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~決戦前夜編 第13章~
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[隠し通路]
「ガーヴェラ!この人って・・・」
「横断汽車に乗っていた時に襲ってきた帝都の暗殺集団のリーダーだ。ロメリアがこいつから話を聞きたいって言っててな。」
ガーヴェラの言葉にフォルトが目をきょとんと開き、ロメリアの方を見る。
「ロメリア、どういうこと?」
「私ずっと考えてたんだ。どうやったら帝都に入れるかなって。帝都の周りや上空は敵が見張ってるしどうしようかなって・・・そしたら閃いちゃったんだ。この人に聞いたら帝都に入る為の隠し通路を知っているんじゃないかなって。」
「・・・何で?」
「それは・・・だって暗殺部隊でしょ⁉裏の組織ってことは、色んな事知ってそうじゃない!暗殺部隊だけが使っている秘密の通路とか!」
ロメリア以外の全員がその場に固まった。ロメリアは何故皆が固まったのか分かっていなかったが、額に汗が流れ始めた。
「あれ?私・・・何か変なこと言っちゃった?」
「・・・お前が思いつきで考える性格だってこと忘れてたよ。ていうか何で黙ってたんだよ。」
「それは・・・あれだよ、あれ!ここぞって時に名案を出して『ロメリア凄い!』って言われたかった・・・から?」
「・・・やっぱり、そんな事だったんだね。」
「そうですね・・・でもこういうの・・・ロメリアっぽいですよね?」
シャーロットの言葉にフォルトとケストレルが頷いた。ロメリアは皆の反応が予想と違っていたことに困惑していた。
そんな中、ヴァスティーソが首を傾げる。
「ねぇ聞きたいんだけどさ、彼に聞いたところで口を開いてくれるかな?何か彼、何があっても喋りませんって顔してるし。」
ヴァスティーソが男の顔を見ながらそう言う。確かに、男は瞬きもあまりせず、死体の様にじっと前を見ているだけだった。彼の真っ暗な瞳は何も映していなかった。
「喋らないだろう。彼ら暗殺部隊はいかなる拷問を受けても口を割らない訓練を受けている。」
「やっぱりね~。てかガラバーン団長は知らないの?知る人ぞ知る隠し通路って。」
「知ってはいるが、使えないだろうな。私が知っているであろう隠し通路は既に掌握されている可能性が高い。」
「正規軍の一部が向こうにいるものね。私が敵なら警戒するわね。」
「だが奴は暗殺部隊、軍の暗部に属する者だ。もしかすれば一部の者しか把握していない道や忘れ去られた道を知っているかも知れない。」
ガラバーンが男を見ながら呟く。クローサーが腕を組みながら話に加わる。
「ていうかよぉ、こいつここに連れてきて良かったのか?暴れ出したりしねえよな?」
「それは問題無いだろう。彼らは王家の命令にしか従わないよう躾けられている。」
「でもその命令がまだ続いていたら・・・どうするんですか?」
「確かにな。失敗したとはいえ、中止したとは分からないからな。」
ケストレルが呟くと、不安そうな顔をしていたシャーロットがこくこくと頷く。しかしロメリアはその男へ近づくと、膝をついて座り込んだ。
「おい、ロメリア。危ないぞ。」
「大丈夫、ガーヴェラ。この人はもう私達を襲わないよ。」
「何故分かる。」
「顔を見たら分かるでしょ?」
ロメリアが男の顔を見ながらそう言う。フォルトも男の顔を見たが、確かに戦意や殺気は全く感じられない。隠しているだけかも知れないので完全に気を許すことは出来ないが。フォルトはそう思いながら、万が一に備えて鎖鎌を静かに構える。キャレットやヴァスティーソも武器にさり気なく手を置いている。
ロメリアは一切躊躇することなく、男の太腿に手を置く。そして静かに男に向かって語りだした。
「王家の人間なら口を聞いてくれるんだよね?・・・元だけど。」
「・・・」
「貴方の名前は?教えてくれる?」
ロメリアの言葉に男は黙ったまま話し出す気配が無い。ケストレルが小さく息を漏らす。
「やはり勘当された影響か?」
「待って。・・・ロメリアを信じてみようよ。」
フォルトがケストレルに言うと、男が静かに口を開いた。
「名は・・・無い。我々に名前など・・・不要・・・」
