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11章 身を隠す
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二人に何か関係があったとしても七百年も前の話だし、協力して唆魔を封印したのだからそれなりに親しいはずだ。それなりに? その『それなり』が気にかかる。それなりではなく特別に親しかった、なんて事はないんだろうか?
訊いてしまえばすっきりする。だけど訊けない。どんな答えが飛び出すのか? それとも誤魔化されるか? どちらも怖かった。
打ち合わせを終え、寝室に戻るとクルテはすぐに眠ってしまった。いつものように添い寝しながらクルテの寝顔を眺める。
建国の王は二十四歳でザジリレンを起こした。クルテと力をあわせて唆魔を封印したのは建国の前か後か? 建国後ならクルテと十以上の歳の開き、嫉妬するような関係にはなりそうもない。
いや、後だ。ザジリレン王と協力して唆魔を封印したって言った。カテルクルストは王座に就いていた。待てよ、王と言ったほうが判り易いからかもしれない。
クルテがもぞもぞと何か寝言を言って微笑んだ。それがピエッチェの心をなおさら騒がせ、身体をも騒がせる。クルテがぐっすり眠っているのを確認して、そっとベッドを抜け出した。こんなことに執着するのはきっと……バスルームなら一人きりになれる。騒ぎ始めた身体を鎮めるための時間が必要だった。
屋敷への誘導路の入り口で待ち合わせたいとジランチェニシスは言ったが、
「自失しているカテロヘブを連れてくるのは骨が折れるだろう?」
迎えに行くから屋敷で待てと返事をした。マデルに屋敷の場所を教えてる都合もあった。
どこが誘導路の入り口か判れば事は足りるのだから、もしジランチェニシスが屋敷から出てしまっていてもそれはそれで仕方ない。が、ピエッチェの勧めに従ったようで誘導路の入り口に人影はなかった。
リュネを歩かせ、ゆっくりと誘導路に入る。キャビンでは窓からマデルが周囲を確認しているだろう。
ジランチェニシス不在の屋敷に用はない。が、放置していいものじゃない。特に、王室が把握していない地下水路があるのはいただけない。王都に着いたら王室魔法使いを何人か派遣し、調べさせた方がいい。そうマデルに進言した。
「ギュリューやセレンヂュゲの魔法使いはダメだ。信用できない。上位魔法使いの目を盗んで、悪事に加担している者が居るのが判ってる。ジランチェニシスに便宜を図る可能性がある」
だが、もしローシェッタがザジリレンとの開戦を考えていたら、王都の魔法使いは人手不足になる。そんな事には使えない。だから急がなくてはならない。街の噂ではないが、真の国王不在のザジリレンは相手がローシェッタでなくても戦になったら勝ち目はない。ザジリレンを勝利に導けるのはグレナムの剣を帯するザジリレン王だけだ。
「居たね、屋敷も昨日見たまんまだ」
御者台の隣でクルテが呟いた。魔法で屋敷を隠しはしないか、それを危ぶんでいた。が、ジランチェニシスはさして屋敷の重要性を認識していないらしい。まったくの無頓着に見えた。
門扉の前には男が二人、ジランチェニシスと偽カテロヘブだ。ジランチェニシスは馬車に気が付くまではソワソワしていたように感じた。そりゃあそうだろう。フレヴァンスとぬいぐるみ、街人たちは既にピエッチェに渡してしまった。手元に残ったのはカテロヘブ王を名乗る男だけだ。しかも本当にカテロヘブかどうか、実のところジランチェニシスには判断つかない。これでピエッチェたちが来なければ、相手の欲しいものはすべて奪われクルテは手に入らない。ホッとするのも当然だ。
ジランチェニシスの横に佇む偽カテロヘブは定まらぬ視線で、ただ立っている。リュネを停めながらふと思う。本当にこの男は、自分をカテロヘブだと言ったのだろうか? ジランチェニシスのでっち上げだって考えられない事じゃない。
ピエッチェが御者台を降りるとジランチェニシスが嬉しそうに顔を綻ばせた。続いてクルテが降りるとますます喜び、それを隠そうともしない。ピエッチェへの挨拶もそこそこに、クルテに話しかける。
「昨日はどうして――」
