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増え行く慰謝料
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再び、子爵家の執事が食堂にやって来た。
慰謝料をセシルへ届けるために。
セシルの呪われた運命を悼むような表情で、執事は深く頭を下げた。
「・・・。」
セシルは繰り返す慰謝料に、さすがに嫌になりいらないと言いたかったけれど『お金は裏切らない』という、金科玉条の元、いただくことにした。
「慰謝料などでは償いきれないと当主が申しておりました。どんなことでもするから言って欲しいと。」
「・・・いえ。信用できるのはお金だけですのでこれで十分です。」
セシルの言葉に俯いてしまった執事に
「・・・ですが、子爵や子爵令息が手を打ってくだされなければもっとひどいことになっていたと思います。今回、悪いのはアナベルと元子爵夫人なので気に病まないようお伝えください。」
そう声をかけた。
「必ずお伝えいたします。」
心なしか涙を浮かべた執事は頭を下げて帰っていった。
セシルはいろんなものを奪われ、壊され、心は傷だらけになったがそれと引きかえに、大金を手にすることになった。家族の役割を果たす代わりにもらっていた給金と合わせるともう一生働く必要がないくらいの一財産になっていた。
初めは、大金も入ったし今後何があっても安泰安泰と思っていたが、さすがに辛いことの引きかえにどんどん増えてきた財産にいい気がしなかった。
どんどん不運が溜まっていくような気がするのだ。
何かいい使い道はないだろうか。
ルルさんの食堂を改装する?と聞くと、この古い店が気に入っているという。豪遊してみる?と誘うが、豪遊の仕方がわからないねえと二人で笑ってしまった。
結局どうすればいいか思いつかないまま日が過ぎていった。
そんなある日、昼間の閑散とした時間にサミュエルが顔を見せた。
口を引き締め、伺うような目でセシルを見る。
血のつながった実母と妹を、赤の他人の自分のせいで失うことになったサミュエル。彼は自分の事を憎んでいないのだろうか。
セシルも形容しようのない気持ちだったが、いらっしゃいませと招き入れた。
「・・・すぐに来たかったんだが、会いたくないのではないと思って遅くなってしまった。すまない。」
「・・・いえ。お食事ですか?」
「悪いが、お茶だけでいい。その・・・詫びに来ただけだからすぐに帰るよ。」
「・・・かしこまりました。」
セシルは奥の席に案内し、サミュエルにお茶を出すと、ルルに断ってから同席した。
「詫びとはどういうことですか?」
「マルクと別れると聞いた・・・アナベルのせいで。もとはと言えばあいつを野放しにしてしまった我々の責任だ。まさかマルクの大馬鹿野郎があんなことをするとは・・・本当に済まなかった。」
「子爵令息様が謝られることではありません。あなたは・・・私を心配してくださってすぐに動いてくださいました。」
「それでも父上の甘い判断のせいで、何度もセシルを傷つけたことに変わりはない。愚かすぎる私たちを憎んでくれていい、だが・・・マルクの事は・・・それでいいのか? 許せないのはわかる、だが・・・私があいつを殴って・・・それで・・・」
「・・・もういいのです。マルク様はもともと彼女と結ばれる運命でした。それにマルク様の顔を見る度に彼女の事がよぎります。いくら許したつもりになっても私もマルク様も幸せになれるとは思えません。」
「・・・そうか。私にできる事であれば何でもする。新しい縁談を紹介することもできる、困ったことがあればいつでも頼って欲しい。」
「いえ、当分結婚など考えるつもりはありません。」
縁談も他の事でも頼るつもりなどないと思った。逆にマルクと縁が切れたことで、マルクと友人だったサミュエルとも今まで以上に疎遠になるだろうと思っている。アナベルの事もあるからなおさらだ。
ただ、訪ねてきたサミュエルの顔を見たとき、嫌悪感も不快感も感じなかったのが自分でも意外だった。きっと、許す、許さないなどと頭で決めることは出来ないのだ。
自分の為に必死になってくれていた彼の言動が自分の心に影響し、知らず知らずサミュエルへの壁が薄くなっていったのだろう。
だから少し相談してみる気になった。誰彼となく相談できることではないからだ。
「あの・・相談したいことがあるのですが。」
セシルがそう言うと、サミュエルはうれしそうに
「何でも言ってくれ!」
と身を乗り出した。
「寄付をしたいのですが、やり方がわからなくて。どこにもっていけばいいのか、急にお金を持っていいものかなど教えていただきたいのです。」
投資だとか、家を買うとかいろいろ考えたが、結局寄付にたどり着いた。
「寄付?そんな金・・・まさか慰謝料の事か?」
「子爵様からもう十分に頂きました。分不相応なお金を持つのは怖いですし、せっかくなら役に立てたいのです。」
「あれはセシルのための金だ。自分の為に好きに使えばいいんだよ。」
「ありがとうございます。でも私の不幸の代償のお金なんです。だから・・・良いことに使ってしまいたいのです。」
「・・・。わかった。だが、今後も助けさせて欲しい。苦しみの代償などではない幸せになるための支援をさせて欲しい。」
「・・・はい。」
サミュエルの真摯な態度に思わず頷いてしまった。