「そうなんだ。・・・ありがとう、話してくれて。私嬉しいな。」
ロメリアは男に向かって微笑む。男はちらりと目を動かしてロメリアを見るが、直ぐ下に向けた。
ロメリアは男との話を続ける。
「それじゃあ早速聞くけど・・・貴方達だけが使っているような隠し通路とかってあるのかな?」
ロメリアの言葉に男は反応しない。その反応を見たヴァスティーソが唸る。
「ん~こりゃあ厳しいかな?」
ヴァスティーソが呟いたその時、男の口がゆっくりと開き、掠れた声で話し出した。
「・・・帝都の外れにある王家の墓場・・・そこに王家にも忘れ去られた隠し通路がある・・・」
「王家の墓場・・・あんなところに隠し通路が?」
「ロメリア、そこの場所は分かる?」
「うん、帝都から少し南に行った丘の上にあるよ。もう誰も使っていないけど・・・」
「王家の墓場なのに?」
「昔はそこに皆埋葬されてたんだけど、ある時を境に帝都の中に墓を作り出したんだよね。暫くは整備もしっかりとされていたようだったけど、もう私が生まれた頃には殆ど墓の存在すら知っている人はいなかったんだ。」
「忘れ去られた墓地ね。確かに、ほぼ認知されていない場所なら行動しやすいだろうね。」
ヴァスティーソはそう言ってルーストの方を見ると、ルーストは小さく頷く。
「決まりだな。そこから侵入するとしよう。」
「でもちょっと待って。その隠し通路を敵が把握していないという証拠はあるのかしら?」
キャロットが咄嗟に口を出す。ロメリアは男に向かって質問を投げかける。
「その隠し通路を知っているのは貴方以外にもいる?」
「・・・認知しているのは暗殺部隊に属する者達だけだが・・・先の任務で皆死亡した。」
「ということは知っているのは貴方だけ?」
ロメリアの言葉に男は小さく頷く。ロメリアはその男の反応を確認し、ルーストの方を見る。
「・・・信憑性は十分ではないが、信じてみるしかないな。」
ルーストはそう言うと、短く息を吐く。
「ではアストライオスの破壊とウルフェン討伐任務を任せられた者達はその隠し通路から帝都へ侵入し、各自作戦行動を取れ。隠し通路の場所についてだが、ロメリア、君から聞いてくれないか?」
「うん。・・・その隠し通路って何処にあるの?目印とかはあるのかな?」
「・・・隠し通路は初代の王の墓の真下にある。墓は丘の最も高い所だ・・・」
「成程ね。墓の中に隠し通路なんてよく考えるね~。俺達も誰かの墓の下に作らない?」
「叔父様・・・馬鹿な事をおっしゃらないで下さる?」
ナターシャが呆れたように呟き、ヴァスティーソは相変わらずのへらへらとした笑みを顔に浮かべる。
「陛下。」
「連れて行け。」
ルーストがそう告げると、ガーヴェラは男の足に付けている鎖を外して立ち上がらせると、部下を連れて部屋の外まで消えていった。いくら情報を提供してくれたとはいえ、犯罪者というのには変わりはない。恩赦など与えられるはずも無かった。
ガーヴェラ達が部屋から消えた後、ルーストが話し始める。
「さて・・・続いてコーラス・ブリッツとの戦闘についての会議を続けるが・・・これは帝都の外から攻撃を仕掛ける者だけで調整を行う。他の者達は各自準備を整えていてくれ。」
ルーストがそう発言すると、シャーロットがフォルトの下へやって来る。
「フォルト、甲板に出てきませんか?」
「外に出るってこと?」
「はい。以前ワイバーンに乗っている時は空からの景色を楽しむ余裕が無かったですから・・・」
「あぁ、成程ね。うん、行こうか。」
「ちょっと!私も行きたい!」
フォルトとロメリア、シャーロットの3人が部屋から出ようとした時、キャレットが呼び止めた。
「ちょっとシャーロット!これから作戦を練らなきゃいけないのよ?」
「大丈夫だ、キャレットさん。彼女は私のサポートをして頂くだけだからそこまで重い仕事は無い。・・・シャーロットさん、行ってくるといい。」
ワーロックがそう言うと、シャーロットは深くお辞儀をしてそのままフォルト達と共に部屋の外へと出ていった。
「・・・所詮はガキだな。今がどんな状態なのか分かってんのか?」
「まぁ、いいじゃんクローサー。好きにさせてあげれば。・・・モテる男はつらいねぇ、少年。」
ヴァスティーソは部屋の出口を見ながらぼそりと呟いた。部屋の外には雲海が遥か彼方まで続いており、彗星の影響で何時もより多くの星々が炎の様に煌めいていた。
