今度は悪意から逃げますね!

れもんぴーる

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それでも疑惑をかけられる

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 今日は王宮で議会が開かれていた。
 貴族のうちの幾人かから訴状が提出されたためだ。この1年間の災害は魔術師たちのせいだと、筆頭魔術師イリークとその愛弟子たちが訴えられた。こうならないために色々策を練り、打破するために飛び回っていたというのに。 

 審議会には陛下、側近、貴族院の者、エレナ達使節団、シルヴェストル公爵、魔術師長イリーク、魔術師4名が揃っていた。
 思ったよりも魔術師たちを疑う貴族たちが多くなっていた。あの慰労会の日、薬草で解毒されなかった者たちは、魅了効果のある薬を練り込んだタバコや酒を徐々に広めていったのだ。そうして、エレナの操り人形となった貴族たちが動いた。

「魔術師イリーク!お前が女神とやらと結託して今回のことを引き起こしたのだろう。その女も連れて来いと言ったはずだ」
 ある貴族が糾弾する。
「彼らを疑う根拠はなんだ」
 国王が問う。
「魔術師しか呪いを仕掛けられないではありませんか。これ以上の犯罪を防ぎ、証拠隠滅を防ぐためにも彼らの拘束を求めます!そして巨大な魔力を持つというエルの召喚も求めます!」
「陛下、発言してもよろしいでしょうか。」
「イリーク、許可する」
「申すまでもありませんが、我々魔術宮の魔術師たちはこの国のためにあるのです。それがどうしてこんなことをするのでしょう。」
「自作自演だろう。災害を引き起こし、国を混乱させる。手柄を立てて権力を握る、そうしてお前たちは国を牛耳るつもりだろう!」
「証拠はございますか?」
「証拠はお前たちの魔力だ。魔力のない者にはできないことだからな!」

 明らかに操られているだろう中心人物以外にも、聴衆している貴族の中にこれを聞き「確かにそうだな」と思う者たちも出始めている。
「エレン様も魔力をお持ちですね、彼女も疑われているというわけですか」
「ばかばかしい。エレン様はこの国のためにわざわざ力を貸してくださってるんだ。罪を逃れようと失礼なことを言うな!」
 自分勝手な根拠のない相手の言い分にあきれるしかない。

「我々は何もしておりません。証拠もございます。」
「証拠?そんなものあるはずないだろう。あるなら出してみろ」
 貴族の言葉に、国王もうなずく。

 シルヴェストル公爵はいったん外に出ると魔道具をもって戻ってきた。
 それと同時にメイドたちがワゴンを押して入ってきた。
 審議中にメイドが何の用だと、会場にざわめきが広がる。
 そこに陛下が声を上げた。
「シルヴェストル公爵が準備する間、皆に茶を配る故、茶菓子とともにひと休憩するがよい。」
 その声にメイドたちは動き出し、茶菓子とお茶を会場にいるすべての者に配った。みんなが一服し終えた後、公爵は魔道具を作動させ会議内の白い壁に映像を映し出した。

 そこには、土地に呪いの魔方陣を仕掛けている人物が映っていた。場面が変わり、違う場所でも同じように呪いを仕掛けている。何カ所も何カ所も。
 アリスが覚えていた場所の呪い封じをしたうえで、おおきな魔力を感じると作動するよう記録魔道具を設置しておいたのだ。

「・・・エレン様?」
 イリークたちを訴えた貴族が真っ青な顔で声を震わせる。
「あら、魔術師ですもの。捏造位お手の物ではないかしら。」
「映像だけではないのですよ、あなたの魔力だということがこれでわかる。」
 その映像にある魔方陣をそっくりそのまま縮尺転写し、宙に描いた。

イリークがそれに触れても何も起こらなかった。
「エレン様、さあ、この陣に触れてください。」
「必要ないわ。」
「触れない理由でもありますか?」
 イリークは宙に浮かぶ魔方陣をエレンに向けて投げた。逃れようとしたが、陣はエレンの体にぶつかり、その瞬間魔方陣は展開され黒い靄が発生した。呪いが視覚化したものだ。

 他人に簡単に干渉されないように組まれた魔方陣は本人の魔力で発動するように仕組まれていた。おかげで、呪いを仕掛けたのがエレンだと証明された。
 イリークたちを告発した貴族たちは呆然と座り込み言葉も出ない。なぜなら、国王が休憩にと配ったお茶と茶菓子には解毒作用があったのだから。正気に戻った今、自分たちの行いに愕然としたのだ。しかもこれだけの証拠がある。

「とことん、邪魔をしてくれるわね。あなたも女神とやらも」
 開き直ったかのようにエレンは聖女の仮面を脱ぎ捨てた。
「ほう、認めるか。なぜ我が国にこのようなことを?」
「自分たちの胸に手を当てて考える事ね。」
 それきりエレンは何も話さなくなった。魔封じの首かせをはめられたままエレンは連れていかれた。使節団の神官たちも連れていかれたが、後でイリークが精神干渉魔法がかけられていないか鑑定することになった。

 貴族たちは陛下とイリークたちに真っ青になりながら謝罪した。
 魔術師たちは心情的には思うところはあったが、操られていたものを罰するつもりもない。国王に任せることとした。

 公爵とイリークはほっと息をついた。この日のために、未来を変えるためにとった行動がようやく報われたのだ。イリークが処刑される未来も、アリスが非業の死を遂げる未来もなくなった。

 ただイリークの心の中に、あまりにも簡単すぎないか?と一抹の不安が残った。



 その夜、隣国がルーナ国に侵攻した。
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