が、明白にクルテに無視され言葉を途中で止めた。クルテはツンとソッポを向いてジランチェニシスを見ないばかりか、キャビンから降りてきたマデルたちのほうへ行ってしまった。
「すまん。アイツ、ちょっと機嫌が悪くてね」
すぐにピエッチェが取り繕う。
「俺のそばに居たいってゴネてる……必ず説得する。だから暫く触らないでいてくれないか? それと、今から紹介するけど、あの二人とキャビンでアイツの話はしないで欲しい。三人は仲が良くってね。あんたにアイツを渡したくないって言われちゃってさ。決まったことだからって黙らせたし、そのうち気持ちも鎮まる。でも、今は神経が立ってるから逆撫でしないほうがいい」
「おやおや……わたしは同行者の皆さんに嫌われてしまったんですね」
溜息をつくジランチェニシス、
「まぁ、それも王都に着くまで。えぇ、我慢しますとも」
一人で勝手に納得した。
初対面の挨拶は素っ気ないものだった。いつもは社交的なマデルでさえ、よろしくと言っただけでニコリともしない。カッチーはちょこっと頷いただけだ。クルテの件で快く思っていない設定だから、二人とも意識してそうしていた。
それでもララティスチャングに着くまでには取り込んでおく心づもり、キャビンに乗り込む間際、マデルが、
「まぁ、そう硬くなることはないわ」
と声を掛けたのはその下地作りだ。
偽カテロヘブをキャビンに乗せるのは一苦労だった。ジランチェニシスが背中を少し押してやると一歩前に進む。方向を調整するには左右どちらかの肩を押す。それを繰り返してキャビンのタラップの正面まで誘導した。片足をタラップの一段目に乗せると、なぜか自分で一番だけ上り、最初の足を乗せたタラップで両足を揃えて立って動かくなくなる。
タラップは二段だ。次はキャビンの床に足を乗せるが、うっかり出入口の上部の壁に気を付けるのを忘れていた。当然、偽カテロヘブが自分で気を付けるはずもない。頭をしたたかにぶつけて、タラップから落ちそうになる。傍で見ていたピエッチェが慌てて支え、頭を押さえて無理やりキャビンに放り込んだ。
「ちょっと乱暴だったかな?」
ピエッチェの苦笑、偽カテロヘブはキャビンの床に倒れて立ち上がろうともしない。
「なぁに、痛みも感じはしませんよ」
ジランチェニシスが、自分もキャビンに乗り込もうとタラップに足を掛ける。
その様子をキャビンの横で見ていたカッチーがつい
「あれって目、見えてませんよね」
と呟いた。すると
「えぇ……見えていないというより、別の物を見ているんです」
答えたのは、タラップに足を掛けた姿勢のジランチェニシスだった。ギョッとジランチェニシスを見たカッチー、隠れるようにピエッチェの後ろに回り込む。ジランチェニシスは溜息を吐いて、キャビンの中に入って行った。
倒れた偽カテロヘブをどうするのだろうと、ピエッチェがキャビンを覗き込むと
「おまえは犬だ」
ジランチェニシスの声が聞こえた。声に応えて偽カテロヘブが四つん這いになった。
「わたしが前足を持ち上げれば、少しは歩ける。だけど犬だから真っ直ぐ立てるわけではない」
そして偽カテロヘブの手を持ち上げ引っ張った。座席に背を向けさせるつもりだ。
「そうだ、いい子だ。ここに温和しく座ってろ」
手を乱暴に前に押しやれば、尻が座席に納まった偽カテロヘブは無表情のまま座って動かなくなった。
「ピエッチェさん……」
耳元でカッチーの声、ピエッチェはキャビンから離れ
「気にするな。見なかったことにしろ」
カッチーに低い声で言った。
気分が悪かった。偽カテロヘブがどこの誰かは知らない。だけど、今のは……人間は人間として扱うべきだ。そうしなかったジランチェニシスに怒りを感じた。きっとカッチーも同じだ。だから眉を顰めた。やっぱりジランチェニシスを好きになれそうもない。
ピエッチェが御者台のほうに行くと、クルテとマデルが寄ってきた。クルテはジランチェニシスの視線を避けるようにリュネの影に隠れ、マデルとお喋りしていたらしい。
「夢見人、キャビンに乗せられた?」
「大変だったんじゃない? あれ、ジランチェニシスはよく一人で世話してたわね」
「あぁ、ジランチェニシスとカテロヘブはキャビンの奥に向き合って座った」
