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~決戦前夜編 第9章~
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[大型航空船団]
「嘘ッ⁉これって船だよね⁉何で・・・何で空に浮いてるの⁉」
城から出た先に広がっていた光景にロメリア達は驚愕した。周りにいる兵士達も皆口を大きく上げて天を見る。
それもそうだろう___目の前に『鯨のような大きな船』が空に浮いてのだから。
「コイツはたまげたな。こんなもんでっけえもの何処に隠し持ってたんだよ。」
ケストレルがぼそりと呟く。以前フォルト達がウィンデルバーグへ訪れた際にはこのような船を保有しているような雰囲気は感じ取れなかった。
上空には4隻もの船が浮いており、それらはゆっくりと降下してくる。船底部には無数の大きな穴が開いており、その穴から青色の炎が噴き出している。
4隻の内、一隻の船が城の前の広場に着陸する。そして甲板から板が伸びてきて、魔術師達が降りてきた。
彼らは船の前にいたワーロック達へと近づく。ワーロックは彼らに向かって声をかける。
「ようやく来たか。少し遅かったな。」
「遅れて申し訳ありません、副局長。『彼ら』を運ぶのに少々時間がかかりまして・・・」
「彼ら?」
ナターシャが首を傾げると、船の上から古都軍の兵士が降りてきた。彼らの姿を見たクローサーが目を大きく開く。
「遠征部隊の連中!手前らが今言ってた『彼ら』っつうのはこいつらのことだったのか。」
「はい。前線『だと思われていた場所』に派遣されていた遠征部隊のことです。古都軍の被害を受けて、ワーロック副局長が彼らを古都まで連れて来るようにとの指令があり、古都へ帰還中の彼らを船に乗せてここまで・・・」
「全員おりますの?」
「いいえ。我々の『船』に乗船しているのは派遣されていた4万5000人の内1万程度です。残りは船に乗っていた我々の仲間と共に待機して頂いております。」
「残りの兵士はどうやって運ぶ気なの?」
「待機して頂いている場所と古都を転送術で結び、移動してもらいます。その為に向こうに私達の仲間を置いてきたのですから。」
ヴァスティーソはその魔術師の話を聞いて『ふ~ん』と呟き、腕を組んだ。クローサーが船を見上げるように見る。
「・・・それにしても随分とでけぇ船だな。こんなもん何時作ってたんだよ、ワーロックさんよぉ?」
「完成したのはちょうど一年前。およそ一世紀の長い時を経て漸く完成した大陸中の魔術の粋を集めて作り上げた傑作だ。」
「あれ魔術で浮いてんのか?あの青い炎も普通の炎じゃねぇってことか?」
「あの炎は魔力の塊であるマナの結晶を砕いた時に発生する魔力の炎だ。マナの結晶は砕くと内部にある膨大な魔力が外へ流れ出し、それがこの船の燃料となっている。」
その話を聞いたヴァスティーソが大きな溜息をつく。
「はぇ~すっごいねぇ~。因みにこの船何人乗れるんだい?」
「1隻辺り3000人程度・・・物資も人数分乗せられる。」
「4隻あるってことは1万2000人程度か。」
「にしてもこれらの船はウィンデルバーグにありましたのよね?ウルフェン・・・あの男もこの船に関しては知っていたのでしょう?」
「身分を偽ってたにしても局長を務めてたからね~。何で盗まなかったんだろうね?」
ナターシャとヴァスティーソがワーロックに疑問を投げかける。ワーロックは腕を組んでしばらく考え込む。
「・・・確かにあの男もこの船の建造には深くかかわっている。正直、我々にも何故あの男がこの『航空船』を奪わなかったのかは分からない。奴ら程の武力を持つ集団なら、我々如き問題ないはずなのだがな・・・」
