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期末試験を来週に控えれば、週末と言えどデートをしている暇なんてない。朝の通学途中で顔を合わせることさえも『早く行って図書館で勉強するから』と避けた。
あの土砂降りの日に駅で遭遇して以来、シュウの態度が冷たくなったことにナツミが気付かないはずはない。それなのに、SNSでさえ責めてこない。そんなナツミは却ってシュウをイライラさせた。
会いたくないわけじゃない、冷たくしたいわけじゃないんだ……ナツミが何か言ってくれたら、そしたら『ごめんね』と素直に謝ることもできるのに――そんなのは甘えだと判っている。なのに、シュウのためならと我慢するナツミに『犠牲』と言う言葉がシュウには見えてしまう。
(ナツミを犠牲にしなければ、僕は幸せになれないのか?)
そんな疑惑がシュウの中に広がっていく。
【今日で試験、終わりでしょ? 明日、どこかで会おうか?】
ナツミからのメッセージに
【明日はゆっくりしたい】
そっけない返信を送る。
【じゃあ、明後日は? 試験休みでしょう?】
すぐにきたレスに愛想なく答える。
【明後日は他に約束があるんだ】
約束なんてない。なのにそう答えた。ナツミを差し置いて約束するなんて、そう怒ってくれたなら……そしたら『冗談だよ』と答えよう。そう思って待っているのに今度はなかなか返信がない。
嘘なんか言うんじゃなかった、後悔し始めたころ、やっとメッセージが届いた。
【それじゃ、その次は?】
――ナツミが悪いわけじゃない、そんなことはシュウにも判っていた。だけど自分で自分が止められなかった。
【明後日もその次も、その次も! ずっと忙しい】
***
次のメッセージがキミから来るまで、ずい分長い時間待ったように覚えているよ。実際はそれほどの時間は過ぎていなかったのかもしれない。
僕は他に何をするでもなく、ただスマホを見詰めながらキミのメッセージを待っていた。バッテリーの表示が残り僅かを知らせていたけど、充電する気分にはならなかった。どこかでこのまま終わるなら、それでもいいと投げやりになっていた。
【どうして?】
キミからのメッセージはいたってシンプルだった。そしてそれは、僕の心にもある疑問だった。
どうして?……なぜこんなにナツミが好きなのに、僕は素直になれないんだろう? 会いたがっているのは僕も同じなのに、どうして会えないなんて言ってしまったんだろう? 好きだよ、ナツミ。好きなんだよ――
あの時、本当は会いたくて仕方ないんだ、と、キミが好きだよ、と言えば違った道も開けただろう。だけど、僕はこう返信した。
【ナツミは僕といて楽しいの?】
楽しいよ、キミはそう答えてくれた。
【だってシュウのことが好きだもん】
そんなキミに僕はこう言ったんだ。
【僕はろくに話もできない、好きだよ、って囁くことすらできない。いつかナツミもそれに不満を持つようになる】
【そんなことない。シュウが話せないこと、知ってて付き合ってるんだよ? なんで今さらそんなこと言うの?】
もっともなキミの抗議に返信を躊躇っていると、君がメッセージを追加した。
【話せないことをシュウに気にさせないように、わたし、頑張るから】
ナツミ、僕たちの恋はキミだけが頑張らなくては成立しないものだった。きっとキミは、僕がハンデを持っていると知ったときから覚悟していたのだろう。なのに肝心の僕は初めての思いに有頂天になり、大切なその事を忘れていた。そしてキミの覚悟を重荷に感じてしまった。
【僕は……ナツミに頑張らさせないとダメなんだね】
僕はキミにこう返信した。
【それって僕にとっては屈辱だ】
若さゆえの青いプライドと、今になれば僕にも判る。キミの覚悟を同情と受け止めてしまった僕、キミをどれほど傷つけただろう。だけどキミはそんな僕の気持ちさえ汲み取っていたのだろうね。
しばらくの時間を置いて、君からきたメッセージには
【もう、会えないの?】
とだけあった。なにが僕の自尊心を刺激したのか、察しての言葉だったんだろう。
僕は、すぐには返信できなかった――
あの土砂降りの日に駅で遭遇して以来、シュウの態度が冷たくなったことにナツミが気付かないはずはない。それなのに、SNSでさえ責めてこない。そんなナツミは却ってシュウをイライラさせた。
会いたくないわけじゃない、冷たくしたいわけじゃないんだ……ナツミが何か言ってくれたら、そしたら『ごめんね』と素直に謝ることもできるのに――そんなのは甘えだと判っている。なのに、シュウのためならと我慢するナツミに『犠牲』と言う言葉がシュウには見えてしまう。
(ナツミを犠牲にしなければ、僕は幸せになれないのか?)
