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22章 王都カッテンクリュードへ
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現れた時はマデリエンテと呼ばれる女性と同じ紋章のドレスだった。それが今は、カテロヘブ王の紋章が入った男物の衣装だ。
自分が誰なのか、誰の縁者なのか明らかにするために紋章を身につける。それを考えると、女性はカテロヘブ王の縁者だ。先につけていたマデリエンテと同じ紋章は目くらましのための虚偽、カテロヘブ王の紋章こそ、あの女性の身分を示していると考えたほうがいい。
紋章は王個人の物だけだった。ザジリレン国や王家の紋章はなかった。つまり、国や王家に雇われて国王に仕えているわけではない。と言うことは、うーーん……ここまで考えてジジョネテスキが首を振る。
王個人がそばに置く女性、それは側女ということ、王のお手付きだ。でも、あの王が不用意に女に手を付けるとは思えない。なんの手続きもないまま、女性を傍に置くとは考えられない。なにしろ情けないほどの晩生、しかも頭が固い――まぁ、わたしも人のことは言えないか。クリオテナさまが後押ししてくれなければ、クリンナーテンを娶れなかった。
考えても意味がない……思考の中から、ジジョネテスキがクルテを消した。
王宮内は正門衛兵からの先触れを受け、国王を迎える準備で混乱していた。もっとも、王太子来訪の通達がローシェッタ国から届き、対応の審議を始めた時からサンザメスク卿は手配を始めていた。ローシェッタ国の通達が真だった場合を考えてのことだ。
真実ならば、カテロヘブ王も帰還する。自国の王を送り届けてくれた国の王太子をもてなさなければザジリレン国が恥を掻くことになる――国庫を預かるわたしが、そんなことにはしない。そう思ったサンザメスク卿、酒や食材の在庫を確認をさせ、厨房に準備するよう指示を出していた。同時に給仕の役目に就く者を増員した。
ジジョネテスキ軍五千は王宮内にある軍本部に向かった。兵を立て直したのち、ザーザングに出立する。ローシェッタ国からの来賓ラクティメシッスの従者は婚約者の姫ぎみとは別に、王太子とともに大広間での晩餐に同席するのは五名、魔法使いのほとんどが新たな任務のため移動したらしい――ローシェッタ国側の気遣いだとサンザメスク卿は感じている。王太子の面目を保つのに最低でも五人、けれど極力少人数、なにしろ急な事だ……そう判断したのではないか?
カテロヘブ王とラクティメシッス・マデリエンテはいったん休憩してから大広間へのお出ましと決まり、国賓扱いのローシェッタ王太子と婚約者のマデリエンテは、サンザメスク卿自ら控室に案内した。
気高く優雅なラクティメシッスにさすがは大国の王太子と感心した。言葉を交わしたのは数えるほど、時間も極めて短い……が『油断できない』と言うのがラクティメシッスに対するサンザメスク卿の印象だった。
カテロヘブ王を護送してきたというのは建前、それを恩に着せローシェッタ国は、我が国に無理難題を吹っかけてくるのではないか? そして我が国の王カテロヘブはきっとラクティメシッスに太刀打ちできない。
前王の急死という国難、浮足立ったザジリレン国を持ち前の堅実さを発揮して思いのほか早く落ち着かせたカテロヘブ王……父親の死に直面し、予想もしていなかった即位、さぞや不安だったことだろう。それを乗り越えたカテロヘブに、王として不足はない。いいや、これからもっと素晴らしい国王になるはずだ。だが現時点ではラクティメシッスが数段上手、護らねば……カテロヘブはザジリレンの希望、ローシェッタ国に潰させるものか。
来訪を告げる書簡には『ローシェッタ国内でカテロヘブ王を保護した』とあった。確かに王が流されたと考えられているクッシャラボ湖を水源とするモシモスモネン川はローシェッタ国に流れ込んでいる。しかし、そもそもなぜカテロヘブはクッシャラボ湖に落ちた? 乱心したとグリアジート卿は言っていたが、あのカテロヘブが乱心など、誰が信じられる? 乱心が真実だとしても、何か原因があるはずだ。一服盛られたか、あるいは……魔法?
