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第一部 魔女選考 若者たちの純情
一章 恋する二人 (3)
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男の子はサリーと名乗った。今日、最終学年に編入され、黄金寮に入寮したのだという。同じ寮だと教えると、『これからいつも会えるね』とにっこりした。
「泣いてばかりいると美貌が台無しだよ」
とニアに言い、
「返事を待ってるね」
とマリに言うと姿を消してしまった。
この時期の編入って珍しいね、とマリが言っても
「いけ好かないヤツ。まさかオーケーしないわよね?」
ニアはマリの疑問には答えず怒っている。マリはあいまいな返事しかしなかった。
サリーは屈託のない性格で、すぐ黄金寮の仲間に馴染んだ。この時期の編入については
「今までは魔導士の両親のもとで勉強していた」
と言い、魔導士になるための最終試験と、社会勉強のため入寮したと説明した。
最終試験に合格しなければ、魔導士にはなれない。もし不合格ならば、魔導士学校での記憶を消され、市井の人として生きていく事になる。
が、サリーの場合、ほかの多くの魔導士の親を持つ学生と同じく、合格するための試験だ。すでに力は発揮され、しかも並みではない力を持っているらしい。親が魔導士だからと言って、学びもせずに魔導術を扱えるようになるわけではないのだから、本人の努力と生まれ持っての才能の現れだろう。
本人が言ったわけではないが、どこからともなくそんな情報が流れてくる。親が魔導士、なんて学生はここには腐るほどいる。その親から聞いた話を披露する学生も数え切れずにいるだろう。
「でもね、ニア」
サリーとの交際を反対するニアに
「初めて申し込まれたの。これを断ったら、もう誰もわたしに申し込んでくれないかもしれない」
とマリが言う。
「そんな……マリはこんなに可愛いのに。もっと自分に自信を持って」
「それにね、付き合ってみなければ、サリーがどんな人かも判らないじゃない」
ニアの助言に従うばかりのマリが、どうやら今度ばかりは意思を貫きたいようだ。
「だけどね、もしうまくいかなくて、わたしが悲しむようなことがあったら、その時はニア、お願いね。慰めて」
「当り前じゃない」
ニアはそんなマリを抱き締めるしかなかった。
サリーとマリが付きあいだしたことはすぐ周囲に知れ渡った。それに付随するように赤髪のビリーがとうとう一年生の女の子、南の魔女の娘ジョゼを落とした噂も広まった。サリーとビリーが双子の兄弟だという事実と共に……
「判っているのよ」
ニアが涙ぐむ。
「ビリーとサリーがいくら双子だって言っても別の人間だって」
だけど、サリーを見ればビリーを思い出して、口惜しさが舞い戻ってくるのよ。
「可愛そうなニア。気持ちは判るわ。でもサリーを責めないで」
マリも一緒に涙ぐむ。
「サリーが言ってたけど、ビリーのことはよく判らないんですって。別々に育てられたって言っていたわ……それにビリーの相手の女の子、すごい変わり者らしいの。友だちが一人もいないってもっぱらの評判よ」
他人の悪口などめったに言わないマリの言葉にニアも少しは慰められたようだ。
「そんな相手を選ぶなんて、ビリーも変わり者、ってことね。わたし、フラれてよかったわ」
それにしても、とニアが続けた。
「あの双子、まったく似ていないのね」
ビリーは燃えるような赤い髪にレンガ色の瞳で飛び切りの美形、サリーは輝くバターブロンドに琥珀色の瞳は綺麗だけど容姿はそこそこ……
「そこそこで悪かったわね」
マリが苦笑し、思わずニアは、ごめん、と舌を出した。
二人は相変わらず秘密のベンチで内緒話を楽しんでいたが、この頃からサリーが時おり顔を出すようになっていた。
