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―序―
不審な物音に部屋を訪ねたときは遅かった。薄暗い廊下で姿を消した人影は何を語っていたのか? 唖然と『それ』を眺め、そして思いを巡らせた。守らなくては……私は必死だった。
~⋆~ 1.閉ざされた空間 ~⋆~
鬱蒼とした森に囲まれた屋敷は車でも使わなくてはどこに行くこともできない。なんでこんな山奥に作ったものか? 主の人嫌い、変わり者は勝手だが、迷惑をこうむるのは周囲の者たちだ。
自家発電の電力に、清水を汲み取って使う……もちろん人嫌い、電話なぞ引くはずもない。携帯電話も圏外なのでまるきり人の世から隔離された感がある。門に設けられた監視カメラは防犯目的だが、それだけがここもまた俗世の一所と思わせた。
その監視カメラに一台の車が映る。東京の編集者を乗せたセダンだ。ゆっくりと門が開ききるのを待って、敷地の中に滑り込む。そしてまた、門は閉められる。次にこの門が開かれるまで、この屋敷に入ることも、出ることも不可能となった。そう、誰であろうと……
~⋆~ 2.この中の誰かが ~⋆~
主の松岡露俊は人情味あふれた作風で人気の小説家だ。そんな作風だから『人嫌いの変わり者』では体裁が悪い。山奥に引きこもる理由を『大自然を愛するがゆえ』としているのはそのためだ。だが実際は、横着で我が儘、自分の家人を召し使いと考えている節がある。家人に限らず、もちろん担当の編集者にも同じことが言えた。
だから大槻はここに来るのは気が重かった。またあの、人を蔑んだ態度で『なんで貴様などに原稿を渡さねばならんのだ?』と言われるのは目に見えている。俺に原稿を渡し、そのおかげで手に入れた稿料でこれだけの暮らしをしているんじゃないか、そう言ってやりたかった。
だが、そうは思うものの、とてもじゃないが実行に移す勇気はない。大槻も生活がかかっている。大先生に目をつけられて、会社を首になるわけには行かない。
俺なんか、まだましだ、大槻はそうも思う。仕事のときだけ我慢すればいい。だがあの屋敷にともに住み、毎日顔をあわせ、あの毒舌を浴びせられる家族は堪らない。大槻は松岡の妻や、その連れ子の顔を思い浮かべた。
妻の今日子は松岡のどこがよくって一緒になったのだろう? 酔った松岡に聞かされた話では、今日子の色仕掛けに負けて妻にしてやったというが、疑わしい。今日子を見る限り、地味でおとなしく、紹介されるまではこの屋敷に勤める家政婦かと思っていたほどなのに、色仕掛けと言うのがそぐわない。無理やり手篭めにしてやったのだ、と聞かされれば納得しただろう。
手篭めにする、といえば、今日子の連れ子の雅美によくあの松岡が手を出さないものだ。最近ますます雅美は色っぽくなってきた。いや、もう既に味見済みか?……車止めにセダンを収めながら下卑た笑いを大槻は浮かべていた。
~⋆~ 3.事件の発端 ~⋆~
若い女というものはいい。甘いような酸いような、そんな匂いが鼻をくすぐる。抱き締めればすっぽりと腕の中におさまりそうな、そんな柔らかな身体を想像するだけで、背筋がゾクゾクとする。
そんなことを考えているときにドアをノックする者がいた。
「お茶をお持ちしました」
雅美のその声に、背筋に走るものを感じていた。
~⋆~ 4.残された物 ~⋆~
屋敷の主婦、今日子が大槻を起こしにいったとき、既に彼は起きようにも起きられない状況に陥っていた。部屋は乱れ、もみあったと推測される。テーブルは倒され、割れた茶器と、それを運んだと見られる盆が床に散乱していた。
凶器が部屋にあった鉄製の花瓶だということはすぐにわかった。大槻は後頭部から血を流し、血痕が付着した鉄瓶が無造作に投げ捨てられていた。犯人は、犯行を隠すつもりはないらしい。
