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~戦乱の序曲編 第15章~

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[帰還命令]

 「はぁッ!」

 フォルトは目の前にいたコーラス・ブリッツの構成員を鎖で拘束して斬りかかった。鎌は男の首を跳ね飛ばし、噴水のように血を噴き出ると男の体は崩れるように地面へと倒れ込む。

 フォルトが男から鎖を巻き取り、周囲を見渡した。リーチェやワーロックを始めとする魔術師達が再襲撃に備えて周囲を警戒している。

 『どうやら・・・今回の襲撃は何とかなったようだね・・・皆は・・・』

 フォルトの視線の先には何人ものテロリストを地に伏せさせているロメリアの姿や周囲に死屍累々の山を築いているヴァスティーソとガーヴェラ、そして負傷した兵士の救護を行っているシャーロットの姿が映っていた。

 更に視線を移すと八重紅狼であろう女の骸を抱いたまま座り込んでいるケストレルの姿が見えた。彼も八重紅狼を撃破したようだが遠くから見て分かる程怪我が酷く、シャーロットがケストレルの傍へと行って驚愕しながら何か話をしている。ケストレルの傍にガーヴェラとヴァスティーソも向かい、何か話をしているようだ。

 「フォルト!そっちは片付いた⁉」

 フォルトがケストレル達の方に気を取られていると、ロメリアがフォルトの傍にやって来て声をかけた。フォルトは怪我も無く、至って健康のロメリアの姿を見て安堵すると返事をする。

 「うん、こっちも片付いたよ。・・・ロメリア、何処か怪我は・・・」

 「してないよ。全くぅ、フォルトは心配性なんだからぁ~。」

 ロメリアがフォルトの左頬に右手の人差し指を軽く押し当てる。フォルトが左目を閉じて恥ずかしく顔を後ろへと下げると、ロメリアはからかうように微笑んだ。

 「ううっ、からかわないでよ・・・」

 「えへへ~、だってフォルトが可愛いんだもんしょうがないじゃん?弟をからかうのはお姉ちゃんの仕事でしょ?」

 「・・・」

 フォルトが満面の笑顔を向けているロメリアに呆れて溜息をつくと、ロメリアがケストレル達の方を向いた。

 「ねぇ、フォルト!ケストレル達の所に行こうよ!みんな集まってるし、何か話してるみたい。」

 「・・・うん。」

 フォルトはケストレル達の方へと走っていくロメリアの後ろを付いて行く。ロメリアとフォルトがケストレル達の所へ合流すると、ガーヴェラが2人の方を向いて話しかけてきた。

 「おお、来たか2人共。・・・レイアだったか?彼女を元に戻したようだな?」

 「うん、オルターさんのサポートもあって何とかね。黄金の葡萄を持ってて良かったよ・・・あれが無かったら元に戻せなかったから・・・」

 「そうか・・・お手柄だったな。・・・まだ黄金の葡萄は残ってるのか?」

 「5個残ってるけど・・・多分こんな戦いが続くと直ぐに無くなると思う。なるべく怪我をしないよう戦わないと・・・」

 「そうだな。黄金の葡萄は死者すら肉体さえあれば甦らすことが出来る力を持つ・・・無暗な使用は控えるべきだな。・・・まぁ、黄金の葡萄に関してはフォルトとロメリア、お前達に任せる。お前達の物だからな・・・」

 「分かった。でも必要な時は言ってね?使用するのを渋ってたら元も子も無いから・・・」

 フォルトとガーヴェラが会話をしていると、ロメリアが座り込んでいるケストレルに声をかける。ケストレルの傍にはシャーロットも座り込んで治癒術をかけており、彼の傷がゆっくりと塞がっていて皮膚の色が徐々に色を帯びていっていた。

 「というかケストレル大丈夫なの⁉体中傷だらけだけど・・・」

 「大丈夫・・・て言えるようになったって感じだな、今の段階では。さっきまでは死ぬかと思ったけど。」

 「黄金の葡萄、ケストレルも持ってたでしょ?確か3個・・・使わないの?」

 「使わねぇよ。シャーロットの治癒術で何とかなりそうだし・・・それに俺はお前達から貰ったこの黄金の葡萄を自分の為には使わねぇって決めてるんだよ。」

 「そ、そんなの駄目だよ!折角渡してるんだから使わないと・・・ケストレルが死んだら持ってる意味無いじゃん!」

 「大丈夫だよ、心配すんな。死なねぇようこっちも精一杯工夫してるからよ。それよりも俺の事じゃなくて自分の事心配しろよ、ロメリア。お前の方が危なっかしくて見てらんねぇんだけど・・・」