「あらやだ、必ずどっちがと隣になっちゃうじゃないの」
マデルの苦情に、
「マデル、御者席の隣にする?」
とクルテ、
「あら、クルテがキャビン? わたしがピエッチェの隣でいいの?」
少し嬉しそうにマデルが答えた。御者台に乗れるのは二人だけだ。
「ううん、わたしが御者。キャビンに行くのはピエッチェ」
「えっ!? ちょっと待て!」
慌てるのはピエッチェだ。
「アイツ、物凄いお喋りなんだよ。レストランで相手して懲りた。勘弁してくれ」
「そんなにお喋り好きなんだ?」
「きっと、今まで話し相手が居なかった反動だな、あれは」
「確かにピエッチェには荷が重いかもね。わたしたちとも雑談だとニコニコしてるけど、自分からは何も言わないもん」
マデルの言葉に皮肉を感じたピエッチェが拗ねる。
「悪かったね、気の利いたことが言えなくて」
するとクルテがピエッチェの腕に絡みついた。
「怒らない。マデルが代わりにジランチェニシスの相手をしてくれるって」
「クルテ! この、裏切者っ!」
クルテがニッコリ笑い、マデルが怒りながらも笑う。ピエッチェは
「すまないな」
と、やっぱりニヤッとした。
キャビンの入り口のほうで待っていたカッチーがやってきて、
「なにを三人で楽しそうにしてるんですか!?」
とプリプリ言った。
「俺だけ仲間外れって感じですね」
「そんなはずないでしょ? 誰がキャビンに乗るか相談してたのよ」」
クスクス笑いのマデル、
「ってマデルさんじゃないんですか?」
カッチーが首を傾げると
「イヤだって言い出したから説得したんだ」
とピエッチェが言った。
「それ! 俺だっていやです。拒否権、俺にもありますか!?」
カッチーが勢いづいた――
夢見の魔法から解除した人々はいったんアルの宿に連れて行き、マデルが用意した袋に入れた金を渡した。これを使って家族のところに帰るよう言うと、何人かはギュリューに家族がいるからとすぐに宿を出て行った。残った者は朝食を済ませてから、それぞれの地に向かったはずだ。もちろん宿賃も朝食代も支払ってある。
センシリケの妻と娘は別扱い、デレドケに送り届けるよう馬車を手配した。センシリケへの手紙を頼む都合だ。ピエッチェたちより先に着いていて貰わなくては困る。
部屋を用意して欲しい。二人用のベッドルームが四室ある部屋はあるか? 無ければ二部屋に別れてもいい――今夜はデレドケ泊だ。
訊いてしまえばすっきりする。だけど訊けない。どんな答えが飛び出すのか? それとも誤魔化されるか? どちらも怖かった。
打ち合わせを終え、寝室に戻るとクルテはすぐに眠ってしまった。いつものように添い寝しながらクルテの寝顔を眺める。
建国の王は二十四歳でザジリレンを起こした。クルテと力をあわせて唆魔を封印したのは建国の前か後か? 建国後ならクルテと十以上の歳の開き、嫉妬するような関係にはなりそうもない。
いや、後だ。ザジリレン王と協力して唆魔を封印したって言った。カテルクルストは王座に就いていた。待てよ、王と言ったほうが判り易いからかもしれない。
クルテがもぞもぞと何か寝言を言って微笑んだ。それがピエッチェの心をなおさら騒がせ、身体をも騒がせる。クルテがぐっすり眠っているのを確認して、そっとベッドを抜け出した。こんなことに執着するのはきっと……バスルームなら一人きりになれる。騒ぎ始めた身体を鎮めるための時間が必要だった。
屋敷への誘導路の入り口で待ち合わせたいとジランチェニシスは言ったが、
「自失しているカテロヘブを連れてくるのは骨が折れるだろう?」
迎えに行くから屋敷で待てと返事をした。マデルに屋敷の場所を教えてる都合もあった。
どこが誘導路の入り口か判れば事は足りるのだから、もしジランチェニシスが屋敷から出てしまっていてもそれはそれで仕方ない。が、ピエッチェの勧めに従ったようで誘導路の入り口に人影はなかった。
リュネを歩かせ、ゆっくりと誘導路に入る。キャビンでは窓からマデルが周囲を確認しているだろう。
ジランチェニシス不在の屋敷に用はない。が、放置していいものじゃない。特に、王室が把握していない地下水路があるのはいただけない。王都に着いたら王室魔法使いを何人か派遣し、調べさせた方がいい。そうマデルに進言した。
