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~霧の森編 第1章~

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[森]

 「暑~い・・・溶けちゃいそうだね~フォルト・・・あと、日焼け止めが目に入って辛いっ!」

 ロメリアが額から流れる汗を地面に垂らしながら少し猫背気味に街道を歩く。

 「うん・・・何か日に日に気温が上がって行っているような気がするね・・・汗が止まんないや。」

 フォルトもハンカチで汗を拭いながらロメリアの横をしっかりと付いて歩く。フォルトとロメリアの上には太陽が2人を焼き殺さんばかりに燦々とその身を燃やしていた。

 フェリルの街を出てから今日で5日経っていたが、今だに次の街に着く気配も無く2人は延々と続く草原のど真ん中に通っている街道を歩き続けていた。

 3日目に雷雨にあって足止めを食らったが、それ以降はずっとからりと晴れており絶好の旅日和・・・となるはずだったが、気温が30度を余裕で超えて歩く度に暑さで頭がおかしくなりそうだった。蜃気楼が街道をゆらゆらと映す。

 人の気配も一切しない・・・こんな所で、熱中症で倒れたらそのまま熱中症で死ぬか、夜になって魔物の夕餉になってお終いだ。フォルトとロメリアは宿を出る前に必要以上に水を買ってそれを頻繁に道中体の中に流し込んで体を冷やす。

 しっかしいくら歩いても街が見当たらない・・・小さな村や民家はポツポツと存在してはいるが、看板も見つからない・・・2人は真昼の灼熱時に街道を行進し続ける。何時着くか分からない街を目指して。

 暑さで意識が朦朧としてくる中、ロメリアが急にフォルトに背負われるように体をくっつける。むわっとした肌に纏わりつくような熱気がロメリアから伝わってきて相当気持ち悪い。

 「うわぁ!ロメリア!離れてよ!」

 「暑~い・・・もう歩けない・・・負ぶって~」

 「嫌だよ!そんなにくっついたら余計暑いから止めて!それに何かロメリアの体から出ている汗のせいでむわって熱気が凄いんですけど⁉」

 フォルトは汗まみれのロメリアを無理やり引き離す。・・・まあ自分も汗まみれなのだが。

 ロメリアはぶ~と頬を膨らませながらフォルトの横を歩く。まるで子供のような態度をとるロメリアを見てもうどっちが年上なのか分からなくなってきた。

 その後何も考える事無くただ無心で歩いていると、ロメリアが街道の奥の方を指さした。

 「ねぇ、フォルト・・・あそこの小屋で一休みしようよ・・・ちょっと疲れちゃった・・・」

 「賛成・・・汗もしっかりと拭きたいしね・・・」
 
 フォルトとロメリアはその小屋を目指して、街道を歩く。取り合えず何か目標をもって歩かなければやってはいけないと2人共そう思っていた。

 小屋の中に入ると、ひんやりとした空気が漂っており体の汗が一気に引いていく。ロメリアはほっとしたようにベンチに腰掛けてバッグからタオルを取り出して体を拭き始める。

 「ふぅ~ようやく休憩できるよ~・・・フォルト?今何時?」

 フォルトは懐からジョージから貰った懐中時計を取り出して見る。

 「えっと・・・12時38分。もうお昼時だったんだね。・・・ロメリア、ご飯食べようよ?」

 「そうだね!体に日焼け止め塗るからちょっと待ってて。」

 ロメリアはそう言うと、バッグの中から茶色の手のひらに収まる位の円形の筒を取り出すと、その蓋を開けて白いジェル状のものを右手の人差し指と中指で少し掬うとそれを腕や足、顔に薄く塗っていった。

 フォルトがロメリアに声をかける。

 「ロメリア・・・前からずっと思ってたんだけど・・・それ、何からできているの?」

 「えっとね・・・様々な薬草をドロドロに溶かしたモノにアロエエキスを混ぜて出来ているんだよ。日焼け止めは勿論だけど、火傷や切傷といった怪我にもこれを塗れば対処できる優れモノなんだって!」

 「へぇ~・・・万能薬なんだね。・・・因みに、値段は?」

 「6800カーツ。」

 「高っ!そんだけの量でそんなにかかるの⁉」

 「希少な薬草をふんだんに使っているらしく、これでも安い方なんだってよ?」

 「そ、そうなんだ・・・」

 『騙されてないかなぁ、ロメリア・・・』

 フォルトは心配になりながらロメリアを眺める。フォルトの肌は少し黒くなっているのに対して、ロメリアの肌は相変わらず白いままという事なので薬の効能は確かなモノらしいが・・・

 ロメリアは体に塗り終えると、蓋を開けたままフォルトの方にその塗り薬を差し出した。

 「フォルトも使ってみる?」

 「いや、僕は良いよ。僕まで使っちゃったらすぐ無くなりそうだし・・・現にもう後少ししか残っていないじゃないか。一つしか買っていないんでしょ?・・・ロメリアが全部使っていいよ。」
 
