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第8章 輝きを放つもの
ふたつの髪飾り
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サシーニャがシクシク泣き出したというルリシアレヤ、信じられないハルヒムンドが、
「泣いたのはサシーニャさまなんだね?」
と念を押す。
「うん、その時はね。リオネンデを裏切るなんてできないし、わたしを苦しめたくないって。もしリオネンデが許してくれて、一緒になれたとしてもルリシアレヤが苦労するって――サシーニャって本当は泣き虫らしいわ。子どもの頃、よく揶揄われたって言ってた」
「意外だな、あのサシーニャさまがルリシアレヤの前で泣くなんて」
「ね、意外よね。でも、情けない顔で泣くサシーニャを放っとけないし、なんでこんなに愛しいのかしらって思ったの」
「ふん! 子どもの頃、俺が泣くとメソメソする男は嫌いだって言ってたぞ?」
「メソメソするのは男だろうが女だろうが嫌いよ。でも、その時のサシーニャはなんて言うか、可愛かったのよ――それからいろんなことをサシーニャは言っていたわ。サシーニャがどうしてわたしと一緒になれないかの説明ね。自分はこうだからダメって言いたかったのね……んー、世間の冷たさとか? あの髪の色とかで虐められることも多かったらしいの。それで他人は怖いものとしか思えないって」
「他人が怖い?」
「そうよ。本当に気が許せるのは妹さんと従弟の王子だけだって言ってた。その三人だけはサシーニャの見た目が他の人と違うことを、なんて言ってたっけ?……そうそう、なんの疑問も偏見も持たずに受け入れてくれている。王女さまもそうだからとても大切に思っているとも言ってくれたわ」
「いいや、奇怪しくないか、それ? その他大勢だって、いやでも受け入れるしかない。だって、どう足掻いたってサシーニャさまはそうなんだから」
「初めてサシーニャさまを見た人は少なからず驚く。そしてある人は怖いと思い、ある人は同情する。そのたび、自分はほかの人とは違うって思い知らされてたって」
「それは仕方ないだろう? だって、そうなんだから」
「うん、サシーニャさまもそう言ってた。でも、だからと言って傷つかないわけじゃないのよ」
「平然としてるように見えるけど?」
「いちいち相手に抗議しても始まらないでしょ? 平然としているほかないわ――だからサシーニャは他人と距離を置いてずっと生きてきたの。家族以外、愛されることも愛することもしなかった。そんな自分は愛し方も愛され方も判らないって、溜息を吐いたわ」
「なんか、判るような、判らないような? 要はサシーニャさまって、自分に自信がない? 印象が全く違うんだけど?」
「弱い自分を曝け出さないようにいつでも気を張ってるって言ってたわね――筆頭魔術師になってからは特にその傾向が強くなったらしいわ。そうじゃなきゃ妹さんや王子を守れないって考えたんだって。今ではその妹さんや王子にさえ、本心を明かせなくなったって苦笑いしたわ」
「なんだかなぁ……寂し過ぎないか?」
「そうね。まぁ、そんなサシーニャにわたし、言ったのよ――生まれた時からわたしはずっと周囲に愛されてきたって。周囲から愛し方も学んできたって。だからサシーニャに、愛し方も愛され方も教えてあげられる。わたしがたくさんの愛を注がれてきたのは、サシーニャに教えてあげるためだって、サシーニャの話を聞いて気が付いたわ。そうサシーニャに言ったの」
「それでサシーニャさまはなんて?」
なんだかルリシアレヤがサシーニャの母親になりたがっているようにハルヒムンドは感じていた。母性を擽られたってことか?