「ギュリューやセレンヂュゲの魔法使いはダメだ。信用できない。上位魔法使いの目を盗んで、悪事に加担している者が居るのが判ってる。ジランチェニシスに便宜を図る可能性がある」
だが、もしローシェッタがザジリレンとの開戦を考えていたら、王都の魔法使いは人手不足になる。そんな事には使えない。だから急がなくてはならない。街の噂ではないが、真の国王不在のザジリレンは相手がローシェッタでなくても戦になったら勝ち目はない。ザジリレンを勝利に導けるのはグレナムの剣を帯するザジリレン王だけだ。
「居たね、屋敷も昨日見たまんまだ」
御者台の隣でクルテが呟いた。魔法で屋敷を隠しはしないか、それを危ぶんでいた。が、ジランチェニシスはさして屋敷の重要性を認識していないらしい。まったくの無頓着に見えた。
門扉の前には男が二人、ジランチェニシスと偽カテロヘブだ。ジランチェニシスは馬車に気が付くまではソワソワしていたように感じた。そりゃあそうだろう。フレヴァンスとぬいぐるみ、街人たちは既にピエッチェに渡してしまった。手元に残ったのはカテロヘブ王を名乗る男だけだ。しかも本当にカテロヘブかどうか、実のところジランチェニシスには判断つかない。これでピエッチェたちが来なければ、相手の欲しいものはすべて奪われクルテは手に入らない。ホッとするのも当然だ。
ジランチェニシスの横に佇む偽カテロヘブは定まらぬ視線で、ただ立っている。リュネを停めながらふと思う。本当にこの男は、自分をカテロヘブだと言ったのだろうか? ジランチェニシスのでっち上げだって考えられない事じゃない。
ピエッチェが御者台を降りるとジランチェニシスが嬉しそうに顔を綻ばせた。続いてクルテが降りるとますます喜び、それを隠そうともしない。ピエッチェへの挨拶もそこそこに、クルテに話しかける。
「昨日はどうして――」
が、明白にクルテに無視され言葉を途中で止めた。クルテはツンとソッポを向いてジランチェニシスを見ないばかりか、キャビンから降りてきたマデルたちのほうへ行ってしまった。
「すまん。アイツ、ちょっと機嫌が悪くてね」
すぐにピエッチェが取り繕う。
「俺のそばに居たいってゴネてる……必ず説得する。だから暫く触らないでいてくれないか? それと、今から紹介するけど、あの二人とキャビンでアイツの話はしないで欲しい。三人は仲が良くってね。あんたにアイツを渡したくないって言われちゃってさ。決まったことだからって黙らせたし、そのうち気持ちも鎮まる。でも、今は神経が立ってるから逆撫でしないほうがいい」
「おやおや……わたしは同行者の皆さんに嫌われてしまったんですね」
溜息をつくジランチェニシス、
「まぁ、それも王都に着くまで。えぇ、我慢しますとも」
一人で勝手に納得した。
初対面の挨拶は素っ気ないものだった。いつもは社交的なマデルでさえ、よろしくと言っただけでニコリともしない。カッチーはちょこっと頷いただけだ。クルテの件で快く思っていない設定だから、二人とも意識してそうしていた。
それでもララティスチャングに着くまでには取り込んでおく心づもり、キャビンに乗り込む間際、マデルが、
「まぁ、そう硬くなることはないわ」
と声を掛けたのはその下地作りだ。
偽カテロヘブをキャビンに乗せるのは一苦労だった。ジランチェニシスが背中を少し押してやると一歩前に進む。方向を調整するには左右どちらかの肩を押す。それを繰り返してキャビンのタラップの正面まで誘導した。片足をタラップの一段目に乗せると、なぜか自分で一番だけ上り、最初の足を乗せたタラップで両足を揃えて立って動かくなくなる。
タラップは二段だ。次はキャビンの床に足を乗せるが、うっかり出入口の上部の壁に気を付けるのを忘れていた。当然、偽カテロヘブが自分で気を付けるはずもない。頭をしたたかにぶつけて、タラップから落ちそうになる。傍で見ていたピエッチェが慌てて支え、頭を押さえて無理やりキャビンに放り込んだ。
「ちょっと乱暴だったかな?」
ピエッチェの苦笑、偽カテロヘブはキャビンの床に倒れて立ち上がろうともしない。
「なぁに、痛みも感じはしませんよ」
ジランチェニシスが、自分もキャビンに乗り込もうとタラップに足を掛ける。