その後はどこか嬉しそうなサミュエルが寄付先をいくつか調べてきてくれることやその方法も任せておけと言って帰っていった。
慰謝料をセシルへ届けるために。
セシルの呪われた運命を悼むような表情で、執事は深く頭を下げた。
「・・・。」
セシルは繰り返す慰謝料に、さすがに嫌になりいらないと言いたかったけれど『お金は裏切らない』という、金科玉条の元、いただくことにした。
「慰謝料などでは償いきれないと当主が申しておりました。どんなことでもするから言って欲しいと。」
「・・・いえ。信用できるのはお金だけですのでこれで十分です。」
セシルの言葉に俯いてしまった執事に
「・・・ですが、子爵や子爵令息が手を打ってくだされなければもっとひどいことになっていたと思います。今回、悪いのはアナベルと元子爵夫人なので気に病まないようお伝えください。」
そう声をかけた。
「必ずお伝えいたします。」
心なしか涙を浮かべた執事は頭を下げて帰っていった。
セシルはいろんなものを奪われ、壊され、心は傷だらけになったがそれと引きかえに、大金を手にすることになった。家族の役割を果たす代わりにもらっていた給金と合わせるともう一生働く必要がないくらいの一財産になっていた。
初めは、大金も入ったし今後何があっても安泰安泰と思っていたが、さすがに辛いことの引きかえにどんどん増えてきた財産にいい気がしなかった。
どんどん不運が溜まっていくような気がするのだ。
何かいい使い道はないだろうか。
ルルさんの食堂を改装する?と聞くと、この古い店が気に入っているという。豪遊してみる?と誘うが、豪遊の仕方がわからないねえと二人で笑ってしまった。
結局どうすればいいか思いつかないまま日が過ぎていった。
そんなある日、昼間の閑散とした時間にサミュエルが顔を見せた。
口を引き締め、伺うような目でセシルを見る。
血のつながった実母と妹を、赤の他人の自分のせいで失うことになったサミュエル。彼は自分の事を憎んでいないのだろうか。
セシルも形容しようのない気持ちだったが、いらっしゃいませと招き入れた。
「・・・すぐに来たかったんだが、会いたくないのではないと思って遅くなってしまった。すまない。」
「・・・いえ。お食事ですか?」
「悪いが、お茶だけでいい。その・・・詫びに来ただけだからすぐに帰るよ。」
「・・・かしこまりました。」
セシルは奥の席に案内し、サミュエルにお茶を出すと、ルルに断ってから同席した。
「詫びとはどういうことですか?」
「マルクと別れると聞いた・・・アナベルのせいで。もとはと言えばあいつを野放しにしてしまった我々の責任だ。まさかマルクの大馬鹿野郎があんなことをするとは・・・本当に済まなかった。」
「子爵令息様が謝られることではありません。あなたは・・・私を心配してくださってすぐに動いてくださいました。」
「それでも父上の甘い判断のせいで、何度もセシルを傷つけたことに変わりはない。愚かすぎる私たちを憎んでくれていい、だが・・・マルクの事は・・・それでいいのか? 許せないのはわかる、だが・・・私があいつを殴って・・・それで・・・」
「・・・もういいのです。マルク様はもともと彼女と結ばれる運命でした。それにマルク様の顔を見る度に彼女の事がよぎります。いくら許したつもりになっても私もマルク様も幸せになれるとは思えません。」
「・・・そうか。私にできる事であれば何でもする。新しい縁談を紹介することもできる、困ったことがあればいつでも頼って欲しい。」
「いえ、当分結婚など考えるつもりはありません。」
縁談も他の事でも頼るつもりなどないと思った。逆にマルクと縁が切れたことで、マルクと友人だったサミュエルとも今まで以上に疎遠になるだろうと思っている。アナベルの事もあるからなおさらだ。
ただ、訪ねてきたサミュエルの顔を見たとき、嫌悪感も不快感も感じなかったのが自分でも意外だった。きっと、許す、許さないなどと頭で決めることは出来ないのだ。
自分の為に必死になってくれていた彼の言動が自分の心に影響し、知らず知らずサミュエルへの壁が薄くなっていったのだろう。
だから少し相談してみる気になった。誰彼となく相談できることではないからだ。
「あの・・相談したいことがあるのですが。」
セシルがそう言うと、サミュエルはうれしそうに
「何でも言ってくれ!」
と身を乗り出した。
「寄付をしたいのですが、やり方がわからなくて。どこにもっていけばいいのか、急にお金を持っていいものかなど教えていただきたいのです。」
投資だとか、家を買うとかいろいろ考えたが、結局寄付にたどり着いた。
「寄付?そんな金・・・まさか慰謝料の事か?」
「子爵様からもう十分に頂きました。分不相応なお金を持つのは怖いですし、せっかくなら役に立てたいのです。」
「あれはセシルのための金だ。自分の為に好きに使えばいいんだよ。」
「ありがとうございます。でも私の不幸の代償のお金なんです。だから・・・良いことに使ってしまいたいのです。」
「・・・。わかった。だが、今後も助けさせて欲しい。苦しみの代償などではない幸せになるための支援をさせて欲しい。」
「・・・はい。」
サミュエルの真摯な態度に思わず頷いてしまった。
その後はどこか嬉しそうなサミュエルが寄付先をいくつか調べてきてくれることやその方法も任せておけと言って帰っていった。
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