2 / 12
1
しおりを挟む
「シュウ、シュウーー」
明るい声に振り向くと、姉のユリエが笑みを浮かべて駆け寄ってきた。行き交う人の多い街中だ。シュウは慌てて素知らぬ振りを装うと、早足に立ち去ろうとした。
「シュウったら……」
笑いながらユリエが肩を並べて歩く。
「お姉ちゃんと歩くのが恥かしいの?」
図星を指されて何も言えない。腕を組もうとするのを振り払うのがやっとだ。
「ツレないなぁ……彼女ができると変わるわね」
ユリエは唇を尖らせて、少し拗ねた顔をしたがすぐにコロコロと笑う。そして悪戯そうに瞳を輝かせるとシュウの顔を覗き込んだ。
「もうキッスくらいしたの?」
カッとシュウの顔が赤く染まる。他人の耳が気になって見渡せば、ちょうど擦れ違った中年女性がニコニコと自分を見ている。さらに顔が熱くなるのを感じ、逃げ出したい心境にシュウの足が速まる。
「ちょっと、待ってってば」
笑い転げる姉に少し腹が立つ。何もこんなところで揶揄わなくったっていいじゃないか……
(だけど……少しくらい教えたげるか)
思い直して立ち止まると、シュウはカバンからノートを取り出して走り書きした。ちょっとだけ自慢したい気持ちもあった。
「へぇ……」
走り書きを読んだユリエは一瞬、真顔に戻ってシュウを見た。そしてすぐにまたキラキラと瞳を輝かせる。
「夏休みにはビーチでデートか……やるね、この!」
まあね……シュウの顔がそう言っている。ちょっとだけ自慢げだ。シュウがそんな満ち足りた表情を見せるようになったのはここ最近のこと、それまでは笑っていてもどこか寂しげだった。
泣きたいような気持ちになって、ユリエは慌ててシュウの耳元に唇を寄せた。
「ひょっとして泊りがけ……?」
(違うっ!)
ノートに書き込もうと焦るシュウから、今度はユリエが逃げるように駆け出した。
「急がなくっちゃ、バイト、遅刻しちゃう――たまにはお店に遊びにおいで。ご馳走はしないけど」
手を振ると、さっさと後姿を見せてユリエは人込みに消えていく。
(ハンバーガーくらい、奢ってくれてもよさそうなのに……)
呆れて見送っていると、ふと笑いが込みあげてきて、今の自分は幸せだと思った。
***
シュウがナツミと知り合ったのは寒風吹きすさぶ駅のホームだ。シュウにぶつかりそうになって電車に乗り遅れたナツミ、その詫びにシュウが差し入れた温かな缶コーヒー、数日後、ナツミからSNSのアカウントを書いたメモを受け取った。
一日に何度も交換されるメッセージ、けれどナツミが『電話で話したい』と言ったとき、シュウはナツミから逃げ出した。声がでないことを告げていない。知ればナツミが遠ざかると思った。だから自分から逃げ出した。そんな情けないシュウをナツミは追ってきた。
嫌われることを覚悟で告白したシュウにナツミは笑った。そして泣いた。それでもシュウが好き、ナツミはそう言って泣いた……シュウとナツミの恋が始まった。
明るい声に振り向くと、姉のユリエが笑みを浮かべて駆け寄ってきた。行き交う人の多い街中だ。シュウは慌てて素知らぬ振りを装うと、早足に立ち去ろうとした。
「シュウったら……」
笑いながらユリエが肩を並べて歩く。
「お姉ちゃんと歩くのが恥かしいの?」
図星を指されて何も言えない。腕を組もうとするのを振り払うのがやっとだ。
「ツレないなぁ……彼女ができると変わるわね」
ユリエは唇を尖らせて、少し拗ねた顔をしたがすぐにコロコロと笑う。そして悪戯そうに瞳を輝かせるとシュウの顔を覗き込んだ。
「もうキッスくらいしたの?」
カッとシュウの顔が赤く染まる。他人の耳が気になって見渡せば、ちょうど擦れ違った中年女性がニコニコと自分を見ている。さらに顔が熱くなるのを感じ、逃げ出したい心境にシュウの足が速まる。
「ちょっと、待ってってば」
笑い転げる姉に少し腹が立つ。何もこんなところで揶揄わなくったっていいじゃないか……
(だけど……少しくらい教えたげるか)
思い直して立ち止まると、シュウはカバンからノートを取り出して走り書きした。ちょっとだけ自慢したい気持ちもあった。
「へぇ……」
走り書きを読んだユリエは一瞬、真顔に戻ってシュウを見た。そしてすぐにまたキラキラと瞳を輝かせる。
「夏休みにはビーチでデートか……やるね、この!」
まあね……シュウの顔がそう言っている。ちょっとだけ自慢げだ。シュウがそんな満ち足りた表情を見せるようになったのはここ最近のこと、それまでは笑っていてもどこか寂しげだった。
泣きたいような気持ちになって、ユリエは慌ててシュウの耳元に唇を寄せた。
「ひょっとして泊りがけ……?」
(違うっ!)
ノートに書き込もうと焦るシュウから、今度はユリエが逃げるように駆け出した。
「急がなくっちゃ、バイト、遅刻しちゃう――たまにはお店に遊びにおいで。ご馳走はしないけど」
手を振ると、さっさと後姿を見せてユリエは人込みに消えていく。
(ハンバーガーくらい、奢ってくれてもよさそうなのに……)
呆れて見送っていると、ふと笑いが込みあげてきて、今の自分は幸せだと思った。
***
シュウがナツミと知り合ったのは寒風吹きすさぶ駅のホームだ。シュウにぶつかりそうになって電車に乗り遅れたナツミ、その詫びにシュウが差し入れた温かな缶コーヒー、数日後、ナツミからSNSのアカウントを書いたメモを受け取った。
一日に何度も交換されるメッセージ、けれどナツミが『電話で話したい』と言ったとき、シュウはナツミから逃げ出した。声がでないことを告げていない。知ればナツミが遠ざかると思った。だから自分から逃げ出した。そんな情けないシュウをナツミは追ってきた。
嫌われることを覚悟で告白したシュウにナツミは笑った。そして泣いた。それでもシュウが好き、ナツミはそう言って泣いた……シュウとナツミの恋が始まった。
10
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
工場夜景
藤谷 郁
恋愛
結婚相談所で出会った彼は、港の製鉄所で働く年下の青年。年齢も年収も関係なく、顔立ちだけで選んだ相手だった――仕事一筋の堅物女、松平未樹。彼女は32歳の冬、初めての恋を経験する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる