秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す= 

寄賀あける

文字の大きさ
235 / 434
13章 永遠の刹那

しおりを挟む
 驚くのはラクティメシッスだけではない。マデルが『まだ結ばれていないのはなぜだ』とピエッチェを責めたばかりだ。だが、他の四人はラクティメシッスと違って好意的、特にマデルは喜んでいるのを隠さない。

「やっと思いが通じたのね」
クルテに抱き着き、涙ぐんでいる。含羞はにかんだ笑みで抱き返しているが、きっとクルテは後ろめたく感じているだろう。ピエッチェだって後ろめたい。けれど一挙両得とクルテに言われ、頷いた。

『まったくの嘘ってわけじゃない。魔物と女神の娘の愛を確認してた、ちょっとはしっただけ』
どう解釈しようが解釈するほうの勝手――意図的に誤解させることは棚に上げたクルテだ。
『それに、そう言うことにしちゃえばこの先もあれこれ詮索されずに済む』

 どちらにしろ、遮蔽した会議室で何をしていたか説明しないわけにはいかない。隠し部屋の魔法や魔物封じ・魔法封じを話すわけにはいかないのだから、どう足掻あがいても嘘を吐くことになる。クルテの提案に乗っておくか……

 どうなるって言うんだと問い返されたラクティメシッス、ピエッチェの思惑通り返答に困って口籠くちごもる。
「イヤ、その……こんな状況ですからね。何が起きるか判らないから」
どうとでも受け取れることを言って顔を背ける。ピエッチェもそれ以上は追及しなかった。下手なこと言えば墓穴を掘る。

 ラクティメシッスとマデルが魔法で建物の残骸を壊しているところに村長が来た。
「この宿を壊したのはあなたたちですか!?」
この誤解は解いたほうがいい。

「さっき、王室魔法使いが来て調べてった。老朽化が原因らしい」
片付けを頼まれたんで始末しやすいよう、残った壁を適当な大きさに砕いているところだ。宿の従業員は王室魔法使いが馬車で連れて行った。そんな説明で村長は納得してくれた。それどころか、
「それはそれはご苦労さまでございます。我ら村人もお手伝いいたしましょう」
に言った。

「いや、手伝って貰いたいわけじゃない。瓦礫の置き場所を決めて欲しいだけだ」
「それならそのままにしておいていただいてもよろしいのですよ?」
「それが、そんなわけにはいかないんです」
ラクティメシッスが話に割って入った。

「いずれ王室魔法使いが本格的な調査にまいります。わたしたちはこの場所を更地さらちにし、瓦礫は安全な場所に保管しておくようにと言いつかりました。それにこのままの状態にしておけば、うっかり誰かが入り込んで大怪我しかねません」
「あなたも王室魔法使いなんでしょうか?」
村長が俄かに緊張する。
「いいえ、ただの旅行客ですよ。でも、たまたま少しばかり魔法が使えるので頼まれました」
ラクティメシッスは楽しそうだ。

 気が付くと村人が大勢集まっている。ありていに言えば野次馬たちだが、何が楽しいのか宿の残骸やピエッチェたちを見てニコニコと談笑している。
「では、少し村人たちと相談してきます」
村長が野次馬の群れに向かうと、わっと歓待されている――この村長、そんなに人気者なのか? ピエッチェが奇妙さを感じていると、ラクティメシッスが
「ヘンなんです」
声を潜めてピエッチェに言った。

「あぁ……長く留守にしていたのが帰って来たならいざ知らず、あの歓迎ぶりはヘンだな。いくら人気のある村長でもあんなふうにはならないよな」
「えっ? あぁ、まあ、それもありますが、わたしがヘンだと言ったのは例の会議室で感じた気配がすっかり消えていることです」
「ん? そうなんだ?」
とぼけるピエッチェ、もちろん気配が消えたのには気が付いている。気が付いているというより、気配を消したのはピエッチェだ。

 魔物と女神の娘は消えたわけじゃない。箱の中で抱き合っている。その箱の蓋を閉めるとき、気配を中に閉じ込めた。あのまま建物が倒壊しなければ、なんの問題もなかったはずだ。

「建物が壊れたんで、気配を発してたヤツもどこかに逃げたんじゃないのか?」
「うーーん、どうなんでしょう? あなたが遮蔽を解いた時には、すでに気配は消えていました。気配のぬしが建物を維持していたのかな?」
「あぁ、なるほど。ありそうな話だね」
「だけど、何かが建物から去っていくのは感じてないんです」
そりゃそうだ、今もこの敷地の中に居る。さて、どう誤魔化すか?