そんな疑惑がシュウの中に広がっていく。
【今日で試験、終わりでしょ? 明日、どこかで会おうか?】
ナツミからのメッセージに
【明日はゆっくりしたい】
そっけない返信を送る。
【じゃあ、明後日は? 試験休みでしょう?】
すぐにきたレスに愛想なく答える。
【明後日は他に約束があるんだ】
約束なんてない。なのにそう答えた。ナツミを差し置いて約束するなんて、そう怒ってくれたなら……そしたら『冗談だよ』と答えよう。そう思って待っているのに今度はなかなか返信がない。
嘘なんか言うんじゃなかった、後悔し始めたころ、やっとメッセージが届いた。
【それじゃ、その次は?】
――ナツミが悪いわけじゃない、そんなことはシュウにも判っていた。だけど自分で自分が止められなかった。
【明後日もその次も、その次も! ずっと忙しい】
***
次のメッセージがキミから来るまで、ずい分長い時間待ったように覚えているよ。実際はそれほどの時間は過ぎていなかったのかもしれない。
僕は他に何をするでもなく、ただスマホを見詰めながらキミのメッセージを待っていた。バッテリーの表示が残り僅かを知らせていたけど、充電する気分にはならなかった。どこかでこのまま終わるなら、それでもいいと投げやりになっていた。
【どうして?】
キミからのメッセージはいたってシンプルだった。そしてそれは、僕の心にもある疑問だった。
どうして?……なぜこんなにナツミが好きなのに、僕は素直になれないんだろう? 会いたがっているのは僕も同じなのに、どうして会えないなんて言ってしまったんだろう? 好きだよ、ナツミ。好きなんだよ――
あの時、本当は会いたくて仕方ないんだ、と、キミが好きだよ、と言えば違った道も開けただろう。だけど、僕はこう返信した。
【ナツミは僕といて楽しいの?】
楽しいよ、キミはそう答えてくれた。
【だってシュウのことが好きだもん】
そんなキミに僕はこう言ったんだ。
【僕はろくに話もできない、好きだよ、って囁くことすらできない。いつかナツミもそれに不満を持つようになる】
【そんなことない。シュウが話せないこと、知ってて付き合ってるんだよ? なんで今さらそんなこと言うの?】
もっともなキミの抗議に返信を躊躇っていると、君がメッセージを追加した。
【話せないことをシュウに気にさせないように、わたし、頑張るから】
ナツミ、僕たちの恋はキミだけが頑張らなくては成立しないものだった。きっとキミは、僕がハンデを持っていると知ったときから覚悟していたのだろう。なのに肝心の僕は初めての思いに有頂天になり、大切なその事を忘れていた。そしてキミの覚悟を重荷に感じてしまった。
【僕は……ナツミに頑張らさせないとダメなんだね】
僕はキミにこう返信した。
【それって僕にとっては屈辱だ】
若さゆえの青いプライドと、今になれば僕にも判る。キミの覚悟を同情と受け止めてしまった僕、キミをどれほど傷つけただろう。だけどキミはそんな僕の気持ちさえ汲み取っていたのだろうね。
しばらくの時間を置いて、君からきたメッセージには
【もう、会えないの?】
とだけあった。なにが僕の自尊心を刺激したのか、察しての言葉だったんだろう。
僕は、すぐには返信できなかった――
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2021/05/29 公開
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