「わたしをじっと見て、自分にはあなたにあげられるものがないって言うから、なんにも要らない、傍に居させてって答えたの。でもダメだって言われた。あなたはリオネンデの婚約者だって」
「うん、そこなんだよねぇ。ルリシアレヤがいくらサシーニャさまを好きでも、それがある限りサシーニャさまの立場じゃ『うん』とは言えないよ――どうやって口説き落としたのさ?」
「ダメだったの。忘れてくださいの一点張り。だからわたしも忘れるって約束した。その替わり条件を付けたの」
「どんな?」
「サシーニャの言うとおり、王女の務めを果たす。だけどどうしても会いたくなったらどうしたらいい? 会いたくて切なくて、そんな時は? お願いだからそんな時だけでも会って欲しい。それで頑張れるから――溜息を吐かれたわ。本当にそれで忘れてくれるのですね、って念を押されて……会うだけならばって承知してくれたの」
「会うだけでも拙いだろうが。あっ、みんなと一緒に? サシーニャさまは接待役でもあったよね? その時にってこと?」
「そんなのわたしが承知できないわ。二人きりでなきゃイヤ――誰にも知られず会えるよう、サシーニャが考えたわ……サシーニャのバラ園は、お父さまのころから貴族の間では有名らしいの。バラ見物を許可したからって、王宮の門番に言ってくれて、ルリシアレヤが護衛と一緒なら通すように命じてくれたのよ。ちなみにサシーニャの街館はその門から見えるほど近くにあるの。歩いてすぐよ」
「バラ見物に来ただけってことにしたのか……って、少なくとも、一緒に来る護衛にはバレちゃうじゃん」
「うん、口が堅くて余計なことを他人に言わない人を選んでくれた。バチルデアにも一緒に来てくれたバーストラテがそうよ。彼女、とっつき難いところがあるけど、優しい人。帰国の馬車でわたしを慰めてくれたわ」
「ってことは、サシーニャさまとルリシアレヤの仲を知ってて、味方でもあるってこと?」
「そう考えてもいいと思う――でね、都合がつけばサシーニャもバラ園に来て、二人で会ったわ。最初は何を話していいか判らなかった。だって忘れるって約束で会ってるんだもの。好きよとは言えないじゃない」
「それでも恋仲になれたのはなぜさ?」
「わたしが泣いちゃったからかなぁ? こんなに好きなのに、好きとさえ言えない。それが悲しくて泣いちゃったのよ。サシーニャが困って泣かないでって言うから、キスしてくれたら泣かないって言っちゃった」
ルリシアレヤがペロッと舌を出す。
それってほぼ脅迫だ、ハルヒムンドが呆れる横で、ルリシアレヤは嬉しそうな顔で話し続ける。
「困らせないでくださいってサシーニャは言ったわ。王女さまはわたしを悩ませてばかりいる、って」
「ルリシアレヤが言ってることは滅茶苦茶だよ。忘れるためにキスはないだろ。サシーニャさまが困るのもよく判る」
「でも、キスしてくれたわよ? 何を悩んでいるの、って訊いたらね、とうとう白状したの」
「白状って?」
「サシーニャがね、わたしを忘れられないって」
嬉しそうなルリシアレヤに何も言えないハルヒムンドだ。
「キスしてくれたんだけど、唇を触れ合わされるだけのキス。もっと濃厚なキスがしたいって言ったら、それはダメって。わたしが王の婚約者である限り、これ以上はどうしたって言い訳が立たないって」
「唇を触れさせるだけでも言い訳は立たなさそうだけどね?」
サシーニャは身体の関係になるのを避けたんだとハルヒムンドは考えている。きっとルリシアレヤの求めに応じればサシーニャ自身の歯止めが利かなくなると感じていたんだろう。
「だからね、サシーニャに言ったの。だったらわたしとリオネンデの婚約を解消させてって。そしたら隠れて会わなくてもよくなる、いつでもサシーニャのことが好きって言える。サシーニャだって悩まなくって済む」
「バイガスラも絡んでるんだ。難しいぞ?」
「そうよね、サシーニャもそう言った。だけど考えるって約束してくれたの。それとね、もしだめで、わたしが王妃になったとしても、自分は一生ルリシアレヤだけだって約束してくれたの」
「ルリシアレヤだけ?」
「ほかの人を愛したりしない。ルリシアレヤの幸せだけを考えて、ルリシアレヤのために生きるって言ってくれたのよ……でも、寂しいことも言ったけどね。立場上、独り身ではいられないかもしれない。だけどその相手を愛したりしないって言ったわ」
「それでルリシアレヤは納得したんだ?」
その場凌ぎかも知れないとハルヒムンドは感じている。
「納得するしかないじゃないの。でもそれからはバラ園で会うたび抱き締めてキスしてくれた」
「ねぇ、ルリシアレヤ、サシーニャさまは本当にルリシアレヤが好きなのかな? キスくらい、それほど好きじゃなくてもできるだろうし、本当に好きならなんとしても婚約を解消できるよう動くと思うよ?」
「だからどうしたらいいか考えるって。サシーニャもわたしを好きよ。だって髪飾りをくれたもの。豪華な物で、豪華すぎて普段は使えないの。そしたらね、いつでも使える物もくれたわ」
「物に誤魔化されてない?」
「サシーニャもわたしを好きだって実感したのはサシーニャが魔法の後遺症で寝込んだ時よ」
「魔法って後遺症が出るものなんだ?」
「そんなの判らない。でも、彼の弟子がそう言ったの、その時は知らなかったけど、エリザの恋人よ――その彼が『サシーニャさまは魔法の後遺症で酷い頭痛と吐き気で寝込んでる。とても人に会える状態じゃないのに無理してる』って。寝込んでるって聞いて、お見舞いに押し掛けたのよ。弟子は『ダメだ』って言って追い返そうとしたのに無理やり彼の部屋に行ったの」
「サシーニャさまの部屋を知ってたんだ?」
「彼の弟子が立ち塞がるからどんどんそっちに行っただけ。そしたら大当たり――寝台で枕に支えられて座ってたけど、それすら辛かったみたい。何を訊いても『うん』とか『ううん』しか言わなくって。弟子に寝てなきゃだめだって言われて横になったけど、なかなか眠れないらしくって」
ふふふッとルリシアレヤが笑う。
「ちょっとウトウトするんだけど、すぐに慌てて起きちゃうの。わたしが帰ったんじゃないか心配だったみたい。恐る恐る寝具から手を出してきたのよ。握ってあげたらすぐにすっと眠っちゃったわ。そうそう、普段使いの髪飾りを貰ったのはその時よ。引き出しにあるから着けて見せてって。よく似合うよって微笑んで、そのままの顔で眠っちゃったわ」
「ルリッシュ、サシーニャさまに母親と間違われてないか?」
「そうかもね。でもね、それが嬉しいの。わたしはそれでいいのよ。少なくともサシーニャがそんな気弱なところを見せるのはわたしだけだし、甘ったれるのもわたしだけ。それがわたしの幸せなの」
何も言えないとハルヒムンドが思う。サシーニャがルリシアレヤを騙していないと確信できたわけではないが、ルリシアレヤの幸せを否定できない。
「泣いたのはサシーニャさまなんだね?」
と念を押す。
「うん、その時はね。リオネンデを裏切るなんてできないし、わたしを苦しめたくないって。もしリオネンデが許してくれて、一緒になれたとしてもルリシアレヤが苦労するって――サシーニャって本当は泣き虫らしいわ。子どもの頃、よく揶揄われたって言ってた」
「意外だな、あのサシーニャさまがルリシアレヤの前で泣くなんて」
「ね、意外よね。でも、情けない顔で泣くサシーニャを放っとけないし、なんでこんなに愛しいのかしらって思ったの」
「ふん! 子どもの頃、俺が泣くとメソメソする男は嫌いだって言ってたぞ?」
「メソメソするのは男だろうが女だろうが嫌いよ。でも、その時のサシーニャはなんて言うか、可愛かったのよ――それからいろんなことをサシーニャは言っていたわ。サシーニャがどうしてわたしと一緒になれないかの説明ね。自分はこうだからダメって言いたかったのね……んー、世間の冷たさとか? あの髪の色とかで虐められることも多かったらしいの。それで他人は怖いものとしか思えないって」
「他人が怖い?」
「そうよ。本当に気が許せるのは妹さんと従弟の王子だけだって言ってた。その三人だけはサシーニャの見た目が他の人と違うことを、なんて言ってたっけ?……そうそう、なんの疑問も偏見も持たずに受け入れてくれている。王女さまもそうだからとても大切に思っているとも言ってくれたわ」
「いいや、奇怪しくないか、それ? その他大勢だって、いやでも受け入れるしかない。だって、どう足掻いたってサシーニャさまはそうなんだから」
「初めてサシーニャさまを見た人は少なからず驚く。そしてある人は怖いと思い、ある人は同情する。そのたび、自分はほかの人とは違うって思い知らされてたって」
「それは仕方ないだろう? だって、そうなんだから」
