最後のメッセージ

寄賀あける

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「シュウ、シュウーー」
明るい声に振り向くと、姉のユリエが笑みを浮かべて駆け寄ってきた。行き交う人の多い街中だ。シュウは慌てて素知らぬ振りを装うと、早足に立ち去ろうとした。

「シュウったら……」
笑いながらユリエが肩を並べて歩く。

「お姉ちゃんと歩くのが恥かしいの?」
図星を指されて何も言えない。腕を組もうとするのを振り払うのがやっとだ。
「ツレないなぁ……彼女ができると変わるわね」

 ユリエは唇を尖らせて、少し拗ねた顔をしたがすぐにコロコロと笑う。そして悪戯そうに瞳を輝かせるとシュウの顔を覗き込んだ。
「もうキッスくらいしたの?」

 カッとシュウの顔が赤く染まる。他人ひとの耳が気になって見渡せば、ちょうど擦れ違った中年女性がニコニコと自分を見ている。さらに顔が熱くなるのを感じ、逃げ出したい心境にシュウの足が速まる。

「ちょっと、待ってってば」
笑い転げる姉に少し腹が立つ。何もこんなところで揶揄からかわなくったっていいじゃないか……

(だけど……少しくらい教えたげるか)
思い直して立ち止まると、シュウはカバンからノートを取り出して走り書きした。ちょっとだけ自慢したい気持ちもあった。

「へぇ……」
走り書きを読んだユリエは一瞬、真顔に戻ってシュウを見た。そしてすぐにまたキラキラと瞳を輝かせる。
「夏休みにはビーチでデートか……やるね、この!」

 まあね……シュウの顔がそう言っている。ちょっとだけ自慢げだ。シュウがそんな満ち足りた表情を見せるようになったのはここ最近のこと、それまでは笑っていてもどこか寂しげだった。

 泣きたいような気持ちになって、ユリエは慌ててシュウの耳元に唇を寄せた。
「ひょっとして泊りがけ……?」

(違うっ!)
ノートに書き込もうと焦るシュウから、今度はユリエが逃げるように駆け出した。

「急がなくっちゃ、バイト、遅刻しちゃう――たまにはお店に遊びにおいで。ご馳走はしないけど」
手を振ると、さっさと後姿を見せてユリエは人込みに消えていく。

(ハンバーガーくらい、おごってくれてもよさそうなのに……)
呆れて見送っていると、ふと笑いが込みあげてきて、今の自分は幸せだと思った。


***

 シュウがナツミと知り合ったのは寒風吹きすさぶ駅のホームだ。シュウにぶつかりそうになって電車に乗り遅れたナツミ、その詫びにシュウが差し入れた温かな缶コーヒー、数日後、ナツミからSNSのアカウントを書いたメモを受け取った。

 一日に何度も交換されるメッセージ、けれどナツミが『電話で話したい』と言ったとき、シュウはナツミから逃げ出した。声がでないことを告げていない。知ればナツミが遠ざかると思った。だから自分から逃げ出した。そんな情けないシュウをナツミは追ってきた。

 嫌われることを覚悟で告白したシュウにナツミは笑った。そして泣いた。それでもシュウが好き、ナツミはそう言って泣いた……シュウとナツミの恋が始まった。
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