おしゃべりオウムに ようこそ

寄賀あける

文字の大きさ
27 / 33

27 地上に降りた太陽

しおりを挟む
 アランの緊張をジゼルが笑う。
「探していた者を見つけたまで。そう驚くこともないだろう?」
「では、やはり?」
アランが気の抜けたような顔をする。

「十八年以上、ギルドが探して見つからなかったのに、ジゼルがこんなに早く見つけるなんて」
「時が来るまで隠し続ける者が近くにいた。見つけられなかったのはだからだ。で、わたしはついとなる月、太陽を探すのに向いていたんだろう」

「向き不向きがあるのか?」
「さぁ……」
ジゼルはすましてお茶をすする。

「ビルセゼルトへの報告は?」
「しない。アランもするな」
「でも、せっかく見付けたのだから、保護したほうがいいのでは?」
「アラン、思ったよりも間抜けだな」
アンタに言われたくないとアランが思う。

「今まで見つけられなかったのだ。ギルドが保護なんかしてみろ、彼を消そうとするやからに居場所を教えるようなもんだ」
「そりゃそうだけど――その男がそうだとしたら、そう簡単にやられることもないんじゃないのか?」

「アラン、やっぱり間抜けだな――生まれたときの封印術が有効だ。時が来るまで彼の力は目覚めない。目覚めるまでは彼はただの街人。魔導術とは無縁な存在だ」

「封印を解くことはできないのかい?」
「無理だ」
あっさりジゼルが断言する。

「通常の力が作動した封印じゃない。ただの魔導術じゃない――地上に降りた太陽、本人が掛けた術だと感じた」
「赤ん坊にそんな術が使える? だいたい自分に封印術が使える?」

「フン」
と、ジゼルがアランの顔を見た。
「アランに判らないことがわたしに判るはずもない。わたしに知識を求めるな――お茶、お替り」

「あ、はい――」
慌ててアランがジゼルのカップにお茶を注ぎ足す。

「本人に間違いないのですよね?」
「名を呼んだら反応した。街人としての名とは違う名に、躊躇ためらいなく答えた。本人以外なわけがない」
「そうですか……」

「だが、しばらくして、急に自分の名ではない名で呼ばれたと気付いたようだ。なぜ『ロハンデルト』と呼んだ、と聞かれ、苦し紛れに忘却術を使ってしまった」
「効きましたか?」

「うん、問題なく効いた――誰の魔導術にも掛けられてしまうのは厄介だと思ったけど、今のところわたし以外が彼に直接、術を使った形跡はなかった。保護術と、生まれた時に掛けられた封印術だけだ」

「では、誰かが彼に攻撃を仕掛けたら、あっさりと?」
「その可能性はあるね。だからそう簡単に手出しできないよう、わたしの『飼猫』にした」
ブッとアランが紅茶を吹きこぼす。

「飼猫にした? 地上に降りた太陽を?」
「ちゃんと魔導契約は発動した。これでわたしが自分に掛けた保護術が、彼にも有効になった」
「いや、そういう問題じゃなく……」
「何か問題?」

 急に本来の年齢の顔でジゼルが首をかしげる。地上の月となる前からのジゼルの癖、こんな仕種は可愛いのになと、ついアランは思う。

「問題はないけどね、自分より上位に来る魔導士を飼猫にしちゃおうって発想が飛んでるなって」
「ふーーーん」
ジゼルは面白くなさそうだ。

「ところで、やはり心配していたことが起きた」
「心配していたことって?」

 あなたのことは心配してばかりなので、どれを言っているか見当つかない、そう言いたいアランだったが、またごちゃごちゃ言われそうで口に出せない。

「冷えた」
「あぁ、お茶、淹れ変えましょうか?」
「いや、お茶ではなくわたしが冷えた」
「――何か、大きな術でも掛けたのか?」

 アランが急に真面目な顔なる。ジゼルの弱点が、魔導力を使い過ぎると現れることは判っていた。使い過ぎれば体力を消耗するのは当然だが、ジゼルの場合は同時に、生命としてのエネルギーも消耗する。急激な体温低下、下手をすれば衰弱死――老衰と同じ現象で命を落とす。

「わたしが『街の魔導士』を勤める街の隣街に、炎を操る魔導士が現れて事件を起こした。その街の魔導士は呆気なく殺されて、わたしはの要請で、援軍に向かった」
「うん、それで?」

「行ってみるとギルドが派遣した者たちは手練てだれぞろいにもかかわらず、苦戦している。炎は水を含んだものだった――で、わたしも手を貸して消し止めた」
「その程度ならなんという事もなかったでしょう?」

「うん……お茶、お替り」
「はいはい」
「はい、は一度」
「はい……」
アランがカップにお茶を注ぐと、すぐにジゼルが手を伸ばす。

「犯人は追っ手から逃れ、わたしの街に逃げ込んだ。そこでわたしはわたしの街に戻り、犯人を追い詰めた」
「活躍してるじゃないですか」

 内心、『わたし』『わたし』と言い過ぎだとアランが思う。もう少し整理して話せないものか……いや、ジゼルにそれを求めるのは無理だ。アランがこっそり笑う。

「うん。で、その犯人、援軍を呼んでいた。わたしは二人の魔導士と戦う羽目になった」
「炎に水を含ませる術が使えるなら、高位魔導士……援軍と言うのは?」
少しばかりアランが緊張する。でも、問題ない。今、ジゼルはこうして無事でここに居る。

