攻略本片手に異世界へ 〜モブは、 神様の義祖母 〜

出汁の素

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幼女編

第1話 まずは、ピンチから?

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「おもてをあげよ」

 私が顔をあげると、玉座の様な豪奢な椅子に、一人の少年が座っていた。周りには4人の剣を携えた青年達が並んで今にも斬りかかるかの様に睨んでいる。

「名前は何と申すか。」

 少年は、私に向かってゆっくりと重い声で語りかけた。

「わ、私の名前は、ジェシカと申します。平民ですので家名はございません。」
「ジェシカか・・・。」

 少年は手に持った木の板を眺めながら少し考えこんでいた。板を少し弄り

「ロバート、他の者を連れこの部屋から出よ。二人きりで話がしたい。」
「閣下・・・。ですが、御身に何かあれば・・・。」

 青年達の中でも最も歳が高い隊長格の男が少年に意見した。その意見を聞き、少年は苛立った様に

「うるさい。私はこれでも、フランドル公爵家の直系である。同じくらいの娘に殺されるなら、生きていく価値すらない。良いから出ていくがいい。」
「閣下・・・・・。畏まりました。隣室に控えておりますので、何かあればすぐにお呼びください。」
「わかった。」

 そう言うと、トボトボと部屋にいた青年たちが出て行った。
 目の前の少年は、フランドル公爵家の直系と名乗っていた。フランドル公爵家と言えば、誰もが知る武門の誉れ高い帝国4大貴族の一つ。また、閣下と呼ばれているということは、既に爵位を得ていという事だ。相手は、大貴族の直系それも爵位を持っている本物貴族。今の状況では私の生殺与奪は彼の手にある。

「でだ・・・。ジェシカだったか、近くまで来い」

 彼は、私を近くに呼び寄せた・・・。
 私は、恐怖を感じつつゆっくり彼の元に向かった・・・。

「で、これはなんだ?」

 閣下と呼ばれた少年は、私を強い目で見つめながら、手に持った木の板を差し出し、本来彼には見えないはずの画面を指指して。

 何故私がこんなピンチな状況かは、私の出生前から説明が必要だろう・・・。




-----------------------------------------------------------------------------------------------------


「おばあちゃん?」

「かすみかぃ。ありがとうよ?。良い子を産むんだよ?。」

 私は、子供や孫、ひ孫、玄孫達に囲まれながら、もうすぐ天寿を全うする。110年生きて、色々あった。
 高校まで田舎で暮らし、大学で旦那と出会ったなぁ。旦那と学生時分に立ち上げたネット企業が、上場する頃には娘息子4人できてたっけ。
 孫が出来てすぐに旦那が亡くなって、息子に会社を継がせるまで12年間社長業をやったけど、その頃が一番辛かったな、その分楽しかったけど。
 その後、エンジェルとして色々投資したなぁ。そんな中でも、えーと、ブレイズだったっけ?キャラクターフルAIの、女性向け恋愛シミュレーションを作ってた会社。あそこの社長の神楽君変わり者だったねー。その頃、私の所にいた孫のエィミが入れ込んで、売れないゲームを売れる様にして、その後結婚まで行ったからね。その娘のかすみももうすぐママになる。色々あったけど楽しい人生だったな。余生は旦那と2人で世界中旅行しようって約束は、旦那が早く亡くなっちまったから、果たせなかったけど、あの世で元気にやってるかな?って、死んでる人に元気ではないか。いつも「俺に任せろ、なんとかするから」って言って人生まで任せたのに、会社を含めて後始末はいつも私がやってたな。まぁ、その分、ゆっくりあの世で旦那が亡くなった後の人生の自慢をしてやるか。

「ありがとよ。」
 
 ばあちゃん。お母さん。おおばぁ?

 私は静かに息を引き取った。






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「お義祖母様、お義祖母様」

「なんだい。」

 私は目を覚ました、そこには見慣れた壮年の顔があった。

「お義祖母様、気づかれましたか。」
「神楽君かい。エィミは?」
「エィミは、おりません。エィミだけでなく、かすみもこの世界にはおりません」
「この世界?」

 神楽君が何を言っているのかわからなかった。

「お義祖母様。今日まで黙っておりましたが、私は厳密には人間ではないのです。」
「人間ではない?」

 よくよく神楽君の言うことが分からなくなった。

「お義祖母様。私は別の世界を司る神の一人です。私の世界で世界を破壊に導く邪神が生まれることが分かったので、科学の発展が程よく、人の心も残っているこの世界にきて、私の世界を模したシミュレーションを作り、邪神を人が倒す術を研究し、邪神が、大邪神に進化する前に倒すことに成功しました。これも、お義祖母様に支援いただいたおかげです。」

 神楽君の会社ブレインは、キャラクターフルAIの、女性向け恋愛シミュレーションを作って名を上げた会社だ、元は異世界シミュレーションをフルキャラクターAIでやっていたが、人気が出ず、潰れかかった所を私が買収し、エィミが女性向け恋愛シミュレーションに方向性をかえて成功させた。そのあと、事業範囲を拡大し、今は疑似人格AIの最先端企業で、多大な利益を上げている。経営指揮はエィミが行い、研究開発の指揮を神楽君がやっている。商品開発の傍ら、儲けた資金をふんだんに使い、シミュレーションを繰り返し邪神を倒す手段を確立したんだろう。オーナーとしては勝手に何をやっているだと思うところはあるが、異世界とはいえ社会貢献になったのであればよしとしよう。

