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都会のかいぶつたんじょうび
しおりを挟むむかしむかしではないから、いまいま。
都会に一匹のかいぶつが住んでおりました。
都会はみんな自分のことで忙しく、誰もかいぶつのことなんて気にしないから住みやすいのです。かいぶつは超高層ビルのてっぺんに近い空き部屋にひっそりこっそりと住んでいましたが、あまりに長い間ひとりぼっちなためか少し寂しくなりました。
「そうだ! たんじょうびのパーティーをひらこう」
あまりにいい思いつきなのでかいぶつはわくわくしました。ですがひとつだけ問題がありました。
かいぶつはたんじょうびを持ってないのです。
かいぶつはエレベーターを降りると夜の町にたんじょうびを探しに出かけました。
途中、フェイスブックで今日がたんじょうびの人を検索してみたところ、べえ子という女の子が該当しました。
かいぶつはさっそくべえ子のところへいくことにしました。かいぶつが窓からのぞくとべえ子はお父さんやお母さん、兄弟やたくさんの友達に囲まれてたんじょうびパーティーの真っ最中でした。
「いいなぁ、うらやましいなぁ」
かいぶつは自分のたんじょうびを想像しながら夜中になるまでネットカフェで待機しました。
そして夜中になるとかいぶつはべえ子の部屋にしのび込みます。
「うぉおぉ! おれさまはかいぶつだ! おまえのたんじょうびをよこさないと食っちまうぞ!」
べえ子はきょとんとしましたが驚いた様子はみせません。なぜならべえ子は都会っ子だからです。
「ばかねぇ、かいぶつなんているわけないじゃない。あなたいくつ?」
「うぉおぉ! いくつ……って、たんじょうびがないんやからわかるわけないやろぉ! うぉおぉ!」
なんだかかいぶつはバカバカしくなってきて吠えるのをやめました。
「あなたおたんじょうびをもってないの? じゃあ誰からもお祝いしてもらえないじゃない……かわいそうに」
べえ子に同情されたかいぶつは新橋のガード下でひとり飲んでるお父さんみたいにしゅんとなってしまいました。
「だったら私のおたんじょうびをあげる!」
「ほんとかい! ほんとにおれにたんじょうびをくれるのかい?」
「ええ、私からのおたんじょうびプレゼント。自分のおたんじょうびに誰かにプレゼントしたってかまわないでしょ?」
「でも、いいのかい? 大切なものなんだろ?」
「私はいいの。もう七歳だから。七回もおたんじょうびやってもらったんだもの。てったって、ちっちゃい頃のは覚えてないけどね」
かいぶつはひゃっほうと飛び上がって喜びました。
「でも急がなきゃ。もう十一時よ。早くしないとせっかくあげたおたんじょうびが終わっちゃうわ」
かいぶつはべえ子にお礼を言うと急いで帰っていきました。途中、東急ハンズでパーティーグッズを買い揃えようとしましたが遅いので閉まってました。
そんな余計なことをしていたため、超高層ビルの自分の部屋に帰り着いた頃には十二時を過ぎ、たんじょうびはすでに終わってしまいました。
かいぶつはがっかりしました。
せっかく手に入れたたんじょうびをまた来年まで待たなければならないのです。
それでもかいぶつは待つ楽しさを堪能しました。
カレンダーを買ってきて自分のたんじょうびに〇をつけるとかいぶつは毎日毎日その日をのぞき込みました。
そしてそれから一年が過ぎました。
「今日は俺のたんじょうびなんだぜ」かいぶつはベランダの小鳥にいいました。
「きょうはおれのたんじょうびなんだぜ」かいぶつは表の野良猫にも囁きました。
「今日はボクのたんじょうびなんすよ、やになっちゃうなぁ、もう」かいぶつは普段エレベーターで会っても無言でやりすごしている人間にも話しかけてしまいました。
それくらい嬉しかったのです。
けれど夜になっても誰もかいぶつのところにはやってきませんでした。
それもそのはずです。かいぶつには友達がいないのですから。
かいぶつはテレビの中のにゃんこスターに言いました。
「今日は俺のたんじょうびなんだぜ……」
かいぶつは急にべえ子のことを思い出しました。たんじょうびを無くしてしまったべえ子はどうしてるんだろう?
悲しんでるんじゃないかな?
寂しがってるんじゃないかな?
かいぶつは居ても立ってもいられなくなり、べえ子のうちにとんでいきました。
べえ子はびっくりしました。
「どうしたの? 今日はあなたのおたんじょうびでしょ?」
「べえ子は俺にたんじょうびをあげちゃって後悔してないのかい?」
「ううん、ちっとも」
べえ子はにっこり笑ってこう言いました。
「一歳のおたんじょうび、おめでと」
かいぶつは顔をくしゃくしゃにして泣きだしました。うぉおんうぉおんと泣きました。
「どうしてたんじょうびなのに泣いてるの?」
「俺、やっぱりべえ子に返すよ。たんじょうび返すよ」
「どうして? 気に入らなかった?」
「違うんだ、これは俺からのたんじょうびプレゼントなんだ。だって自分のたんじょうびに誰かにプレゼントしたって構わないだろ?」
べえ子の顔がぱっと明るくなりました。
「だったら来年は私がまたおたんじょうびをあげるね」
「だったらだったら、来年の来年は俺がまたべえ子にたんじょうびをあげるよ」
ふたりは十二時を過ぎてたんじょうびが終わっても楽しそうにお話を続けていました。
かいぶつは次の日、来年のカレンダーを買ってくると『べえ子のたんじょうび』に大きく〇をつけました。
── おしまい ──
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