「何しに来たの? マリがあなたをどう思っているか知らないけれど、わたしがあなたを嫌いなのは判っているでしょ?」
と、ニアはつれない。
「そんなこと言わずに仲良くしてよ。マリの親友とは僕だって仲良くなりたいんだ」
他愛のない話をして、じゃあね、とさっさと帰る。そんなことが何度も続いた。
そして何度目かのことだった。
「今日はレギリンス先生の話?」
ニアが意地悪な顔をしていった。
「わたし、気付いたの。サリーあなた、その日の授業の判りにくかったところを、冗談めかして補填してるわよね、ここで」
するとサリーがにこりと笑った。
「ばれちゃった?」
次の西の魔女を誰にするか、選考会議まで時間がない。三つの魔導学校からそれぞれ候補の魔女が二人選ばれ、そしてその六人の中から新たな西の魔女が誕生する。
「この学校からの二人はニアとマリ、もう決まっているんだよ」
ジョゼも名が挙がったが、まだあれは幼過ぎる。ビリーが近づいて教育し直し始めたばかりだ。
ちょっと待って、とニアが叫ぶ。
「ビリーが近づいて、って、どういうこと?」
「今まで言わなくてごめん」
顰め面でサリーが言う。
ビリーは次の魔導士ギルドの長になると決められている。それを承知する替わりに南の魔女がビリーとジョゼの婚姻と、次の南の魔女をジョゼにする確約を求めた。そしてギルドはそれを承諾した。
「ギルドが決めたことだ。ビリーは自分の意思ではどうにもできなかった。南の魔女は娘の将来を案じている。娘の強すぎる力を制御できる夫と娘を娶わせたかった。ギルドも次の南の魔女の強すぎる力をビリーに抑えさせたかった」
「それじゃあ、ビリーは?」
ニアがぽろぽろ涙を零し始める。
「ビリーの気持ちは?」
申し訳なさそうにサリーはニアから目を逸らす。
「ビリーの気持は僕には判らない。訊いても笑うばかりで何も答えない。僕がここに来たのはビリーとジョゼのことが決まった後だ。ビリーからニアへの思いを知らされる機会はなかった。何を訊いてもビリーは、決められたことだ、と言うばかりだ」
「泣いてばかりいると美貌が台無しだよ」
とニアに言い、
「返事を待ってるね」
とマリに言うと姿を消してしまった。
この時期の編入って珍しいね、とマリが言っても
「いけ好かないヤツ。まさかオーケーしないわよね?」
ニアはマリの疑問には答えず怒っている。マリはあいまいな返事しかしなかった。
サリーは屈託のない性格で、すぐ黄金寮の仲間に馴染んだ。この時期の編入については
「今までは魔導士の両親のもとで勉強していた」
と言い、魔導士になるための最終試験と、社会勉強のため入寮したと説明した。
最終試験に合格しなければ、魔導士にはなれない。もし不合格ならば、魔導士学校での記憶を消され、市井の人として生きていく事になる。
が、サリーの場合、ほかの多くの魔導士の親を持つ学生と同じく、合格するための試験だ。すでに力は発揮され、しかも並みではない力を持っているらしい。親が魔導士だからと言って、学びもせずに魔導術を扱えるようになるわけではないのだから、本人の努力と生まれ持っての才能の現れだろう。
本人が言ったわけではないが、どこからともなくそんな情報が流れてくる。親が魔導士、なんて学生はここには腐るほどいる。その親から聞いた話を披露する学生も数え切れずにいるだろう。
「でもね、ニア」
サリーとの交際を反対するニアに
「初めて申し込まれたの。これを断ったら、もう誰もわたしに申し込んでくれないかもしれない」
とマリが言う。
「そんな……マリはこんなに可愛いのに。もっと自分に自信を持って」
「それにね、付き合ってみなければ、サリーがどんな人かも判らないじゃない」
ニアの助言に従うばかりのマリが、どうやら今度ばかりは意思を貫きたいようだ。