「うん、サシーニャさまもそう言ってた。でも、だからと言って傷つかないわけじゃないのよ」
「平然としてるように見えるけど?」
「いちいち相手に抗議しても始まらないでしょ? 平然としているほかないわ――だからサシーニャは他人と距離を置いてずっと生きてきたの。家族以外、愛されることも愛することもしなかった。そんな自分は愛し方も愛され方も判らないって、溜息を吐いたわ」
「なんか、判るような、判らないような? 要はサシーニャさまって、自分に自信がない? 印象が全く違うんだけど?」
「弱い自分を曝け出さないようにいつでも気を張ってるって言ってたわね――筆頭魔術師になってからは特にその傾向が強くなったらしいわ。そうじゃなきゃ妹さんや王子を守れないって考えたんだって。今ではその妹さんや王子にさえ、本心を明かせなくなったって苦笑いしたわ」
「なんだかなぁ……寂し過ぎないか?」
「そうね。まぁ、そんなサシーニャにわたし、言ったのよ――生まれた時からわたしはずっと周囲に愛されてきたって。周囲から愛し方も学んできたって。だからサシーニャに、愛し方も愛され方も教えてあげられる。わたしがたくさんの愛を注がれてきたのは、サシーニャに教えてあげるためだって、サシーニャの話を聞いて気が付いたわ。そうサシーニャに言ったの」
「それでサシーニャさまはなんて?」
なんだかルリシアレヤがサシーニャの母親になりたがっているようにハルヒムンドは感じていた。母性を擽られたってことか?
「わたしをじっと見て、自分にはあなたにあげられるものがないって言うから、なんにも要らない、傍に居させてって答えたの。でもダメだって言われた。あなたはリオネンデの婚約者だって」
「うん、そこなんだよねぇ。ルリシアレヤがいくらサシーニャさまを好きでも、それがある限りサシーニャさまの立場じゃ『うん』とは言えないよ――どうやって口説き落としたのさ?」
「ダメだったの。忘れてくださいの一点張り。だからわたしも忘れるって約束した。その替わり条件を付けたの」
「どんな?」
「サシーニャの言うとおり、王女の務めを果たす。だけどどうしても会いたくなったらどうしたらいい? 会いたくて切なくて、そんな時は? お願いだからそんな時だけでも会って欲しい。それで頑張れるから――溜息を吐かれたわ。本当にそれで忘れてくれるのですね、って念を押されて……会うだけならばって承知してくれたの」
「会うだけでも拙いだろうが。あっ、みんなと一緒に? サシーニャさまは接待役でもあったよね? その時にってこと?」
「そんなのわたしが承知できないわ。二人きりでなきゃイヤ――誰にも知られず会えるよう、サシーニャが考えたわ……サシーニャのバラ園は、お父さまのころから貴族の間では有名らしいの。バラ見物を許可したからって、王宮の門番に言ってくれて、ルリシアレヤが護衛と一緒なら通すように命じてくれたのよ。ちなみにサシーニャの街館はその門から見えるほど近くにあるの。歩いてすぐよ」
「バラ見物に来ただけってことにしたのか……って、少なくとも、一緒に来る護衛にはバレちゃうじゃん」
「うん、口が堅くて余計なことを他人に言わない人を選んでくれた。バチルデアにも一緒に来てくれたバーストラテがそうよ。彼女、とっつき難いところがあるけど、優しい人。帰国の馬車でわたしを慰めてくれたわ」
「ってことは、サシーニャさまとルリシアレヤの仲を知ってて、味方でもあるってこと?」
「そう考えてもいいと思う――でね、都合がつけばサシーニャもバラ園に来て、二人で会ったわ。最初は何を話していいか判らなかった。だって忘れるって約束で会ってるんだもの。好きよとは言えないじゃない」
「それでも恋仲になれたのはなぜさ?」
「わたしが泣いちゃったからかなぁ? こんなに好きなのに、好きとさえ言えない。それが悲しくて泣いちゃったのよ。サシーニャが困って泣かないでって言うから、キスしてくれたら泣かないって言っちゃった」
ルリシアレヤがペロッと舌を出す。
それってほぼ脅迫だ、ハルヒムンドが呆れる横で、ルリシアレヤは嬉しそうな顔で話し続ける。
「困らせないでくださいってサシーニャは言ったわ。王女さまはわたしを悩ませてばかりいる、って」
「ルリシアレヤが言ってることは滅茶苦茶だよ。忘れるためにキスはないだろ。サシーニャさまが困るのもよく判る」