ローシェッタ国は魔法の国と言われるほど、魔法に長けている。王太子ラクティメシッスでさえ魔法使いだ。カテロヘブ王失踪にローシェッタ国が一枚かんでいたって不思議ではない――
自室に戻ったカテロヘブ、少しは休みたいところだが王姉クリオテナが付きっ切りで離れないものだからそうもできずにいた。それもそうか、行方不明の間のことを知りたがるのも無理はない。ネネシリスは宴会に着ていく衣装を準備すると言って、一足先に自室に戻った。自分とクリオテナの分だ。
そんな事は召使の仕事だと言うカテロヘブに『ネネシリスに任せれば間違いないから』とクリオテナは聞かなかった。ネネシリスもネネシリスで、いつものことだと笑っている。納得いかないが本人同士が納得しているのだ、カテロヘブに言える言葉はない。
宴会が始まる前に、クルテとカッチーに話しておきたいこともあった。
「ローシェッタ国でのことは話すと長くなるので、追い追いご説明いたします――お着替えに戻らなくてよろしいのか?」
どうにか追い出そうとするがクリオテナは部屋を出て行ってくれない。仕方なく、大広間の準備が済むまでお茶でも飲もうということになった。どうせクリオテナも宴会の前に着替えに戻るだろう。
ところがクリオテナ、クルテとカッチーが同席していることに不満を漏らす。これもまた、もっともなことだ。なにしろクリオテナからしたら、どこの馬の骨とも判らない二人だ。かと言って、カテロヘブには二人を排除するなんて出来っこない。
「そうそう、姉上にお会いしたらクッキーをご馳走になりたいと、ずっと思っておりました」
丸きりの嘘でもないが、クリオテナが『それならわたしの部屋に』と言ってくれないかとの期待があった。
「だったらネネシリスも一緒に――わたし、先に行って用意をしてるから、すぐに来て」
期待以上のクリオテナの答えにカテロヘブがホッとする。
クリオテナが部屋を出て行くと、クルテとカッチーに
「今夜、大広間で宴会が開かれる。ローシェッタ王太子ラクティメシッスを迎えての晩餐会だが……クルテとカッチーはこの部屋で待っていて欲しい」
クリオテナの前では言えなかった話を始めた。
「判ってます。俺、そんな宴会に出られるような身分じゃありません」
カッチーが苦笑する。
それは違う……が、あえて言わずに話を続けた。
「身分の披露は少し先になる。すぐさまカッチーを『実は従弟だ』とは言えない。まずはダーロミダレムの猶子の手続きをする。そのあとはダーロミダレムと相談しながら……猶子の手続きが済めば、すぐにでも公式な俺の側近になって貰いたい」
それでもカッチーが不安そうに尋ねる。
「俺、ここに居てもいいんでしょうか? 側近と認められるまでダーロミダレムさまのところに行ったほうがいいのでは?」
ダーロミダレムにはジジョネテスキが用意した馬を使わせ、自分の屋敷(サンザメスク卿邸)に戻るよう言ってある。着替えて大広間の宴会に出席するはずだ。
「側近になったら王宮に部屋を用意する。行ったり来たりは面倒だ。ずっと俺のそばに居ればいい」
不安が消えたカッチー、ぱあッと顔が明るくなった。
「ねぇねぇ」
クルテに何を言うか迷っていたカテロヘブの袖を引いたのはクルテ、
「クッキー、お土産にできる?」
おまえの心配はそこか?
