黒猫クエスト

ギア

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01.プロローグ…的なもの

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午後6時。

夕暮れの雨の降り注ぐ街中を、赤や青といった色とりどりの傘が咲き乱れる。

その下を歩く人々の顔はまるでこの雨空のように暗く、皆、3日間降り続ける雨にうんざりしているようだった。

そんな陰鬱とした街を、俺はビニール傘を片手に小走りで家へと急ぐ。
すれ違う人にとっては俺なんて背景の1人に過ぎないだろう。

ふと、手間の信号が赤に変わる。
内心舌打ちしつつ、焦る気持ちを抑えながら俺は足を止める。

何を隠そう今日は、俺の推しているゲーム会社「SiRoNeKo」の新作RPGの配信日。
何ヶ月も前から楽しみにしていたというのに、何故か配信日の今日に限って担任に雑用を頼まれてしまうなんて…。

配信開始時間は5時半、もう30分近くも過ぎてしまっている。

(チッ……ん?)

イライラしながら青になるのを待ってると、視界の端に黒いものが横切る。

黒猫だ。
年齢は1~2才ほどだろうか。赤い首輪を付けているので、恐らく近所で飼われている飼い猫だろう。
その綺麗な真っ黒の毛並みは雨に濡れ、艶やかに輝いている。瞳はキラキラと黄金色に、ぽつぽつと点き始めた街頭の明かりを反射している。

黒猫は雨など気にせず、無邪気にポイ捨てされたであろうビニール袋と戯れている。とても愛らしい。

動物は好きだ。見ているだけで心が安らぐ。
特に猫は、家で3匹も飼っているぐらい好きだ。あのモフモフがもうモフモフでモフモフのモフモフがモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ…

…はっ!?
ついモフモフの魔力に脳を支配されていたようだ…。やはりモフモフは恐ろしい…!

はぁ…
猫は羨ましいなぁ…。寝ること食うこと遊ぶことしか考えなくていいもんなぁ……。
くだらねぇ人間関係なんか気にしなくていいもんなぁ…。

はぁ……
猫になりたいなぁ……


そんなことを考えていると、


ブワッッ!!


「ッ!?」

突然、強い突風が傘を煽る。

雨と共にぶつかる風に思わず体勢を崩しそうになりながら、ふと視界の端に先程の黒猫が映る。

ビル間を泳ぐ風の群れは、黒猫が遊んでいたビニール袋を正面の道路へと押し流す。黒猫は飛ぶビニール袋に釣られ、さっと道路へと飛び出す。

そこへ小型乗用車が一台、猛スピードで迫って来ている。
運転手は携帯電話を片耳に当てており、通話に夢中でその事に気づいていない。

「…っ!?危ないっ…!!」

考えるより早く、体が黒猫を追って道路へと飛び出す。
握りしめていたビニール傘が手元から離れ、雨風と共に宙を舞う。

俺が黒猫を捕まえよう手を伸ばしたとした次の瞬間、

ドンッッッ!!

視界が歪むような激しい衝撃とともに、俺の意識は暗泥へと落ちていった。


降り注ぐ雨。
道路に溜まった水たまりに、サイレンの赤い光が反射する。
集まる野次馬の声がガヤガヤと騒がしい。


とある街の、とある交差点での、よくある不幸な事故。


そんな騒がしい野次馬達を眺めるように、親骨の折れたビニール傘が1本。
ふっと風が吹き、傘は何処かへと飛んでいく。


傘の行先は、誰にも分からない。


_ _ _ _ _ _


目を開けると、俺は見知らぬ森の中で寝転がっていた。

…?
どこだここは…?

確か俺はさっきまで横断歩道で信号待ちしていたはず…。
それで黒猫が道路に…って、あの黒猫は無事か!?

見覚えのない風景に困惑しながらも、黒猫を探そうと急いで起き上がろうと地面に手をつく。

しかし、何故か上手く起き上がれない。妙な違和感に、ふと自分の手に視線を向ける。

そこにあったのは、いつもの自分の手ではない。
っていうか人間の手じゃない。


猫の手だ。
黒猫の、もふもふの毛の生えた、猫の手。

(…は?)

理解し難い光景に思わず3度見するが、そこにあるのは相変わらず猫の手。

試しに右に動かす。
猫の手も右へ動く。

左へ動かす。
猫の手も左へ動く。


…嫌な予感がする。


顔を触る。
所狭しと生えたもふもふの柔らかい毛が肉球に触れる。頭部には2対の3角の耳…。


(…マジで?)


どうやら俺は、猫になってしまったらしい。
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