ワーロックが呟くと、ヴァスティーソが声を上げる。
「・・・必要無かったんじゃない?数万の大軍を一瞬で平原に展開した魔術陣を使える奴がいたし。兵器や食料の輸送もそれですぐに出来ちゃうからね。」
「確かになぁ。こんなデカブツで運ぶよりもそっちの方が早ぇ。」
クローサーは腰に手を当てて船を見上げる。ヴァスティーソは腕を組み、目を細める。
「それに・・・『罠』が仕掛けられてるかも。」
「えっ⁉罠ッて・・・どういうことですの?」
「奴らがこの船を残した理由はただ単に不便だったからじゃないってこと。俺達は奴らみたく高度な魔術は使えない。遠くへ行くにはこいつに乗らないといけないんだ。」
ヴァスティーソがそう言うと、ガーヴェラが口を挟んだ。
「・・・成程、分かったぞ!奴らは私達がこの船を利用するのを見越して罠を仕掛けているかもしれないってことだな?私達全員がこの船へ乗船した直後に発動する魔術とか・・・」
「ご明察。その通りだよ、ガーヴェラちゃん。」
「『ちゃん』はつけるな。」
ガーヴェラがヴァスティーソを不快そうに睨みつける。ヴァスティーソが軽く笑みを浮かべている中、ワーロックが反論する。
「だが我々があの襲撃の後点検した際には何も異変は・・・」
「無いだろうね。現にこうやってここにあるんだし。あったら飛ばさないでしょ?」
ヴァスティーソは溜息をつく。
「でもあの男・・・アスタルドなら君達に感づかれない魔術陣を張れるはずだよ。なんせ今の僕達が使ってる魔術よりも遥かに進化したものを使っていたんだからね。見つけられやしないよ。」
「ではどうする?お前のことだ、何か案があるのだろう?」
ラグナロックがヴァスティーソへ告げると、ヴァスティーソは城門前にいたフォルト達の方へ体を向け、手招きする。
「シャーロットちゃ~ん!ちょっと来てくれる~?」
妙に甘く気味悪い声が響く。シャーロットは思わず、頬を引きつる。
「な・・・何でしょうか?呼ばれてますけど・・・」
「さぁ、分からないね。・・・でも、きっと何かあるんだと思う。行って見よう。」
「そだね!何かあったら私達でヴァスティーソをぶっ飛ばしちゃえばいいんだもんね!」
「そうだな。」
「えぇ・・・流石にこの状況で変な事しないと思うけど・・・」
「・・・船んときのこと忘れたのか?」
「あぁ・・・そっか・・・」
フォルトがケストレルの言葉を聞いて、その時のことを思い出した。・・・そんな訳ないと断言できないのが、ヴァスティーソだったとフォルトは何処か悲しそうに溜息をついた。
フォルト達はヴァスティーソ達の所へ向かうと、ヴァスティーソがシャーロットに話しかける。
「ごめんね、大声で呼んじゃって。」
「いいえ、別に・・・何でしょうか?」
「あぁ、えっとね。この船をシャーロットちゃん調べて欲しいんだ。」
「私に・・・ですか?」
「そう。実はね、この船にでっかい爆弾が仕掛けられてるかもしれないんだよ~。」
「えぇッ⁉」
シャーロット達は驚きの声を上げる。
「おい、ヴァスティーソ!」
「何だよ、クローサー。別にいいだろ、言ったって。事実なんだし。多分。」
「多分・・・」
ヴァスティーソはシャーロットに視線を向ける。
「爆弾が仕掛けられてるって言っても目で見えるものじゃ無いんだよね。多分、魔力で構成された肉眼では不可視の爆弾。しかもそれを隠す迷彩効果の結界もついてると思うんだ。」
ヴァスティーソがそう言うと、シャーロットは自信なさげに呟く。
「・・・大体分かりました。それを私に見つけて解除して下さいってことですよね?」