「ガーヴェラ!この人って・・・」
「横断汽車に乗っていた時に襲ってきた帝都の暗殺集団のリーダーだ。ロメリアがこいつから話を聞きたいって言っててな。」
ガーヴェラの言葉にフォルトが目をきょとんと開き、ロメリアの方を見る。
「ロメリア、どういうこと?」
「私ずっと考えてたんだ。どうやったら帝都に入れるかなって。帝都の周りや上空は敵が見張ってるしどうしようかなって・・・そしたら閃いちゃったんだ。この人に聞いたら帝都に入る為の隠し通路を知っているんじゃないかなって。」
「・・・何で?」
「それは・・・だって暗殺部隊でしょ⁉裏の組織ってことは、色んな事知ってそうじゃない!暗殺部隊だけが使っている秘密の通路とか!」
ロメリア以外の全員がその場に固まった。ロメリアは何故皆が固まったのか分かっていなかったが、額に汗が流れ始めた。
「あれ?私・・・何か変なこと言っちゃった?」
「・・・お前が思いつきで考える性格だってこと忘れてたよ。ていうか何で黙ってたんだよ。」
「それは・・・あれだよ、あれ!ここぞって時に名案を出して『ロメリア凄い!』って言われたかった・・・から?」
「・・・やっぱり、そんな事だったんだね。」
「そうですね・・・でもこういうの・・・ロメリアっぽいですよね?」
シャーロットの言葉にフォルトとケストレルが頷いた。ロメリアは皆の反応が予想と違っていたことに困惑していた。
そんな中、ヴァスティーソが首を傾げる。
「ねぇ聞きたいんだけどさ、彼に聞いたところで口を開いてくれるかな?何か彼、何があっても喋りませんって顔してるし。」
ヴァスティーソが男の顔を見ながらそう言う。確かに、男は瞬きもあまりせず、死体の様にじっと前を見ているだけだった。彼の真っ暗な瞳は何も映していなかった。
「喋らないだろう。彼ら暗殺部隊はいかなる拷問を受けても口を割らない訓練を受けている。」
「やっぱりね~。てかガラバーン団長は知らないの?知る人ぞ知る隠し通路って。」
「知ってはいるが、使えないだろうな。私が知っているであろう隠し通路は既に掌握されている可能性が高い。」
「正規軍の一部が向こうにいるものね。私が敵なら警戒するわね。」
「だが奴は暗殺部隊、軍の暗部に属する者だ。もしかすれば一部の者しか把握していない道や忘れ去られた道を知っているかも知れない。」
ガラバーンが男を見ながら呟く。クローサーが腕を組みながら話に加わる。
「ていうかよぉ、こいつここに連れてきて良かったのか?暴れ出したりしねえよな?」
「それは問題無いだろう。彼らは王家の命令にしか従わないよう躾けられている。」
「でもその命令がまだ続いていたら・・・どうするんですか?」
「確かにな。失敗したとはいえ、中止したとは分からないからな。」
ケストレルが呟くと、不安そうな顔をしていたシャーロットがこくこくと頷く。しかしロメリアはその男へ近づくと、膝をついて座り込んだ。
「おい、ロメリア。危ないぞ。」
「大丈夫、ガーヴェラ。この人はもう私達を襲わないよ。」
「何故分かる。」
「顔を見たら分かるでしょ?」
ロメリアが男の顔を見ながらそう言う。フォルトも男の顔を見たが、確かに戦意や殺気は全く感じられない。隠しているだけかも知れないので完全に気を許すことは出来ないが。フォルトはそう思いながら、万が一に備えて鎖鎌を静かに構える。キャレットやヴァスティーソも武器にさり気なく手を置いている。
ロメリアは一切躊躇することなく、男の太腿に手を置く。そして静かに男に向かって語りだした。
「王家の人間なら口を聞いてくれるんだよね?・・・元だけど。」
「・・・」
「貴方の名前は?教えてくれる?」
ロメリアの言葉に男は黙ったまま話し出す気配が無い。ケストレルが小さく息を漏らす。
「やはり勘当された影響か?」
「待って。・・・ロメリアを信じてみようよ。」
フォルトがケストレルに言うと、男が静かに口を開いた。
「名は・・・無い。我々に名前など・・・不要・・・」
「そうなんだ。・・・ありがとう、話してくれて。私嬉しいな。」
ロメリアは男に向かって微笑む。男はちらりと目を動かしてロメリアを見るが、直ぐ下に向けた。
ロメリアは男との話を続ける。
