魔女の恋文【宛先知れず】

寄賀あける

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「なんとかしろと言われても、あは、魔導術の使えない相手に攻撃を仕掛けるのは、クククッ、気が引ける。あははっ」
笑い転げて引きりながらジゼルが言う。目じりに涙がにじんでいる。

「何がそんなに面白いんだよっ?」
とロファーが呆れると、
「だって、だって……いひひ」
笑いながら、ジゼルがロファーの腕を叩く。

「随分と仲がいいのね」
屋根の上から声がする。
「月影様にも相手にされなかった……わたしのどこがいけないの?」

 屋根の上から再びすすり泣きが聞こえ始める。そしてさらにジゼルが笑い転げる。
「麗しの姫君はどうやらメンクイらしい、ぎゃははは!」

「笑うな! 月影様はお目が見えないから、わたしの美しさが判らなくても仕方がない、と諦めた。グリンバゼルト様は、北には来てもらえるはずもないと最初から諦めた。サウザネーテルダム様は結婚してしまわれたし、カイネンテリスは父を恐れて逃げ回る。ゴウボレンネルはどこに行ったか判らない。なんでみんなわたしを泣かせるのよ?」
屋根の上の言葉に、途中でジゼルの笑いも止んで、あきれ顔で見上げている。

「あなた、いったい何人に言い寄ったんだ?」
そう言って、今度はクスクス笑う。
「それにしても、王家の森魔導士学校の色男たちまで、よく知っているね。グリンバゼルトとサウザネーテルダムはこないだ卒業したけれど。それに月影は確かに目が見えないが、ちゃんとあなたの顔が判るはずだ」

「そうね、光を得物にしているものね。でも守りが固くて近寄れなかった。新月を狙っても無理だった。近くでお姿を拝見するのがやっとだった。それに魔女の気配がひしひしして怖かったわ――どこで知ったかって? 魔導士登録簿で見た、月影様には学校まで会いに行ったわ。あのかたはわたしよりも美しい。本当に月のよう……」

 魔導士登録簿と訊いて、またもジゼルが笑い転げる。が、ジュライモニアは気にならないようだ。屋根の上でうっとりしているのは、今言った誰かを思いだしているのだろう。そして開き直る。
「北の城からなかなか出られないし、わたしの周りは既婚者かオジさんばかり。そうでもしないと結婚相手を見つけられない」

「熱心だね。それに、よく魔導士学校に忍び込めたね。鳥の目でも使ったかな?」
ジゼルの笑いがゲラゲラからクスクスに変わる。

「でもさ、ロファーは魔導士じゃない。あなたの夫には釣り合わないんじゃ? それにスネークウッデシカはどうした? 美男子だと、南にも聞こえているよ?」
様子をうかがっていたロファーには、この時ジゼルの目が一瞬光って見えた。ジゼルは、何か企んでいる?

「あぁ、スネーク。悪くはなかったけど、あの男、年増好き。わたしのママに憧れているの。ママを見るだけで真っ赤になって……気持ち悪い」
「そうなんだ!?」
またもジゼルが笑いだす。

嫣然えんぜんと微笑む花と言われるあなたの母上は、それは美しいと南でも評判だ。年齢を考えても、ますます妖艶になられたのでは?」
「ふん、お陰でパパはすぐママを優先する。わたしもパパみたいに優しい夫が欲しいの。でも不細工はいや」

「しかし……」
と、ここでジゼルはロファーを眺める。
「ロファーはそこまで美男子と言うわけではないと思うが?」
クスリと笑いながらジゼルが言う。『はいはい、その通りですよ』と心の中で思いながら、それでもやっぱりロファーは面白くない。

「あら、その黄金色の髪、それに琥珀色の瞳。目が奪われるほど美しいわ。それに、それなりに……ハンサムよ」
と、屋根の上がこちらを見降ろし、考えながら答える――ですかと、またも心の中でロファーが思う。まぁ、それなり、だよね。それにしても、魔導士たちは髪や瞳の色に、随分とこだわるんだな。

