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16章 継承される流れ
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王宮の自室内にある隠し部屋に置いていた。あの部屋には誰も入れない。なのに、なんでおまえが持っている?
だがそれをラクティメシッスに言うわけにもいかない。それこそクルテの正体を白状するしかなくなってしまう。感情に流されて、うっかりクルテを責めてしまった。どう事態を収拾すればいい? そして、どう怒りを鎮めればいい?
「王家の蔵書だ」
蔵書じゃないが、完全な嘘とも言い切れない。ラクティメシッスはどう判断したものか、ピエッチェの表情を読もうとしている。
「おまえ、王宮に忍び込んだのか?」
クルテに向かう言葉が必要以上に厳しい――それに訊きたいのは王宮じゃない。魔法で出現させ、魔法封じを施した隠し部屋だ。そのあたり、クルテは気付くか?
この場で訊けるのは入手方法くらいだろう。他にも納得いかないことはある。同じ仕様の日記帳を持っていることだ。あれは特別に作らせたもので市販されていない。あとから出した二冊は随分と真新しく、作られた時期が違うのは一目瞭然だ。ならば作成させた業者が最近になって模倣品を作った? それはそれで問題だが、ここで騒ぐほどでもない。クルテを責めるのはお門違いだ。
チラリとクルテがピエッチェを見た。王宮内に封印されていたクルテにピエッチェは『忍び込んだのか?』と訊いた。それをどう受け止めるか迷っているようだ。
「それ、拾ったもの」
拗ねたようにソッポを向いてクルテが答えた。オドオドしている。ピエッチェ以外はクルテが嘘をついていると思ったかもしれない。
「王家の蔵書だなんて知らない。森で見つけた……一目で呪いがかけてあるのは判ったけれど、触れても危ないものじゃないのも判った。だから拾って持っていた。そうしなきゃいけないって、なんとなく思った」
「森にあるはずがないものだぞ?」
「そうだとしても、わたしには判らない――森に訊いてみたらどうだ?」
ラクティメシッスがクスリと笑う。
「森に訊け、は良かったですね。ピエッチェ、お嬢さんが王宮に忍び込んで盗んだとは思えません。もし盗まれたのだとしたら、犯人は別人でしょうね」
クルテを庇うつもりらしい。もし盗んだものだとしても、蔵書一冊、許してやりなさいとでも言いたいのかもしれない。それが判るからピエッチェはなおさらイラつく。そうじゃないんだと言えないもどかしさ、だけど……
クルテがオドオドしているのは隠し事の露見を恐れてではないと感じた。ピエッチェの怒りの波動がクルテを震わせている。これ以上責めたところで、どうせ本当のことを言ってはくれないだろう。
きっと森で拾ったと言うのは事実、そして読み替えが必要だ――森に訊けは女神に訊けと言う意味、つまり持ち出したのは森の女神、クルテは森の女神から預かった。
だけどそれでも不可解なのは、なぜ森の女神は隠し部屋に入ることができたかだ。魔法封じを施して魔法の痕跡も完全に消した。ピエッチェの魔法が女神には通用しなかった? そして最大の謎が残る。なぜ女神はピエッチェの日記を持ち出したのか、だ。
チッとピエッチェが舌打ちした。ホッとクルテがピエッチェを見た。おまえを泣かせたいわけじゃない……ピエッチェがクルテに本を差し出す。
「仕舞っておけ。くれぐれも失くすなよ」
きっと女神の制約で、クルテははっきりしたことが言えないでいる。クルテを責めても意味がない。
「と、とりあえず、食事にしませんか?」
カッチーが声を震わせて言った。怒りは納めたものの、ピエッチェの機嫌が直ったわけじゃない。下手なことを言えないと遠慮しているのだ。
「いい加減、マデルさんも心配してるでしょうし、夕食にしないとクリンナーテンさんも不審に思うんじゃないでしょうか?」
「そうだね。わたしも空腹です」
ラクティメシッスが立ち上がる。テーブルに置かれたノートとペンを手に取りながら言った。
「夜明けまでに仕上げておきます。寝室で施術するので持って行きますね。それからカッチー、ついでだからマデルたちはわたしが呼んできます。あなたは食材を見て、何を作るか考えておいてください」