「でも、キスしてくれたわよ? 何を悩んでいるの、って訊いたらね、とうとう白状したの」
「白状って?」
「サシーニャがね、わたしを忘れられないって」
嬉しそうなルリシアレヤに何も言えないハルヒムンドだ。
「キスしてくれたんだけど、唇を触れ合わされるだけのキス。もっと濃厚なキスがしたいって言ったら、それはダメって。わたしが王の婚約者である限り、これ以上はどうしたって言い訳が立たないって」
「唇を触れさせるだけでも言い訳は立たなさそうだけどね?」
サシーニャは身体の関係になるのを避けたんだとハルヒムンドは考えている。きっとルリシアレヤの求めに応じればサシーニャ自身の歯止めが利かなくなると感じていたんだろう。
「だからね、サシーニャに言ったの。だったらわたしとリオネンデの婚約を解消させてって。そしたら隠れて会わなくてもよくなる、いつでもサシーニャのことが好きって言える。サシーニャだって悩まなくって済む」
「バイガスラも絡んでるんだ。難しいぞ?」
「そうよね、サシーニャもそう言った。だけど考えるって約束してくれたの。それとね、もしだめで、わたしが王妃になったとしても、自分は一生ルリシアレヤだけだって約束してくれたの」
「ルリシアレヤだけ?」
「ほかの人を愛したりしない。ルリシアレヤの幸せだけを考えて、ルリシアレヤのために生きるって言ってくれたのよ……でも、寂しいことも言ったけどね。立場上、独り身ではいられないかもしれない。だけどその相手を愛したりしないって言ったわ」
「それでルリシアレヤは納得したんだ?」
その場凌ぎかも知れないとハルヒムンドは感じている。
「納得するしかないじゃないの。でもそれからはバラ園で会うたび抱き締めてキスしてくれた」
「ねぇ、ルリシアレヤ、サシーニャさまは本当にルリシアレヤが好きなのかな? キスくらい、それほど好きじゃなくてもできるだろうし、本当に好きならなんとしても婚約を解消できるよう動くと思うよ?」
「だからどうしたらいいか考えるって。サシーニャもわたしを好きよ。だって髪飾りをくれたもの。豪華な物で、豪華すぎて普段は使えないの。そしたらね、いつでも使える物もくれたわ」
「物に誤魔化されてない?」
「サシーニャもわたしを好きだって実感したのはサシーニャが魔法の後遺症で寝込んだ時よ」
「魔法って後遺症が出るものなんだ?」
「そんなの判らない。でも、彼の弟子がそう言ったの、その時は知らなかったけど、エリザの恋人よ――その彼が『サシーニャさまは魔法の後遺症で酷い頭痛と吐き気で寝込んでる。とても人に会える状態じゃないのに無理してる』って。寝込んでるって聞いて、お見舞いに押し掛けたのよ。弟子は『ダメだ』って言って追い返そうとしたのに無理やり彼の部屋に行ったの」
「サシーニャさまの部屋を知ってたんだ?」
「彼の弟子が立ち塞がるからどんどんそっちに行っただけ。そしたら大当たり――寝台で枕に支えられて座ってたけど、それすら辛かったみたい。何を訊いても『うん』とか『ううん』しか言わなくって。弟子に寝てなきゃだめだって言われて横になったけど、なかなか眠れないらしくって」
ふふふッとルリシアレヤが笑う。
「ちょっとウトウトするんだけど、すぐに慌てて起きちゃうの。わたしが帰ったんじゃないか心配だったみたい。恐る恐る寝具から手を出してきたのよ。握ってあげたらすぐにすっと眠っちゃったわ。そうそう、普段使いの髪飾りを貰ったのはその時よ。引き出しにあるから着けて見せてって。よく似合うよって微笑んで、そのままの顔で眠っちゃったわ」
「ルリッシュ、サシーニャさまに母親と間違われてないか?」
「そうかもね。でもね、それが嬉しいの。わたしはそれでいいのよ。少なくともサシーニャがそんな気弱なところを見せるのはわたしだけだし、甘ったれるのもわたしだけ。それがわたしの幸せなの」
何も言えないとハルヒムンドが思う。サシーニャがルリシアレヤを騙していないと確信できたわけではないが、ルリシアレヤの幸せを否定できない。
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私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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