監視カメラを見る限り、大槻が来てからこの屋敷の敷地に入った者はいない。犯行が可能なのは松岡と妻・今日子、そして娘の雅美だけである。隠しても無駄と思ったのだろう。ただ解せないのは、これもまた彼の血にまみれ、無造作に置かれた一冊の本である。どうやら殺害される直前に大槻が読んでいた物らしい。それがもみ合ううちテーブルから落ち、そして死の間際、大槻はこの本に手を伸ばしたのだ。
本をめくると、あるページに目が止まった。大槻が自らの血で書いたのだろう。
8……開いたページのど真ん中に、その数字は大きく書かれていた
―終―
松岡はその作風が示すとおり、穏やかで人を思いやる、とても優しい人なのです。ただその反面、それはそれはテレ屋でございまして、人前では豪胆快活を装っておりました。
雅美が自室に逃げ帰るように戻り、閉じこもったのに気がついた時、すぐになにがあったのか察しました。大槻さんが雅美を見る目には以前から注意していたのです。
松岡もそれに気がついていて、あのかたをこの屋敷にお泊めするのは快く思っていないようでした。ですが原稿があがっていない以上、こんな山奥でございましょう? 『またお出でなさい』とは言えなかったようでございます。
雅美の様子で大槻さんはどうしているのか気になった私は、あの方にお貸しした部屋に足を向けました。廊下の薄闇の中、部屋を出て行く主人の姿を見たのはそのときです。主人は疲れきって、項垂れているように見えました。
ドアは開け放たれておりましたので、中でなにがあったのかは一目で判りました。私はなんとか隠し通せないものかと、そればかり考えて一夜を過ごしましたが、主人の考えは違っていたようでございます。
翌朝、主人は申しました。謝って人を殺してしまった、と。
お茶をお持ちした雅美に大槻さんは邪な欲望をお持ちになったようです。なんとかその場を振り切った雅美を追いかけて部屋を出たあのかたを、主人が引きとめたと聞いております。先ほども申しましたとおり、主人もまた大槻さんがよくないことを雅美にするのではないかと心配しておりましたので、いち早く部屋の様子に気がついたのでしょう。主人が自分の部屋に近いところを客間に選んだのも目を光らせるためだったのかもしれません。
主人に見咎められてさすがの大槻さんも渋々部屋に戻り、主人は大槻さんを責めたそうです。『こんな品行の悪い奴は今後、出入り禁止だ』と。
出版社のほうにも連絡をとってそれなりの処分を考えてもらわねばならないな、という主人に、大槻さんは慌て、そして開き直ったそうでございます。『どうせあの娘も妾にしているんだろう』などと口汚く罵られ、ますます主人は怒りを感じたと言っておりました。
主人はこう申しました。こんな下衆な男に原稿を託さねばならないなんて嘆かわしい……もちろん、それが原因で主人があの人を殺したわけではありません。
罵詈雑言を浴びせる大槻さんにあきれ返った主人が、『言いたい事はそれだけか』と、部屋を出ようとしたとき、あのかたのほうから主人を襲ってきたのだそうです。
鉄瓶で殴りかかってきたのは大槻さんのほうで、主人がしたことと言えば大槻さんから鉄瓶を振り払うことと、どうにかその手から逃れようと揉み合ったことだけだと言っておりました。主人に突き放された大槻さんが、自ら落とした鉄瓶に強く頭を打ちつけたのはお気の毒としかいえません。
私が知っているのは、主人から聞いているのは以上でございます。
は? 数字の『8』でございますか。はて、なんのことでしょう? 大槻さんが本になにやら書いたのは知っておりますが、数字の『8』ではなかったと記憶しております。
そうですか、本に私の指紋がついておりましたか……事の真相があきらかになっている以上、たいしたことではないと思って申しませんでしたが、実は私、大槻さんの部屋に入ったとき、本に書かれた文字を見て唖然といたしました。そのときはなにしろ、主人を庇いたい一心でしたから……どうにかしていたんでしょうね、本を閉じればその文字が消えるように思えたのです。そのときについた指紋でしょう。
