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17章 選択された祖国
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首を傾げるラクティメシッスに、ピエッチェの説明は続く。
「ローシェッタ国に『宣戦布告するぞ』『トロンバから攻め入るぞ』と言われたザジリレン国軍はどう動く? 王都に戻って守りを固めるのも一手だが、そのままコッテチカからローシェッタ国に攻め込んだっていい。トロンバは王都カッテンクリュードから遠い。先に王都を落としたほうが勝ちなのだから守るより、ここは攻めだと考える者も必ずいる。ましてローシェッタ国がトロンバに大軍を送り込むのは無理――ジジョネテスキには侵攻派に回るよう指示を出す。が、ザジリレン国軍がローシェッタ国に攻め込むことはない。なぜか? ローシェッタ軍がトロンバに攻め込んでこないからだ」
「ピエッチェ、言ってることが矛盾していますよ?」
「うん、もっと詳しく話すから聞いて欲しい――トロンバに攻め込んできた軍がローシェッタ国軍と断定できないようにしたい」
「はぁん? もしや、軍旗を出すな、とでも?」
「うん、そう考えてるが……無理か?」
「うーーん……」
考え込むラクティメシッス、軍旗を掲げ、どこの兵であるかを明らかにする。それが戦争の際の各国間の不文律だし、軍旗があるからこそ兵の意気も上がる。戦場で軍旗を目にすれば、自国の平和のためにと感じるものだ。
「兵たちになんと説明したものやら?」
「そうだな……まずはザジリレン国を撹乱したいとでもできないか? ザジリレン国に不穏な動きがある。それを調べ、先手を打つ足掛かりを作る……なんて名目は通らないか?」
「うーーん……」
またも考えこんだティメシッス、ジロリとピエッチェを見てから
「ローシェッタ国の立ち位置はどこにあるのしょう?」
と訊いた。
「宣戦布告すると脅すのもいい、トロンバから兵を侵入させるのもいい。さらにトロンバからザジリレン有志軍を率いて王都に向かうのもいい。で? 王都奪還時には実はローシェッタ軍だったと明かしてもいいのですか? そうだとしたら、やっぱり我が国が貴国を蹂躙したことになりますが?」
「いや、王都に入るころにはザジリレン兵による大軍になっていると見込んでいる。だからローシェッタ軍には帰国して欲しい」
「なるほど、あなたがその大軍の指揮を執る?」
「状況にもよるが、そうなると思う。でなければ有志軍はレジスタンス扱い、王として罰さなくてはならなくなる」
「そうでしょうね……そういうお話なら、なかったことにしていただきましょう」
「えっ?」
驚いてラクティメシッスを見るピエッチェ、ラクティメシッスは冷ややかだ。するとクルテがフフンと笑って言った。
「そのプランではローシェッタ国にはなんの益もない。ラスティンが承服できるわけないじゃん」
「あ……」
クルテの言うとおりだ。兵を動かすにも費えが必要、その見返りともなる最終的な戦利を示す必要がある。今回、表面上は何もしていないのだからザジリレンに戦争賠償を求めることもできない。国益にならないことを王太子が認めるもんか。
「だからさ、ローシェッタ軍にもカッテンクリュードに来て貰えばいいんだよ」
クルテがピエッチェを見上げる。
「もちろんラクティメシッスを指揮官として。ね、ラスティン?」
くるりと振り向いて自分を見たクルテにラクティメシッスが心持ち怯む。
「しかしお嬢さん。それではローシェッタ国軍がザジリレンを征服したことになってしまいます。ピエッチェを困らせるつもりですか?」
するとニヤリとしたクルテ、向き直ると両手を伸ばしてピエッチェの頭を引き寄せて耳元で何か言った。ピエッチェは面白くない顔でソッポを向いていたが途中でジロリとクルテを見た。その後も表情は硬いままだったが、
「えっ?」
最後には驚いてクルテから離れ、マジマジとその顔を見た。クルテはピエッチェから腕を放して、見つめ返すとニッと笑んだ。
「なるほどね……ラスティン、こういうことだ」
暫くクルテを見詰めていたピエッチェ、やはりニヤッとラクティメシッスを見た――
そして夜――寝室でラクティメシッスと二人きりになったマデルが溜息を吐く。