「流石!その通りだよ、シャーロットちゃん!・・・シャーロットちゃんは魔力の探知に長けているヴァンパイア族の中でも群を抜いて優れているからね。それにジャッカルの武器である魔術書に込められている膨大な魔力を御せる位に扱いにも長けている。シャーロットちゃんなら見つけられるよ。」
「・・・」
「大丈夫!見つけられなかった時は爆弾なんて無かったってことだから!」
「・・・もし見逃していたら?」
「その時は皆で爆散しようよ。派手に。」
「えぇ・・・」
シャーロットは危機感を全く感じられないヴァスティーソの返事にどう返事すればいいか分からなかった。そんな中、シャーロットは意を決し、船の傍に近づく。
シャーロットが着陸している一隻の飛行船の船底に手を触れて目を瞑る。その様子を見ていたロメリアがフォルトに話しかける。
「ねぇ大丈夫かな?突然爆発したりしないよね?」
「・・・多分。誰かが探り当てた瞬間に反応する術式だったら・・・」
フォルトの発言にロメリアがごくりと唾をのむ。フォルトもシャーロットがその場から動かずに瞑想している姿を見ながら心臓をバクバクさせながら見る。
___すると直後、突然首にかけている時計が淡い白い光を発し始めた。『カチッ・・・カチッ・・・』と針が動く音が静かに響き、周囲の視線がフォルトに集まる。
「ちょっとフォルト・・・どうしたの?」
「わ、分かんない。突然時計が光り出して・・・」
フォルト含め、周囲の人々が困惑していたその時___
「___ッ!見つけましたッ!」
シャーロットが目を開いて叫んだ___瞬間。
ブオォォォォォンッ!
シャーロットが触れている船底に大きな赤い紋章が浮かび上がった。その紋章は禍々しいオーラを発しており、空中で待機している3隻の飛行船の船底にも同じ紋章が現れた。
「何だあの紋章は⁉」
「・・・やっぱり仕掛けてあったかッ!」
「シャーロット!そこから離れなさい!」
キャレットが叫ぶが、シャーロットは船底に着けた手を離せないでいた。彼女の手はまるで釘で板に打ちつけられているようだった。
「な・・・何で⁉」
「シャーロット!」
キャレットがシャーロットの傍へ近づき、体を引っ張る。それでも手は離れなかった。
「ぐッ・・・ぐぅぅぅぅぅッ!」
「お姉ちゃん!あ、危ないから逃げて・・・」
「あんた置いて逃げれる訳ないでしょ、馬鹿!何でよ・・・何で離れないのよ!」
キャレットは懸命にシャーロットの細い腕を引っ張るがビクともしない。不気味な赤い光線を放つ紋章は輝きを増し、魔力が溢れ出る。
「おい2人共!さっさと離れろ!船に乗ってる奴らもとっとと降りろ!」
「降りろって・・・この飛行船相当高いですわよ⁉飛び降りれば間違いなく助かりませんわ!」
「マズいぜ、これ。あれだけの魔力が一気に放出されたら・・・」
「ここら一帯消し飛ぶな。」
「それに上空にある3隻の飛行船・・・これらも一気に爆発するだろうし、間違いなく助からないね。」
「冷静に言ってる場合⁉」
ロメリアがヴァスティーソに叫ぶ。ケストレルがシャーロットに叫ぶ。
「シャーロット!術が解放される前に解けるか⁉」
「や・・・やってみます!」
シャーロットはケストレルの言葉を受けて、目の前の術の解除に取り掛かった。だが、シャーロットは瞬く間に絶望へと叩き落とされた。
『な・・・何ですか、この術は・・・幾層にも術が重ねられていて・・・解除の術が定まらないッ!しかも1つ解除しても、直ぐに他の術を解かないと再構成されるなんて・・・こんなの、どうしたら・・・』
シャーロットの手が震える。異変に気付いたキャレットが声をかける。