「ひょっとしたら消滅したとか?」
「そんな感じじゃなかったんですけどねぇ」
魔物退治を得意とする魔法使いは、魔物の死滅を感覚で確認できるよう鍛錬を積む。死んだふりをする魔物もいるからだ。

「まぁ、まずは瓦礫を調べてみましょう。痕跡が残っているかもしれません――そのあとは地面ですね。地中深く潜り込んでいないか、見てみます」
やっぱりそうなるか……ピエッチェがこっそり溜息を吐く。

 箱を閉める際、魔法封じと魔物封じを施した。ピエッチェが術を解かない限り、二体は箱から出て来られない。そして二体が発する気配や施術した魔法も外には漏れない。

 最初は廊下室とその両側の空間に施術しようかと考えたが、気が進まなかった。要は封印の強化になるだけ、そこまでする必要があるのだろうか? 迷った末に、相手の正体をはっきりさせてから決めることにした。だからクルテにあれこれ尋ねた。

 クルテの話を聞いて思った。ソノンセカの森の女神の怒りの根源は人間が魔物になってしまったことにあるんじゃないのか? そもそも森の女神も女神の娘も人間の男と恋をするものだ。恋に落ちたことを咎めるのは奇怪おかしい――娘の相手が人間ではなくなった、それこそが逆鱗に触れた。ならば魔物を元の人間に戻せばいいのではないか? 魔物封じを使えばできない話じゃない。それを狙ってクルテは俺をここに連れてきた。

 元の人間に戻すには、まず心を身体に戻さなくてはならない。心のない身体だけでも、心だけでも人間には戻れない。だから両側の空間の封印を解いて二体の心が身体に戻るよう促した。心も身体に戻りたがっていたようだ。自分を見付けてすぐに居るべき場所に納まった。これで魔物封じを使えば、男は人間に戻せる。それなのに……

 抱き合って微笑みあう二体を見て気持ちが揺れた。男を人間に戻しても無駄なんじゃないのか? 魔物になってしまうほど、男は娘とともに居ることを望んでいる。女神の娘は永遠に生き続ける。人間に戻したところで男はきっと、再び魔物に変わるだろう。

 だから人間には戻さなかった。男は魔物のままだ。魔物封じを使ったが、魔力を少し奪って弱体化させるだけにとどめた。二体はあの箱の中で互いを見つめ合い抱き合い、悠久の時を過ごすだろう。魔法封じを施したから、箱の存在が知られることもない。はずだった……

 建物の倒壊と同時に廊下室とその両側にひしひしと感じていたソノンセカの森の女神の結界も解けたと感じた。通常、森の女神の魔法は察知できないものだ。ラクティメシッスもマデルも察知していなかった。

 結界の消失により二体を閉じ込めた箱はなんの保護もなく地中にあることになる。魔法封じで防げるのは魔法だけだ。掘り返され、目視されればどうしようもない。

 ラクティメシッスとマデルが、残っていた壁を砕き終わったところに村長が戻ってきた。村人たちがゾロゾロついて来ている。
「瓦礫置き場が決まりました。この近くにいい空き地があるんです。運び込んだ後、周囲に柵を作ることにしました。えぇ、柵はわたしらで作ります」
なんだか村長は嬉しそうだ。
「それでですね、運ぶのを手伝わせてほしいと、みなが言うのですよ。わたしもそうなんですが、なんだかこう、体力が有り余っているような感じでして、動きたいんです。どうか手伝わせてください」

「魔法でやったほうが早いんだけど……」
ラクティメシッスが困ってマデルを見る。するとマデルが村長に訊いた。
「あんたたち、自分の仕事は? そっちはどうする気?」

「そっちは女房たちがやるって言ってる。こっちは任せて、宿の手伝いに行けって追っ払われた」
村長のすぐ後ろにいた男が笑顔で答えた。
「頼む、俺たちにも仕事をくれよ」
仕方ないわねぇ、とマデルがラクティメシッスを見た。

「どうせ今日は封印の岩を上るのは無理。一日いたんだから時間がかかってもいいんじゃない?」
「あ、でも、そうだ、忘れていました――今夜、わたしたちはどこで過ごせばいいんでしょう?」
確かに! ソノンセカに宿はなくなった。クサッティヤに戻るしかないか?