「いろんなことを言う人がいるだろうけれど……ピエッチェはクルテを王妃にと考えているのよね?」
と、ラクティメシッスの顔色を窺う。
先にベッドに入っていたラクティメシッスが、チラリとマデルを見て答えた。
「そんなこと、わたしには判りませんよ」
立てた肘に頭を乗せて、ベッドに本を広げて読んでいる。カッチーに借りた本だ。
マデルはドレッサーの前でスツールに腰かけて、髪の手入れをしている。
「そりゃそうでしょうけど……ラクティはどう思う?」
「どう思うって?」
「ピエッチェはクルテを妻に、と考えているのかしら? もし考えているなら、ラクティは反対する?」
ピエッチェたちと同行し始めた当初、ラクティメシッスはクルテを排除したがっているように見えた。
ラクティメシッスはふぅと溜息を吐くと、本を閉じてサイドテーブルに置いた。読む気が失せたのだろう。
「そんなに気になるならピエッチェに訊いてみたら? まぁ、答えちゃくれないとは思いますが……マデルだって判っているのでしょう? ピエッチェはザジリレン国王なのですよ。身分や立場ではなく、あの人は心も国王です」
その言葉にマデルが悲しげに俯く。
「やっぱりクルテではない人を選ぶのかしら?」
「可能性がないとは言いません。下手をすれば、ローシェッタの王女ってのもあります」
「ラクティ! あなた、まさかフレヴァンスを押し付ける気?」
「そんなことしませんよ。だけど、ザジリレンの重臣の中にはローシェッタからの申し出に乗ったほうがいいと考える者もいるかもしれません。その重臣の影響力が大きければ、ピエッチェだって無下にはできない……まぁ、あまりにも気の毒、なんとかわたしも阻止するようにはしますけどね」
自分の妹をこんなふうに言うなんて、わたしは酷い兄なんでしょうね、とラクティメシッスが苦笑する。
「あとはどれほどピエッチェの気持ちが強いか、です。誰がなんと言おうとお嬢さんを妻にする。そんな決意がなければ、お嬢さんが王妃になることはないんじゃないのかな?」
「それって、自分にはそんな決意があるって言ってるの?」
「そうですよ。そう聞こえたでしょ?」
呆れたような苦笑を見せるマデル、だがすぐに思いつめたような顔で言った。
「わたしね、今日のクルテを見て思ったの――クルテほどピエッチェの妻に……王妃に相応しい女はいないんじゃないかって」
「相応しいねぇ……」
立てていた肘を降ろし、両手を投げ出してラクティメシッスが天井を向く。
「何を相応しいと感じたのかは知りませんが、ピエッチェがお嬢さんを愛してる理由はそんなところにはないと思いますよ」
マデルの反応は、ラクティメシッスが言いたかったこととは少しずれていたかもしれない。
「やっぱりピエッチェはクルテを愛しているわよね?」
「そんなこと、今さら聞くまでもないでしょう?――それより、なんで相応しいと考えたんですか?」
「うん? さっきのローシェッタ軍にザジリレンで何をさせるかって話よ。クルテはピエッチェの意向をそのまま生かして、ローシェッタ国ともうまく調整できる提案をしたわ」
「そうですね。大したものです」
「王を助け支える能力がクルテにはあると思ったの――わたしにはそんなこと、絶対できない」
やっぱりそう来たか、ラクティメシッスが心の中で苦笑する。
「マデル、その能力は参謀とか補佐役と呼ばれる人物に必要なもので、妻に必要なものではありません」
「でも妻がそんな人物なら、夫にとってこんなに心強いことはないと思うわ」
「それは夫によるのでは? マデルはなぜお嬢さんがピエッチェを好きなのかは聞いたことがありますか?」
「え……それは、ピエッチェと居ると落ち着くから? ほかの男だと怖いだけ。あの子ね、昔、男に乱暴されそうになったことがあってね――クルテにとってピエッチェは癒しだし、安心して過ごせる居場所なのよ」
マデルがクルテに聞いた身の上話をラクティメシッスに聞かせた。話の途中でラクティメシッスがチラリとサイドテーブルに置いた本に目をやったとは気づいていない。
「ふぅん……それでマデルはなんでわたしを好きになってくれたんですか?」
「それは、そりゃあ、あんた、放っといたら何をしでかすか心配だからだわ」
「おや、そんなにわたしは危なっかしい?」