「どうしたの⁉さっさと解除しなさいよ!」
「・・・ない。」
「え?」
「・・・出来ないッ!解除・・・出来ない!」
シャーロットは体を震わせながら叫ぶ。周りにいた皆の体に悪寒が走る。
「な・・・んだと?」
「ちょっと、どうしたのよ?何があったの?」
「・・・この術は複雑で・・・直ぐには解けない・・・それに私も見たことがない術式が描かれてて・・・体の魔力も・・・徐々に抜かれて・・・」
「・・・」
シャーロットはキャレットへ叫ぶ。
「お姉ちゃん、逃げて!私、何とか術の威力を抑えてみるから・・・」
「それじゃああんたが助からないじゃない!」
「でも全滅するより・・・」
シャーロットが言葉を続けようとすると、キャレットはシャーロットの体を強く抱きしめた。絶対に離れないという強い意思がシャーロットに伝わる。
「お姉ちゃん?」
「・・・絶対に離れないわよ。妹を置いて逃げる姉なんてダサすぎて・・・お母さんとお父さんに顔向けできない・・・」
「お姉ちゃん・・・」
シャーロットはキャレットの手に自分の手をのせる。禍々しい術式が夥しい魔力を放つ。
「くそっ!発動するぞ!」
「畜生ッ!こんな所で全滅するのか、私達は!」
ガーヴェラが悔しそうに唇を噛む。皆、何もできないもどかしさが表情に出ていた。
そんな中、フォルトは先程から白い光を放つ時計を握りしめていた。時計から放たれる魔力はどんどん膨れ上がっていく。
『・・・僕には何かできないのか?』
フォルトは時計に目をやる。脳裏に港でヨーゼフと戦った時の記憶が浮かぶ。
『あの子と戦った時・・・この時計は能力を打ち消した・・・もしかしたらこの時計は・・・』
フォルトは時計を握りしめる。そしてシャーロットとキャレットの方へ走り出した。
「フォルト⁉」
ロメリアが叫ぶ。周りの皆が動揺する中、フォルトは時計を天にかざす。時計の光は太陽の如き輝きを放つ。
『今、使いこなせるか分からないけど・・・やるしかない!やらなきゃ・・・いけないんだ!』
フォルトは時計を天にかざす。そして自分の意識に反して勝手に叫んだ。
『リミテッドバースト・・・《廻郭絶界(かいかくぜっかい)》!』
フォルトの叫びと同時に歯車の紋章が刻まれた結界が周囲に展開された。
「嘘ッ⁉これって船だよね⁉何で・・・何で空に浮いてるの⁉」
城から出た先に広がっていた光景にロメリア達は驚愕した。周りにいる兵士達も皆口を大きく上げて天を見る。
それもそうだろう___目の前に『鯨のような大きな船』が空に浮いてのだから。
「コイツはたまげたな。こんなもんでっけえもの何処に隠し持ってたんだよ。」
ケストレルがぼそりと呟く。以前フォルト達がウィンデルバーグへ訪れた際にはこのような船を保有しているような雰囲気は感じ取れなかった。
上空には4隻もの船が浮いており、それらはゆっくりと降下してくる。船底部には無数の大きな穴が開いており、その穴から青色の炎が噴き出している。
4隻の内、一隻の船が城の前の広場に着陸する。そして甲板から板が伸びてきて、魔術師達が降りてきた。
彼らは船の前にいたワーロック達へと近づく。ワーロックは彼らに向かって声をかける。
「ようやく来たか。少し遅かったな。」
「遅れて申し訳ありません、副局長。『彼ら』を運ぶのに少々時間がかかりまして・・・」
「彼ら?」
ナターシャが首を傾げると、船の上から古都軍の兵士が降りてきた。彼らの姿を見たクローサーが目を大きく開く。
「遠征部隊の連中!手前らが今言ってた『彼ら』っつうのはこいつらのことだったのか。」