 ケストレルはそう言うと、大きな溜息をついて会話を止める。シャーロットはただ無言でケストレルに治癒術をかけ続け、ロメリアもケストレルを見下ろしながら言葉を失っていた。

 ヴァスティーソがそんな中髪の毛を軽く掻きむしると、ガーヴェラとフォルトの方を向いて声をかけた。

 「にしても統括局の長がコーラス・ブリッツのトップで八重紅狼の主席とは偉いことになったねぇ~?」

 「コーラス・ブリッツ程の巨大なテロリスト集団を率いているからそれなりに権力を持っている奴だろうとは思ってはいましたが・・・まさか同盟国の長とは驚きでしたね。それに・・・奴がジャッカルの血族・・・それも弟とは・・・」

 「300年近く肉体を変えながら生き続けている・・・一体何にそこまでこだわっているんだろうね~?」

 「でも彼の身に纏っていた闘気・・・それに殺気は今まで経験したことの無い程だった・・・」

 「・・・少年も感じ取れたのか?」

 「うん・・・というか皆も感じたでしょ、あの尋常じゃない殺気は。」

 フォルトの言葉にシャーロット・ロメリア・ケストレルが頷いた。

 「はい・・・あの人の殺気を受けて・・・背骨が抜かれるような・・・恐ろしい感覚を・・・覚えました・・・」

 「私も感じたよ。殺気だけで心臓を止めてしまいそうな・・・悍ましい気配だった・・・」

 「俺も初めて主席と会ったが・・・あんな歪な闘気を漲らせている男は今まで戦った奴らにはいねぇ異質さを感じたぜ・・・」

 ケストレル達がもうこの場にいないウルフェンに対して冷や汗を流す中、フォルトがウルフェンの顔を思い出しながら呟く。フォルトは先程からウルフェンの顔を思い浮かべる度に胸が痛む感覚を味わっていた。

 「僕達、あのウルフェンとかいう男と戦わないと・・・いけないんだよね?」

 「ああ・・・奴がコーラス・ブリッツを率いている以上、対処せざるを得ない・・・刺し違えても倒さなければ・・・世界を滅ぼしかねん奴だからな・・・」

 「刺し違える程実力が拮抗するかも怪しいけどね~。」

 「で・・・でも私達6人掛かりで戦えばきっと・・・」

 「勝てる・・・って言えないのが残念だな。・・・確実に言えるのは勝てる可能性はあるにはあるが、こちらも無事では済まないってことだ。」

 「何でそんな風に思うん・・・ですか?」

 「勘だよ、勘。根拠なんかねぇ。・・・ただ根拠は無くてもそう言える、奴と会ってはっきりとそれは分かった。」

 ケストレルの言葉を受けて一同は黙り込んだ。誰しもがあのウルフェンという男と戦ったことは無いが、それでも彼の異常さを感じ取っていた。根拠は無いが全員が否定できない・・・それほどウルフェンという男は異質な気配を放出していたのだった。

 ケストレルは膝の上に置いていたアリアの頭をそっと自分の体の横に移動させる。フォルトがアリアの遺体を見て、ケストレルに話しかける。

 「ケストレル・・・その女の人、妹さん・・・何だよね?」
 
 「ああ。」

 「・・・殺したの?」

 「見たら分かんだろ?殺したよ、この手でな。」

 「・・・」

 「何だ、フォルト。実の妹殺すなんて普通じゃないって思ってんのか?」

 「・・・ちょっぴり。」

 「素直だな、お前。」

 ケストレルが軽く鼻で笑うと、アリアの方に視線を向ける。アリアの肌は雪のように真っ白に染まり、人形のように冷たくなっていた。

 「妹だろうが関係ねぇよ・・・こいつは俺達の『敵』、倒すべき対象だ。だから殺した・・・ただそれだけだ。」

 「・・・」

 「それにこいつを殺したおかげで奪われてた状態異常能力も戻った。・・・ようやく本調子って感じだな。」

 ケストレルはそう言って自分の右手を見つめて拳を握りしめた。この時、ケストレルは不敵に頬を吊り上げて笑みを浮かべていたがその拳を見つめる瞳が潤んでいでいるのをフォルトは見逃さなかった。フォルトは何も言わず、ケストレルを哀しい目で見つめていた。