「もう少し高位、そんな感じだった。二人の名は聞いたが忘れた――街の広場に結界を張って、街に極力被害が出ないよう、二人とやり合った。まぁ、楽勝だった」
「なんだ、楽勝だったのですね」

「うん、でも、なんだ、一男一女? 違うな……」
「ひょっとして、一難いちなん去ってまた一難?」

「そうそう、それ、それ――もう少しで二人をからめ取れるというとき、宙から一人の魔女が現れた」
「移動術でやってきたのですか?」

「いや、空だ。空中に姿を現した。空を飛んでたかも。あの魔女、わたしに結界から勉強し直せって言いやがった」
「ジゼル、言葉が乱れて……」

「アラン!」
「はい!?」

「あの魔女はわたしに、地上の結界は完璧だが、空がすっからかんだと言った。あの状況で、空をおおう結界が必要か?」
「いえ、通常は必要なさそうだよね?」

 どんな状況か判らないのに答えられるか、と思いつつ、アランはそう答えた。答えはしたがついうっかり、疑問に置き換えてしまった。

「ふん……」
アランの言葉の置き換えに、ジゼルも気が付いたようだ。アランから目をらし、ほほふくらませている。

「アラン……わたしはやはり愚かか?」
ジゼルが震える声でつぶやいた。
「自分でもなんとかしようとしているのだ。でも、どうもどこかが抜けている……」

 深い緑色の瞳を見開いたままジゼルは、ぽろぽろ涙をこぼし始める。

 魅惑みわくの瞳の発動を感じる……ひょっとしたらグリンは、この瞳にせられたのかもしれないと、ふとアランは思った。ジゼルは魅惑の瞳を意識して発動しているわけじゃない。無意識で発動されれば魅惑の瞳と気付きにくい。

「大丈夫だよ、ジゼル――これからいくらでも賢くなれる。屋根のある結界ができない訳じゃないんだろう?」
ハンカチを渡しながらアランが言う。渡しながら、いつかシャーンに渡したのに、ビルセゼルトに返されたハンカチだと思い出していた。

「うん、あの時は必要ないと思っただけだ」
受け取りながらジゼルが答える。

「ただ……悔しくて。あの魔女はわたしの結界を、事もあろうか指先一つで解除したんだ」
「えっ?」
今度こそ、アランが真面目に顔をこわばらせる。

「ジゼル、その魔女って誰か判る?」
「うん……西の統括魔女ドウカルネス」
ガチャン、と音を立ててアランが立ち上がった。

「なにを慌てている?」
アランの動揺にジゼルは涼しい顔だ。

「だって、西の統括魔女だぞ? なんで南の陣地内に姿を現す?」
「さぁ。わたしに判るはずもない」
そりゃそうなんだけど……アランは泣きたい気分だ。

「あの時、ロハンデルトは飼猫の役目を充分果たしてくれた」
「なにをさせたんだ?」

「保護幕で包んで姿を消したうえで、場を見張らせた」
「うん」

「ドウカルネスの来襲にいち早く気が付いて、警告を出してくれた上、新たな魔女の出現にすきができたわたしに向かった攻撃を防いだ」
「攻撃を防いだ?」

「うん、わたしに危険がせまったら『ジゼェーラに手を出すな』と叫べと指示を出しておいた」
「有効に?」

「有効だった。見事に術は無効化されて、わたしには届かなかった――封印は徐々に解け始めている。だが、誰かが解くことはできない。最初からの契約なのだろう」

「うん……で、ドウカルネスとはどうなったんだ? 二人の魔導士ならどうとでもできただろうが、さすがに統括魔女は手強てごわい」
「そうだね、まともにやり合ったら、今のわたしでは太刀打ちできなかっただろう。あちらにやり合う気はなかったようだ。街を騒がせた魔導士を置いて、もう一人とさっさと自分の陣地に帰っていった」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

君は恋人、でもまだ家族じゃない

山田森湖
恋愛
あらすじ 同棲して3年。 毎朝コーヒーを淹れて、彼の寝ぼけた声に微笑んで、 一緒に暮らす当たり前の幸せを噛みしめる——そのはずだった。 彼女は彼を愛している。 彼も自分を愛してくれていると信じている。 それでも、胸の奥には消えない不安がある。 「私たちは、このまま“恋人”で止まってしまうの?」 結婚の話になると、彼はいつも曖昧に笑ってごまかす。 最初は理由をつけていたのに、今では何も言わなくなった。 周囲の友人は次々と結婚し、家族を持ち始めている。 幸せそうな写真を見るたび、彼女の心には “言えない言葉”だけが増えていく。 愛している。 でも、それだけでは前に進めない。 同棲という甘い日常の裏で、 少しずつ、確かにズレ始めているふたりの未来。 このまま時間に流されるだけの恋なのか、 それとも、家族へと歩き出せる恋なのか——。 彼の寝息を聞きながら、 彼女は初めて「涙が出そうな夜」を迎えていた。

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

処理中です...