「はい。前線『だと思われていた場所』に派遣されていた遠征部隊のことです。古都軍の被害を受けて、ワーロック副局長が彼らを古都まで連れて来るようにとの指令があり、古都へ帰還中の彼らを船に乗せてここまで・・・」
「全員おりますの?」
「いいえ。我々の『船』に乗船しているのは派遣されていた4万5000人の内1万程度です。残りは船に乗っていた我々の仲間と共に待機して頂いております。」
「残りの兵士はどうやって運ぶ気なの?」
「待機して頂いている場所と古都を転送術で結び、移動してもらいます。その為に向こうに私達の仲間を置いてきたのですから。」
ヴァスティーソはその魔術師の話を聞いて『ふ~ん』と呟き、腕を組んだ。クローサーが船を見上げるように見る。
「・・・それにしても随分とでけぇ船だな。こんなもん何時作ってたんだよ、ワーロックさんよぉ?」
「完成したのはちょうど一年前。およそ一世紀の長い時を経て漸く完成した大陸中の魔術の粋を集めて作り上げた傑作だ。」
「あれ魔術で浮いてんのか?あの青い炎も普通の炎じゃねぇってことか?」
「あの炎は魔力の塊であるマナの結晶を砕いた時に発生する魔力の炎だ。マナの結晶は砕くと内部にある膨大な魔力が外へ流れ出し、それがこの船の燃料となっている。」
その話を聞いたヴァスティーソが大きな溜息をつく。
「はぇ~すっごいねぇ~。因みにこの船何人乗れるんだい?」
「1隻辺り3000人程度・・・物資も人数分乗せられる。」
「4隻あるってことは1万2000人程度か。」
「にしてもこれらの船はウィンデルバーグにありましたのよね?ウルフェン・・・あの男もこの船に関しては知っていたのでしょう?」
「身分を偽ってたにしても局長を務めてたからね~。何で盗まなかったんだろうね?」
ナターシャとヴァスティーソがワーロックに疑問を投げかける。ワーロックは腕を組んでしばらく考え込む。
「・・・確かにあの男もこの船の建造には深くかかわっている。正直、我々にも何故あの男がこの『航空船』を奪わなかったのかは分からない。奴ら程の武力を持つ集団なら、我々如き問題ないはずなのだがな・・・」
ワーロックが呟くと、ヴァスティーソが声を上げる。
「・・・必要無かったんじゃない?数万の大軍を一瞬で平原に展開した魔術陣を使える奴がいたし。兵器や食料の輸送もそれですぐに出来ちゃうからね。」
「確かになぁ。こんなデカブツで運ぶよりもそっちの方が早ぇ。」
クローサーは腰に手を当てて船を見上げる。ヴァスティーソは腕を組み、目を細める。
「それに・・・『罠』が仕掛けられてるかも。」
「えっ⁉罠ッて・・・どういうことですの?」
「奴らがこの船を残した理由はただ単に不便だったからじゃないってこと。俺達は奴らみたく高度な魔術は使えない。遠くへ行くにはこいつに乗らないといけないんだ。」
ヴァスティーソがそう言うと、ガーヴェラが口を挟んだ。
「・・・成程、分かったぞ!奴らは私達がこの船を利用するのを見越して罠を仕掛けているかもしれないってことだな?私達全員がこの船へ乗船した直後に発動する魔術とか・・・」
「ご明察。その通りだよ、ガーヴェラちゃん。」
「『ちゃん』はつけるな。」
ガーヴェラがヴァスティーソを不快そうに睨みつける。ヴァスティーソが軽く笑みを浮かべている中、ワーロックが反論する。
「だが我々があの襲撃の後点検した際には何も異変は・・・」
「無いだろうね。現にこうやってここにあるんだし。あったら飛ばさないでしょ?」
ヴァスティーソは溜息をつく。
「でもあの男・・・アスタルドなら君達に感づかれない魔術陣を張れるはずだよ。なんせ今の僕達が使ってる魔術よりも遥かに進化したものを使っていたんだからね。見つけられやしないよ。」