 すると村長がニッコリ笑う。
「うちのボロ屋で良ければ泊まってください。そのつもりで夕食の用意もさせているんです」

「いや、しかし……」
ラクティメシッスは遠慮なのか嫌がっているのか判らない生返事、マデルが
「あら! 助かるわ。よろしくね」
勝手に決めてしまった――

 瓦礫をいったん敷地の外に積み上げ、そこから村人たちが置き場所に運ぶことになった。瓦礫を積み上げたのはラクティメシッス、もちろん魔法だ。魔物の痕跡を探す心づもりがあってのことだ。敷地内に瓦礫が無くなると、今度は地面の捜索に掛かった。基礎さえなくなりさらになった地面をゆっくりと歩き回っている。だが、まぁ、掘り返さない限り大丈夫か……でも、ここに再建築するとなると、掘り返す可能性もある。地下室を作るなんてことになったら隠しきれなくなる。

(心配ない)
頭の中でクルテの声が聞こえた。
(わたしが結界を張った。人間には検知できない方法で……掘ろうとしても無理。大岩があるって判断して諦める)

(女神の魔法か?)
(人間がそう呼ぶ魔法の一つ。正しくは結界じゃなく、領域。女神の領域は女神の許しがない限り、何人なんぴとだろうと侵せない)
魔物なのに女神の魔法も使えるなんて、なんだか面白いヤツだ。

(それより瓦礫置き場を見に行こう)
(何かあるのか?)
(瓦礫がある――でも、その先からソノンセカの森に入れる)
(森に行くってことか?)
(ソノンセカの女神に挨拶なしってわけにはいかない)

「瓦礫置き場を見に行ってくる。全部置き切れるか心配になってきた。確認してくるよ」
ピエッチェがカッチーに言った。

「あ、じゃあ、俺も一緒に――」
「おまえとオッチンネルテはここに居て、マデルたちを守ってくれ。女性を二人きりにはできない」
「あぁ、そうですね」
女装のラクティメシッスをチラッと見て、カッチーがニヤッと笑って頷いた。

 瓦礫を乗せた丈夫な布に紐をつけて棒で吊るし、棒の前後を二人で担いで運んでいた。手ぶらで行くのもなんだからと、ピエッチェも村人の一人と組むことにした。クルテがついてくる。

「あの別嬪べっぴんさんはあんたの?」
組んでいた村人がピエッチェに問う。

「あぁ、俺の女だ。別嬪ってことはないけどな」
答えるピエッチェ、クルテがニンマリ笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

元公務員、辺境ギルドの受付になる 〜『受理』と『却下』スキルで無自覚に無双していたら、伝説の職員と勘違いされて俺の定時退勤が危うい件〜

☆ほしい
ファンタジー
市役所で働く安定志向の公務員、志摩恭平(しまきょうへい)は、ある日突然、勇者召喚に巻き込まれて異世界へ。 しかし、与えられたスキルは『受理』と『却下』という、戦闘には全く役立ちそうにない地味なものだった。 「使えない」と判断された恭平は、国から追放され、流れ着いた辺境の街で冒険者ギルドの受付職員という天職を見つける。 書類仕事と定時退勤。前世と変わらぬ平穏な日々が続くはずだった。 だが、彼のスキルはとんでもない隠れた効果を持っていた。 高難易度依頼の書類に『却下』の判を押せば依頼自体が消滅し、新米冒険者のパーティ登録を『受理』すれば一時的に能力が向上する。 本人は事務処理をしているだけのつもりが、いつしか「彼の受付を通った者は必ず成功する」「彼に睨まれたモンスターは消滅する」という噂が広まっていく。 その結果、静かだった辺境ギルドには腕利きの冒険者が集い始め、恭平の定時退勤は日々脅かされていくのだった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...