憧憬のエテルニタス

寄賀あける

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第二部 疑惑   それぞれの思惑

九章 表れた孤独 (3)

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「まて、サリー、おまえ、このところ変だ。こないだもかなり弱気になっていた」
「うん……」

 弱気と言うか、臆病になっているのは自分でもよく判る。

「もし、自分が死んだらマリや、もうすぐ生まれてくる息子はどうなる? 誰が二人を守るんだ? それが心配で仕方ない」
「サリー、よくないことばかり考えるな」

「いや、なにも、すぐに死ぬと思っているわけじゃない」
サリオネルトが苦笑する。
「ただ、もしそうなったとしたら」
ビルセゼルトに向き直る。

「二人を頼みたい。夏至の日も、それ以降も」
「あのさ」
つい、ビルセゼルトが不満顔になる。

「もしも、もしもだぞ、おまえに何かあったとして、俺がマルテミアやおまえの息子を放っておくと思っているのか?」
サリオネルトが気まずそうに笑った。
「うん、そうだね。判っているんだ」
だけど、ちゃんと頼んでおきたくて……

「最近、いやな夢をよく見る。暗闇に閉じ込められて身動きができない」
もがいていると、どこからともなく現れた手がわたしの心臓を鷲掴みにし、抜き取って何処かへ持っていく。
「そこで、目が覚める。そんな夢だ」

 気が付けば、そこにはマルテミアの寝顔があり、時にはわたしを揺り起こしたマルテミアの心配そうな顔がある。
「あぁ、僕の天使はいつも僕を守ってくれている。そう感じて、また眠る」
少しだけ照れたような笑顔をサリオネルトが浮かべる。

「僕の天使?」
「うん、マルテミアにプロポーズしたときに、そう言った」

「なんだ、おまえ、ひょっとして、ここに惚気に来たのか?」
呆れたヤツだ、と笑いながら、内心、サリオネルトが心配で仕方ないビルセゼルトだった――それからしばらく談笑し、サリオネルトは帰って行った。

「赤子が腹を蹴ったというから、マルテミアの腹を触ってみると、中から『ポポポポン!』と衝撃が伝わってきた。いのちとは凄いものだと実感したよ」
そう話すサリオネルトの顔は明るく、ビルセゼルトは笑顔を返し、安心したふりをした。

 サリオネルトが帰ってから暫くの間、魔導士学校の校長室でビルセゼルトは腰かけたまま、何もしないで呆然と宙を見ていた。

 どうしたらサリオネルトを救える? 『げん王』から、と言うのもあるが、それ以前に、サリオネルトが囚われている、底なしの孤独をどうにかしてやりたい。

 マルテミアと一緒になってから、だんだんと開放されてきたように見えていたが、まだまだサリオネルトの闇は深い。それでも、こうして心の内を明け透けに言ってくれるようにはなった。改善していると思いたい。けれど、ひょんな事で、まるで子どものような反応をする時があり、やはりまだ欠損は埋め尽くされてはいないのだと、ビルセゼルトは思わずにいられない。

 サリオネルト本人は無意識のうちに心のもろさを隠しているが、孤独からの解放は皮肉なことに脆さを助長しているようにビルセゼルトは感じている。

 サリオネルトが自分の妻を『僕の天使』と冗談だろうが口にしたのも、そう考えると心配になる。口調は冗談めいていたが、サリオネルトは本気でそう思っているのではないか。結婚して三年以上が経っていて、そこまで思い続けるものか?

 そりゃあ、人それぞれで、サリオネルト夫婦は今でも熱烈であっても奇怪おかしくないが、基本的に執着心が薄いサリオネルトだけに不自然に感じる。依存、なのかもしれない。依存だとしても、そのこと自体は悪いことばかりではないだろう。

 でも、度が過ぎればどうだ? そしてマルテミアはどう感じているのだろう? そう言えばあの二人は気が付いたら付き合っていて、あっという間に互いに相手がいないと生きていけないと、言いきるまでになった。どんなやり取りがあればそんなに燃え上がるものか。片側が一方的にと言うのなら判らなくもないけれど、お互いに、となるとやはり不自然な気がする。

 サリオネルトは自分が死んだら、と心配していたが、むしろマルテミアが死んだ時のほうが心配だとビルセゼルトは思った。

 ふとジョゼシラの癇癪かんしゃくを思い出した。同じことをサリオネルトはしないだろうか? それも、息子が誕生し、示顕王の力が完全になったとき、万が一マルテミアに何かがあったらサリオネルトは我を忘れて力を暴走させやしないだろうか。

 サリオネルトの獲物は『火』『水』『風』『稲妻』『大地』と、ただでさえ多岐に渡るうえ、力も強い。そこに、示顕王として目覚めれば『光』と『影』が加わると思われる。

 絶大な力を持ち、すべての神秘をあらわし示す。示顕王の全貌は見えていない。示顕王本人のはずのサリオネルトでさえ判っていない。

 怒りを見せたことのないサリオネルト、怒りを表現したことがないサリオネルト。その彼が、もし怒りを爆発させるようなことがあれば、心の奥底に蓄積された怒りもろともに大暴走を起こしはしないか? それにしても……

 サリー、おまえは自分を臆病になったと言った。『臆病になった』ではなく、『怖くて仕方ない』の間違いではないか?

「そうだとしても、それは無理のないことだよ」
そう言ってやればよかったと、ビルセゼルトは後悔していた。
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