所詮私は他人でしたね でも対価をくれるなら家族の役割を演じてあげます

れもんぴーる

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幸せに

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「セシル、婚約おめでとう」
「ありがとうございます。色々相談に乗っていただきありがとうございました。」

 婚約を受けるにあたって、さすがに籍がそのままになっていることもありまずはサミュエルに相談した。
 サミュエルはマルクの事があり、ひどく心配していただけに諸手を上げて喜んでくれた。
 子爵家から侯爵家に嫁ぐことは大変だが、その力があるからこそあらゆることからセシルを守ってくれる。社交界に出る必要がないと言い、セシルの過去も、子爵家の罪も知ったうえで寄り添える相手などもう二度といない。
 逃げ腰だったセシルの背中をそう言って押してくれた。

 そして、子爵家としては決して表には出ないから、心配せずに幸せになって欲しいといった。
 シャリエ子爵は侯爵家に挨拶にはいくが、セシルとは会わないつもりだという。
 婚約式にも結婚式にもパーティにも顔は出さない。セシルの幸せを見届けることが出来た以上、もう苦悩の原因である自分たちはセシルの視界には入らないから安心してほしいと。
「サミュエル様・・・」
「幸せにな。ただ困ったことがあればいつでも相談してくれ」
 サミュエルは最後にポンと頭に軽く触れると帰っていった。



 マルクは、シルが婚約をしたと聞いて衝撃を受けた。
 しかも相手は、騎士団を統括するアルフォンス・ヴァロワ総団長。

 なぜ・・・なぜセシルと総団長が。
 アナベルの調査の時に知り合ったのか。
 ・・・だとすれば自分の愚かな行為が彼らを結び付けたことになる。マルクは絶望する思いだった。
 いまだ、後悔し懺悔しながらも、セシルへの褪せることのない思い。別れる事になってしまったが、もしかしたらセシルも未練を持ってくれているのではないかと一縷の望みを持っていたのに・・・
 総団長が相手ではもう微塵も挽回するチャンスなどなかった。


 しばらくして、また騎士団員やその家族を集めた慰労会があった。
 以前、マルクがシルを伴って参加していた会だ。
 もしかして総団長がシルを連れてくるかもしれないと期待と恐れ半々でいたマルクだったが、総団長はシルを連れて来なかった。

 マルクが恨めしいとも悔しいとも仕方がないとも整理のつかない気持ちのまま総団長を目で追っていると、総団長に話しかける令嬢がいた。
「アルフォンス様、噂を聞いたのですが・・・子爵家の令嬢とご婚約されたとか。本当なのですか?」
「ええ。」
「子爵家とは名ばかりで家を出て平民のような暮らしをしてるそうではありませんか。おまけに騎士とお付き合いをされていたとか。それをアルフォンス様に乗り換えるなんて地位やお金目当てに決まっていますわ。」
「そんな人ではありませんよ」
「アルフォンス様は騙されているのですわ。その方は義理の父や兄と・・・噂がございましたわ。現に、その兄と未だに密会されていると聞いています」
 アナベルは見つかるまでのたった数日間で、いろんなところで吹聴していたのだ。そのひどい噂は、否定されたのにもかかわらず悪意を持つ者が、構わずこうして口にする。
 思わずマルクは足を踏み出し、誤解だと伝えようとした。

 だがマルクがそれを否定する前に
「噂の真偽を確認もできない家門がこの騎士団にいるとはな。そのような者に清廉潔白で公平であるべき騎士が務まるがどうか検討しよう。そもそも大切な婚約者よりも下らぬ噂を信じる理由がどこにある?」
と、セシルを貶めようとした令嬢を一刀両断した。
 その令嬢は顔を真っ赤になり、その兄と思われる騎士は顔を真っ青にして駆けつけ、アルフォンスに謝罪をすると令嬢を連れて会場を去った。

 それを見ていたマルクは、自分が足りなかったものを思い知った。
 シルを信用する心。毎日一緒にいたシルと、久しぶりに会ったアナベルの荒唐無稽な話のどちらを信じるなど考えるまでもない事だった。
 そして、愛するものを守るために毅然とした態度をとる総団長を見て、自分ではセシルを幸せにすることは出来なかったのだとようやくあきらめがついた。
 総団長なら、今まで何度も辛い思いをしてきたセシルを幸せにしてくれるだろう。自分が願う資格もないが、セシルを幸せにしてほしいとマルクは総団長の背に向かって頭を下げたのだった。
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