれ程変わらないが、広さが段違いだ
広々とした建物内には、木のテーブルや椅子が置かれ、奥にはカウンターが広がる
広さはもとより、人の数もすごい

漫画で見た様な、いかにと冒険者です!といった風貌の筋肉ムキムキの人から、エルフ、魔人、獣耳が生えた人、更には俺より小さい少年まで
多種多様な人々で溢れかえっていた


「やっぱ朝は人が多いなァ。登録は右奥、さっさと行ってこい。俺は依頼書見てっから」


じゃあな、と手を挙げたアルドは、俺とロワンの返答を待つ事無く、壁に張り出された沢山の紙の元へと歩いていく
そんな背中を見つめる俺の手を、ロワンが軽く引っ張り、カウンター方面へと歩き出した。
人は沢山居るが、依頼書の前や、テーブルについて居る人が殆どで、カウンターはわりと空いており、アルドが言った右奥のカウンターに人は並んでいない。




「登録したいのですが。」


カウンターに着くやいなやそう言ったロワンが、ニッコリと微笑み、紙切れを1枚カウンターへと置いた。
紙切れ…ではなく紙幣だ
それを見て、思いつく

そうか。登録料的なの要るよね!と慌てながらロワンを見上げると「私が誘ったので私が出します」と言われてしまった。
魔石を売って自分の分は出す、と言ったが、必要ないと言われ、その代わり美味しい物が欲しい。と言うので、必ず美味しい物を!と約束をし、お礼を述べる

俺たちがそんな話をしている間、カウンターの奥で違う作業をしていたであろう数人のスタッフさんが、ロワンに気づき、その姿を見た途端、奪い合うかの様にして、1人の女性がカウンターの前へと立った
争奪戦に勝利し、目の前に立つ女性は多分人間だ。カウンターの奥を見ると、俺が思う限りスタッフさんは全員人間みたいだ。
まあ、ロワンの様にぱっと見分からないタイプの魔族とかが居るのかもしれないが…


「本日は冒険者登録で間違いなかったですか?」
「ええ、私と彼、2人です」
「それでは…まず此方に、身分証をお願い致します」


そう言った女性は、先程ロワンが出した紙幣を受け取ると、少し頬を染めながら、上目遣いでロワンの瞳を覗き込み、両手で持てるくらいの透明な台をカウンターへと出した。
門の入り口にあったクリスタルの小さい版という感じだ。

ロワンと共に、身分証をその台の上へと置くが、女性の視線はずっとロワンに釘付けで、俺の方は1度たりとも見ない

まあ、わかる。分かるけどね、すっごい美しいよね。美しすぎるくらいだ。
どうぞ、目に焼き付けてください!


ニコニコと微笑むロワンと、それに釘付けな女性を横目に待つ事数秒、身分証を置いた台が青く発光し、その台から奇妙な音が鳴り出したかと思うと、どういう仕組みか、透明なその台から2枚のカードがゆっくりと出てきた。



「冒険者カードになります。ギルドルールについては、裏面をご確認くださいね」

「ありがとうございます。パーティー登録も此方で出来ますか?」
「っはい!!勿論です!よろこんで!」


お2人でパーティー登録ですか?と言った女性の視界に、初めて俺が入ったので、とりあえず軽く微笑んでおく

俺なんて気にせず、ロワンを見つめててくれていいんですよ。

そんな気持ちでニコリと微笑みながら、あれ?と思う


「ええ、2人で」


そうニッコリ笑ったロワンの顔を見て、少しばかり背筋に悪寒が走った
笑ってるけど黒いオーラが隠しきれていない

忘れてる?わけないよな?わざとだよな、絶対


「ええと、ろ、ロワン?」
「はい?」
「あの、アルドは…?」


ニッコリと微笑むロワンへ恐る恐る問いかける。そんな俺たちを交互にみた女性が、小さく首を傾げた後、何かに気づき口を開いた


「少々お待ちくださいね!」


その女性の言葉は、俺たちにでは無く、俺たちの後ろ、主に俺の後ろの方へと投げかけられている。
嫌な予感がするなぁ…なんて思い、見たくないと思いながらもゆっくりと振り返ると、眼前に広がる赤


「俺だけ仲間はずれかァ?酷え事すんなあ」
「っひ、!」
「俺とお前の仲なのに、なァ??」


俺の肩口に顎を乗せたアルドが低い声でそう言うと、大きく熱い手で力強く俺の尻を掴んだ
ジワジワと広がる痛みと、少しばかり厭らしいその手つきに、背筋が伸びる


「……はあ。」


隣では冷たい空気を纏い、盛大なため息を吐きロワンがアルドを睨みつける

何この状況。今まで割と仲良くしてたよね?!
こんな所で火花散らさないでほしいんだけれど!

でもそれより、カウンターの向こうでアワアワするお姉さんに凄く申し訳ない!
いきなり意味わからないよね!ゴメンね!ロワンの顔に免じて許してほしい。お仕事の邪魔する気は微塵もない。本当だ


「さ、3人で!この3人でパーティー登録お願いします!
アルドもロワンもいいよね?」

「俺と2人でも良いンだぞ?」
「私と2人でも良いんですよ」


「さ、3人で!3人でお願いします!」
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