「ではどうする?お前のことだ、何か案があるのだろう?」
ラグナロックがヴァスティーソへ告げると、ヴァスティーソは城門前にいたフォルト達の方へ体を向け、手招きする。
「シャーロットちゃ~ん!ちょっと来てくれる~?」
妙に甘く気味悪い声が響く。シャーロットは思わず、頬を引きつる。
「な・・・何でしょうか?呼ばれてますけど・・・」
「さぁ、分からないね。・・・でも、きっと何かあるんだと思う。行って見よう。」
「そだね!何かあったら私達でヴァスティーソをぶっ飛ばしちゃえばいいんだもんね!」
「そうだな。」
「えぇ・・・流石にこの状況で変な事しないと思うけど・・・」
「・・・船んときのこと忘れたのか?」
「あぁ・・・そっか・・・」
フォルトがケストレルの言葉を聞いて、その時のことを思い出した。・・・そんな訳ないと断言できないのが、ヴァスティーソだったとフォルトは何処か悲しそうに溜息をついた。
フォルト達はヴァスティーソ達の所へ向かうと、ヴァスティーソがシャーロットに話しかける。
「ごめんね、大声で呼んじゃって。」
「いいえ、別に・・・何でしょうか?」
「あぁ、えっとね。この船をシャーロットちゃん調べて欲しいんだ。」
「私に・・・ですか?」
「そう。実はね、この船にでっかい爆弾が仕掛けられてるかもしれないんだよ~。」
「えぇッ⁉」
シャーロット達は驚きの声を上げる。
「おい、ヴァスティーソ!」
「何だよ、クローサー。別にいいだろ、言ったって。事実なんだし。多分。」
「多分・・・」
ヴァスティーソはシャーロットに視線を向ける。
「爆弾が仕掛けられてるって言っても目で見えるものじゃ無いんだよね。多分、魔力で構成された肉眼では不可視の爆弾。しかもそれを隠す迷彩効果の結界もついてると思うんだ。」
ヴァスティーソがそう言うと、シャーロットは自信なさげに呟く。
「・・・大体分かりました。それを私に見つけて解除して下さいってことですよね?」
「流石!その通りだよ、シャーロットちゃん!・・・シャーロットちゃんは魔力の探知に長けているヴァンパイア族の中でも群を抜いて優れているからね。それにジャッカルの武器である魔術書に込められている膨大な魔力を御せる位に扱いにも長けている。シャーロットちゃんなら見つけられるよ。」
「・・・」
「大丈夫!見つけられなかった時は爆弾なんて無かったってことだから!」
「・・・もし見逃していたら?」
「その時は皆で爆散しようよ。派手に。」
「えぇ・・・」
シャーロットは危機感を全く感じられないヴァスティーソの返事にどう返事すればいいか分からなかった。そんな中、シャーロットは意を決し、船の傍に近づく。
シャーロットが着陸している一隻の飛行船の船底に手を触れて目を瞑る。その様子を見ていたロメリアがフォルトに話しかける。
「ねぇ大丈夫かな?突然爆発したりしないよね?」
「・・・多分。誰かが探り当てた瞬間に反応する術式だったら・・・」
フォルトの発言にロメリアがごくりと唾をのむ。フォルトもシャーロットがその場から動かずに瞑想している姿を見ながら心臓をバクバクさせながら見る。
___すると直後、突然首にかけている時計が淡い白い光を発し始めた。『カチッ・・・カチッ・・・』と針が動く音が静かに響き、周囲の視線がフォルトに集まる。
「ちょっとフォルト・・・どうしたの?」
「わ、分かんない。突然時計が光り出して・・・」
フォルト含め、周囲の人々が困惑していたその時___
「___ッ!見つけましたッ!」
シャーロットが目を開いて叫んだ___瞬間。
ブオォォォォォンッ!