「だけどね、もしうまくいかなくて、わたしが悲しむようなことがあったら、その時はニア、お願いね。慰めて」
「当り前じゃない」
ニアはそんなマリを抱き締めるしかなかった。
サリーとマリが付きあいだしたことはすぐ周囲に知れ渡った。それに付随するように赤髪のビリーがとうとう一年生の女の子、南の魔女の娘ジョゼを落とした噂も広まった。サリーとビリーが双子の兄弟だという事実と共に……
「判っているのよ」
ニアが涙ぐむ。
「ビリーとサリーがいくら双子だって言っても別の人間だって」
だけど、サリーを見ればビリーを思い出して、口惜しさが舞い戻ってくるのよ。
「可愛そうなニア。気持ちは判るわ。でもサリーを責めないで」
マリも一緒に涙ぐむ。
「サリーが言ってたけど、ビリーのことはよく判らないんですって。別々に育てられたって言っていたわ……それにビリーの相手の女の子、すごい変わり者らしいの。友だちが一人もいないってもっぱらの評判よ」
他人の悪口などめったに言わないマリの言葉にニアも少しは慰められたようだ。
「そんな相手を選ぶなんて、ビリーも変わり者、ってことね。わたし、フラれてよかったわ」
それにしても、とニアが続けた。
「あの双子、まったく似ていないのね」
ビリーは燃えるような赤い髪にレンガ色の瞳で飛び切りの美形、サリーは輝くバターブロンドに琥珀色の瞳は綺麗だけど容姿はそこそこ……
「そこそこで悪かったわね」
マリが苦笑し、思わずニアは、ごめん、と舌を出した。
二人は相変わらず秘密のベンチで内緒話を楽しんでいたが、この頃からサリーが時おり顔を出すようになっていた。
「何しに来たの? マリがあなたをどう思っているか知らないけれど、わたしがあなたを嫌いなのは判っているでしょ?」
と、ニアはつれない。
「そんなこと言わずに仲良くしてよ。マリの親友とは僕だって仲良くなりたいんだ」
他愛のない話をして、じゃあね、とさっさと帰る。そんなことが何度も続いた。
そして何度目かのことだった。
「今日はレギリンス先生の話?」
ニアが意地悪な顔をしていった。
「わたし、気付いたの。サリーあなた、その日の授業の判りにくかったところを、冗談めかして補填してるわよね、ここで」
するとサリーがにこりと笑った。
「ばれちゃった?」
次の西の魔女を誰にするか、選考会議まで時間がない。三つの魔導学校からそれぞれ候補の魔女が二人選ばれ、そしてその六人の中から新たな西の魔女が誕生する。
「この学校からの二人はニアとマリ、もう決まっているんだよ」
ジョゼも名が挙がったが、まだあれは幼過ぎる。ビリーが近づいて教育し直し始めたばかりだ。
ちょっと待って、とニアが叫ぶ。
「ビリーが近づいて、って、どういうこと?」
「今まで言わなくてごめん」
顰め面でサリーが言う。
ビリーは次の魔導士ギルドの長になると決められている。それを承知する替わりに南の魔女がビリーとジョゼの婚姻と、次の南の魔女をジョゼにする確約を求めた。そしてギルドはそれを承諾した。
「ギルドが決めたことだ。ビリーは自分の意思ではどうにもできなかった。南の魔女は娘の将来を案じている。娘の強すぎる力を制御できる夫と娘を娶わせたかった。ギルドも次の南の魔女の強すぎる力をビリーに抑えさせたかった」
「それじゃあ、ビリーは?」
ニアがぽろぽろ涙を零し始める。
「ビリーの気持ちは?」
申し訳なさそうにサリーはニアから目を逸らす。
「ビリーの気持は僕には判らない。訊いても笑うばかりで何も答えない。僕がここに来たのはビリーとジョゼのことが決まった後だ。ビリーからニアへの思いを知らされる機会はなかった。何を訊いてもビリーは、決められたことだ、と言うばかりだ」
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