本に書かれていた文字ですか? 松岡露俊の『ろ』の一文字でした。
不審な物音に部屋を訪ねたときは遅かった。薄暗い廊下で姿を消した人影は何を語っていたのか? 唖然と『それ』を眺め、そして思いを巡らせた。守らなくては……私は必死だった。
~⋆~ 1.閉ざされた空間 ~⋆~
鬱蒼とした森に囲まれた屋敷は車でも使わなくてはどこに行くこともできない。なんでこんな山奥に作ったものか? 主の人嫌い、変わり者は勝手だが、迷惑をこうむるのは周囲の者たちだ。
自家発電の電力に、清水を汲み取って使う……もちろん人嫌い、電話なぞ引くはずもない。携帯電話も圏外なのでまるきり人の世から隔離された感がある。門に設けられた監視カメラは防犯目的だが、それだけがここもまた俗世の一所と思わせた。
その監視カメラに一台の車が映る。東京の編集者を乗せたセダンだ。ゆっくりと門が開ききるのを待って、敷地の中に滑り込む。そしてまた、門は閉められる。次にこの門が開かれるまで、この屋敷に入ることも、出ることも不可能となった。そう、誰であろうと……
~⋆~ 2.この中の誰かが ~⋆~
主の松岡露俊は人情味あふれた作風で人気の小説家だ。そんな作風だから『人嫌いの変わり者』では体裁が悪い。山奥に引きこもる理由を『大自然を愛するがゆえ』としているのはそのためだ。だが実際は、横着で我が儘、自分の家人を召し使いと考えている節がある。家人に限らず、もちろん担当の編集者にも同じことが言えた。
だから大槻はここに来るのは気が重かった。またあの、人を蔑んだ態度で『なんで貴様などに原稿を渡さねばならんのだ?』と言われるのは目に見えている。俺に原稿を渡し、そのおかげで手に入れた稿料でこれだけの暮らしをしているんじゃないか、そう言ってやりたかった。
だが、そうは思うものの、とてもじゃないが実行に移す勇気はない。大槻も生活がかかっている。大先生に目をつけられて、会社を首になるわけには行かない。
俺なんか、まだましだ、大槻はそうも思う。仕事のときだけ我慢すればいい。だがあの屋敷にともに住み、毎日顔をあわせ、あの毒舌を浴びせられる家族は堪らない。大槻は松岡の妻や、その連れ子の顔を思い浮かべた。
妻の今日子は松岡のどこがよくって一緒になったのだろう? 酔った松岡に聞かされた話では、今日子の色仕掛けに負けて妻にしてやったというが、疑わしい。今日子を見る限り、地味でおとなしく、紹介されるまではこの屋敷に勤める家政婦かと思っていたほどなのに、色仕掛けと言うのがそぐわない。無理やり手篭めにしてやったのだ、と聞かされれば納得しただろう。
手篭めにする、といえば、今日子の連れ子の雅美によくあの松岡が手を出さないものだ。最近ますます雅美は色っぽくなってきた。いや、もう既に味見済みか?……車止めにセダンを収めながら下卑た笑いを大槻は浮かべていた。
~⋆~ 3.事件の発端 ~⋆~
若い女というものはいい。甘いような酸いような、そんな匂いが鼻をくすぐる。抱き締めればすっぽりと腕の中におさまりそうな、そんな柔らかな身体を想像するだけで、背筋がゾクゾクとする。
そんなことを考えているときにドアをノックする者がいた。
「お茶をお持ちしました」
雅美のその声に、背筋に走るものを感じていた。
~⋆~ 4.残された物 ~⋆~
屋敷の主婦、今日子が大槻を起こしにいったとき、既に彼は起きようにも起きられない状況に陥っていた。部屋は乱れ、もみあったと推測される。テーブルは倒され、割れた茶器と、それを運んだと見られる盆が床に散乱していた。
凶器が部屋にあった鉄製の花瓶だということはすぐにわかった。大槻は後頭部から血を流し、血痕が付着した鉄瓶が無造作に投げ捨てられていた。犯人は、犯行を隠すつもりはないらしい。
監視カメラを見る限り、大槻が来てからこの屋敷の敷地に入った者はいない。犯行が可能なのは松岡と妻・今日子、そして娘の雅美だけである。隠しても無駄と思ったのだろう。ただ解せないのは、これもまた彼の血にまみれ、無造作に置かれた一冊の本である。どうやら殺害される直前に大槻が読んでいた物らしい。それがもみ合ううちテーブルから落ち、そして死の間際、大槻はこの本に手を伸ばしたのだ。