そして擦れ違いざま宥めるように、ピエッチェの肩に手を置いた――
二日酔いがすっかり回復したクリンナーテン、朝からまともに食べていなかったせいもありモリモリ食べた。
「ピエッチェはよくパイナップルを食べているの?」
よっぽど旨かったらしい。
「贅沢しないことは知っているだろう?」
苦笑するピエッチェに、クリンナーテンが屈託なく笑う。
「そうよね、クリオテナさまにご馳走になった覚えがないもの。でも、食べたことはあるんでしょう?」
「ん、この旅で二回だったかな。それ以前は一度だけだ。誰かの献上品だったんじゃないかな?」
誰の献上品だったっけ? 南方の国から持ち帰ったのだと言っていた。確かパイナップルが一つとバナナが十本くらいだった。
遅くなったこともあり、今夜のメニューは素早く作れるものがいいだろうと、薄切り肉と細く切った玉ねぎ・ピーマン・ニンジンを甘辛く炒めたもの、チリを使って少しピリッとさせてある。溶き卵と薄く切ったキノコのスープ、トマトとキュウリの角切りサラダ、デザートはブドウとリンゴだ。カッチーが考えた献立だった。
「カッチー、いっそレストランを経営したら?」
クリンナーテンがカッチーに微笑む。
「料理の手際もすっごくいいのよ。材料をまず最初にみんな切っちゃってね――」
クリンナーテンはジジョネテスキに王都帰還命令が出たことを知らない。チュジャバリテからどんな話を聞いたか、そしてこれからどうするのか、きっとマデルは聞きたくてウズウズしているだろう。だけど賢明なマデルは自分から尋ねたりしない。ピエッチェやラクティメシッスが話し出さないのだから、クリンナーテンには聞かせたくないのだと察している。
「もし、ピエッチェさんにクビにされたらそうしますよ」
ニコニコとカッチーがクリンナーテンに答えている。俺がおまえを解雇すると思っているのか? そう思ったが言わなかった。カッチーは話を合わせているだけだ。
クルテはいつもの調子でじっと料理を睨みつけてから、ピエッチェを見上げた。
「料理ができない女は嫌い?」
おや、また毛色の違う質問が飛んできた。
「クリンナーテンが、少しはお料理ができないと嫌われるって虐めた」
「なに? 俺のクルテを虐めたのか?」
クルテには答えずクリンナーテンに詰め寄った。もちろん冗談だ。そうと判る言いかただ。
「まぁ! 虐めただなんて、人聞きの悪いこと言わないでよ」
ピエッチェではなくクルテに抗議するクリンナーテン、詰問調だ。どうやらクルテを嫌っているらしい。少なくともピエッチェの傍から排除したいと思っていそうだ。だけど、それは無理ってもんだ。
「また虐める……」
クルテのほうが上手、クリンナーテンではなくピエッチェを見上げて、縋るような目を向けた。
「あぁ~あ、可愛いふりしてあざとい娘ね。騙されちゃダメよ、ピエッチェ」
「うん? 俺は騙されているのか?」
ニヤニヤと答えるピエッチェに、苛立つクリンナーテン、
「しっかりしてよ――マデルも何か言って」
マデルに助けを求めるが、マデルは
「言っても無駄よ」
と取り合わない。マデルも巧いな、クリンナーテンと同意見を匂わせつつ、クルテを攻撃したりしない。マデルはクルテの味方だと、気付いていない時点でクリンナーテンの負けだ。
「でもね」
ピエッチェを見上げたままクルテが言った。
「どうしたらリンゴをウサギ型にできるかクリンナーテンが教えてくれたよ」
見るとデザート皿のリンゴはウサギ型、だけどクルテの分だけ『なんだそれ?』って感じでガタガタだ。自分で切ったらしい。
「へぇ、それで上手にできるようになったか?」
できてないのが判りつつ、ピエッチェが微笑む。きっとクルテはクリンナーテンとの関係を改善したがっている。
「ううん、でも練習すれば巧くなるって言ってくれた。優しく教えてくれたし、最初は巧くいかないものだって慰めてくれた」
ピエッチェの目の端に、クリンナーテンが少し気まずげな顔になったのが映り込む。
「でもね、どうしてあれがウサギなのかが判らない」
おい、クルテ! それを言ったら台無しだ。クリンナーテンはフンと鼻を鳴らし、炒め物を口いっぱいに頬張った――