シャーロットが触れている船底に大きな赤い紋章が浮かび上がった。その紋章は禍々しいオーラを発しており、空中で待機している3隻の飛行船の船底にも同じ紋章が現れた。
「何だあの紋章は⁉」
「・・・やっぱり仕掛けてあったかッ!」
「シャーロット!そこから離れなさい!」
キャレットが叫ぶが、シャーロットは船底に着けた手を離せないでいた。彼女の手はまるで釘で板に打ちつけられているようだった。
「な・・・何で⁉」
「シャーロット!」
キャレットがシャーロットの傍へ近づき、体を引っ張る。それでも手は離れなかった。
「ぐッ・・・ぐぅぅぅぅぅッ!」
「お姉ちゃん!あ、危ないから逃げて・・・」
「あんた置いて逃げれる訳ないでしょ、馬鹿!何でよ・・・何で離れないのよ!」
キャレットは懸命にシャーロットの細い腕を引っ張るがビクともしない。不気味な赤い光線を放つ紋章は輝きを増し、魔力が溢れ出る。
「おい2人共!さっさと離れろ!船に乗ってる奴らもとっとと降りろ!」
「降りろって・・・この飛行船相当高いですわよ⁉飛び降りれば間違いなく助かりませんわ!」
「マズいぜ、これ。あれだけの魔力が一気に放出されたら・・・」
「ここら一帯消し飛ぶな。」
「それに上空にある3隻の飛行船・・・これらも一気に爆発するだろうし、間違いなく助からないね。」
「冷静に言ってる場合⁉」
ロメリアがヴァスティーソに叫ぶ。ケストレルがシャーロットに叫ぶ。
「シャーロット!術が解放される前に解けるか⁉」
「や・・・やってみます!」
シャーロットはケストレルの言葉を受けて、目の前の術の解除に取り掛かった。だが、シャーロットは瞬く間に絶望へと叩き落とされた。
『な・・・何ですか、この術は・・・幾層にも術が重ねられていて・・・解除の術が定まらないッ!しかも1つ解除しても、直ぐに他の術を解かないと再構成されるなんて・・・こんなの、どうしたら・・・』
シャーロットの手が震える。異変に気付いたキャレットが声をかける。
「どうしたの⁉さっさと解除しなさいよ!」
「・・・ない。」
「え?」
「・・・出来ないッ!解除・・・出来ない!」
シャーロットは体を震わせながら叫ぶ。周りにいた皆の体に悪寒が走る。
「な・・・んだと?」
「ちょっと、どうしたのよ?何があったの?」
「・・・この術は複雑で・・・直ぐには解けない・・・それに私も見たことがない術式が描かれてて・・・体の魔力も・・・徐々に抜かれて・・・」
「・・・」
シャーロットはキャレットへ叫ぶ。
「お姉ちゃん、逃げて!私、何とか術の威力を抑えてみるから・・・」
「それじゃああんたが助からないじゃない!」
「でも全滅するより・・・」
シャーロットが言葉を続けようとすると、キャレットはシャーロットの体を強く抱きしめた。絶対に離れないという強い意思がシャーロットに伝わる。
「お姉ちゃん?」
「・・・絶対に離れないわよ。妹を置いて逃げる姉なんてダサすぎて・・・お母さんとお父さんに顔向けできない・・・」
「お姉ちゃん・・・」
シャーロットはキャレットの手に自分の手をのせる。禍々しい術式が夥しい魔力を放つ。
「くそっ!発動するぞ!」
「畜生ッ!こんな所で全滅するのか、私達は!」
ガーヴェラが悔しそうに唇を噛む。皆、何もできないもどかしさが表情に出ていた。
そんな中、フォルトは先程から白い光を放つ時計を握りしめていた。時計から放たれる魔力はどんどん膨れ上がっていく。
『・・・僕には何かできないのか?』
フォルトは時計に目をやる。脳裏に港でヨーゼフと戦った時の記憶が浮かぶ。
『あの子と戦った時・・・この時計は能力を打ち消した・・・もしかしたらこの時計は・・・』
フォルトは時計を握りしめる。そしてシャーロットとキャレットの方へ走り出した。
「フォルト⁉」
ロメリアが叫ぶ。周りの皆が動揺する中、フォルトは時計を天にかざす。時計の光は太陽の如き輝きを放つ。
『今、使いこなせるか分からないけど・・・やるしかない!やらなきゃ・・・いけないんだ!』
フォルトは時計を天にかざす。そして自分の意識に反して勝手に叫んだ。
『リミテッドバースト・・・《廻郭絶界(かいかくぜっかい)》!』
フォルトの叫びと同時に歯車の紋章が刻まれた結界が周囲に展開された。
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