本をめくると、あるページに目が止まった。大槻が自らの血で書いたのだろう。
8……開いたページのど真ん中に、その数字は大きく書かれていた
―終―
松岡はその作風が示すとおり、穏やかで人を思いやる、とても優しい人なのです。ただその反面、それはそれはテレ屋でございまして、人前では豪胆快活を装っておりました。
雅美が自室に逃げ帰るように戻り、閉じこもったのに気がついた時、すぐになにがあったのか察しました。大槻さんが雅美を見る目には以前から注意していたのです。
松岡もそれに気がついていて、あのかたをこの屋敷にお泊めするのは快く思っていないようでした。ですが原稿があがっていない以上、こんな山奥でございましょう? 『またお出でなさい』とは言えなかったようでございます。
雅美の様子で大槻さんはどうしているのか気になった私は、あの方にお貸しした部屋に足を向けました。廊下の薄闇の中、部屋を出て行く主人の姿を見たのはそのときです。主人は疲れきって、項垂れているように見えました。
ドアは開け放たれておりましたので、中でなにがあったのかは一目で判りました。私はなんとか隠し通せないものかと、そればかり考えて一夜を過ごしましたが、主人の考えは違っていたようでございます。
翌朝、主人は申しました。謝って人を殺してしまった、と。
お茶をお持ちした雅美に大槻さんは邪な欲望をお持ちになったようです。なんとかその場を振り切った雅美を追いかけて部屋を出たあのかたを、主人が引きとめたと聞いております。先ほども申しましたとおり、主人もまた大槻さんがよくないことを雅美にするのではないかと心配しておりましたので、いち早く部屋の様子に気がついたのでしょう。主人が自分の部屋に近いところを客間に選んだのも目を光らせるためだったのかもしれません。
主人に見咎められてさすがの大槻さんも渋々部屋に戻り、主人は大槻さんを責めたそうです。『こんな品行の悪い奴は今後、出入り禁止だ』と。
出版社のほうにも連絡をとってそれなりの処分を考えてもらわねばならないな、という主人に、大槻さんは慌て、そして開き直ったそうでございます。『どうせあの娘も妾にしているんだろう』などと口汚く罵られ、ますます主人は怒りを感じたと言っておりました。
主人はこう申しました。こんな下衆な男に原稿を託さねばならないなんて嘆かわしい……もちろん、それが原因で主人があの人を殺したわけではありません。
罵詈雑言を浴びせる大槻さんにあきれ返った主人が、『言いたい事はそれだけか』と、部屋を出ようとしたとき、あのかたのほうから主人を襲ってきたのだそうです。
鉄瓶で殴りかかってきたのは大槻さんのほうで、主人がしたことと言えば大槻さんから鉄瓶を振り払うことと、どうにかその手から逃れようと揉み合ったことだけだと言っておりました。主人に突き放された大槻さんが、自ら落とした鉄瓶に強く頭を打ちつけたのはお気の毒としかいえません。
私が知っているのは、主人から聞いているのは以上でございます。
は? 数字の『8』でございますか。はて、なんのことでしょう? 大槻さんが本になにやら書いたのは知っておりますが、数字の『8』ではなかったと記憶しております。
そうですか、本に私の指紋がついておりましたか……事の真相があきらかになっている以上、たいしたことではないと思って申しませんでしたが、実は私、大槻さんの部屋に入ったとき、本に書かれた文字を見て唖然といたしました。そのときはなにしろ、主人を庇いたい一心でしたから……どうにかしていたんでしょうね、本を閉じればその文字が消えるように思えたのです。そのときについた指紋でしょう。
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