少しだけじっとクルテの顔を見てからカテロヘブが言った。
「あぁ、ザジリレン風のペッパーやシナモンのクッキーだ。なるべくいっぱい貰ってくるよ」
「んじゃ、わたし、カッチーの監視してる」
クルテの反応はどこかピントがズレている。
「宴会の間にカッチーが、クッキー、全部食べないように見張っておく」
「クルテさん、俺、大喰らいだけど、自分の分しか食べませんよ?」
「でもさ、宴会に出ないのなら夕食は抜きでしょ?」
これに慌てるのはカテロヘブ、
「馬鹿言うな。食事はちゃんとここに運ばせる。この王宮で、ひもじい思いなんかさせるか」
ちょっとムッと答えれば、
「カティが運んでくれるわけじゃないし、一緒に食べてもくれない――でもいいや、果物もある?」
クルテは皮肉交じりだ。
「それで、舞踏会はいつ?」
「果物だってある――舞踏会が楽しみか?」
「そうそう、カッチーがね」
嘘つけよ。おまえがドレスと靴を楽しみにしているのを知ってるぞ。
「えっ? 俺ですか、クルテさん?」
「うん、舞踏会で恋人を探すんでしょ?」
「ダンス、ぜんぜん上達していません」
「で、カティ、いつ?」
カッチーの不安は無視かい? って、いつと訊かれてもなぁ……
「まぁ、なるべく早いうちにな」
「そう? 急がないと時間切れになっちゃうよ?」
「時間切れ?」
「そう時間切れ。いい加減いかないと、クリオテナが怒るんじゃ?」
あぁ、そうだ忘れてた、クリオテナ……
「宴会の終了時刻は決められていない。この部屋でゆっくりしてるといい……もし眠くなったら、先に寝てていいから。カッチーはそこのドア、クルテはこっちの寝室を使え」
カッチーに教えたドアはカテロヘブの居室に付属した客間、そしてクルテに教えたのはカテロヘブの寝室、クリオテナの前では絶対言えなかったことの一つだ。
それにしてもカッチーはともかく、心配なのはクルテだ。一緒にいる・離れないと駄々を捏ねられなかったのは助かったが、却って何か起きそうで怖い。まさか大広間に乱入? そんなことしたら、クルテの立場はますます危うい。
クルテをどうするのか、実のところ考え付いていない。カッチーの道筋は見えた。でもクルテは? 本当のことは間違っても言えない。これから人間になる、そしたら妻にするなんて、どんなに説明したって誰が納得してくれる? そもそもクルテの気持ちを確かめてもいない。それに……
時間切れってなんの話だ? クリオテナを待たせ過ぎだと言ったのかと思ったが、なんだか引っ掛かる。別の意味があるんじゃないのか? 話の流れだと、舞踏会を早く開かなくては時間切れになる、だったような?――クルテはしばしば、話しの脈絡を乱れさせる。気にすることもない? それとも、気にしたほうがいいのか?
案の定、クリオテナは待ち草臥れていた。でもカテロヘブには何も言わない。代わりにネネシリスがとばっちりを受けていた。だがそれも、カテロヘブが来るまでで、すぐにクリオテナは機嫌を直した。ネネシリスだって引きずったりしない。それでも部屋に入った瞬間の雰囲気で察したカテロヘブ、ここでもそれをわざわざ聞いたりしない。
「無事でよかった」
そう言ってからネネシリスが頭を下げた。
「偽者に騙されてしまった。すまない」
気にするな。俺もおまえの偽者に騙された……そっとカテロヘブが目を伏せた。
自分が誰なのか、誰の縁者なのか明らかにするために紋章を身につける。それを考えると、女性はカテロヘブ王の縁者だ。先につけていたマデリエンテと同じ紋章は目くらましのための虚偽、カテロヘブ王の紋章こそ、あの女性の身分を示していると考えたほうがいい。
紋章は王個人の物だけだった。ザジリレン国や王家の紋章はなかった。つまり、国や王家に雇われて国王に仕えているわけではない。と言うことは、うーーん……ここまで考えてジジョネテスキが首を振る。
王個人がそばに置く女性、それは側女ということ、王のお手付きだ。でも、あの王が不用意に女に手を付けるとは思えない。なんの手続きもないまま、女性を傍に置くとは考えられない。なにしろ情けないほどの晩生、しかも頭が固い――まぁ、わたしも人のことは言えないか。クリオテナさまが後押ししてくれなければ、クリンナーテンを娶れなかった。
考えても意味がない……思考の中から、ジジョネテスキがクルテを消した。
王宮内は正門衛兵からの先触れを受け、国王を迎える準備で混乱していた。もっとも、王太子来訪の通達がローシェッタ国から届き、対応の審議を始めた時からサンザメスク卿は手配を始めていた。ローシェッタ国の通達が真だった場合を考えてのことだ。
真実ならば、カテロヘブ王も帰還する。自国の王を送り届けてくれた国の王太子をもてなさなければザジリレン国が恥を掻くことになる――国庫を預かるわたしが、そんなことにはしない。そう思ったサンザメスク卿、酒や食材の在庫を確認をさせ、厨房に準備するよう指示を出していた。同時に給仕の役目に就く者を増員した。
ジジョネテスキ軍五千は王宮内にある軍本部に向かった。兵を立て直したのち、ザーザングに出立する。ローシェッタ国からの来賓ラクティメシッスの従者は婚約者の姫ぎみとは別に、王太子とともに大広間での晩餐に同席するのは五名、魔法使いのほとんどが新たな任務のため移動したらしい――ローシェッタ国側の気遣いだとサンザメスク卿は感じている。王太子の面目を保つのに最低でも五人、けれど極力少人数、なにしろ急な事だ……そう判断したのではないか?