 「そう?遠慮しなくていいのに・・・」

 ロメリアは塗り薬の蓋をしめてバッグの中に仕舞った。

 「待たせたね、フォルト!日焼け止めも塗り終わったし、お昼にしようよ!」

 ロメリアがそう言ってバッグの中から昼食を取り出そうとした、その時、

 「っ待って、ロメリア!何か来るっ!」

 フォルトがロメリアに制止をかけると、遠くから馬の足音と荷台の車輪が回る音が聞こえてきた。その音はフォルト達が歩いてきた方から聞こえてきて、どんどん大きくなっていた。

 フォルトが小屋から出て確かめてみると、1つの屋根が付いた荷台を引いている2匹の馬がこちらに向かって走ってきており、1人の帽子を被った男が手綱を握っていた。

 男は小屋の前に近づくと手綱を引いて馬の歩みを遅らせると、小屋の前で馬を止めた。男がフォルトに話しかける。

 「坊主、こんな所で何しとるんか?」

 「今旅をしていまして・・・少しこの小屋で休憩をしていたんです。そしたら貴方の馬達の足音が聞こえてきて・・・」

 フォルトが話していると、ロメリアも会話の中に入ってくる。

 「おじさんは行商人なんですか?」

 「ああ、少し前にあったフェリルの街の祭りに参加しててな、向こうでの用が終わったから今からこの先にある森を抜けた先に『エルステッド』っていう街に向かっとるところや。」

 その中年男性はフォルト達を見る。

 「あんたら見た所・・・馬とか持っとらんようやな?」

 「ええ、持ってないですけど・・・」

 男は髭が生えた顎を擦って目を閉じる。

 「あんたら・・・まさか馬持ってない状態であの森を超えようってつもりか?う~ん・・・それは厳しいと思うぞ?・・・この先森を超えるまでは宿は無いし、何よりこの先にある森はとても広大でな、歩きだと1日じゃ突破できんよ。」

 「そんなに長いんですか⁉」

 「そうだよ。この先の森を超えるには馬を使うか、馬車に乗っていくのが旅人にとって常識なんだが・・・あんたら、そんなことも知らなかったのかい?」

 フォルトとロメリアは恥ずかしそうに互いの顔を見合わせると小さく頷いた。男は小さく溜息をついた。

 「全く・・・今後は基本的な情報はしっかりと仕入れてから旅を続けるんだぜ・・・荷台に乗りな、エルステッドまで送ってやるよ。」

 「え・・・良いんですか?」

 「今日この日にあんたらに会ったのも何かの縁だ。それに、こんな道端で旅初心者の若い嬢ちゃんと坊主を放っておくわけにもいかんやろ?」

 ロメリアとフォルトは頬を緩ませて微笑んだ。
 
 「ありがとうございます、おじさん!」

 「お世話になります!」

 フォルトとロメリアは小屋の中に置いていた荷物を手に取ると、後ろの荷台に乗った。荷台には若い男女が一組乗っており、フォルト達に声をかけてきた。男性の方は馬を操っていた中年の男性と少し顔が似通っているように見える。
 
 「旅の方、今日はよろしくね。」

 「狭いけど、少し我慢してくれな。」

 「いいえ!こちらこそわざわざ乗せて頂きありがとうございます!」

 「ありがとうございます。」

 フォルトとロメリアは荷台に乗っている男女に挨拶を交わすと荷台に乗り込んだ。乗り込んだ瞬間、急に馬車が動き出し、自分達は全く動いていないのに背景と地面が勝手に動いているような感覚に襲われた。

 荷台の中でフォルト達は同じ空間にいる男女と言葉を交わした。

 「私はロメリア・サーフェリートで、この子は弟のフォルト・サーフェリートって言います。エルステッドの街までどうかよろしくお願いします。」

 「へぇ~姉弟で旅をしていらっしゃるのですね。」

 ロメリアはフォルトに寄り添って互いの顔を見つめ合って微笑んだ。男女もそんな2人の表情を見て同じように微笑む。

 男が何かを思い出したかのようにロメリア達に声をかける。

 「申し遅れました、私の名前はアルト・ディング。こちらは私の妻であるミーシャ。そしてこの荷台を引いているのは私の父、グリルです。」

 「あ、皆さんも家族なんですね!」

 「ええ、私と妻は父の仕事を手伝っているんです。父の後を継げるよう現在修行中なんです。」

 アルトはフォルト達に微笑みながらそう話す。フォルト達はアルト達と会話をしながらバッグに入っている昼食を取り始める。

 トマトと鶏肉が挟まったサンドイッチを取り出して、ロメリア達はそれぞれ口に入れていく。鶏肉の旨味とトマトのさっぱりとした食感が口の中に広がる。ロメリア達のお腹が満たされていくとより会話は盛り上がり、直ぐにアルト達と打ち解けることが出来た。

 フォルト達を乗せた荷台は燦々と照っている太陽の元を走り続けた。
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