その様子をキャビンの横で見ていたカッチーがつい
「あれって目、見えてませんよね」
と呟いた。すると
「えぇ……見えていないというより、別の物を見ているんです」
答えたのは、タラップに足を掛けた姿勢のジランチェニシスだった。ギョッとジランチェニシスを見たカッチー、隠れるようにピエッチェの後ろに回り込む。ジランチェニシスは溜息を吐いて、キャビンの中に入って行った。
倒れた偽カテロヘブをどうするのだろうと、ピエッチェがキャビンを覗き込むと
「おまえは犬だ」
ジランチェニシスの声が聞こえた。声に応えて偽カテロヘブが四つん這いになった。
「わたしが前足を持ち上げれば、少しは歩ける。だけど犬だから真っ直ぐ立てるわけではない」
そして偽カテロヘブの手を持ち上げ引っ張った。座席に背を向けさせるつもりだ。
「そうだ、いい子だ。ここに温和しく座ってろ」
手を乱暴に前に押しやれば、尻が座席に納まった偽カテロヘブは無表情のまま座って動かなくなった。
「ピエッチェさん……」
耳元でカッチーの声、ピエッチェはキャビンから離れ
「気にするな。見なかったことにしろ」
カッチーに低い声で言った。
気分が悪かった。偽カテロヘブがどこの誰かは知らない。だけど、今のは……人間は人間として扱うべきだ。そうしなかったジランチェニシスに怒りを感じた。きっとカッチーも同じだ。だから眉を顰めた。やっぱりジランチェニシスを好きになれそうもない。
ピエッチェが御者台のほうに行くと、クルテとマデルが寄ってきた。クルテはジランチェニシスの視線を避けるようにリュネの影に隠れ、マデルとお喋りしていたらしい。
「夢見人、キャビンに乗せられた?」
「大変だったんじゃない? あれ、ジランチェニシスはよく一人で世話してたわね」
「あぁ、ジランチェニシスとカテロヘブはキャビンの奥に向き合って座った」
「あらやだ、必ずどっちがと隣になっちゃうじゃないの」
マデルの苦情に、
「マデル、御者席の隣にする?」
とクルテ、
「あら、クルテがキャビン? わたしがピエッチェの隣でいいの?」
少し嬉しそうにマデルが答えた。御者台に乗れるのは二人だけだ。
「ううん、わたしが御者。キャビンに行くのはピエッチェ」
「えっ!? ちょっと待て!」
慌てるのはピエッチェだ。
「アイツ、物凄いお喋りなんだよ。レストランで相手して懲りた。勘弁してくれ」
「そんなにお喋り好きなんだ?」
「きっと、今まで話し相手が居なかった反動だな、あれは」
「確かにピエッチェには荷が重いかもね。わたしたちとも雑談だとニコニコしてるけど、自分からは何も言わないもん」
マデルの言葉に皮肉を感じたピエッチェが拗ねる。
「悪かったね、気の利いたことが言えなくて」
するとクルテがピエッチェの腕に絡みついた。
「怒らない。マデルが代わりにジランチェニシスの相手をしてくれるって」
「クルテ! この、裏切者っ!」
クルテがニッコリ笑い、マデルが怒りながらも笑う。ピエッチェは
「すまないな」
と、やっぱりニヤッとした。
キャビンの入り口のほうで待っていたカッチーがやってきて、
「なにを三人で楽しそうにしてるんですか!?」
とプリプリ言った。
「俺だけ仲間外れって感じですね」
「そんなはずないでしょ? 誰がキャビンに乗るか相談してたのよ」」
クスクス笑いのマデル、
「ってマデルさんじゃないんですか?」
カッチーが首を傾げると
「イヤだって言い出したから説得したんだ」
とピエッチェが言った。
「それ! 俺だっていやです。拒否権、俺にもありますか!?」
カッチーが勢いづいた――
夢見の魔法から解除した人々はいったんアルの宿に連れて行き、マデルが用意した袋に入れた金を渡した。これを使って家族のところに帰るよう言うと、何人かはギュリューに家族がいるからとすぐに宿を出て行った。残った者は朝食を済ませてから、それぞれの地に向かったはずだ。もちろん宿賃も朝食代も支払ってある。
センシリケの妻と娘は別扱い、デレドケに送り届けるよう馬車を手配した。センシリケへの手紙を頼む都合だ。ピエッチェたちより先に着いていて貰わなくては困る。
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