 その時フォルト達の下にリーチェとワーロックがやって来た。ガーヴェラが2人と会話を始める。

 「リーチェさん、ワーロックさんもご無事で何よりです。」

 「いいえ、私達の方こそ皆様を巻き込んで申し訳ない。それに、貴女達がいなければ事態はより悪化していたでしょう。・・・統括局を代表して感謝致します。」

 「頭を上げて下さい、ワーロックさん。我々は同盟を結んでいるのですよ?今回のような有事の際には互いに手を取り合って助け合う・・・当然の事をしたまでですので頭を下げないで下さい。・・・ところで、統括局はこの後どのように動くつもりなんですか?」

 「今後は局長の身辺調査と戦備態勢を同時に行っていくつもりです。恐らく彼らは直ぐにでもアクションを起こしてくるはず・・・我々も貴女達古都軍と共に戦う為、備えておくつもりです。それと調査内容に関しても直ぐにお伝えしますよ。」

 「分かりました、貴方達統括局の協力に感謝します。」

 「同盟国ですから当然ですよ、このぐらいの協力は。」

 リーチェがガーヴェラに微笑んだその時、1人の魔術師がリーチェの傍にやって来て報告を始める。その魔術師の額には大量の汗が流れていて顔色も悪く、息も荒かった。

 「ほ、報告します!た、たった今帝都フォルエンシュテュールがコーラス・ブリッツにより壊滅したとの報告がありました!被害規模は不明!避難民達が南部のサンセットフィート港に雪崩れ込んでいる模様!」

 男の報告を受けてフォルト達は一気に騒めいた。

 「帝都が・・・壊滅だと・・・」

 「おっとぉ~、奴ら直ぐにアクション起こしてきたねぇ~。・・・とうとう本気で戦争をおっぱじめるようだね。」

 ガーヴェラとヴァスティーソが反応する中、フォルトがロメリアの方に視線を向ける。彼女は両手を胸の前で組んで小刻みに両手を震わせていた。目線はただ虚空を見つめ、信じられないものを見るように口元が震えていた。

 フォルトは咄嗟にロメリアの下へと駆け寄ると、声をかける。

 「ロメリア、大丈夫?」

 「・・・え・・・い・・・うん・・・大丈夫だよ・・・」

 ロメリアは小さく消えそうな声で返事をしたが、相変わらず声は震えていて全然大丈夫そうに聞こえなかった。フォルトがロメリアを心配そうに見つめていると、魔術師の男が報告を続ける。

 「そして古都からガーヴェラ様達に対してお知らせがございます。」

 「古都から?陛下からか?」

 「はい。・・・『作戦会議を行う為、大至急古都に帰還せよ。』とのことです。」

 「大至急っつっても1週間はかかるぞ?古都とウィンデルバーグの距離分かってんのかルーストの野郎は・・・」

 ヴァスティーソが呟くと、ワーロックが話しかける。

 「その点に関しては問題ありませんよ、ヴァスティーソ大隊長。私の転送術で直ぐに皆様を古都までお送りしますので。」

 「ほぉ~ん。直ぐ、ねぇ・・・どんぐらい早く展開できるの?転送術って結構作成するのに時間がかかるって言われてるけど?」

 ヴァスティーソがワーロックに尋ねた瞬間、フォルト達の周囲に浅黄色の結界が張られた。フォルト達が視線を下に向けて驚いていると、ワーロックが返事をする。

 「それは『一般的な魔術師なら』のお話ですね。私には関係ありません。錬金術を私は専門としていますが、結界術に関してもそれなりに精通しているんですよ?」

 「・・・流石副局長を名乗るだけのことはあるな。」

 ケストレルがワーロックを横目で見ながら呟いた。ワーロックが術に集中している中、リーチェがフォルト達に話しかける。

 「皆さん、私達も直ぐにそちらへと合流します!・・・フォルト君、ロメリアさん!レイアさんに関しては私達がしっかりと保護しますから安心してください!」

 「分かりました!」

 「ありがとうございます!」

 フォルトとロメリアが感謝の言葉を述べると、リーチェは優しく微笑んだ。そして次の瞬間、周りの景色が見えなくなり、ふわっと内臓が持ち上がるような浮遊感を覚えた。
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