洗い物はピエッチェとラクティメシッスが担当することになった。カッチーは読書を口実にさっさと寝室に引き上げた。クルテはピエッチェから離れない。男に任せたら安心できないと洗い物の監視に立ったのはマデル、ところが実際はラクティメシッスのそばに居たいだけらしい。何か内緒話をしては二人でクスクス笑っている。マデルにくっついてきたものの、クリンナーテンは当てられっぱなし、とうとう呆れて寝室に戻って行った――すべてクリンナーテンを追っ払うためだ。
「温和しく寝てくれるかな?」
ピエッチェが苦笑する。マデルがちょっと後ろめたそうに答えた。
「ジジョネテスキを思い出して泣いてるかもね?」
ラクティメシッスが軽く肘でマデルを小突く。ピエッチェが気にするからやめておけと言うことだ。
「でも、それがクリンナーテンのため」
誰にともなくクルテが言った。
暫くするとカッチーもキッチン来た。打ち合わせの続きだ。だらだらと洗い物をしながら、明日の計画を話し合う。水音でクリンナーテンには聞こえないだろうし、ラクティメシッスとマデルが気配を探り、来そうになったら別の話をすることにしていた。
ラクティメシッスが魔法をかけた日記帳とペンは、使い方をピエッチェが暗号で書いた手紙とともにチュジャバリテに持って行って貰うことにしてある。
「で、まさかそれ以外は何もしない、ってことはないのでしょう?」
洗った皿をピエッチェに渡しながらラクティメシッスが訊いた。
「どう動こうと考えているんですか?」
うーーん、と唸るピエッチェ、
「王都に向かうか迷ったけど、やっぱりトロンペセスに会ったほうがいいように思える」
受け取った皿を拭きながら答えた。
「王都に行ったところで何をどうすればいいか思いつけない。トロンペセスを中心に、決起を考えていた連中が誰なのかも知っておきたい」
「その連中を動かす気は?」
「俺にそのつもりはない」
「ふむ……王としては内乱を招くなんてとんでもない?」
ラクティメシッスがニヤッと笑う。
「あぁ、よくもそんなことを考えてくれたなと、チュジャバリテを怒鳴りつけるところだったさ」
「でも、利用しない手はないと思いますよ?」
利用か……その言葉には抵抗がある。そう感じるのはただ言葉を選びたいだけか?
「出かけるのは朝食を食べてから?」
クルテがいつものようにピエッチェを見上げた。
だがそれをラクティメシッスに言うわけにもいかない。それこそクルテの正体を白状するしかなくなってしまう。感情に流されて、うっかりクルテを責めてしまった。どう事態を収拾すればいい? そして、どう怒りを鎮めればいい?
「王家の蔵書だ」
蔵書じゃないが、完全な嘘とも言い切れない。ラクティメシッスはどう判断したものか、ピエッチェの表情を読もうとしている。
「おまえ、王宮に忍び込んだのか?」
クルテに向かう言葉が必要以上に厳しい――それに訊きたいのは王宮じゃない。魔法で出現させ、魔法封じを施した隠し部屋だ。そのあたり、クルテは気付くか?
この場で訊けるのは入手方法くらいだろう。他にも納得いかないことはある。同じ仕様の日記帳を持っていることだ。あれは特別に作らせたもので市販されていない。あとから出した二冊は随分と真新しく、作られた時期が違うのは一目瞭然だ。ならば作成させた業者が最近になって模倣品を作った? それはそれで問題だが、ここで騒ぐほどでもない。クルテを責めるのはお門違いだ。
チラリとクルテがピエッチェを見た。王宮内に封印されていたクルテにピエッチェは『忍び込んだのか?』と訊いた。それをどう受け止めるか迷っているようだ。
「それ、拾ったもの」
拗ねたようにソッポを向いてクルテが答えた。オドオドしている。ピエッチェ以外はクルテが嘘をついていると思ったかもしれない。
「王家の蔵書だなんて知らない。森で見つけた……一目で呪いがかけてあるのは判ったけれど、触れても危ないものじゃないのも判った。だから拾って持っていた。そうしなきゃいけないって、なんとなく思った」
「森にあるはずがないものだぞ?」
「そうだとしても、わたしには判らない――森に訊いてみたらどうだ?」
ラクティメシッスがクスリと笑う。
「森に訊け、は良かったですね。ピエッチェ、お嬢さんが王宮に忍び込んで盗んだとは思えません。もし盗まれたのだとしたら、犯人は別人でしょうね」