「それじゃあ早速聞くけど・・・貴方達だけが使っているような隠し通路とかってあるのかな?」
ロメリアの言葉に男は反応しない。その反応を見たヴァスティーソが唸る。
「ん~こりゃあ厳しいかな?」
ヴァスティーソが呟いたその時、男の口がゆっくりと開き、掠れた声で話し出した。
「・・・帝都の外れにある王家の墓場・・・そこに王家にも忘れ去られた隠し通路がある・・・」
「王家の墓場・・・あんなところに隠し通路が?」
「ロメリア、そこの場所は分かる?」
「うん、帝都から少し南に行った丘の上にあるよ。もう誰も使っていないけど・・・」
「王家の墓場なのに?」
「昔はそこに皆埋葬されてたんだけど、ある時を境に帝都の中に墓を作り出したんだよね。暫くは整備もしっかりとされていたようだったけど、もう私が生まれた頃には殆ど墓の存在すら知っている人はいなかったんだ。」
「忘れ去られた墓地ね。確かに、ほぼ認知されていない場所なら行動しやすいだろうね。」
ヴァスティーソはそう言ってルーストの方を見ると、ルーストは小さく頷く。
「決まりだな。そこから侵入するとしよう。」
「でもちょっと待って。その隠し通路を敵が把握していないという証拠はあるのかしら?」
キャロットが咄嗟に口を出す。ロメリアは男に向かって質問を投げかける。
「その隠し通路を知っているのは貴方以外にもいる?」
「・・・認知しているのは暗殺部隊に属する者達だけだが・・・先の任務で皆死亡した。」
「ということは知っているのは貴方だけ?」
ロメリアの言葉に男は小さく頷く。ロメリアはその男の反応を確認し、ルーストの方を見る。
「・・・信憑性は十分ではないが、信じてみるしかないな。」
ルーストはそう言うと、短く息を吐く。
「ではアストライオスの破壊とウルフェン討伐任務を任せられた者達はその隠し通路から帝都へ侵入し、各自作戦行動を取れ。隠し通路の場所についてだが、ロメリア、君から聞いてくれないか?」
「うん。・・・その隠し通路って何処にあるの?目印とかはあるのかな?」
「・・・隠し通路は初代の王の墓の真下にある。墓は丘の最も高い所だ・・・」
「成程ね。墓の中に隠し通路なんてよく考えるね~。俺達も誰かの墓の下に作らない?」
「叔父様・・・馬鹿な事をおっしゃらないで下さる?」
ナターシャが呆れたように呟き、ヴァスティーソは相変わらずのへらへらとした笑みを顔に浮かべる。
「陛下。」
「連れて行け。」
ルーストがそう告げると、ガーヴェラは男の足に付けている鎖を外して立ち上がらせると、部下を連れて部屋の外まで消えていった。いくら情報を提供してくれたとはいえ、犯罪者というのには変わりはない。恩赦など与えられるはずも無かった。
ガーヴェラ達が部屋から消えた後、ルーストが話し始める。
「さて・・・続いてコーラス・ブリッツとの戦闘についての会議を続けるが・・・これは帝都の外から攻撃を仕掛ける者だけで調整を行う。他の者達は各自準備を整えていてくれ。」
ルーストがそう発言すると、シャーロットがフォルトの下へやって来る。
「フォルト、甲板に出てきませんか?」
「外に出るってこと?」
「はい。以前ワイバーンに乗っている時は空からの景色を楽しむ余裕が無かったですから・・・」
「あぁ、成程ね。うん、行こうか。」
「ちょっと!私も行きたい!」
フォルトとロメリア、シャーロットの3人が部屋から出ようとした時、キャレットが呼び止めた。
「ちょっとシャーロット!これから作戦を練らなきゃいけないのよ?」
「大丈夫だ、キャレットさん。彼女は私のサポートをして頂くだけだからそこまで重い仕事は無い。・・・シャーロットさん、行ってくるといい。」
ワーロックがそう言うと、シャーロットは深くお辞儀をしてそのままフォルト達と共に部屋の外へと出ていった。
「・・・所詮はガキだな。今がどんな状態なのか分かってんのか?」
「まぁ、いいじゃんクローサー。好きにさせてあげれば。・・・モテる男はつらいねぇ、少年。」
ヴァスティーソは部屋の出口を見ながらぼそりと呟いた。部屋の外には雲海が遥か彼方まで続いており、彗星の影響で何時もより多くの星々が炎の様に煌めいていた。
応援ありがとうございます!
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