最後のメッセージ

寄賀あける

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 シュウがやっと返信する気になったのは、日付がとうに変わった真夜中のことだった。

 メッセージを打ち込みながら、シュウは自分の母親のことを考えていた。

 母もきっと苦しかったに違いない。シュウは母にとって我が子の一人に違いなく、少なくともあの日までは愛情を注いでくれていた。

 妹が殺されたとき、あの男に向けるだけでは足りなかった怒りの行き場が、不幸にも自分の子シュウだった。その事にどれほど母は苦しんだことか? そして、自分が責めたことで我が子から声を奪ってしまったと、自分のことをも責めていたのではないだろうか?

 あの事件があって以来、母は一度もシュウを見なかった。声をかけることもなかった。見れば、声をかければ、幼くして逝ってしまった末娘を思わずには居られなかった。そして、心の中でシュウを責め、そして自分を責めてしまう――違うだろうか?

 両親が離婚するとき、父はシュウにこう言った。
「こうするのがお互いのためなんだよ」
それは、両親にとってではなく、シュウと母にとって、と言う意味だったのかもしれない。

 愛しい我が子を愛したいのに愛せない母親と、愛して欲しいのに愛してもらえず、そして大きな引け目を感じて声をなくしてしまった子……一緒にいればその傷口はどんどん広がっていくだろう。



***

 ナツミ、どんなに相手を思っても――思えば思うほど、一緒にいられないこともあるんだ。

 もちろん母とキミが一緒だなんて思わない。僕たちの間に、不幸を呼ぶ要素なんて、僕が話せないこと以外、なかったのだからね。

 今考えれば、僕は逃げ出しただけなのだと判る。だけど、あの時はそうは思わなかった。僕は、これがキミのためだと本気で思っていたんだ。話せない僕なんかと一緒になるより、キミにはもっと、一点の曇りもない恋が似あうと信じていた。キミが僕の決断に、どんな思いをするかまで考える余裕はなかった。

 僕は逃げ出したんだ。僕の母が、僕から逃げ出したのと同じように――

 あの日、雲が払われた空に月が煌々と光っていた。僕はキミへの短い、最後のメッセージを打ち込むと目を閉じて送信ボタンを押した。

 しばらくするとピーッと耳障りな音がして、見るとスマホのバッテリーが切れていた。

 ちゃんとメッセージが送られたのか気になったけれど、確認しなかった。心のどこかに送信されていないことを祈る気持ちがあったからかもしれない。僕の後悔はそのときから始まっていたんだ。

 キミからメッセージが来ることは二度となかった。

 こうして僕たちの恋は終わった。
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