クルテを庇うつもりらしい。もし盗んだものだとしても、蔵書一冊、許してやりなさいとでも言いたいのかもしれない。それが判るからピエッチェはなおさらイラつく。そうじゃないんだと言えないもどかしさ、だけど……
クルテがオドオドしているのは隠し事の露見を恐れてではないと感じた。ピエッチェの怒りの波動がクルテを震わせている。これ以上責めたところで、どうせ本当のことを言ってはくれないだろう。
きっと森で拾ったと言うのは事実、そして読み替えが必要だ――森に訊けは女神に訊けと言う意味、つまり持ち出したのは森の女神、クルテは森の女神から預かった。
だけどそれでも不可解なのは、なぜ森の女神は隠し部屋に入ることができたかだ。魔法封じを施して魔法の痕跡も完全に消した。ピエッチェの魔法が女神には通用しなかった? そして最大の謎が残る。なぜ女神はピエッチェの日記を持ち出したのか、だ。
チッとピエッチェが舌打ちした。ホッとクルテがピエッチェを見た。おまえを泣かせたいわけじゃない……ピエッチェがクルテに本を差し出す。
「仕舞っておけ。くれぐれも失くすなよ」
きっと女神の制約で、クルテははっきりしたことが言えないでいる。クルテを責めても意味がない。
「と、とりあえず、食事にしませんか?」
カッチーが声を震わせて言った。怒りは納めたものの、ピエッチェの機嫌が直ったわけじゃない。下手なことを言えないと遠慮しているのだ。
「いい加減、マデルさんも心配してるでしょうし、夕食にしないとクリンナーテンさんも不審に思うんじゃないでしょうか?」
「そうだね。わたしも空腹です」
ラクティメシッスが立ち上がる。テーブルに置かれたノートとペンを手に取りながら言った。
「夜明けまでに仕上げておきます。寝室で施術するので持って行きますね。それからカッチー、ついでだからマデルたちはわたしが呼んできます。あなたは食材を見て、何を作るか考えておいてください」
そして擦れ違いざま宥めるように、ピエッチェの肩に手を置いた――
二日酔いがすっかり回復したクリンナーテン、朝からまともに食べていなかったせいもありモリモリ食べた。
「ピエッチェはよくパイナップルを食べているの?」
よっぽど旨かったらしい。
「贅沢しないことは知っているだろう?」
苦笑するピエッチェに、クリンナーテンが屈託なく笑う。
「そうよね、クリオテナさまにご馳走になった覚えがないもの。でも、食べたことはあるんでしょう?」
「ん、この旅で二回だったかな。それ以前は一度だけだ。誰かの献上品だったんじゃないかな?」
誰の献上品だったっけ? 南方の国から持ち帰ったのだと言っていた。確かパイナップルが一つとバナナが十本くらいだった。
遅くなったこともあり、今夜のメニューは素早く作れるものがいいだろうと、薄切り肉と細く切った玉ねぎ・ピーマン・ニンジンを甘辛く炒めたもの、チリを使って少しピリッとさせてある。溶き卵と薄く切ったキノコのスープ、トマトとキュウリの角切りサラダ、デザートはブドウとリンゴだ。カッチーが考えた献立だった。
「カッチー、いっそレストランを経営したら?」
クリンナーテンがカッチーに微笑む。
「料理の手際もすっごくいいのよ。材料をまず最初にみんな切っちゃってね――」
クリンナーテンはジジョネテスキに王都帰還命令が出たことを知らない。チュジャバリテからどんな話を聞いたか、そしてこれからどうするのか、きっとマデルは聞きたくてウズウズしているだろう。だけど賢明なマデルは自分から尋ねたりしない。ピエッチェやラクティメシッスが話し出さないのだから、クリンナーテンには聞かせたくないのだと察している。
「もし、ピエッチェさんにクビにされたらそうしますよ」
ニコニコとカッチーがクリンナーテンに答えている。俺がおまえを解雇すると思っているのか? そう思ったが言わなかった。カッチーは話を合わせているだけだ。
クルテはいつもの調子でじっと料理を睨みつけてから、ピエッチェを見上げた。
「料理ができない女は嫌い?」
おや、また毛色の違う質問が飛んできた。
「クリンナーテンが、少しはお料理ができないと嫌われるって虐めた」
「なに? 俺のクルテを虐めたのか?」
クルテには答えずクリンナーテンに詰め寄った。もちろん冗談だ。そうと判る言いかただ。