「そうじゃないけど! 何しろ放っとけなかったの!」
「でも、そうだとしたら、わたしにマデルは必要だけど、マデルにわたしは必要ないみたいですね」
「そうじゃないわよ……もう! 心細くなったり自信がなくなったりした時、励ましてくれたのはいつもラクティだった。今でもそう。そしてわたしを勇気づけられるのはあなたしかいない。それが判ったから結婚したいって思ったんだわ」
ラクティメシッスがクスリと笑う。
「なんで笑うのよ!?」
「いいや、素直なマデルも可愛いな、と思って――こらこら、怒らない。話の続きがあります」
マデルが何か言おうとしたのを止めたラクティメシッスだ。
「誰もが自分に必要な人を好きになる。でも、その『必要』は人によって違う。クルテはピエッチェに保護を求めているし、マデルはわたしに指標を求めている」
「クルテが求めているのが保護って言うのはなんとなく判るけど、わたしがラクティに求めているのが指標?」
「んー、他にいい言葉が思いつかなかったのでそう言いました。前を向く手助けって言えばよかったかな?……では、ピエッチェはクルテに何を求めているのか?」
「なんだろう? クルテが何を言っても怒らないで笑ってる。時どき窘めたり嫌味を言うけど、なんだかそれも楽しそう」
「あぁ、それはわたしも気付いてますけど、それはきっと求めるものとは違うんじゃないでしょうか」
「相手との楽しい時を求めるのは違うの?」
「わたしだってマデルと楽しく過ごしたいですよ? それにピエッチェは賢い人、生きていくのは楽しければいいってわけじゃないって判っている人です」
「それじゃ、ピエッチェはクルテをパートナーとして認めたのよ。で、自分を慕うクルテを受け入れることにしたんだわ」
「ふふん、なんだかそれって話が元に戻ってますね。パートナーに相応しいからお嬢さんを傍に置いてるって言いたいみたいだ」
「でもね、ピエッチェはクルテの助言にはいつも従ってるわ。クルテは不思議なことを言うことも多いけど、何か困ったことが起きるといつも適切な助言をするの」
「そうですね」
ここでもラクティメシッスはサイドテーブルの本を見ている。
「だけどピエッチェは……打算で誰かを愛せはしないと思います」
そして、本を見たままそう言った。
「ローシェッタ国に『宣戦布告するぞ』『トロンバから攻め入るぞ』と言われたザジリレン国軍はどう動く? 王都に戻って守りを固めるのも一手だが、そのままコッテチカからローシェッタ国に攻め込んだっていい。トロンバは王都カッテンクリュードから遠い。先に王都を落としたほうが勝ちなのだから守るより、ここは攻めだと考える者も必ずいる。ましてローシェッタ国がトロンバに大軍を送り込むのは無理――ジジョネテスキには侵攻派に回るよう指示を出す。が、ザジリレン国軍がローシェッタ国に攻め込むことはない。なぜか? ローシェッタ軍がトロンバに攻め込んでこないからだ」
「ピエッチェ、言ってることが矛盾していますよ?」
「うん、もっと詳しく話すから聞いて欲しい――トロンバに攻め込んできた軍がローシェッタ国軍と断定できないようにしたい」
「はぁん? もしや、軍旗を出すな、とでも?」
「うん、そう考えてるが……無理か?」
「うーーん……」
考え込むラクティメシッス、軍旗を掲げ、どこの兵であるかを明らかにする。それが戦争の際の各国間の不文律だし、軍旗があるからこそ兵の意気も上がる。戦場で軍旗を目にすれば、自国の平和のためにと感じるものだ。
「兵たちになんと説明したものやら?」
「そうだな……まずはザジリレン国を撹乱したいとでもできないか? ザジリレン国に不穏な動きがある。それを調べ、先手を打つ足掛かりを作る……なんて名目は通らないか?」
「うーーん……」
またも考えこんだティメシッス、ジロリとピエッチェを見てから
「ローシェッタ国の立ち位置はどこにあるのしょう?」
と訊いた。
「宣戦布告すると脅すのもいい、トロンバから兵を侵入させるのもいい。さらにトロンバからザジリレン有志軍を率いて王都に向かうのもいい。で? 王都奪還時には実はローシェッタ軍だったと明かしてもいいのですか? そうだとしたら、やっぱり我が国が貴国を蹂躙したことになりますが?」
「いや、王都に入るころにはザジリレン兵による大軍になっていると見込んでいる。だからローシェッタ軍には帰国して欲しい」