カテロヘブ王とラクティメシッス・マデリエンテはいったん休憩してから大広間へのお出ましと決まり、国賓扱いのローシェッタ王太子と婚約者のマデリエンテは、サンザメスク卿自ら控室に案内した。
気高く優雅なラクティメシッスにさすがは大国の王太子と感心した。言葉を交わしたのは数えるほど、時間も極めて短い……が『油断できない』と言うのがラクティメシッスに対するサンザメスク卿の印象だった。
カテロヘブ王を護送してきたというのは建前、それを恩に着せローシェッタ国は、我が国に無理難題を吹っかけてくるのではないか? そして我が国の王カテロヘブはきっとラクティメシッスに太刀打ちできない。
前王の急死という国難、浮足立ったザジリレン国を持ち前の堅実さを発揮して思いのほか早く落ち着かせたカテロヘブ王……父親の死に直面し、予想もしていなかった即位、さぞや不安だったことだろう。それを乗り越えたカテロヘブに、王として不足はない。いいや、これからもっと素晴らしい国王になるはずだ。だが現時点ではラクティメシッスが数段上手、護らねば……カテロヘブはザジリレンの希望、ローシェッタ国に潰させるものか。
来訪を告げる書簡には『ローシェッタ国内でカテロヘブ王を保護した』とあった。確かに王が流されたと考えられているクッシャラボ湖を水源とするモシモスモネン川はローシェッタ国に流れ込んでいる。しかし、そもそもなぜカテロヘブはクッシャラボ湖に落ちた? 乱心したとグリアジート卿は言っていたが、あのカテロヘブが乱心など、誰が信じられる? 乱心が真実だとしても、何か原因があるはずだ。一服盛られたか、あるいは……魔法?
ローシェッタ国は魔法の国と言われるほど、魔法に長けている。王太子ラクティメシッスでさえ魔法使いだ。カテロヘブ王失踪にローシェッタ国が一枚かんでいたって不思議ではない――
自室に戻ったカテロヘブ、少しは休みたいところだが王姉クリオテナが付きっ切りで離れないものだからそうもできずにいた。それもそうか、行方不明の間のことを知りたがるのも無理はない。ネネシリスは宴会に着ていく衣装を準備すると言って、一足先に自室に戻った。自分とクリオテナの分だ。
そんな事は召使の仕事だと言うカテロヘブに『ネネシリスに任せれば間違いないから』とクリオテナは聞かなかった。ネネシリスもネネシリスで、いつものことだと笑っている。納得いかないが本人同士が納得しているのだ、カテロヘブに言える言葉はない。
宴会が始まる前に、クルテとカッチーに話しておきたいこともあった。
「ローシェッタ国でのことは話すと長くなるので、追い追いご説明いたします――お着替えに戻らなくてよろしいのか?」
どうにか追い出そうとするがクリオテナは部屋を出て行ってくれない。仕方なく、大広間の準備が済むまでお茶でも飲もうということになった。どうせクリオテナも宴会の前に着替えに戻るだろう。
ところがクリオテナ、クルテとカッチーが同席していることに不満を漏らす。これもまた、もっともなことだ。なにしろクリオテナからしたら、どこの馬の骨とも判らない二人だ。かと言って、カテロヘブには二人を排除するなんて出来っこない。
「そうそう、姉上にお会いしたらクッキーをご馳走になりたいと、ずっと思っておりました」
丸きりの嘘でもないが、クリオテナが『それならわたしの部屋に』と言ってくれないかとの期待があった。
「だったらネネシリスも一緒に――わたし、先に行って用意をしてるから、すぐに来て」
期待以上のクリオテナの答えにカテロヘブがホッとする。
クリオテナが部屋を出て行くと、クルテとカッチーに
「今夜、大広間で宴会が開かれる。ローシェッタ王太子ラクティメシッスを迎えての晩餐会だが……クルテとカッチーはこの部屋で待っていて欲しい」
クリオテナの前では言えなかった話を始めた。
「判ってます。俺、そんな宴会に出られるような身分じゃありません」
カッチーが苦笑する。
それは違う……が、あえて言わずに話を続けた。
「身分の披露は少し先になる。すぐさまカッチーを『実は従弟だ』とは言えない。まずはダーロミダレムの猶子の手続きをする。そのあとはダーロミダレムと相談しながら……猶子の手続きが済めば、すぐにでも公式な俺の側近になって貰いたい」
それでもカッチーが不安そうに尋ねる。
「俺、ここに居てもいいんでしょうか? 側近と認められるまでダーロミダレムさまのところに行ったほうがいいのでは?」
ダーロミダレムにはジジョネテスキが用意した馬を使わせ、自分の屋敷(サンザメスク卿邸)に戻るよう言ってある。着替えて大広間の宴会に出席するはずだ。
「側近になったら王宮に部屋を用意する。行ったり来たりは面倒だ。ずっと俺のそばに居ればいい」
不安が消えたカッチー、ぱあッと顔が明るくなった。
「ねぇねぇ」
クルテに何を言うか迷っていたカテロヘブの袖を引いたのはクルテ、
「クッキー、お土産にできる?」
おまえの心配はそこか?