「まぁ! 虐めただなんて、人聞きの悪いこと言わないでよ」
ピエッチェではなくクルテに抗議するクリンナーテン、詰問調だ。どうやらクルテを嫌っているらしい。少なくともピエッチェの傍から排除したいと思っていそうだ。だけど、それは無理ってもんだ。
「また虐める……」
クルテのほうが上手、クリンナーテンではなくピエッチェを見上げて、縋るような目を向けた。
「あぁ~あ、可愛いふりしてあざとい娘ね。騙されちゃダメよ、ピエッチェ」
「うん? 俺は騙されているのか?」
ニヤニヤと答えるピエッチェに、苛立つクリンナーテン、
「しっかりしてよ――マデルも何か言って」
マデルに助けを求めるが、マデルは
「言っても無駄よ」
と取り合わない。マデルも巧いな、クリンナーテンと同意見を匂わせつつ、クルテを攻撃したりしない。マデルはクルテの味方だと、気付いていない時点でクリンナーテンの負けだ。
「でもね」
ピエッチェを見上げたままクルテが言った。
「どうしたらリンゴをウサギ型にできるかクリンナーテンが教えてくれたよ」
見るとデザート皿のリンゴはウサギ型、だけどクルテの分だけ『なんだそれ?』って感じでガタガタだ。自分で切ったらしい。
「へぇ、それで上手にできるようになったか?」
できてないのが判りつつ、ピエッチェが微笑む。きっとクルテはクリンナーテンとの関係を改善したがっている。
「ううん、でも練習すれば巧くなるって言ってくれた。優しく教えてくれたし、最初は巧くいかないものだって慰めてくれた」
ピエッチェの目の端に、クリンナーテンが少し気まずげな顔になったのが映り込む。
「でもね、どうしてあれがウサギなのかが判らない」
おい、クルテ! それを言ったら台無しだ。クリンナーテンはフンと鼻を鳴らし、炒め物を口いっぱいに頬張った――
洗い物はピエッチェとラクティメシッスが担当することになった。カッチーは読書を口実にさっさと寝室に引き上げた。クルテはピエッチェから離れない。男に任せたら安心できないと洗い物の監視に立ったのはマデル、ところが実際はラクティメシッスのそばに居たいだけらしい。何か内緒話をしては二人でクスクス笑っている。マデルにくっついてきたものの、クリンナーテンは当てられっぱなし、とうとう呆れて寝室に戻って行った――すべてクリンナーテンを追っ払うためだ。
「温和しく寝てくれるかな?」
ピエッチェが苦笑する。マデルがちょっと後ろめたそうに答えた。
「ジジョネテスキを思い出して泣いてるかもね?」
ラクティメシッスが軽く肘でマデルを小突く。ピエッチェが気にするからやめておけと言うことだ。
「でも、それがクリンナーテンのため」
誰にともなくクルテが言った。
暫くするとカッチーもキッチン来た。打ち合わせの続きだ。だらだらと洗い物をしながら、明日の計画を話し合う。水音でクリンナーテンには聞こえないだろうし、ラクティメシッスとマデルが気配を探り、来そうになったら別の話をすることにしていた。
ラクティメシッスが魔法をかけた日記帳とペンは、使い方をピエッチェが暗号で書いた手紙とともにチュジャバリテに持って行って貰うことにしてある。
「で、まさかそれ以外は何もしない、ってことはないのでしょう?」
洗った皿をピエッチェに渡しながらラクティメシッスが訊いた。
「どう動こうと考えているんですか?」
うーーん、と唸るピエッチェ、
「王都に向かうか迷ったけど、やっぱりトロンペセスに会ったほうがいいように思える」
受け取った皿を拭きながら答えた。
「王都に行ったところで何をどうすればいいか思いつけない。トロンペセスを中心に、決起を考えていた連中が誰なのかも知っておきたい」
「その連中を動かす気は?」
「俺にそのつもりはない」
「ふむ……王としては内乱を招くなんてとんでもない?」
ラクティメシッスがニヤッと笑う。
「あぁ、よくもそんなことを考えてくれたなと、チュジャバリテを怒鳴りつけるところだったさ」
「でも、利用しない手はないと思いますよ?」
利用か……その言葉には抵抗がある。そう感じるのはただ言葉を選びたいだけか?
「出かけるのは朝食を食べてから?」
クルテがいつものようにピエッチェを見上げた。
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