「そうかい。君とエィミの努力の賜物だよ。」
「ありがとうございます。ですが、私としては感謝のしるしとして、亡くなった後ももう一度記憶を残したまま、私の世界で楽しんで頂こうと思い、着て頂きました。」
「君の世界というのは、AIゲームの世界かい?」

 確か、テストで何度もやらされたし、記事なんかも全部目を通したので大体内容は知っている。世界は、俗に言う剣と魔法の世界。世界最大の帝国の帝都に住む、平民出身の主人公が、15歳になり、帝国中央学院に入学することからストーリーがはじまる。将来帝国の中枢を担うトップエリートの学校として、9割以上の生徒が貴族で構成される帝国中央学院。その中で、学業、スポーツ、恋愛にと、平民としての差別に抗いながら、自由に3年間を過ごす一風変わった恋愛シミュレーション。1学年20人1クラスで6クラス全120人。上下2学年を加え600人。教員約50人。関係者約1200人が男女問わず恋愛対象となる。果ては皇帝陛下から、迷宮最深部の迷宮主まで、恋愛に関係になったこともあり、主人公が自動生成するブログの閲覧数は、世界中のSNS閲覧数の2割を超えたこともあるというものだ。そんな恋多き世界それが、彼の世界作ったAI世界の元となったブレイズだ。

「そうです。主人公とかではなく、住民として楽しんで頂ければと思います。私の世界で亡くなった後に、また今の輪廻転生の輪に戻って頂くことで、この世界の神とも握っておりますので安心してください。」
「普通の住民。様はモブかね・・・。」

 ゲームに出てくるキャラ数だけで2000近い中、名もない普通の住民も、商人、騎士、冒険者等膨大に出てくる。昔神楽君に聞いた時には1万以上のNPCを動かしていたはずだ。

「そうです。普通の住民ですが、3歳になったら手元にこの世界の攻略本を電子書籍タイプでお送りします。」
「確か、このゲームはAIが進化し、固定イベントも何もなかったはずだが」

 そう、このゲームには固定イベントがない。舞踏会等の行事は当然スケジュールどおり起きるのだが、キャライベントは、起こすキャラ、内容が毎回違っており、AIが勝手にイベントを起こすのだ、これは、建物などを含めてフル3Dのデータが入っており、描画はレンダリングするだけなので、可能となるのだが、固定イベントが無い分、完全に人間力が試されるため、どっかの会社では入社試験に使っていた。そのくらい実社会に近い為、攻略本で攻略するのは難しいはずだ。

「そうです。よくご存じで・・・。」
「まぁ、そこまでチェックするのが仕事だったからね・・。」
「攻略本といっても、データブックです。全てのデータ。武具、魔法、迷宮、言語、各町の相場等等のデータがリアルタイムで更新されます。優れものですよ・・・。」
「大丈夫かい?そんなものあって・・。」

 そう、普通にそんなものを使ったら迷宮攻略、商売等数十倍も簡単にできてしまう。世界のバランスを崩しかねないものだ。

「大丈夫でしょう。お義祖母様以外は名前だけが出てくるキャラ以外は見えない設定になってます。本当は、お義祖母様だけにしたかったんですが、凝りすぎてリソースが足りなくなりまして。」
「昔から凝り性だったからね。それで?」
「お義祖母様も名前だけは出てくる、主人公の市民学校の同学年で平民の子です。ご家族も、何人かで出来ますが、メインキャラから遠いキャラです。ちなみにゲームにちゃんと出てくるキャラは見えない設定になっているので、ご家族で見える方はいらっしゃいません。本当に数少ない名前だけキャラ専用です。お義祖母様が無茶されても、平民ですから、限度がありますし。」
「そうかい・・。」
「あっあと、名前しか出てこないと言っても、お義祖母様は、ゲーム開始時は家業の商会をお手伝いしているだけで、生きてますから。」

 神楽君がそういうならいいのだが。

「仮に、お義祖母様が頑張りすぎて、ゲームバランスを壊しても魔王は事前に倒してしまっているので、世界は壊れません。科学を発展させても何をしても大丈夫ですので、安心して楽しんでください。」
「わかった。楽しませて貰うよありがとう・・・。エィミ達をよろしくね。」
「安心してください。一応神ですから。」
「でも神楽君だからね・・・・。」

 こいつは、少し抜けているので心配はあるが、責任感は人一倍あるので、まぁ大丈夫かな?

「私の世界ではカグラ神と呼ばれてますので、何かあったら神殿で祈ってください。できることはさせてもらいますので。」
「わかったよ。ありがとう。」
「お義祖父様がお亡くなりになった後、お一人で子育て、仕事に亡くなる直前まで邁進され、ご自分の時間も無かったと思います。新しい人生を楽しんできて下さい。ありがとうございました。お元気で・・・。」

 そういうと、神楽君は頭を下げた後、指を鳴らし、その瞬間私の意識は光と共に消えていった。
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