少しだけじっとクルテの顔を見てからカテロヘブが言った。
「あぁ、ザジリレン風のペッパーやシナモンのクッキーだ。なるべくいっぱい貰ってくるよ」
「んじゃ、わたし、カッチーの監視してる」
クルテの反応はどこかピントがズレている。
「宴会の間にカッチーが、クッキー、全部食べないように見張っておく」
「クルテさん、俺、大喰らいだけど、自分の分しか食べませんよ?」
「でもさ、宴会に出ないのなら夕食は抜きでしょ?」
これに慌てるのはカテロヘブ、
「馬鹿言うな。食事はちゃんとここに運ばせる。この王宮で、ひもじい思いなんかさせるか」
ちょっとムッと答えれば、
「カティが運んでくれるわけじゃないし、一緒に食べてもくれない――でもいいや、果物もある?」
クルテは皮肉交じりだ。
「それで、舞踏会はいつ?」
「果物だってある――舞踏会が楽しみか?」
「そうそう、カッチーがね」
嘘つけよ。おまえがドレスと靴を楽しみにしているのを知ってるぞ。
「えっ? 俺ですか、クルテさん?」
「うん、舞踏会で恋人を探すんでしょ?」
「ダンス、ぜんぜん上達していません」
「で、カティ、いつ?」
カッチーの不安は無視かい? って、いつと訊かれてもなぁ……
「まぁ、なるべく早いうちにな」
「そう? 急がないと時間切れになっちゃうよ?」
「時間切れ?」
「そう時間切れ。いい加減いかないと、クリオテナが怒るんじゃ?」
あぁ、そうだ忘れてた、クリオテナ……
「宴会の終了時刻は決められていない。この部屋でゆっくりしてるといい……もし眠くなったら、先に寝てていいから。カッチーはそこのドア、クルテはこっちの寝室を使え」
カッチーに教えたドアはカテロヘブの居室に付属した客間、そしてクルテに教えたのはカテロヘブの寝室、クリオテナの前では絶対言えなかったことの一つだ。
それにしてもカッチーはともかく、心配なのはクルテだ。一緒にいる・離れないと駄々を捏ねられなかったのは助かったが、却って何か起きそうで怖い。まさか大広間に乱入? そんなことしたら、クルテの立場はますます危うい。
クルテをどうするのか、実のところ考え付いていない。カッチーの道筋は見えた。でもクルテは? 本当のことは間違っても言えない。これから人間になる、そしたら妻にするなんて、どんなに説明したって誰が納得してくれる? そもそもクルテの気持ちを確かめてもいない。それに……
時間切れってなんの話だ? クリオテナを待たせ過ぎだと言ったのかと思ったが、なんだか引っ掛かる。別の意味があるんじゃないのか? 話の流れだと、舞踏会を早く開かなくては時間切れになる、だったような?――クルテはしばしば、話しの脈絡を乱れさせる。気にすることもない? それとも、気にしたほうがいいのか?
案の定、クリオテナは待ち草臥れていた。でもカテロヘブには何も言わない。代わりにネネシリスがとばっちりを受けていた。だがそれも、カテロヘブが来るまでで、すぐにクリオテナは機嫌を直した。ネネシリスだって引きずったりしない。それでも部屋に入った瞬間の雰囲気で察したカテロヘブ、ここでもそれをわざわざ聞いたりしない。
「無事でよかった」
そう言ってからネネシリスが頭を下げた。
「偽者に騙されてしまった。すまない」
気にするな。俺もおまえの偽者に騙された……そっとカテロヘブが目を伏せた。
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