「なるほど、あなたがその大軍の指揮を執る?」
「状況にもよるが、そうなると思う。でなければ有志軍はレジスタンス扱い、王として罰さなくてはならなくなる」
「そうでしょうね……そういうお話なら、なかったことにしていただきましょう」
「えっ?」
驚いてラクティメシッスを見るピエッチェ、ラクティメシッスは冷ややかだ。するとクルテがフフンと笑って言った。
「そのプランではローシェッタ国にはなんの益もない。ラスティンが承服できるわけないじゃん」
「あ……」
クルテの言うとおりだ。兵を動かすにも費えが必要、その見返りともなる最終的な戦利を示す必要がある。今回、表面上は何もしていないのだからザジリレンに戦争賠償を求めることもできない。国益にならないことを王太子が認めるもんか。
「だからさ、ローシェッタ軍にもカッテンクリュードに来て貰えばいいんだよ」
クルテがピエッチェを見上げる。
「もちろんラクティメシッスを指揮官として。ね、ラスティン?」
くるりと振り向いて自分を見たクルテにラクティメシッスが心持ち怯む。
「しかしお嬢さん。それではローシェッタ国軍がザジリレンを征服したことになってしまいます。ピエッチェを困らせるつもりですか?」
するとニヤリとしたクルテ、向き直ると両手を伸ばしてピエッチェの頭を引き寄せて耳元で何か言った。ピエッチェは面白くない顔でソッポを向いていたが途中でジロリとクルテを見た。その後も表情は硬いままだったが、
「えっ?」
最後には驚いてクルテから離れ、マジマジとその顔を見た。クルテはピエッチェから腕を放して、見つめ返すとニッと笑んだ。
「なるほどね……ラスティン、こういうことだ」
暫くクルテを見詰めていたピエッチェ、やはりニヤッとラクティメシッスを見た――
そして夜――寝室でラクティメシッスと二人きりになったマデルが溜息を吐く。
「いろんなことを言う人がいるだろうけれど……ピエッチェはクルテを王妃にと考えているのよね?」
と、ラクティメシッスの顔色を窺う。
先にベッドに入っていたラクティメシッスが、チラリとマデルを見て答えた。
「そんなこと、わたしには判りませんよ」
立てた肘に頭を乗せて、ベッドに本を広げて読んでいる。カッチーに借りた本だ。
マデルはドレッサーの前でスツールに腰かけて、髪の手入れをしている。
「そりゃそうでしょうけど……ラクティはどう思う?」
「どう思うって?」
「ピエッチェはクルテを妻に、と考えているのかしら? もし考えているなら、ラクティは反対する?」
ピエッチェたちと同行し始めた当初、ラクティメシッスはクルテを排除したがっているように見えた。
ラクティメシッスはふぅと溜息を吐くと、本を閉じてサイドテーブルに置いた。読む気が失せたのだろう。
「そんなに気になるならピエッチェに訊いてみたら? まぁ、答えちゃくれないとは思いますが……マデルだって判っているのでしょう? ピエッチェはザジリレン国王なのですよ。身分や立場ではなく、あの人は心も国王です」
その言葉にマデルが悲しげに俯く。
「やっぱりクルテではない人を選ぶのかしら?」
「可能性がないとは言いません。下手をすれば、ローシェッタの王女ってのもあります」
「ラクティ! あなた、まさかフレヴァンスを押し付ける気?」
「そんなことしませんよ。だけど、ザジリレンの重臣の中にはローシェッタからの申し出に乗ったほうがいいと考える者もいるかもしれません。その重臣の影響力が大きければ、ピエッチェだって無下にはできない……まぁ、あまりにも気の毒、なんとかわたしも阻止するようにはしますけどね」
自分の妹をこんなふうに言うなんて、わたしは酷い兄なんでしょうね、とラクティメシッスが苦笑する。
「あとはどれほどピエッチェの気持ちが強いか、です。誰がなんと言おうとお嬢さんを妻にする。そんな決意がなければ、お嬢さんが王妃になることはないんじゃないのかな?」
「それって、自分にはそんな決意があるって言ってるの?」
「そうですよ。そう聞こえたでしょ?」
呆れたような苦笑を見せるマデル、だがすぐに思いつめたような顔で言った。
「わたしね、今日のクルテを見て思ったの――クルテほどピエッチェの妻に……王妃に相応しい女はいないんじゃないかって」