「そうだね、その髪と瞳の色で選んだだ。諦めて貰うしかないが、いかが?」
「そうはいかない」
「だいたい、どうやってそこに上った?」
「あら、話を変えた……ま、そこの梯子を使ったのだけれど?」
と、勝手口のある方向を見る。建屋の横手だ。ジゼルが回り込む。

「この梯子を、あなたが運んできた? どこから?」
ロファーも同じように見てみると、屋根まで届く長い梯子が建屋の横に立てかけてある。屋根の上の人物が運んだのなら、大変だっただろう。

「隣の家。二つあった梯子をここの結界の端まで魔導術で運んでつなげて、そこからはかついだわ。お陰で服が汚れてしまった」
最後は少し泣き声だ。

「あなたが梯子を担いだ?」
またもゲラゲラとジゼルが笑いだす。

「そうよ、そこまでしたのだから、そう簡単に諦めない! 月は諦めたけれど、太陽は手に入れる!」
この言葉に、再びジゼルの目が光る。
「太陽と来ましたか? 髪と瞳の色だけで、太陽と言い切る?」

 すると、ジュライモニアがクスリと笑う。
「それは手に入れてからじっくり調べるわ」
「ふぅうん……」

「伝説の魔導士サリオネルト様と同じ黄金の髪に琥珀の瞳、それは失われた男の子も同じ――その子が成長していれば、もうすぐ十九歳よ。ロファー、あなた、としはいくつ?」
屋根の上の女の瞳も光ったようにロファーには見えた。

「南北のギルドが血眼になって探している太陽……げん王がロファーかもしれない」
ジュライモニアの声にジゼルが笑いを引っ込めて問う。

「夫にしたいのではなかった? ロファーが示顕王だとしたら北に連れて行けば即刻処刑だ。夫にできないぞ?」
「そこはパパに頼むわよ。わたしの夫を殺さないで、と。優しいパパは、簡単に命を奪う事をもとから許さない。サリオネルトの息子と判っても、必ず無傷で連れてこいと言っている」

「ちょっと待て!」
顔色を変えたロファーが思わず叫ぶ。
「サリオネルトの息子? 俺の――」

 親を知っているのか? と言おうとしたのだろう。が、急に気を失って、ゆっくりとその場に倒れ込む。ジゼルが眠らせたのだ。

「あら、本人は何も知らない?」
ジュライモニアが面白そうに覗き込んでくる。

「人違いだから知らないとも考えられる」
「でも、あなたは否定しなかった」
「ほぅ、否定して欲しかったか?」

 するとジュライモニアがニヤリと笑った。
「わたしは誤魔化されない。もしロファーがそうでないのなら、否定すれば終わるものを、嘘が吐けない魔導士が言葉を選んでいる」
「ふふん……で、わたしの飼猫がサリオネルトの息子かもしれないと、誰かに話したか?」
「まさか!」
ジュライモニアがクスリと笑う。

「そんな事を言えば、誰かがすぐにロファーを捕らえに来る。わたしのモノにするチャンスがなくなる」
「それは結構」
ジゼルの瞳から青い光がほとばしる。

「きゃあ!」
ジュライモニアが宙に投げ出され、地に降ろされる。
「な、なにをする気!?」

「ロファーがサリオネルトの息子と気付いたあなたを、北へ無事に帰すとでも? 神秘王たるこのわたしが?」
「えっ!? 神秘王? あなたが?」
「そう、そしてまた、わたしが神秘王と知ったあなたを無事に返すと思うか? 麗しの姫君ジュライモニア」
「待って!」

≪従順たれ≫
ジゼルが口の中で呟く。屋根から降ろされた女の動きが止まり、力を失った目が真っ直ぐにジゼルを見る。

「あなたの好きなものはなんだ?」
問うジゼル、瞳に今度は薄桃色の光が宿る。

『ママが焼いたクッキー』
屋根から降ろされた女がうつろな瞳でそう答える。
「なるほど、食べる事が好きか。ならば、食べる事を生き甲斐に暮らせ」

 ジゼルの瞳が深紅に変わり、カッと光った。
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