「相応しいねぇ……」
立てていた肘を降ろし、両手を投げ出してラクティメシッスが天井を向く。
「何を相応しいと感じたのかは知りませんが、ピエッチェがお嬢さんを愛してる理由はそんなところにはないと思いますよ」
マデルの反応は、ラクティメシッスが言いたかったこととは少しずれていたかもしれない。
「やっぱりピエッチェはクルテを愛しているわよね?」
「そんなこと、今さら聞くまでもないでしょう?――それより、なんで相応しいと考えたんですか?」
「うん? さっきのローシェッタ軍にザジリレンで何をさせるかって話よ。クルテはピエッチェの意向をそのまま生かして、ローシェッタ国ともうまく調整できる提案をしたわ」
「そうですね。大したものです」
「王を助け支える能力がクルテにはあると思ったの――わたしにはそんなこと、絶対できない」
やっぱりそう来たか、ラクティメシッスが心の中で苦笑する。
「マデル、その能力は参謀とか補佐役と呼ばれる人物に必要なもので、妻に必要なものではありません」
「でも妻がそんな人物なら、夫にとってこんなに心強いことはないと思うわ」
「それは夫によるのでは? マデルはなぜお嬢さんがピエッチェを好きなのかは聞いたことがありますか?」
「え……それは、ピエッチェと居ると落ち着くから? ほかの男だと怖いだけ。あの子ね、昔、男に乱暴されそうになったことがあってね――クルテにとってピエッチェは癒しだし、安心して過ごせる居場所なのよ」
マデルがクルテに聞いた身の上話をラクティメシッスに聞かせた。話の途中でラクティメシッスがチラリとサイドテーブルに置いた本に目をやったとは気づいていない。
「ふぅん……それでマデルはなんでわたしを好きになってくれたんですか?」
「それは、そりゃあ、あんた、放っといたら何をしでかすか心配だからだわ」
「おや、そんなにわたしは危なっかしい?」
「そうじゃないけど! 何しろ放っとけなかったの!」
「でも、そうだとしたら、わたしにマデルは必要だけど、マデルにわたしは必要ないみたいですね」
「そうじゃないわよ……もう! 心細くなったり自信がなくなったりした時、励ましてくれたのはいつもラクティだった。今でもそう。そしてわたしを勇気づけられるのはあなたしかいない。それが判ったから結婚したいって思ったんだわ」
ラクティメシッスがクスリと笑う。
「なんで笑うのよ!?」
「いいや、素直なマデルも可愛いな、と思って――こらこら、怒らない。話の続きがあります」
マデルが何か言おうとしたのを止めたラクティメシッスだ。
「誰もが自分に必要な人を好きになる。でも、その『必要』は人によって違う。クルテはピエッチェに保護を求めているし、マデルはわたしに指標を求めている」
「クルテが求めているのが保護って言うのはなんとなく判るけど、わたしがラクティに求めているのが指標?」
「んー、他にいい言葉が思いつかなかったのでそう言いました。前を向く手助けって言えばよかったかな?……では、ピエッチェはクルテに何を求めているのか?」
「なんだろう? クルテが何を言っても怒らないで笑ってる。時どき窘めたり嫌味を言うけど、なんだかそれも楽しそう」
「あぁ、それはわたしも気付いてますけど、それはきっと求めるものとは違うんじゃないでしょうか」
「相手との楽しい時を求めるのは違うの?」
「わたしだってマデルと楽しく過ごしたいですよ? それにピエッチェは賢い人、生きていくのは楽しければいいってわけじゃないって判っている人です」
「それじゃ、ピエッチェはクルテをパートナーとして認めたのよ。で、自分を慕うクルテを受け入れることにしたんだわ」
「ふふん、なんだかそれって話が元に戻ってますね。パートナーに相応しいからお嬢さんを傍に置いてるって言いたいみたいだ」
「でもね、ピエッチェはクルテの助言にはいつも従ってるわ。クルテは不思議なことを言うことも多いけど、何か困ったことが起きるといつも適切な助言をするの」
「そうですね」
ここでもラクティメシッスはサイドテーブルの本を見ている。
「だけどピエッチェは……打算で誰かを愛せはしないと思います」
そして、本を見たままそう言った。
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